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異世界遊び  作者: にごり
序章 闇に沈む
9/19

幕間 淀む白と紅



相変わらず古びた屋敷内の、ロンが待機する使用人室にて。

ひれ伏す、というか何というか。


「……すまん」


「ディン様、頭をお上げ下さい。道具は使えば壊れる物。かのヴェスパーダの持ち手との一戦で勝利への一助となれたのであればこのロン・フラムバ、これほど嬉しいことはありません」


「しかしな……」


恐る恐る顔を上げたロンが浮かべていたのは、予想に反して目下に涙を浮かべた笑顔だった。

無論今更ロンが俺に向けてくれる忠義というか忠誠を疑うことなどありはしないのだが、さすがに剣を折ったことについては眉の一つでも顰めるものだと思っていたのだ。

何せ彼から譲ってもらった鎧や剣は、おそらくロンの若かりし頃に戦場を駆け抜けてきたであろう、言うなれば戦友。


「あれほど手入れがなされていたものを俺は……」


「ディン様、私は知っているのです。貴方が今まであれを大切に扱ってくれていたことを」


「それは……まぁ……」


「あのような古ぼけた物もディン様の手に渡ってからさらに輝きが増したようにも」


「いや、最初から煤けたままで変わらんぞ?」


「ははは、私にはそう見えたのですよ……申し訳ありません。どうにも歳を取ると涙腺が」


目下を拭い、しわくちゃの顔で浮かべる笑顔というのは何とも……その裏に長くに渡る想いが蓄積されているようで、これ以上ロンの言葉を否定できそうにもなかった。

考えてみればあの無銘の剣がヴェスパーダなる宝剣と打ち合い、その持ち手に勝利を齎したとなればこれ以上の名誉はないのかもしれない。

過大評価するつもりもなく、あの剣は年輪を重ね、俺の手に合うような握りをしていただけであって――――こんな無粋なことを言わなくてもいいか。


「しかしそうなると代わりの剣が必要ですね……」


「そのことだが、騎士隊の備品を使わせて貰おうと思ってな。トルビル卿……副隊長に既に許可は貰っている」


「副隊長……既に所属先はお決まりなのですか?」


「まぁ、な」


首を傾げ真っ白な顎鬚を摩るロンに一つため息を吐けば、思い出されるのは騎士となったために参加させられた任命式。

といっても無論今回の騎士試験で合格したのはなん18名もの大人数。つまりは志願者全員が合格したということ。

ローズ嬢との試合の後も一通り志願者の戦いを見ていたのだが1、2試合を見て、すぐに見る価値無しと俺は下したはずだった。

しかし蓋を開けてみれば全員合格。後継者争いの影響があったとはいえ、随分と貴族たちは露骨なことをするものだ。


「ロンは今の王宮内の事情を知っているか?」


「……次期国王の事であれば少々。しかしあのような陰湿な争いにディン様が……」


「ロン。過保護もいいが程々に、だ。身動き取れぬほどに守りを固めるなど、それこそセルグリム流に反するだろう。舞い、流し、牙を突き立てるのならば一瞬で、だ」


「もしやあのような争いの中に身をお置きになるつもりですかッ!?」


「まさか。牙の突き立てる先くらい選ぶさ。肥え太った貴族の胆など不味くて食えるものかよ…………ダークストーカーも不味そうではあるが」


そもそも、だ。


「どうやら俺の所属する隊は現状においても中立を保ち、戦争に『真面目』に取り組む随分と珍しい隊でな。ローズ嬢もそこに所属するということに決まっている」


「隊長はどういったお方で?」


「カトレア・ディオン。入隊試験の試験官を受け持っていた方だが名に聞こえし『女傑』だそうだ。俺が見る限りではどちらかというと……『頑固』と言った方が似合いそうだが」


「カトレア様! 市井でも平民に優しい模範なる騎士様と知られる方ではないですか!」


「ロンよ……俺は世間知らずか?」


「……お父上方が幼き頃から戦いの鍛錬のみをディン様に強いられたからでしょう。今からいくらでも世界を見ることは可能でありましょう。お気になさらず」


「…………そうか」


俺の言わんとしていることをすぐに察し、正しく適当な言葉を並べてくれるロンに感謝しつつも、これからは人物の話もよく聞いておかねばならない。

何しろエイデンのような嫌みたらしい貴族然り、名を知らぬことで余計な怒りを買うのはあまりに馬鹿馬鹿しすぎる。

組織に属するのであれば、足を並べて戦う仲間のためにもいろいろと気遣わねばならないだろう。未だ同じ部隊の他の騎士には会ってはいないが。


「しかし……中立、ですか」


「言わんとしていることは分かる。基本的に二つの派閥で争う中で中立を叫ぶ輩など、利用されて踏み台にされるくらいしかないからな。力ある中立ならば別だが……」


「しかしカトレア様程のお方なればッ……」


「そのカトレア隊長を以ってしても入隊試験はあの様だ。どれだけ自由にダークストーカーと戦えるのやら」


明確な敵は隣にいないのかもしれないが、頼りになる味方がどれほどいるものか。

早めに部隊内やら王宮内の動きに眼を光らせて――――付け焼刃にしかならんのだろうな。

先ほどまでカトレア隊長の何たるかを知らん男が何かを思い描いたところで意味はない。


「まぁ、その辺は隊長やらローズ嬢やらの領域だろう。兎に角俺がやらねばならんのは前線で何体のダークストーカーを狩れるか、だろうな」


「……くれぐれも無理をなさらぬよう」


「父上と母上はどうしている?」


「…………ディン様が騎士となられたことを触れ回っているようで」


愚か。実に愚かだ。

だがそれほどの惨めさと狂気が俺に目的を与えてくれるというのならば、まだ使える。

いや、既にローズ嬢の麗しき話に乗っておくべきだったか?

どちらにせよダークストーカーを殺すことには変わらないが。


兎にも角にも今日は騎士として生きていく俺に与えられるだろう、最後の『騎士ではない日』ということになる。

明日からこのフラムバルド国を治める王に剣と忠誠を捧げ生きていくことになる。

いろいろと生き方そのものすら制限させられるだろうが、それを補って様々なものを得ることができるのだろう。

――――心は躍らない。


「む……珍しいですな。この館に来客など」


そんな感傷なのかそうでないのか分からない心に浸っていれば、どこか驚いたような表情を浮かべてロンが玄関口の方へと近づいていった。聞こえるのは乾いた木製の扉を軽くノックする音。

使用人室は勿論玄関の近く。魔術でも行使して気配を読んでやろうかとも思ったが、それよりも早く扉の奥から聞きなれた二種類の女性の声……少女の声が聞こえた。


「ディン? いる?」


「ちょっと! 入口でそのように名を呼ぶなど不躾ですわよ? ここは淑女らしく静かに……」


「いいのいいの。多分ディンかロンさんしかいないだろうし」


「む……親しき仲にも礼儀ありという言葉があってですね」


開けようとしてドアのノブに手を掛けかけたロンがゆっくりとこちらを振り向き、にっこりと笑う。


「修練などなく。子供らしく遊ぶのも必要でしょう」


「子供ではなく騎士なのだがな」


「今日はまだ子供でしょう?」


14は子供か。そうか。







両手に花、というのを体験したのは随分と久しいのかもしれない。

戦争で何やら不穏な空気が漂っているとはいえ、フラムバルド最大の城下町であるカンダネラは今日も様々な人間が行き交っている。

戦士ギルドへの道としてリリィと共に歩いたことは幾度もあったが、今日はもう一人俺と並び歩いてくれる少女が一人。


「ひょっとすればこうして知人と自由に街を歩くのも久しぶりかもしれませんわ」


「ローズは大体社交界に顔を出すか修行しているかのどっちかだったもんね。僕だったら息が詰まって死んじゃうよ」


俺を挟んで取りとめもない話をしてくれるのが構わないが、そうやって楽しげに会話をすればするほどどこかから向けられてくる剣呑な視線は強まり、そして増えていく。

休日のつもりだったのが人知れず俺は魔術を最大行使してもしもの際に備えていた。

そもそもリリィよ。あまりフィンロード家などと素性を声高に言うのはどうなのだ。戦時の平民など平時よりも荒れていると思うのだが。


「……ディン様? 魔術など使って何を……」


「あはは。大丈夫だよ、ディン。僕と君がいて喧嘩を売ろうとする人なんてこの街にはもういないよ」


「お二人とも……貴族として民を傷つけるのは」


「別に力を見せて街の人を黙らせたわけじゃないってば。もう戦士ギルドに通って一年だもん。街のみんなは僕らのことについて知ってるさ」


とは言うものの、少しだけ魔術を抑えただけで相変わらず周りを警戒することを止めはしない。

これはこれでそれなりの鍛錬になるというものだ。俺達の周りを通りすぎる人々全てがダークストーカーとでも思いこめば――――ふむ。

来たる戦争の中でも多少はいつも通りに動けるか。


どこか呆れた様な表情でため息をついたリリィと、不思議そうに小首を傾げるローズ嬢の視線を振り払いつつ、俺たちはとある場所に向けて歩いていた。

不本意というか、お節介というか。少々疑問視せざるを得ない目的地だが。

そんな思いで口を開けば、それよりも早くローズ嬢が頬を膨らませて俺の声を遮った。


「拒否は許しませんわ。あの剣を折ってしまった一因は私にありますもの。それにディン様ほどの使い手が城の備品などで満足するなど、許してなるものですか」


「しかしな……」


「聞いてあげた方がいいよ? ローズ、君に負けたって悔しくてしょうがないらしいから」


「ち、違いますわっ! 私はディン様との力量の差をきちんと認めて……」


ローズ嬢の狼狽ぶりにお腹を抑えて笑うリリィのやり取りを聞きつつ、もう一度ため息。

そう、今回の目的はローズ嬢が折ってしまった剣の替えをわざわざ見繕ってくれるということなのだ。しかも金は自分のポケットマネーから出すのだとか。

これでは彼女に当分頭が上がりそうにないと一度は断ったのだが……まぁ、リリィの言う通りなのだろう。


「『私を打ち倒したお方の武器がただの鋼の剣など、ヴェスパーダの持ち手として許容できませんッ!』」


「む、ぐぅ……」


「ね、ディン。ローズを助けると思って買ってもらってやってくれないかな」


「助けるというか、こちらが助かる一方なのだが」


ウィンクをしながら耳元で囁くリリィの言う事も分からんでもないのだが。

しかし剣を買うとしても城の、しかも騎士隊用の備品と武具屋の商品とでは、前者の方が質がよさそうとも思えるのだがどうなのだろうか。

基本的にロンのお下がりの武具で満足していた俺は、別に煌びやかな武具防具が並ぶ武具屋に目移りしたことがなく、相場もよく分からん。

例を出すのならば、戦士ギルドでの一つの依頼が銀貨10枚前後なのだが。パン一つが銅貨1~3枚とも。銅貨100枚が銀貨一枚。銀貨百枚が……等々。


「同じ鋼の剣ならばどれほどの値が?」


「質にもよりますが、一般的な鋼ですと金貨4、5枚は下らないかと」


「魔法効果付与のアーティファクトだと10枚は最低でもするね。僕のデュアルリングは……まあ、大分したかな」


「あら。そんなことを言うならヴェスパーダなど金貨1000枚……いえ、値段など付けられませんわ」


「鋼の剣>ヴェスパーダ。金貨4、5枚>プライスレス」


「ぬわぁんですって!?」


仲がよさそうで結構。

しかしたかが剣一本で金貨が動くとは思わなかった――――といっても詳しく話を聞けば青銅製や鉄製のものであれば銀貨単位でも十分買う事ができるのだとか。

そういえばファンタジー世界ということで気になってはいたが、現実ではあり得ないようなレアメタルやらが存在するのだろうか?

まあ、ヴェスパーダなんてものが存在するくらいならば当然か。


「で、どうするの? 片手剣? 両手剣? 短剣? 槍? それとも僕と同じでリング型とか!」


「ディン様がお使いになるのは片手剣では?」


「ふふーん。ディンはねぇ、何でも使えるのさ」


「……何故貴女が誇らしげに言うのかは分かりませんが」


胸を張るリリィにジト目を返すローズ嬢。そろそろ本当に仲がいいのかが分からなくなってきたが、まぁ、リリィの言う通り一応は何でも使える。

ただロンから託された物が片手剣だったためにそれで戦ってきたのであって、セルグリム流から教わったのは自由な戦場での戦い方だ。敵の武器を奪い取る、もしくは亡骸の残した武器を利用するなど当然である。


「まぁ、買ってもらえる立場で我儘は言わんよ。お前に……いや、ローズ嬢に任せる」


「……何で僕じゃないのさ」


「金を出してくれるのはローズ嬢で、そしてお前は一応ついてきただけだろう?」


「……減点。ディン、その言い方は減点だよ」


「何がだ」


久しぶりに会ったせいなのか、随分と表情がコロコロと変わる奴である。

といってもさすがにここまで来て仲間外れ、いや、のけものにするのはあまりに酷な対応か。適当に言葉を濁して当のローズ嬢に聞く。

すれば彼女は何やら顎に手を当てながら真面目な顔をしていた。


「……アーティファクト、というのもアリですわね」


「ローズ嬢」


「いえ、これはディン様の戦い方を考えれば間違った選択でもないのです」


「あー…………魔術強化ってことだね」


話が見えない。


「じゃあまずは僕からアーティファクトの説明(以下AF)。基本的にAFっていうのは何かの魔法効果が付与されていてね、炎が出る剣だってあるし、視力や腕力を上げるペンダントだってある。見えない結界みたいなものを身に纏う鎧とかもあるね」


「今ではかなりの数が市場に出回っていますが、人工的にAFを作りだすのはここ100年前後の技術と言われているのですわ。基本的にAFと言えば古代遺跡などから発掘された物が有名でしょうか。例えばヴェスパーダのように」


「ま、すごい武器とかって覚えておけばいいよ。でもって今回ディンに合いそうなAFとなると、君のその馬鹿げた魔術行使……つまりは膨大な魔力を武器にも伝えるタイプのAFならどうかってね」


ほう。


「といっても魔法のように炎や風が出るというほど高価で貴重な物はさすがに私にも手が出ませんわ。せいぜい出来るのはディン様の魔術行使と同調させて硬化、軽量化、少々の鋭利化といった所でしょうか」


「ちなみに僕のデュアルリングは完全に魔道士専用AFかな? 魔力上昇、高速詠唱、精神安定。持ち手のところにルーンが彫られていたでしょ? 遺跡から発掘された純粋なAFじゃないけど職人さんの技術が籠っているのさ」


…………さすがにこの知識は貴族の嗜みとかいうものではないだろうな? 

別に難解でもない説明故に頭がオーバーヒートするわけでもないのだが、さも常識的に語る二人に少しだけ不安を抱いてしまう。

が、それ以上に――――なんと興味深い。

もしも手が出せるほどに金が集まったのならば、炎が出る剣とやらを手にしてみたいものだ。どういう仕組みなのかは理解出来そうもないが――――む?


「ローズ嬢のヴェスパーダもAFと言っていたが」


「……これは少々特殊な物かもしれませんわ。そもそもAFと言ってもほとんど召喚魔法ですので」


「これは魔法の説明もしなきゃならないかな?」


うずうず、といった具合に眼を輝かせるリリィには申し訳ないが、これ以上詰め込んで学んでも仕方がないだろう。

そもそも俺には魔法など無縁のものだ。学んだところで使えやしない。

やんわりとそれを断ればやはりリリィはしょんぼりと口を尖らせてしまう。


「……ま、そのうち魔法については詳しく教えてあげる。結構面白いんだよ?」


「……これから騎士として城に勤めるのだ。そう簡単に学ぶ暇が取れるとも限らんさ」


「ふふふー。確かにそうだね。残念だねー、ローズ」


「そうですわね、リリィ」


いくらあどけない影を見せる少女二人とはいえ、何だか女二人が顔を寄せて怪しく笑うというのは心臓に悪い。

無意識に顰めてしまう眉と自然と間合いを開きたくなる心に抗いながら俺たちは目的の武器屋へと足早に歩いていった。


ちなみに魔術の効果を武器に伝えるタイプのAFというのはそれほど希少なものではないらしく、簡単に入手することが出来た。

無論最初に10枚以上の金貨が飛ぶと明言されていた通り、ローズ嬢には返そうにも返せないほどの借りが出来てしまったのだが。どう返すべきか。


兎に角、その店で手に入れたのは身長がそろそろ170にも届こうかというほどに成長した俺に並ぶほど巨大なツーハンデッドソード。

まぁ、普通であれば両手で使うような、というか俺のような育ちざかりの子供が持つにはあまりに不釣り合いなものだ。

しかし鈍い灰色の真っすぐな両刃の刀身と、ルーンの掘られた十字鍔と柄はシンプルでそれなりに気に入ったデザインでもある。

魔術行使を合わせて羽のように振りまわすことが可能となれば……何だかこれではセルグリム流にはまるで合わないような合うような。


しかしこれよりは集団戦が多くなる『戦争』だ。剣と鞘を以ってちょこまか立ち回るのは少々難しい。ひょっとすれば悪くない判断なのかもしれない。

巨大な剣を振りまわして『突撃騎士』となるのも悪くはない。一歩間違えれば自殺行為に他ならないが。

……まぁ、小回りとして城の備品から短剣の一つでも持たねばならんだろう。


どちらにしても、ローズ嬢には感謝せねばならない。

もしも彼女に危機が訪れたのならばこの大剣で立ちふさがる敵を切り捨ててやろう。

無論リリィの身に迫る危機も――――と駄々を捏ねるリリィのために付け足しておいた。

正義の味方、高潔なる騎士。実に結構。


しかし巨大な剣を背負う姿というのは……目立つのではないだろうか?

何だか見栄を張った子供みたいに思えて気恥かしい。







「無事に貴様の息子が騎士として部隊を持ったとは聞いていたが……ふん。矢避けにもならんな、あれでは」


「はっ……しかし閣下。あれは所詮神輿に過ぎません。我がフランデル家の精兵こそがその真価であり……」


「次期国王の座を望むのであれば単純な力など意味はあるまい。必要なのことは如何にあの愚弟を出し抜くか、だ」


「……仰る通りで」


様々な調度品やら価値ある装飾で溢れる悪趣味な王宮内の一室にて、どぎつい金髪をオールバックにした威圧的な男と、その背後で頭を垂れるしわがれた黒髪の男がいた。

互いに身に纏うのは位の高そうな高級な貴族服。しかしオールバックの方はそんな華美な服の上からでもどこか鍛えられた肉体が感じられるほどの体格をしていた。


「しかし戦力そのものを馬鹿には出来ん。ランバード、こちらを支持する者共はどれほどだ?」


「7:3といったところでしょうか。閣下を支持する貴族達は弟様よりも多く、その信望も高いかと。無論我がフランデルに連なる貴族共も……」


「ふん。金と力を見せつければ跪くものに信望などという言葉を宛がうな」


「……滅相もありません」


どこまでもゴマを擦ろうとにやけた面を見せる黒髪の男に、その偉丈夫とも評されるほどの雰囲気を纏う男は目下に皺を寄せて睨みを利かせた。

しかしその男の目つきには崇高な輝かしい物などありはしない。どす黒い様な紅が淀み、常にその口元には全てを欺く様な下卑た笑みが浮かんでいる。


「所詮民もダークストーカーもひれ伏せさせるのは力に他ならん。政全てで国を動かせると考えるウォーヴァンなど……歴史の狭間に愚者として沈むのが似合いだ」


「…………」


「くくくっ……しかし、戦争……戦争か」


狂笑するその男の名リヴァン・リ・ド・フラムバルド。現国王サヴァンの長男にて、現政争の一派閥にて指揮を取る男。

そしてその傍に佇むのはランバード・フランデル侯爵。リヴァン支持の貴族であり、仄暗いことに手を染めることで有名な壮年の男。


「しかしいくら弟様と争うとしても、それを支持する貴族達全てを処断しては国力が下がるのみです。奴らを餌にする策などいくらでも用意出来ましょうが……」


「無論、俺もそこまで愚かではない。そもそも机に齧りつく様なウォーヴァンの頭を甘く見るつもりはない。出し抜くことも容易くはあるまい」


「では、如何為されますか?」


狂気の王子はただ嗤う。ただ嗤う。


「なぁ、ランバードよ。次期国王を巡り兄弟間で陰惨な争いを繰り広げるとなれば言葉は悪いが……このフラムバルド国を思ってに他ならない。違うか?」


「はっ」


「ウォーヴァンは愚かである。しかしこの俺の前に立ちふさがったその意気や良し。自分が愚かであることに気付けぬというのは致命的だが……評価は出来る。ならば」


「…………」


「王を決めるという、そこらに這いつくばる民よりも優先すべきこの時期において、『中立』などという立場に甘んじる奴らは何なのであろうな?」


肩を震わせてリヴァンは嗤う。


「聞いておるぞ? 俺にもウォーヴァンにも付かず、ダークストーカーのみに執着する救えん馬鹿共の話を」


「ベデリル・フィンロード卿率いる第2騎士団と、カトレア・ディオン卿の率いる第15騎士隊のことですな」


「クハハハ……名の知れた者と言えばその二人のみであり、他にも鼠のようにこそこそと動く中立派はいるであろう? ……実によい贄となる」


「……成程」


華美な部屋の窓から見えるカンダネラの城下町を眺め、リヴァンは濡れた唇を静かに拭う。

滾り切った深紅の瞳が、どこか遠くを見つめ続けていた。





説明回ってのは作者は楽しくとも読者にとっては暇なもん。

だから幕間ということで勘弁。


あとなんか知らんけどお気に入りとか評価とか、なにこれこわい。

期待すんなよ!? これ、暇つぶしに書いてる最低系小説だかんな!? いつエタるかわかんねーんだからな!? 話の整合性とかまるで考えてねーからな!? 作者の趣味全開なんだからな!? ご都合主義だからな!?







よぉし、これくらい予防線張っときゃ安心だ。

次回もよろしく。

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