No.001
みなさんこんにちは、今回からは二年前へと突入します。
そして今回は平凡な学校生活です。
烈紅斗と美香の関係がメインです。どうぞ、ご覧ください。
教室内にもう何回耳にしただろうか、お馴染みの鐘の音が、余韻を響かせ消えて行く。日本大学付属中学校の神崎 烈紅斗がいる三年二組の終わりが見えない話し合いの中断を告げる。
俺は三日後にある修学旅行の話し合いをしていたのだが、あいにく中学校最後の一大行事とあって班すらまともに決まらず現在に至るというわけだ。
そして、俺には小学校からずっと好きな子がいる。名前は風月 美香。艶のある長い黒髪に潤んだ瞳、透き通った声、そして完璧なプロポーション。その学校でもトップクラスの美貌に相対する優しい性格は、一目みた男子の心を射抜き声を聞けば忘れられない。
そんな彼女に話しかけようと試みたものも、彼女との落差を感じ勇気より恥ずかしさだけが残り、話しかけられず月日は過ぎて行きとうとう三年生になっていた。
来年は、俺も彼女も別々の進路へと向かうと思い、彼氏のいない、いや告白を承諾した事のない彼女にこの修学旅行で思いを伝えようと決めた。
それで、神は俺を見捨てなかったがそれは一度きりの事だった。というはクラスは同じになれたのだかこの班決めの調子だと簡単に同じ班になるのは無理に決まっている。
だが、ここで諦めたくはない。なんにせよ同じ班になれば接するチャンスに圧倒的アドバンテージがあるのだ。
もうここまでくれば話し合いでは無くクジ引きで決まるだろうと推測した俺はひたすら神に願うしかなかった。
修学旅行一日前。神は俺に微笑んだ。修学旅行の話し合いは班決めを残し、昨日全て終わり最終的に先生が適当に決める事になった。
そして今、俺は目の前の黒板に貼られた班の表をクラスメイト達と共に群がって釘付けになっている。そして目線の先の三班と書かれた場所に俺の名前と美香の名前があったのを確認すると俺は感嘆を漏らし夢では無いのかと頬をつねった。が夢からは目覚めず頬に痛みを感じるだけだった。それから俺は気のせいかもしれないが、周りの男子からの冷たい視線に怯えながらもそれ以上に美香と同じ班が嬉しくまともに授業も出来ずに、その日の学校は終わった。
俺は浮ついたまま夕日に照らされた校門を出ようとした時、後ろから声が聞こえた。
「待って!」
我に帰った俺は振り返ると、今まさに頭の中にいた人物がこちらを向いて軽く息を切らして立っている。突然の展開に焦りと照れを隠せず立っている事しか出来ない。
「君、私と同じ班のえーとなんだっけ?」
彼女から発せられた言葉は関節的に俺は影が薄いと言っていたので、少々ショックを受けたが名前を改めて言った。
「お、俺は神崎 烈紅斗」
「烈紅斗かぁ、そういえば同じ小学校だったね。よろしく。じゃあまた明日」
そう言って彼女は校外へと歩いて行った。小学校の時はクラスが多かったもんなぁ、とショックから開き直り、俺は美香が見えなくなるまでその場に突っ立って高層ビルのシルエットが並ぶ地平線。その奥にゆっくりと沈む太陽を眺めていた。
次の日、カーテンから射し込む日光に顔を照らされた俺は一つ寝返りを打って目をこすりながら上体を起こす。ぼやけた視界が徐々に鮮明なものになるとカーテンが靡いて風が入っているのが目に入るのと同時に鼻からくしゃみが出る。慌てて額に手を当てると明らかに熱く、ベットから降りようとすると身体が怠さに襲われ上手く立てない。なんとか居間にたどり着き母親に言うと
「修学旅行は無理ね、先生に連絡して置いて挙げるから治るまでゆっくり休みなさい」
俺は最後の最後で神に見放された。三日もの楽しい時間を無駄にしたのだ。それも美香と同じ班なのに。だが俺は諦めなかった。
「そんな! 俺は大丈夫だから行かせてく……」
抗議しようと物を言いかけると母の顔が今日にしかめ面になる。
「あんた、馬鹿じゃないの? そんなフラフラな身体で」
しかし、それ以上の険しい顔で必死に声を荒げる。
「俺の身体はどうでもいい! だから行かせてくれ!!」
母親はしばらく俺の行動に驚いていた様子だったが次に母からでた言葉は今まで聞いた言葉の中で何よりも輝いて聞こえた。
「あんた声を荒げるなんて……わかったわ明日から参加できるように電話しといて挙げるからそれでいい?」
「母さん……ありがとう」
俺は目に嬉し涙を流しそうになったが、男が女性の前でましてや母の前で泣くことは中学3年生として恥ずかしかったので何とか堪えて、心の中で母に気持ちいっぱいに礼をいった。
その日、ベットの上で美香が今どうしているのかずっと考えていたが風邪が悪化したら元も子もないので早く寝ることにした。
*****
早朝、とある路地で一台の車が走っている。
中にはマスクをし熱さまシートを額に貼った俺の姿がある。窓ガラスで反射して見える自分の顔を見ると今まで浮ついて思いもしなかったことが脳裏に浮ぶ。
──俺が美香となんかと普通に接していい人間なのだろうか。こんななんと取り柄も無い俺に。
母はバックミラー越しで俺の異変に気がついたのか話しかけて来た。
「ほら、もう少しで着くわよ」
顔を上げるとそこには山から見下ろす海や街並みの絶景とその先の山には木と和を強調したとても和風を感じさせる旅館が姿を表した。もうすぐ美香に会えるんだと思うと興奮して旅館に着くころには不安など忘れていた。
車から降りると心配そうな顔をした美香がこちらに駆けつけて来る。男にとって好きな女子が一番最初に迎えてくれるなど、これ以上の幸せが果たしてあるのだろうか。俺はそんな言葉に表せない喜びを胸に感じていた。
「烈紅斗、大丈夫? 私すごく心配したんだよ」
「ごめん、ちょっと風引いちゃって。ありがとう心配してくれて」
すると少しだけ美香の頬が赤くなったような気がしたのを見てつられて自分の頬も赤くなった。しかし、相手に気がつかれないようにさりげなく下を向いた。
それから、美香は積極的に話しかけて来てくれたが思いを伝えられないまま最終日を迎えてしまった俺はある番組で「最近の男は勇気なさすぎる。女のほうが行動力がある」と言うのを思い出しまさに自分のことだなと己の情けなさに呆れていた。
俺は男子部屋ので三人のクラスメイトと共に自由時間を過ごしていたがため息ばかりだった。
そして、ここまで来て俺の中に恐怖が生まれる。小学生のころから思いを伝えられないまま九年が立ってもし今日、思いを伝えて失敗したら? 俺の九年間の思いが砕け、そのあと自分がどうなってしまうのか、もう美香は普通に接してくれないのでは無いかと怖くて逃げていた。
俺はこんな悩みにふけている間に神は破滅の歯車を回し始めているとも知らずにただ彼女を想い老けていた。