シスターノンネは子羊の事件と共に
「あんのハゲじじぃぃぃぃいいい!」
そう叫びながら思い切り花瓶の乗った机を蹴飛ばす。
花瓶が割れ花びらが舞い机が変形した。
周りの生徒が驚いた表情で私を見る。
「あ、あはは。驚かしちゃってごめんねー」
急いで笑顔を作る。ちなみに女神級の。
なんであんなに絶叫しながら机を蹴ったのか目的地に向かいながら説明しよう。
私、高羽愛笑はこの聖ベーテン学園の生徒会長である。
生徒会長である私は教頭先生から迷惑なだけの命令をされた。
うん。書類の処理とかならよかったんだ。けどねあのハゲはトイレ掃除を命じやがったの。1人ですべてのトイレの。男女関係無く。
生徒会活動で忙しいのに本当に迷惑である。
私はイライラすると必ず行く場所がある。
『子羊さんいらっしゃいby神』
変な張り紙が貼ってあるが懺悔室である。
「入るよ」
扉を開けると視界に入ったのはお菓子の袋やゲーム機が散乱した部屋。
その中に2人の人間が居た。
「よう、愛笑。今、ゲーム良いとこだから邪魔すんなよ」
寝っ転がりながらお菓子を食べゲームをしている金髪ロングの見習いシスター、天神聖鎖。シスターとしてはノンネと呼ばれている。
眼の下に大きなクマがありしわだらけのシスター服を身につけている。美少女なのに勿体無い。
ちなみに金髪にしているけど染めているだけなのでれきっとした日本人。
「あ、愛笑さん。今日も何かあったんですか」
優しそうな笑みを浮かべ羊のぬいぐるみに抱きついているのが見習い神父の父母院神音。
神父としてはパーターと呼ばれている。
茶髪のショートカットに女の子みたいに可愛い顔をした子だ。
こちらはこちらで美少年。
「それがね、またハゲが命令してきて」
「へーまたそれか。飽きないなあいつ。で、何を命令されたんだ?」
ゲームがひと段落したノンネが話しかけてくる。
ちなみにノンネと呼ばないと「私はシスターノンネだぞ!」と言った後無茶苦茶罵倒の嵐になる。
「トイレ掃除。すべてのトイレを1人で」
「うわぁ~。それは酷い」
「よし、愛笑。神音を貸してやろう。愛笑が女子トイレ。神音が男子トイレと女子トイレの手伝いでどうだ」
「本当!? じゃあお願いする」
「ちょっと待ってよ! 手伝うのは良いけど何で女子トイレまでっ?」
「決定だな。このあたしに感謝しろよ」
「うん。有り難う」
「無視しないでよ~」
神音が涙目になり必死に抵抗する。
女装すればいいじゃんと言おうと思ったがこのままでも十分な気がした。
私はイライラすると必ずここにくる。イライラを解消してくれるし、神音のお手伝いまで付いてくる。ただし……。
「お代はポテトチップスで良いぞ」
お菓子を要求される。頻繁に言っているからお財布がかるい。
前、回避しようと「太るぞ」って言ったら。
「私は武道が趣味だから動く」と反論された。確かにノンネのスタイルはお菓子を大量に食べているのにモデルなみだ。
「分かったよ。ただ、この後一時間だけ授業があるから待って」
「仕方ない。これも天使のように優しい私の心だからこそだな」
「天使と言うより、ある意味神……もとい邪神だよ」
「なんか言ったか? し・お・ん★」
「な、なんでもありませんっ!」
ノンネの黒い笑顔に神音が怯む、もとい屈服する。
「放課後来るから―」
そう言い残し懺悔室を去り、3のKに行く。
教室に戻るとすぐに授業が始まった。
前の席から手紙がこっそり渡される。
手紙を渡して来たのはノンネと同じ見習いシスターの大江梨奈。シスターとしてはヴンダーいう。
ノンネと違いシスターらしい優しい性格の女の子である。
あと、ノンネと神音は授業には出ない。ノンネは成績が意外な事に学年一位で頭が良い。神音は中間くらいだけどノンネが教えるので問題ないらしい。
手紙にはこう書いてあった。
『教頭先生に何か言われてたみたいだけど大丈夫? 何かあったら手伝うからね』
梨奈は天使だと思う。いや、マジ女神。
『話変わるけど具合が悪いから保健室に行きたいんだけど喉が枯れていて声が出しにくいから先生に伝えてくれないかな』
女神さまマジピンチ。
「先生」
「何だ、高羽」
「梨奈さんが体調悪いそうなので保健室に」
「そうか、大江。気を付けて保健室行って来い」
梨奈が頷いて教室を出る。
その後授業が終わっても梨奈は帰って来なかった。
放課後になったので再び懺悔室に行くとノンネが奇妙な事を言いだした。
「お代はいい。要らない」
「……………は?」
「嘘、あのノンネが? 大丈夫? ノンネ。ゲームのやり過ぎと寝不足で狂ったの?」
ついふ抜けた声を出してしまうほど驚いた。
神音なんてノンネの怒りを買いそうな事を言うほどだ。いつもの事だけど。
素早い動きで技をかけられていたけど。
「最後まで人に話を聞け。事件が起きたからそれの調査に付き合えって言ってるんだ」
「事件?」
さっき授業が終わったばかりでそんな話は聞いていない。
「神父のポートが殺されたそうだ」
「え? 本当?」
ポートはこの学校の本物の神父のイギリス人で結構性格がきつい人だ。
「そうだ。さっき窓の近くで話してる神崎先生と高坂先生の話が耳に入ってな。教会で殺されたそうだ。」
「協力するのは良いけど大丈夫なの?」
「良いんだよ。………ばれなきゃ」
「小さい声で言っても聞こえてるけど」
ある意味正直な人だと思う。
「という訳で早速現場に行こう」
「えっ、ちょっと待ってよ。僕、死体とか血とか嫌だよ」
「安心しろヘタレ神父君。既に警察が来て綺麗にしたそうだ」
「ヘタレじゃないもん!」
教会はすぐそこで外に出ると目の前だ。
中に入ると並ぶイスと光で輝いているステンドグラスが割れているのが目に入る。けれど一番印象的なのは奥にあるパイプオルガン。何メートルもあって綺麗な音が出る。
「とりあえず分かっている事を話そう。殺されたのは神父のポートでここの教会の真ん中で背中からナイフで殺された」
「それしか分かってないの?」
「容疑者は上げてみたぞ。まずは大林恋。こいつは生徒ながらカギの管理者だ。教会のカギはこいつが管理している授業も毎回参加しない」
恋は同じ三年生の男子だ。明るくリーダーシップがあり生徒会選挙での敵だった。
「次に校長のヘルシャー」
ヘルシャー校長は六十四歳のシスターだ。優しそうな感じがするが冷たく生徒にあまり関心を示していない印象を受ける。
「その時間にアリバイが無いのはこの二人くらいだ。愛笑は他に心当たりないか」
「違うと思うけど梨奈が途中で授業抜けたよ」
「そうか。容疑者はその三人だな」
そう言って辺りを見回しパイプオルガンの前のイスに座るノンネ。
「この事件には二つ謎がある」
「二つ? 一つはカギのことだって分かるけど」
「確かにカギが無いと開けられないもんね。そういう意味では恋が怪しいのかな」
「まぁ、一つはそれだ。二つ目は凶器のナイフが見つかっていない。傷跡から何とかナイフだと分かったらしい」
ノンネはパイプオルガンの方を向いて演奏し始めた。
しかも凄い不協和音で。
「辞めて。聞いてると気分悪くなるから」
「自分に才能が無いからか? せーとかいちょ―さん?」
「違う。……もう良いよ。次は何をするの?」
「次は恋に話を聞きに行くぞ」
管理室は校舎玄関の方にある。教会からは距離があり行くのに5分もかかる。
「あれ? 愛笑じゃん。何しに来たんだ。生徒会で忙しいんじゃないのか」
出来れば恋とは会いたくなかった。嫌みのように生徒会の部分を強調してくる。
「要があるのは私じゃないノンネだよ。あんたが気にせずとも生徒会の方は上手くいっつてるから」
「チッ! そうかよ」
いつもこんな感じだ。本当に嫌な奴。
「愛笑。表情が硬いぞ。笑え。名前の通り愛らしく笑え」
「無理。恋が目の前にいる限り」
「愛笑さん……怖いです」
「なんか言った?」
「いいえ、何もありません。ホントこういうところノンネにそっくりだよ」
神音が何かつぶやいていたが気にしない事にする。
「で、何の用なんだ。聖鎖さっさと話せ」
「「あ……」」
「ん? 愛笑、神音どうした手なんか合わせて。というか神音、南無阿弥陀仏とか言ってんだ。お前、キリスト教だろう」
こいつ私達が手を合わせている意味を分かっていないとは敵ながら可哀そうだ。
「私はシスターノンネだ!」
「はぁ? そんなこと知ってるって」
「はぁ? じゃねーんだよこのただのカギ管理者―!」
悪口になって無いのはスルーしましょう。
「これだから愛笑に負けるんだ」
「愛笑は関係ないだろう。多分愛笑がすべて仕組んだんだ。……まさか聖鎖も手伝ったんじゃないのか」
「シスターキック無双!」
「おい! その厚底ブーツで蹴ろうとするな俺が運動神経悪かったら顔面直撃だったぞ!」
「おいそこの実は成績表に1が3つもあるポケットにケータイゲーム機が入ってる系男子」
「何で知ってんだよ!? 愛笑無言でゲームを没収していくな! しかも最初の方地味に一つ増やすな」
つまり、1は2つもあると。私の方が断然良いな。月と鼈。これからは愛笑と恋といってもいいかもしれない。
しかもこのゲーム昨日発売されたソフトが入ってるし。後で私が責任を持ってノンネに渡しておこう。
「ところでお前6限なにしてた?」
「このタイミングで聞くか!? まぁいいや何がったか知らんが屋上いって寝てたけど」
「証拠は?」
「無いけど」
「あとカギの管理はどうしてる」
「そこの机に置いてあるだけで特に特別な事はしていない」
じゃあ簡単に誰でも持ち出せるじゃないか。
「よし次梨奈のとこ行くぞ」
「うん。でも何処居るか分かんないし」
「保健室に行ったっきり帰ってきねんだろ。多分家だろ」
そういう事で梨奈のいる寮に来た。
「おらおらおらおらおらおらぁぁぁぁぁぁ!」
「凄い勢いでインターホン押さないでよ」
「何気なくリズムがアルプス一万尺だね」
「いや、仰げば尊しなんだけど」
「どうしてそうなったのよ。それにしても梨奈出ないね」
これだけインターホンを押しているのに出ないという事はまだ帰っていないのかな。
「あれ? 愛笑ちゃん? どうしたの?」
「あ、梨奈。体調大丈夫?」
「うん、有り難う」
後ろにはいつも道理の梨奈がいた。体調はもう大丈夫のようだ。
「愛笑ちゃん。私の家のカギ見てない? 失くしちゃったんだけど」
「え、大丈夫? 残念だけど見てないんだ」
「どんなカギだ」
「ノンネさん、有り難う。ええと、鍵は十センチくらいある大きいカギでヴンダー―って書いてあるんだけど」
「分かった。見つかったら渡してやる」
珍しいノンネが優しい。何を考えているんだか。
「で、お前六限目、どこにいた?」
「え? 私は保健室に行って帰ろうとしたときにカギをなくしてずっと探していたけど」
「そうか。ところでポートを知らないか」
「……殺されたんですってね。私、沢山迷惑かけたままなのにっ!」
梨奈の目に涙が溜まり頬を伝う。
「梨奈……」
「大丈夫よ。愛笑ちゃん達犯人を探しているの?」
「ああ、そうだがなんか文句有るか」
「ノンネさん、お願いだから辞めて。貴方達も居なくなったらと思うと」
「心配してくれてどーも。けどそんなヘマはしない。二人とも行くぞ」
「ちょっとノンネ! 梨奈ごめんね」
校長室へ走って向かうノンネの後を神音をサポートしながら追った。
ノンネは既に校長に入っていた。
「よう、校長。相変わらず鬼のような顔だな」
「貴方こそ。相変わらず悪魔のような顔だねぇ」
空気が物凄く悪かった。
「あら、生徒会長さん。いつもお疲れ様。こんな子に付き合ってると貴方まで影響しちゃうから早く離れなさい」
「校長それはねーんじゃないか。あんたこそ早く次の学校に行ったらどうだ。生徒に悪影響だ」
「ノンネ、話は聞いた? ……聞いてないんだね。喧嘩になると悪いから僕が聞くよ」
もう喧嘩状態にあると思う。
パーター自身すこし震えてるけど大丈夫かな。校長結構怖いし。
「すいません校長先生。六時間目なにしてましたか?」
「えーとねぇ、たしかここで仕事してたよ。他の中学校と電話していたから証拠もあるよ」
「えっ、あ、はい。有り難うございます」
「私が何であんた達が解決しようとしているか知っているのに驚いているのかい。ふんっ、あんた達の考えている事なんてお見通しんだよ」
す、凄い。校長チート伝説!
「とか言って。校長自身が神崎先生と高坂先生に私にワザと聞こえるように話させていたりしてな」
「………………」
「図星か」
校長何やってるんだろうか。
「まぁいい。教会に戻ろう」
「もう二度と来るんじゃないよ」
「言われなくても来ないぞ」
最初っから最後まで仲悪いなこの二人。
廊下に出ると目にしたくない奴が現れた。
「あ! いた! 愛笑、お前教会のカギ何処へやった」
「はぁ? 何言ってんの」
「お前たちじゃないのか」
教会のカギは私達が行ったときにちゃんとあったはずだ。
「何があった」
「それが、お前達が行った30分後くらいにカギが無くなっていた」
「よし、犯人が分かった」
「このタイミングで!?」
「容疑者全員教会に集めるぞ」
「お、定番展開」
「さあ、神音行って来い」
「えっ僕!?」
「れっごー★」
神音がのろのろ走りだす。
「さて、この間に教会に移動しよう」
「ええと、一応神音が心配だから手伝ってくるね」
「どーぞ」
ノンネから許可を貰った事だし行ってきますか。
神音は走るのが遅いから追いつくのは余裕だし。
「おーーーい!」
「あれ、愛笑さん。追いかけてきてくれたんですか」
「うん。というか梨奈のとこに先に行くより校長を先に連れて行った方が距離的に効率が良いよと言おうと思って」
「そうでした! すぐ隣に校長室があったのに」
「じゃあ、引き返そうか」
「すいません」
神音は申し訳なさそうに謝るが私にとって神音は幼馴染くらい親しい仲だ。こういう事はよくあるが迷惑に思った事が無い。
というか、ノンネはどうして謎が解けたのだろうか。私にはまったく分からない。
第一の謎カギの問題。私達が恋のところに行った時すでにカギは戻されていた。という事は犯人は犯行を行ってからすぐに戻したということか。
次に第二の問題。凶器のありか。これに関しては全く分からない。
この二つの問題のから犯人までどうやったら分かるのだろうか。
「愛笑さん……? なに思いつめた顔してるんですか」
「ふえ? あ、ああ、御免。ノンネ本当に謎が解けたとかなって思ってさ」
「僕はちゃんと解けていると思いますよ」
「なんで?」
「だってノンネだもん。僕にとって難しい問題をすんなり解いたり出来ちゃうし」
「勉強とは違うと思うけど」
「いいんだよ。なんていうかこれは信頼かな」
「へー」
「勿論、愛笑さんも信頼していますよ」
「え? あ、有り難う」
まぁ、神音のいうとうりノンネならあっさり解いてしまいそうだ。
「失礼しまーす」
「なんだい? ノンネに呼び出せとでも言われたのかい」
「校長先生実はノンネとすごく仲が良いでしょう」
「辞めなさい。気持ち悪い。早く行くよ」
「は、はい」
何でもお見通しなのだろうか。
「そう言えば梨奈は何処に居るんだろう」
「たぶん寮じゃないかな。カギが見つかっていればの話だけど」
ところで犯人は誰なんだろう。
「あんた達よくあんな我がままに付き合ってられるねぇ」
「いつもの事だし。僕はノンネと愛笑さんとこうやって何かするの楽しいですよ」
まずは恋。あいつはカギの事もあるから怪しい。一番犯人に近いんじゃないのかな。
「楽しいねぇ……」
「羨ましくなっちゃいました?」
次に校長先生。ノンネが言うにワザとノンネに解かせに行かせたくらいだから犯人じゃないのかな。
「なっ、羨ましくなんかないよ。というかあれが暴れるとアタシも止めに行かなきゃいけない時があるから大変なんだよ」
「つまり、何だかんだ言っても心配はしていると」
「どうしてそうなるんだい!?」
一応最後に梨奈。梨奈は無いて悲しんでいるくらいだし無いと思う。それに今日は体調が悪かったはずなんだけど。
「安心してください。仲良くなるように僕フォロー頑張ります」
「いらないよ! そんなのっ。おい、生徒会長さっきから黙ってどうしたんだい。この子をどうにかしてくれ!」
うーーん。分からない。
「ちょっと! 聞いてるのかい!?」
私になら解ける気がするんだけどな。
「あ、声大きいところとかそっくりですね」
「アンタは黙りなさいな!」
ノンネには解けて私には解けないとかちょっと敗北感。
「生徒会長!」
「は、はいぃ?」
「や、やっと気がついたぁ」
まずい。ずっと考えていたから神音と校長先生のこと忘れてた。
「あ、愛笑ちゃん」
「梨奈! 御免一緒に教会に来てくれない?」
「え? ああ、うん。良いよ、行こう」
校長先生のおかげで梨奈にも気づけたし感謝だね。
でも、校長先生何であんなに疲れた顔しているんだろう
。
そんなこんなしているといつの間にか教会に着いた。
ノンネは割れたステンドグラスを背景にして立った。
私達は一番前の椅子に並んで座らせられた。
「アタシ達を集めたってことは犯人が分かったんだろうね」
「校長、当り前だろう」
にやりとノンネが笑う。校長先生にやらされたようなものだから解けて嬉しいのだろう。
「ズバリ犯人は…………アンタだろう!」
全員の視線がノンネの指が刺された方向を見る。
「ノンネさん? 何言ってるの?」
「そ、そうだよノンネ! 何で犯人がっ!」
―――――――――梨奈なの?
「焦るな愛笑。今からちゃんと説明してやるから」
「聞き忘れていたが梨奈。カギは見つかったか?」
「……見つかりましたよ」
「そうか。それは良かった。ところでお前ら教会のカギは見たとことあるか? まあ、愛笑以外は見た事あるだろうな」
そう言ってポケットから十センチくらいのカギを取り出す。
「これはあたしの部屋のカギ何だが梨奈のとこのカギと変わりは無い」
「そのカギがどうしたの?」
「教会のカギと同じくらいの長さなんだよ。おまけに色まで同じだ」
「見分けがつかないってこと?」
「そうだ。梨奈、お前実はカギ失くしてなんかいないんだろ?」
「違う。本当に無くしたの」
「失くしたんじゃない。すり替えたんだろ?まぁ、さっき取り戻したぽいっけど」
「すり替えた?」
ノンネは神音からカギを貸してもらって恋の前に行く。
「この鍵に違うところはあるか?」
「いや、ないな」
「そのとうりだ。梨奈のカギと教会のカギにも違いが梨奈のに名前が書いてあるってくらいしか無いんだ」
「でも他に似たようなカギがある可能性もあるし。恋、見たこと無い?」
「残念だが見たこと無いな」
「ノンネさんそれなら寮に住んでいる人から盗まれたという事もあるんじゃない?」
「それは無理だ。シスターと神父は授業が終わった後服装を変えるためいったん部屋に戻る。カギが無ければ制服のままの奴が居るがここに向かう間には誰もいない。それにあそこはシスターと神父専用の寮だ」
確かにシスターと神父は放課後全員が特定の場所に居る。丁度教会へ向かう間に。
「黙っていれば、ばれないじゃない」
「それも無理だ。シスターと神父は校内から出られない。校内には何人もの先生、生徒が居る。声をかけられ恋のところに報告されるはずだ」
梨奈が押し黙って何も言えない。
しかし私は気になる事が一つあった。
「ノンネ。ならなんで梨奈はだれにも見つからずに入れたの?」
「ああ、それは凶器のナイフの説明をしながら聞いてもらう」
パオプオルガンの前のイスに座る。パイプオルガンの方を向くと演奏し始めた。
「やめて!」
私が皆の心の声を代表して伝える。
「……。分かったよじゃあこの音だけ聞いてくれ」
そう言って鍵盤を押す。
「あれ? 何でこんなに濁った音なの?」
神音のいうとうり濁った音だ。
ノンネがいつの間にかセットしていた紐を引っ張る。
パイプの中から出てきたのは。
―――――――――血の付いたナイフ。
「神音このステンドグラスが割れた部分からは何が見える」
「寮が見えるけど」
「そのとうり。ポートを殺した後に人が少ない寮に隠れた梨奈はナイフを持ってきてしまっていた。それで梨奈はナイフを教会の方に投げた。まぁ、パイプの中に入っていたのは偶然だったんだろうな。これが真相だ。どうだ合っているか? 梨奈」
梨奈が唐突に立ってノンネの前に行く。
「ここにきてからずっと、ずっと、ポートに差別され続けた私の何が分かるッ!」
「な、何を!」
梨奈がノンネからナイフを奪い取りノンネに付きたてる。
「止めて! 梨奈ぁ!」
叫ぶが届いていない。梨奈は止まらない。
――――カラン。
金属特有の高い音が教会に響いた。
「言っただろう。心配はいらないって」
ノンネは梨奈の手首をつかんでいた。
「おい、梨奈よく聞け。今からありがたい説教をしてやる」
ありがたい説教って何だ。
「何が差別され続けてきただ! 私や神音だってそんなこと沢山あった。ポートからシスターとしての名前を貰っておきながら何をしている」
「だって、殺されて当然なんだから!」
「知ってるか? ヴンダー。ヴンダーってな
――――奇跡って意味なんだよ。お前の事思って付けた名前なんだよ!」
「……え?」
「分かって、反省したなら返事!」
「は、はいぃ……」
梨奈が驚いて固まっている。
恋も私も神音も。校長なんかここまでするとはと呟いている。
「ノンネ凄いよ」
「神音もっと褒めていいぞ」
「いやいや、やりすぎじゃあ」
「いいんだよ」
ノンネは笑顔で言う。
「人が困っているのなら事を解決してこそ迷える子羊を導けるシスターってもんだろう」
私は困ったことがあると必ず彼女のところに行く。楽しいし。
何より、
何でも解決してくれるから。