第12話これはゆゆしき事態
今日は日曜日。
近くの大きな公園で、ヒーローショーが開催されていた。
午前の部は、問題なく開催されていたが、午後になってトラブルが起きてしまった。
ヒーロー役が急病、代役も来ることができないという危機的状況。
ヒーローショーの責任者“広野章太郎”はその状況を聞き、もう一人の責任者“入道進”へと報告する。
相談の後、中止せざるを得ないとの結論に至り2人は頭を抱える。
そこをたまたま居合わせたまほたちが、代役を買って出る。
かくして、まほたちがヒーロー役となり、午後の部のヒーローショーが行われることとなった。
まほ、るり、フォスター、メリッサの4人は、ヒーローショーの準備をしていた。
「まさか私が、ここでヒーロー役をする事になるなんてな・・・。」
ぼやくフォスター。
金髪碧眼の男性フォスターは、るりの護衛だ。
その鍛えぬかれた肉体と技を活かし、メインのヒーロー役をすることになる。
そのヒーローは、黒を主体とした色合いのコスチュームで、名前は“魔導騎士マゴスキャリバー”というらしい。
「まあ、いいじゃない。こういうの得意でしょ?」
もう一人のるりの護衛である、金髪碧眼の女性メリッサは司会役だ。
白を主体としたミニスカートの衣装を着ている。
髪はポニーテールにして、舞台に出るようだ。
「まあ、たしかにな・・・。るりお嬢様との、“魔法少女ごっこ”で鍛えられたからな・・・。」
「それもただの“魔法少女ごっこ”ではなくて、ハワードさんが本格的に準備していたから、普通の訓練よりハードだったわね・・・。」
るりの執事ハワードは、るりを溺愛している。
“ごっこ”とはいえ、手を抜かず猛獣やら銃火器やらを準備して、本格的にやっていたようだ。
「まほー。準備できたかしら?」
「う、うん! 待って、あと少し!」
まほとるりは、敵側に捕まる少女の役らしい。
今回まほたちは、私服でこちらに来ており、役の間もこの服装である。
まほは桜色のショートヘア、るりは蒼色のロングヘアーと、髪もいつも通りで行くようだ。
「お待たせ、るりちゃん!」
「よし、みんな! 行くわよ!」
そして、まほたちは集合場所へと移動する。
集合場所では、スーツ姿の男性が待っていた。
今回のヒーローショーの責任者であり、まほたちに役を依頼した、広野である。
「皆様、ありがとうございます。え~と、こちらが今回、敵役となる方々です。」
そう紹介され、全身真っ白タイツで顔は仮面で覆った怪人たちと、ラジオがモチーフになっているであろう怪人のきぐるみが入ってきた。
ラジオ怪人がまほたちに挨拶をする。
「君たちが代役を買って出てくれた人たちだね。今回は本当に有難う。助かるよ。」
見た目とは裏腹に、丁寧な口調の怪人である。
中身は普通の人間なので、当たり前なのだが・・・。
ちなみに、ラジオ怪人は悪の軍団の総称として、“聖魔人ディスティヒア”と呼ばれているらしい。
その後、それぞれの自己紹介を済ませる。
「では、先ほどの打ち合わせどうりにお願いします。」
まほたちは、相づちを打つ。
間もなく開演である。
観客席から見えるステージの後ろには大きな壁が一枚ある。
壁の左右には出入口が設けてあり、その後ろがまほたちの居る舞台裏だ。
まほとるりは、その出入口である舞台袖から観客席を覗く。
家族連れが多いようだ。
「るりちゃん・・・。お客さん、た、たくさん来ているね・・・。」
「満員のようね。あっ! あそこにいるのゆうなとゆきとじゃない?」
るりの指差すほうをみると、夕焼け色の髪の少女と黒髪の少年が並んで座っていた。
まほたちと一緒にTV局見学ツアーに来た、ゆうなとゆきとである。
「え~と。あっ、そうだね。あんなところに・・・。そのとなりにいるのは、るりちゃんの執事さんだね。」
「そうね。フォスターとメリッサがこっちに来たから、代わりに爺はあっち側に行ったみたいよ。ところで、ショーの手順は大丈夫よね?」
「うん、大丈夫! たしか・・・」
ショーの手順はこうだ。
1、司会のメリッサ、舞台上に登場
2、メリッサが観客席と対話中に、ラジオ怪人登場
3、ラジオ怪人、手下を呼び観客席を怖がらせる
4、メリッサ観客席と協力して、ヒーロー役を呼ぶ
5、舞台裏で待機していたヒーロー役フォスター、舞台裏と舞台の間にある壁の上から登場
6、フォスター舞台に飛び降り、ラジオ怪人の手下撃退
7、ラジオ怪人、新たな手下を呼ぶ
8、その手下は、まほとるりを人質に取って登場
9、ラジオ怪人、隙を作り人質逃げられる
10、形勢逆転のフォスター、ラジオ怪人と戦い勝利
11、まほとるりは舞台袖へはけ、司会役のメリッサとヒーロー役のフォスターが残る
12、メリッサとフォスター観客席と対話
13、そこへラジオ怪人、秘密兵器を持ち出し再登場
14、秘密兵器にフォスター敗れる
15、メリッサ、観客席に呼びかけフォスターに立ち上がる力を与える
16、復活したフォスター見事、秘密兵器を撃退
17、大団円を迎え、ショー終了
以上である。
まほとるりは敵に捕まる役であり、出番は少なめである。
「大丈夫そうね! まほ、そろそろ開演よ!」
「う、うん。頑張ろうね!」
2人は気を引き締め、待機する。
ショーの開演時間である。
舞台裏より、メリッサはマイクにて元気に開演を知らせる言葉を発する。
「さあ、さあ、お待たせー! マゴスキャリバーショーの時間だよ!」
それを合図に会場内へテーマソングが流れ出す。
司会役のメリッサは、舞台裏から舞台中央へと走り登場する。
「良い子のみんなー! こんっにっちはー!」
中央へと着いたメリッサはそう叫び、その後マイクを観客席へと向ける。
観客席からは、こだまのように元気な挨拶が返ってきた。
滑り出しは順調である。
そして、メリッサはショーを見る際の注意事項を話しだした。
舞台裏にて、メリッサの声を聞いていたフォスター。
「メリッサ、ノリノリだな・・・。私も頑張らないとな! さて、るりお嬢様たちはっと・・・うん、暇そうにしてるな。出番は結構後だし無理もないな。おっと、そろそろ怪人たちの出番か。」
見ると、怪人たちは舞台へ走り出す準備をしていた。
「たしか、みんなでヒーローの私を呼ぶが、来たのは怪人たちだったってシーンだな。」
予定通り怪人たちは舞台へと上がる。
会場内から、子どもたちの叫び声が聞こえる。
怪人たちは存分に、会場内を怖がらせているようだ。
「私もそろそろだな。準備するか・・・。」
舞台裏と舞台の間には大きな壁がある。
それを大きな脚立で上り、上から登場するのだ。
会場から、ヒーロー“魔導騎士マゴスキャリバー”を呼ぶ声が上がる。
フォスターは、まほとるりへ目線で行ってくると伝える。
るりは頷き、まほは声にはならない程度の小さな声で「頑張ってー!」と叫ぶ。
それを確認したフォスターは頷き、舞台へと脚立を登り登場する。
そして登場と同時に予め録音されていた、マゴスキャリバーの声が再生された。
『待てぃ、聖魔人ディスティヒア!私が相手だ!!』
“魔導騎士マゴスキャリバー”登場である。
もちろん、ヒーローの登場に会場は盛り上がる。
ちなみに、フォスターがしゃべることは一切無い。
全て録音された音声である。
特定のセリフは、予め用意しておいたものを再生するだけなのだが、それ以外のセリフはコンピューターを使い、即興で合成音声を作り再生するらしい。
ショーは順調、次はまほとるりの出番である。
「そ、そろそろ出番だよ! るりちゃん!」
「そ、そうね!まほを見ていたら、私まで緊張してきたわ・・・。」
2人は、間もなく登場ということで緊張していた。
そこへ、全身白タイツの3人がやって来た。
怪人の手下役だ。
「やあ、僕達も次が出番だね。」
「ふふ、緊張しているようだけど大丈夫よ。全部あたしたちに任せなさい!」
「そそ、何かあれば、俺たちがアドリブでカバーするからさ!」
全身白タイツで、仮面をかぶっているので顔は確認出来ないが、体型と声である程度判断できる。
「あ、ありがとございます。少し気持ちが楽になりました。」
まほは、彼らの言葉に緊張が和らぐ。
「心強い言葉ね。」
それはるりも同様であった。
「そうそう、さっき渡したあれは付けてるわね?」
女性の手下役は、まほとるりの耳の辺りを確認をする。
まほとるりは、頷く。
耳には小型のイヤホンマイクをつけていた。
「俺たちはアクションの邪魔になるから付けてないけど、あの代役の司会さんとヒーロー役の男性、あと怪人役の人も持ってるから、何かあれば、それで連絡するといい。」
男性の手下役の1人がそう説明した。
「つまり、これでフォスターとメリッサに連絡が取れるってことよね。」
るりは、イヤホンマイクを触りながら納得する。
「な、何から何までありがとございます。」
まほは、手下役たちにお礼を言った。
「お礼を言うのは僕たちの方だよ。こうして、ショーを行うことができたからね。さあ、そろそろ行くよ!」
それを聞き、まほたちは頷く。
それと同時に、怪人の台詞がスピーカーからステージ上へと流れる。
『フハハハ! マゴスキャリバーよ! これを見ても、まだ強気でいられるかな?』
それを合図にまほたちは、ステージ上へと移動した。
観客席から見て左側にヒーロー役、右側に怪人役が居る。
まほたちは、怪人役側の出入口から入る。
先頭は女性の手下役、その後に男性の手下役2名が、まほとるりをそれぞれ後ろから軽く抱きかかえるようにして入場である。
ヒーロー役と怪人役が観客席近く、手下たちは背後の壁側に位置を取る。
『くっ! 卑怯だぞ! ディスティヒア!』
まほとるりは、フォスターを見る。
スピーカーの声に合わせて格好良く演技してるようだ。
『どうとでも言うがいい! さあ、お前たち! 奴を始末するぞ!』
手下3人が怪人の元へと走り寄る。
まほとるりを残して・・・。
『これで貴様も終わりだ! 魔導騎士マゴスキャリバー!』
怪人役とその手下がヒーロー役を指差す。
それが合図である。
残されたまほとるりは、ヒーロー役側へと走り寄る。
『しまった! 人質が居なくなってしまったぞ!』
怪人と手下たちは、コミカルに驚くポーズを取った。
『大丈夫か! 君たち! よし、どうやら形勢逆転のようだな! ディスティヒア!』
まほは、タイミングを間違えなかったことに安堵する。
そして、るりも安堵はしていたが、それ以上に普段とは違うフォスターのその佇まいに対し、心の中で笑いがこみ上げ、今にも吹き出しそうになっていた。
『ええい! こうなれば人質もろともやってしまえ!』
アクションシーンである。
ヒーロー役のフォスターは、まほとるりを守りながらの戦闘だ。
小道具である“魔法剣マゴスソード”と“魔銃マゴスブラスター”を使い、見事な殺陣を演じきった。
『おのれ、マゴスキャリバー!! これで、勝ったと思うなよ!!』
スピーカーから流れる捨て台詞とともに怪人たちは、舞台裏へとはける。
『よし! 私たちの勝利だ!』
フォスターは、観客席に向け勝利のポーズを取る。
その後、まほとるりは司会役のメリッサに促され、観客席に軽くお辞儀をし、舞台裏へとはけた。
2人の出番はこれにて終了である。
「ふぅ~・・・。な、何とか終わったね! るりちゃん!」
まほは、一仕事を終えほっと一息である。
「そうね! それにしても、フォスターの動き最高だったわ! 決めポーズの時なんかキレッキレで吹き出しそうだったわよ!」
劇中笑いそうになっていたるりであったが、何とかこらえたようだ。
「フォスターさん、カッコ良かったね。メリッサさんも元気になる司会進行で良かったよ。」
2人はそれぞれ感想を述べる。
「とりあえず、お疲れ様、まほ!」
「うん、お疲れ様、るりちゃん!」
笑顔で頷き合う。
「まほ、このあとは舞台の横で劇の続きを見ましょ!」
「そうだね!」
舞台横には、小さな仮設のテントがあり、そこにはヒーローたちの声を出す機材などがある。
また舞台の様子も把握できるので、もしものときに指示も出せるようになっている。
2人はその場所へと移動を開始した。
ショーもあと少しでフィナーレ。
全て順調に終わるかと思われた。
しかしこの時はまだ、この後に起こる事態を誰一人予測できたものは居なかった。
まほとるりが到着し、舞台の様子を見るとヒーロー役のフォスターと司会役のメリッサが、観客と簡単なゲームをしているところだった。
舞台横のテントでは、このショーの責任者広野も居た。
「おっ! 2人ともお疲れ!」
広野は、そう言って2人の労をねぎらう。
「この後は、怪人たちの秘密兵器登場のシーンよね?」
るりは広野へと問いかける。
「そうだ、巨大な魔獣の模型の登場だ! ちょっと大きいから舞台セットの外からの登場だね。ほら、遠くにブルーシート掛けられているのがあるだろ! あれが秘密兵器さ!」
そう言い、広野はまほたちがいるテントとは逆側の方を指さす。
「あれが・・・秘密兵器なのね。」
「け、結構大きいね。」
2人はそれを眺め驚く。
「おっと、そろそろだな!」
広野はそう言うと、機材を操作しているスタッフに指示を出す。
舞台上にはラジオ怪人が再び登場していた。
『フハハハ! マゴスキャリバー! 貴様のために秘密兵器を用意した! これを見よ!』
怪人は舞台横のブルーシートの方を指さす。
そして怪人の手下によって、そのシートが剥がされようとしていた。
しかしその時、それは起こった!
爆音。
怪人の指差す方とは反対側、つまりヒーローと怪人の間にそれが落ちてきた。
怪人役がそれに気づき、振り返る。
そこには、体長3Mの牛の頭部を持つ巨人がいた。
その姿はまさに“ミノタウロス”とでも呼ぶべき姿であった。
右手には木で出来た大きな棍棒を持っていた。
あまりの出来事に、怪人役はその場で固まる。
「な、何だあれは!?」
テントの下に居た広野も、それを見て驚く。
しかし、るりはその正体をすぐさま予想した。
そして、それからのるりの判断は迅速であった。
まほに、魔法によりその正体を判定してもらい正体を確定する。
それは、まほが倒しているモンスターと同一のものだった。
るりは、それを確認すると広野たちへは、来葉グループのサプライズイベントだと言って誤魔化した。
舞台上の怪人役は舞台裏にはけさせる。
ヒーロー役のフォスターには、そのモンスターを惹きつける役を、メリッサにはそのまま司会を続けるようムチャぶりをした。
当然、「鬼ですか? るりお嬢様・・・」などとフォスターは、嘆いていたが・・・。
そしていつの間にか、まほたちの居るテントに、るりの執事ハワードが来ていた。
「お嬢様とまほ様! 先ほどの演技見事で御座いました! しかし、これはゆゆしき事態! どうなさいますか、お嬢様?」
「もちろん戦うわ! 爺、例のものは持ってきてる?」
るりは、ハワードへと確認をする。
「はい、お嬢様。もちろんで御座います。」
ハワードは頷く。
「まほ、魔法少女に変身して戦うわよ! 今なら姿見られても、劇ということで誤魔化せるわ!」
「う、うん! 私たちであれを倒そう!」
るりの提案にまほは頷く。
かくしてまほとるりは、“魔法少女まほ”と“魔法少女風少女るり”として舞台上に再登場であった。
だんだんと前の話で直したい箇所が増えてきたけど一旦保留。
まずは第2章を終わらせて、その後第3章に入る前にまとめて推敲改訂予定。