エンカウンタバンド・ハント1
1
「セアッッ」
「カズキ君、左ッ」
「危ない!」
リイサが叫んだときには、もう間合いに入られていた。午後11時、人気の狩り場である第49-16フロア、静かな森にいるキノコ――《ダークマッシュ》の大群に襲われていた。正面のキノコを倒した瞬間をねらっていたように素早く入られ、短剣を俺の左腕にえぐるように刺した。武器の攻撃力は大して高くないが、はずれの短剣、毒付きの物もある。俺の場合、最悪の麻痺毒だった。
「ぐっ……」
俺の右上にあるライン――HPバーが一割ほど減る。予想通り、点滅していた。
このモンスターが使う毒はAランクの毒でまともに話すことができない。当然、自分のポーチを探すこともできない。だか、それは平凡の人ならの話。唯一、2人が持っているという可能性があるが、応戦するので精いっぱいなあいつらに俺を見ている暇はない。
「全く、すこしは視野を広げろって」
そう、自分で言うのもなんだが俺は平凡では全くない。逆に言えば、今、全プレイヤーの中でナンバー3に入るぐらい強い。と町では有名だが、実際のところはよく判らない。たかがレベルが高いだけで言われているなら、それは違う。それは数字の話。この世界に《戦闘回復》の能力は数人のみに与えられるエクストラアビリティー。これがない人ならいくらレベルの差が多くとも、勝てないわけではない。
攻撃が来れば、避ければいい。いくら時間がかかったとしてもHPがなくならなければいい。俺は、そうやって戦ってきた。
右のポーチからひょいと麻痺PО(ショ)Tを取り出し、栓を開けゴクゴクと飲んだ。グレープフルーツのような味で最後にすごい苦みが来る。慣れれば大丈夫という者もいるが、どうも俺には合わない。二人を見るとキノコを俺の目の前にどんどん積み重ねて行っている。そんなこんな考えているうちに麻痺状態が回復していた。もちろん、わざと攻撃を受け、それを見た二人が一瞬の隙を見て、俺のところに来るということが訓練の内容だったのだか……
「おい、もう復活したぞ。後どのくらいだ」
まだ、一面にキノコが存在している。俺の、暗索アビリティーで見ると二七体と表示されている。
「急げよ。このクエスト11時15分までだからな」
叫ぶと、茶髪で真っ白の防具――《ミク》が叫び返す。
「カズキ君、そんなこと言うなら一緒に戦ってよ。それとも、秘密を漏らしていいのかな?」
「わ……判った。戦います。戦いますよ。攻略隊最高責任者様」
「秘密って何だ」と思ったが、指示に従わないと前にあんなことになったため素直に聞くことにした。
「そこまで、言わなくていいわよ。奇跡の方舟団の団長であり、最強のソロプレイヤー」
「今はソロじゃないだろ。……来るぞ、攻撃準備!」
「了解」
合図とともに駆けだした。が、もうすでにクエストは終了していた。目の前には、クエスト達成の表示と報酬アイテムのコマンドが出現している。周りを見るとあちらこちらにキノコの残骸が残っている。リイサがライフルの弾数を確認していた。とっさにミクが訊く。
「もう終わったの?」
ミクが静かに訊くと、リイサも静かに頷いた。開き直ってカズキがリーダーらしく指示を出す。
「終わったなら帰ろうぜ。もう一日が終わる。ミクも明日高校の入学式なんだろ?」
「ええ、そうよ。だから早くログアウトしよう」
俺とミクの会話にリイサが入ってきた。
「私もそうよ」
「そうなんだ! 俺もそうなんだよね」
俺がのんきに答えると、リイサが遂に切れた。
「なら、のんきにクエストさぼらずに攻略して!」
「「は~い」」
「報酬の分配はどうする。と言っても武器素材だけだがな」
森を東の方向に歩いている途中にコマンドが出現し、ふと言葉を出した。
「でも、この素材ならリイサのライフルのレベルが上がるはずだけど……」
「私はいいよ。今、特別必要じゃないし。残すことにしない?」
俺の考えに、私はどうでもいいという言葉を返した。おまけ付きで最後を質問で返された。
「一応、お前持っとけよ。いつか必要になると思うし、今日のクエストで一番狩ってアイテムの消費が多いし」
リイサは頷き、俺の持っていた結晶を1つ取り、ポーチに入れた。
「あとの二つ、私貰っていい?」
「いいよ。ご自由に」
ミクには特に必要としない物を集めることが好きということは三年前から知っている。
「それにしても偶然かな? 明日が三人とも入学式だなんて。俺には思えないな」
俺が二人への問いかけをすると、ミクが微笑しつつ口を開いた。
「もしかして、一緒の高校だったりして」
「な、わけないでしょ! でもカズキ君の素顔を見たいのは否定できない」
リイサの声は最初、はっきりとしていたがだんだん訊きとりづらくなっていき、顔を見ようとすると隠してしまった。
「か……カズキ君? あれって……」
恐怖の色、らしきものを隠せないミクに思わず笑ってしまう。
「ハハハハハ、どうした急に?」
「リーダー気づいていないんですか? あそこ」
リイサまでもが、隠せなくなっていた。なんかいいもの見つけたのかなと思い、横を見ると、高さ五メートルに達するかのようなキノコがこちらを向いていた。カーソルを合わせると『金』間違いないフロアボスだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア! ……ろ……ログアウト!」
青い光が覆い、転送される瞬間、二人の声が俺の耳にキーンと響いた。
「……逃げるな!」
2
俺は、眩い光を背にして起きた。昨日は三時頃までオンラインゲームをやっていたためか、まだ脳は寝ている。午前六時、昨日までだったらゲームの世界にいたが、今日はそうにはいかない。何故なら、《入学式》というしょうもない式があるからだ。咲崎高等学校は、私服登校が可能なので制服はこの位しか着ないだろう。
廊下を歩いていくと階段があって、急なため、注意して降りなければいけないのだか、脳がまだ動いていなかった。上から三段目で踏み外し、ドン、ガラガラガラガラのおとともに一階に落ちた。
「あら、大丈夫?」
母親である渚に心配されたが、完全無視をした。両親は共にゲームの大企業のプログラマーで俺のハマっているVRMMОRPGはこの企業が作ったものだ。その母親が朝いるということは、三ヶ月ほど帰ってこないこととを示す。
「朝ご飯ができでいるからさっさと食べて」
テーブルを見ると朝食べる量とは思えないほどの料理が置いてあった。
なるべく顔を見ないようにリビングに向かい、いつもの定位置に座り食べる。すると、またもや渚が話しかける。
「この2ヶ月、どのくらい進んだ?」
「えっと…… から まではクリアした。稼いだ金は……ざっと78000モノだと思う。だから、こっちでは780万の金になるよ。ってか、持ってきたよね?」
「あるわよ。さすがに今餓死してもらうのはもったいないからね」
テーブルの横に置いてあったバックを和希の前に出す。俺は、それを静かに受け取った。いくら親が嫌いでも、あのゲームで稼いだモノをこっちで換金できるシステムはとてもいいと思った。1モノはこっちで100円になるから稼ぐ効率はとてもいいと思うが、接続料が1万4000と高いために自分も昔、半年分ぐらい払っていないときがある。
「えっと……780万から1万4000掛ける61日間は」
そこまでいくと俺の番だ。掛けると85万4000だから……
「694万6000だね。じゃあ、400は貯金するよ」
少し驚いたのか、反応がおかしかった。
「珍しいのね。いつもだったら「貯金するな」ってうるさいのに」
「別に、もう2億は目の前だし、問題ないよ」
「え、えっ、なに? まさか2ヶ月であの3つクリアしたの?」
「そうだよ。だから?」
渚にとっては難易度の高いクエストやフロアボスを用意したはずということなんだろうが俺たち三人には手ごたえがないように思えたが。ただ、昨日は逃げたが。
「驚いた。まさかここまでやるとは……だが、あのフロアはかなり厄介のはずだからそうはクリアできないね」
「まぁ、やってやるけどね」
意外にも笑顔が出た。俺は、理解ができなかった。しかも、居づらかった。
「やばっ、俺行くわ。じゃ、準備しておいてね」
「一応……ね」
これからもよろしくお願いします!!