43時間目【晩餐会/1】
お昼時、店内ではいつものように奥様達が幾つかのグループに分かれて、お食事を楽しんでいます。
そんなここは、ファミリーレストラン晩餐会。
ファミリーなんて滅多に来ない事が、このレストランの唯一の自慢である。
その時、〈ウィーン〉という聞き飽きた音が聞こえ、お客様が入店した。
ホール担当の山田が
「いらっしゃいませー」
と、大きな声で言う。
お食事中の奥様達の視線は、入り口に集中していた。
次の瞬間、入店した客の姿を見て奥様達は驚き、ティーカップを次々と床へ落とした(損害三千円)。
入店したのは、なんとランドセルを背負った小学生!男の子が二人と女の子が二人、小学生のガキんちょ達が“奥様の壮絶な言い争いが行なわれているファミリーレストラン晩餐会”に、来てしまった(@_@;)
コレは開業以来前代未聞の大事件である!
晩餐会の外観は不気味な屋敷。それもそうだ、もとは古い洋館なのだから。
この洋館はお洒落なのに、何でファミリーレストランにしちゃったんだろうと思った時には、既に開店していたらしい。
子供達からは“お化け屋敷”と茶化されて、男達からは“修羅場”と言われて、奥様達からは“戦場”と呼ばれているのが、ファミリーレストラン晩餐会なのだ。
そんな危険地帯に、何故四人のガキんちょはやってきたのだろう?
興味本位では済まされないって事わかってるのかな。
「ねえ。やっぱ帰ろうよ」
ふかふかのソファーに座りながら、翔太は言った。
「面白そうじゃない」
ニコニコ笑う雫。
「生きて帰れるかな?」
弱気な祐介。
「とりあえず、お子様ランチを食べましょう♪」
メイドさんの格好をしている梓。お気に入りらしい。
小学生が入店して、キッチンは騒ついていた。
「久しぶりのお子様だな。そーいえば日の丸の旗ってあったっけ?」
キッチン担当川田が、手を洗いながら言う。
「日の丸はないけど、リビアの国旗ならあるぞ」
ホールチーフの島田が、一箱の段ボールを持ちながら言う。
「リビアかよ……」
店長の上田がため息をつく。
その頃子供達は、奥様達の壮絶な言い争いを間近で見ていて、ここはまるで昼ドラのような世界だ!と、思っていた。
【歌舞伎町NO1ホスト、レイジを取り合う戦い】
「貴方達みたいなお金の無い人に、レイジは振り向かないわよ?」
そう言いながら、レイジに貰ったHERMESのバッグを撫でている早乙女さん。
「あんたバカね。レイジはお金が目当てなのよ。そうやってブランドものを与えとけば、勘違いする馬鹿がいるかもしれないからね」
禁煙と書かれたプレートを無視してタバコを吸う久米田さん。
この二人が主に派閥争いをしている。
「はぁ?貴方何言ってるのよ。私は何回も愛してるって言われたし、何度も食事に行ってるのよ。一度も手に触れた事の無い貴方が、よくそんなに偉そうに言えるわね〜( -_-)」
早乙女さんは、レイジに貰ったCHANELの二つ折り長財布を撫でている。
「チクショー早乙女さん。お金があるからって、レイジを独り占めにしやがって。悔しい……(*_*)」
悔しいのに、何故かさんを付ける久米田さん。
「恐いよ!こんなの小学生が見るモノじゃないよ!」
お冷やのおかわり三回目の翔太が、目を瞑りながら言った。
「昼ドラだったら、嫁が出て来ないと盛り上がらないわね(^-^)」
いつの間にかデジタルカメラで、奥様達を写真におさめる雫。
〈カシャッカシャッ〉
「あっ、隅っこにいる四人の奥様達が久米田さんチームに入った」
楽しんでるような感じの祐介。手足は震えている。
「お子様ランチまだぁ?美味しかったらお母さんに教えるのに」
独り言を呟いた梓。
その時、
「お待たせ致しました。お子様ランチ、ドッキドキセットでございます」
白い歯をキラリと光らせ、微笑みながらお客様を見つめたホール担当岸田。
「ドッキドキ(◎-◎;)」
湯気だ!頭から湯気が出てます!顔が真っ赤です!胸を押さえてますよ!
「お客様、大丈夫でございますか?ご気分が悪くなったのでしたら、アチラにベッドがありますが」
何となく、キラキラしているモノが見えるような見えないような。
って言うかこのファミリーレストランの店員は、何故男ばかりなんだ?
これじゃあまるで、ホストクラブみたいだよ……。
「お兄ちゃんとよんでも良いですか(*´・・`」
男子でいうと、自分の萌えストライクゾーンみたいな感じだろうか?
その頃奥様達は。
「佐恵子負けないでよね。久米田さんに負けたら、おごらないとイケないから。今日の対決は佐恵子がやった事のない“叩いて被ってじゃんけんポン”だけど、ルールさえ分かれば簡単だから楽勝よ」
ハーゲンダッツ(バニラ味)を食べている早乙女さん。
「多恵子、ファイト!早乙女さんに負けたら、また朝昼晩とパンの耳になっちゃうから頑張って。あんなお金持ちに負けないでね!」
スーパーカップ(バニラ味)を食べている久米田さん。
「今思い出したんだけど、お姉ちゃんがファミリーレストラン晩餐会はーー店内はとてもアットホームで家族連れが多いわね。ファミリーレストランだから、家族連れが多いのは当たり前かな?って言ってたけど、これ嘘だよね(*_*)」
お子様ランチを食べる翔太。お冷やのおかわりは4回目になった。
「面白いねー。またきたいなぁ」
いつの間にかデジタルビデオカメラで、奥様達を撮っている雫。
「国旗が日の丸じゃない!何処の国旗だろうコレは……緑一色だよ」
と言う祐介。
気になった読者様は、地図帳を見てみよう。
「お母さんに教えよう♪」
お願いですから教えないで下さい(>_<)
【今回の勝者久米田さん。始まって一分で終了した】
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしていますm(__)m」
マネージャーの沢田が、頭を下げてまたのご来店をお待ちしている。