No.007
「何だって!?」
フォーリアからでた言葉はあまりの驚き目覚めの悪かった俺の眠気を一瞬にして吹き飛ばした。鋼鉄の鎧を身にまとった黒い狼を見たと言ったのだ。
「どこで見たんだ?」
「今、外に出て花に水をあげようとしたら近くの草原に数十体いて」
「いくぞ!!」
俺は白い内装の部屋の真ん中の木のテーブルでフォーリアの美味しい朝食をいただいていたのだが、ご飯を途中で放り投げフォーリアの手を掴むと玄関のドアへと走った。
飛び出すとすぐ目の前の草原には例の魔物が三十体ほど蠢いていた。
「そこにいてくれ」
フォーリアに呼びかけると小さく頷いた。
俺は手に刀身が白銀の刀をイメージしながら魔物へと足をかける。俺は掛け声と共に何も無いはずの両手を合わせ振り落とす。それは魔物が当たる寸前に刀が実体化し一体を斬り裂く。その魔物は腹から二つに斬り落とされ鮮血を散らし草原に身を投げる。
その瞬間、俺の剣が歪むと光となって散る。
──やはり、不安定か……
そして俺は仲間を殺されその殺気ある赤い目をいっそ強くしこちらを睨むように残りの魔物が俺を囲んだ。今度は足に力を貯めるのをイメージし腰を低くし一気に力を放ち五メートル跳躍する。魔物の包囲網から抜け出しフォーリアの元へ一旦引く。
「未習得の魔法はそのものに名前をつけイメージを強く持てるようにするか、それをあたかも当たり前の現実のようにイメージし、非現実と認識しない事が大切です」
それを聞き俺は再びイメージする。輝く白銀の刃。
「これは俺の力だ!!」
再び手元に光が凝縮されると剣が実体化する。さらに即興でつけたが、しっくりくるRPGっぼい技名を叫ぶ。
「スラッシュ!!」
すると刀身は赤みの輝きを帯びて振り切ると赤い斬撃が三日月型に形を成して魔物達を喰らった。あっという間に数十体の魔物は肉片と鳴った。
「凄いです!」
フォーリアはとても喜んだ様子で俺に近づいてくる。水色の髪が揺れるとミントの香りが広がる。俺はその香りに癒しを感じる。
「今のはなんで言う魔法ですか?」
「これは魔法じゃないって言うか魔法の事をすら覚えてないんだ。無意識に体が動いて……」
俺は我に帰り見苦しい言い訳をする。それを聞いたフォーリアはとてもいい子なのか天然なのか演技なのか知らないが驚いた様子だ。
「魔法すら覚えてないんですか!? 魔法、この世界では【アイ・ライセンス】と呼ばれていて、その名のとおり目に魔法という力を使う事の許可を与えられた先祖が代々使ってきたものです」
「私は魔法研究をしているのですが、今では全く違う解釈がされています。ここからは話が長くなるので中で」
俺は言われるがままに家に戻った。しかし、今更になって思ったがフォーリアは家族がいないのだろうか。しかし、気に障られると嫌なので聞かない事にした。そして二人は椅子に腰掛ける。俺はテーブルに乗ったさっきのかじり掛けのパンを口にする。そしてフォーリアが話を始める。
「まず、科学と魔法の違いは成功までに過程があるか無いかの違いです。科学は材料などを組み合わせる必要がありますが魔法は魔法陣と不思議な力を発揮する言葉、昔の人が名付けたのは呪われた文。つまり呪文を駆使する事で直接、成功に辿り着くというものです。
そして、最も重要なのは、この世のすべてを作りだした者、プロメテウスが残した【コード:プロメテウス】という書物にはこの世の法則がすべて記されているもので、プロメテウスが法則を過程を省略し実行する際に使われた言葉が呪文、そしてそのものこそが魔法と呼ばれるのです。」
急に胡散臭い話に変わったと思った俺だが、一応、筋が通っている事は否定できなかった。
──それならば、ストレングスは何なのだろうか、もしかしたら、そのコード:プロメテウスさえ超えるものなのかもしれない。
しかし、これではっきりした。龍夜がこの前使ったのはストレングスでは無く魔法だ。しかもあいつは目に魔法陣を展開したって事は【アイ・ライセンス】。つまり、奴はここの人間。そして恐らく俺が蒼い障壁にぶつかる寸前にジアースに転送する魔法を使ったのかもしれない。
「そして、烈紅斗さんにお願いがあるんです」
急に話を変えお願いがあると頼んできたフォーリアの目は真剣かつ何処か悲しげな表情だった。
「俺にできる事ならなんでも」
「私、小さい頃に両親を無くして、私の兄が私を父親の様に育ててくれたんです。でも丁度明日行われる【極戦】という戦いの大会に、お金が必要で優勝賞金を目当てに出場しました。結果はなんと優勝したんですが。兄は家に帰らず。私たちが属する大地の騎士、ガイアナイトとしてダークマターの争奪戦にかり出されたのです。」
「無茶を言ってるのは分かってるんです。でも、あなたに兄を生きてるかだけでも確かめてきて欲しいんです」
そして、俺は暫く考え込む。しかし、そんな考える時間は不要な事に気がつく。もし俺が騎士としてダークマターを手に入れ他の次元にいけるならきっと地球に帰れるはずだ。
「わかったやるよ」
俺は了承するとフォーリアが目に涙を浮かべ笑顔を取り戻した。
「だが、そんな大会をして死人は出ないのか?」
「参加者、全員には先頭前に必ずどんな一撃でも耐えられる超高難度魔法を最高司祭から加護されます。その魔法はある一定以上の破壊力が発生すると展開されるのですが、その魔法が光として爆散した時点で勝負は終わりです」
「じゃあ、自分が攻撃から身を守る結界を展開してもいいのか?」
「はい、その最初の魔法が破られない限りなんでもありです」
一通りルールを理解した俺は極戦が行われるスタジアムへと向かった。
*****
街までは殆ど緑の草原に遠くには樹海と呼ぶべきほど深い森が顔を出していた。道を歩きながら、俺は気になる事を色々な聞いてみる
。
「それで、フォーリアの兄さんの名前は?」
「エグゼ レクトです」
「へぇー、俺と同じ名前?」
「はい、兄の戦いの強さと言ったら天下一品もので、さっきの烈紅斗さんの戦いを見てたら、そんな兄に重ねてしまって他のかもしれませんね」
そんな雑談を挟んでいると目の前に街の入り口が見える。街は驚くほど科学水準が高く。地球の人間があと百年ほどでいけるかいけないかの建築、設備だろう。
そして、俺はローマのコロッセオのようなスタジアムを目の前に立ち止まる。
──ここからが戦いだ。
俺はほおを二度叩くと気合いを入れ中へと足を運んだ。