許されない存在
※鬱な要素多め
『アンタなんか産まなきゃよかった!!』
『真佑くん、お母さんがいない間におじさんと良いことしよっか〜』
『お前は本当に父親の蒼真と違ってダメなやつだな』
『ほんとに母親そっくりの出来損ないね』
『女の腐ったような奴』
『ヤって下さいって顔してるお前が悪いんだよ!』
『人の男に色目使わないでよ!!そうやって親を傷つけていい気になってんでしょ!?』
『なんで生きてんの?今すぐ死んでよ』
真っ暗闇の中で、俺を突き刺す罵倒が脳内に響いて止まらない。
こっちだって生まれてきたくなかった。
幾つになっても母親が連れてくる男に身体を触られたり、時にはベッドの中に忍び込まれる生活なんか送りたくなかった。
だから逃げるという目的を果たしつつ、父さんみたいになりたくて頑張っても、認めてくれる人なんて誰もいないのが辛かった。
少なくとも見た目が似てしまった母親の遺伝子を、何度も恨んだ。
そんなつもりはないのに、自分も同じ男なのに、色目を使うなんて全くしてないのに、勝手に勘違いされた。酷い時は虐めの一環で辱められ、いっそ消えてしまいたいと何度も願った。
母親の言うように、今すぐ死にたかった。
だが、それでも生きていたのは、俺の中で父さんの存在があって、美加理が側にいたからだ。
その二人だけが、俺にとっては唯一の光であり、生きる希望だった。
しかし、その一つの光と希望を、俺は失った。
『真佑、なんであの時私のことを庇ってくれなかったの?』
『本当は真佑もアイツらと同じで、私のことは彼女としてあり得ないって思ってた?』
そんなわけない。俺は美加理以外あり得ないって思ってた。庇いたかったし、むしろ美加理を馬鹿にしたことで掴み掛かりたかった。
あの時の臆病な俺は、また虐められることを恐れて何もできなかった。そのせいで、美加理を一度だけでなく二度も傷つけてしまった。
その罪悪感で何度も死のうと思ったが、父さんという唯一の救いを思い出して、今までは踏みとどまってきた。
最後の希望は、父さんだけだった。
『真佑』
父さんの声が聞こえる。
散々な罵倒と、失望の言葉を浴びた後に聞くと、安心感を覚えて、反射的に甘えたくなる。
俺は、そこにいる父さんの方に、手を伸ばそうとした。
すると、目の前にいる父さんは、見たこともないほどの鋭く冷たい目をして、ゆっくりと口を開いた。
『俺は、生まれる前からお前のことが憎かった』
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「ッ〜〜〜〜〜〜〜!!!はぁっ…!!っ……はぁっ…!!ぅっ…」
起きた瞬間に、涙が溢れ落ちた。
酷い悪夢から目覚めては涙を流すという辛い朝を迎えるのは、これで何度目だろう。
罵倒されたことよりも、父さんの拒絶の言葉の方が、頭に残って離れない。
"生まれる前から憎かった"
あれが父さんの本音だとしたら、俺はもうどれだけ足掻いてでも生きようと思うことはできない。
やっと生きる意味を見出せても、結局俺はこの生き方しか許されないのかもしれない。
「ライヤ、今日は起きれそう?」
カルミアの声が部屋の外から聞こえる。
返事をしたくても、まともにそれすらできない。声が出せなくて、喉に詰まるような感覚だ。
今は誰とも話したくない。
布団の中で蹲るしかできず、カルミアを困らせるしかできない俺なんか、今すぐ消えてしまいたい。
生きるための糧にしてきた父さんが、本当の父ではないかもしれないことを知ってしまったショックは大きく、あの日以来何もやる気が出ず、生きる気力すら湧かない。
「ご飯はドアの前に置いておくから、今はなるべく食べるようにしてね」
今の俺とカルミアはまるで、引きこもりの息子と世話を焼く母親のようだ。
こういう時ほど、俺の母親のように自分勝手で無理矢理にでも引き摺るような人なら、俺も罪悪感なんか抱かないのにと思ってしまう。
去っていく足音を聞きながら、俺はいつの間にか目から涙を溢していた。
「っ……………ごめん…なさい…」
ここで俺の面倒を見てくれるカルミアや、こんな俺をまだ友達だと言ってくれたアーサー、正気を失いかけた時に助けてくれたグレイへの、申し訳なさや罪悪感でいっぱいになる。
二度も美加理を失った悲しみで狂いかけても、父さんだけがそれを止めてくれる唯一の光だったのに、それさえも失ってしまった俺は、何も信じることができない。
(神様は酷い…もう生きていたくなくても…俺は死ぬことも許されないなんて…)
いっそのこと、誰か俺を殺してくれないだろうか。
恩を仇で返すように引きこもっていることを怒っているのなら、カルミアやグレイに殺して欲しい。
友達だと言ってくれたのに、結局はこんな引きこもりになって鬱になっていることに失望しているのなら、アーサーに殺して欲しい。
愛していたのに苦しみを最後まで理解することができず、一度でなく二度も傷付けてしまったことを恨んでいるのなら、美加理に殺して欲しい。
本当は血が繋がっておらず、どこの誰だか分からない男の子供であることを憎んでいるのなら、父さんに殺して欲しい。
呪いの影響で自殺もできず、誰かに殺してもらうしかない。この生き地獄から早く解放されたい。
「………………………死にたい」
ぼそっと呟いた言葉が、何もない空間に響く。
「死にたい……っ…死にたい、死にたい、死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」
今すぐ死んでしまいたい。
生きていたくない。
仮に死んだとしても、また転生して生きることすら厭わしい。
誰からも愛されず、誰も信じられない俺に、生きる価値なんてないのだから、今すぐ消えて無くなりたい。
「うぅうっ……!!ぐすっ…ひぐっ…!ぅうううっ…」
涙が止まらない。
泣いたって何も解決しないのに、辛くて辛くて、俺はもう泣くしか出来なかった。
《………真佑》
どこかから、声が聞こえる。
儚げで、透明感のある声は、聞き覚えがあった。
布団の中から顔を出して、声の主を探してみると、そこには女の子がいた。
「っ………!!もしかして…美加理?………いや、でもその姿は…ミーシャ・グレイス……?」
声は美加理と似ているが、ブルーグレーの瞳に、ブルネットの長い髪、両頬の髪を結んだ赤い組紐は、ミーシャ・グレイスそのものだ。
美加理が憑依した姿なのか、はたまた本物のミーシャ・グレイスなのかは分からない。後者だとしたら、なぜ俺の名前を知っているのだろうか。
そんなことをぼんやり考えていると、ミーシャが俺に向かって手を差し出してきた。
「………?どうしたの?」
《真佑、こっちに来て》
「え?な、なんで…?」
《貴方のお父さんに会わせてあげる》
父さんに会える。
その言葉に一瞬揺らぎそうになったが、本当は憎まれていたかもしれないと思うと、行く気にはなれない。
「………いやだ…父さんに…拒絶されたくない……」
《大丈夫だよ。本当にお父さんに会うわけじゃないから》
「………?どういうことだ?」
《真佑のお父さんが貴方のことをどう思ってたか、その真実をちゃんと教えたいの》
「っ〜〜〜!!それが嫌なんだよ!!俺はっ…ずっと救いだと思ってきた父さんに…本当は憎まれていたんだ……それをわざわざ知りに行くなんて…」
もうこれ以上、辛い現実を知りたくない。今目の前にいるミーシャ・グレイスは、天使のような姿をした悪魔のように見えてしまう。
本当はそんな子じゃないことぐらい分かっている。それでも、今の俺にとっては苦しみを与えてくる存在に過ぎなかった。
《………大丈夫。真佑なら大丈夫だよ》
きつい言い方をしてしまったのに、ミーシャは優しい言葉をかけてくれる。
本当に大丈夫な保証なんてどこにもない。だが、どうしてかこの子に言われると本当にそんな気がしてくるのが不思議だ。
ミーシャ・グレイスは、やはりゲームのヒロインなだけあって、そういう力があるのだろうか。
《本当に辛い時は、私がずっと側にいてあげる。だから、私と一緒に行こう?》
ミーシャは、また手を差し伸べる。最初は躊躇したその手を、俺は恐る恐る掴んだ。
ミーシャと手を繋いだ瞬間、眩しい光に包まれた。
「っ………!?な、なんだ…!?」
俺は今から、どこに行こうとしてるんだろう。
そう思いながら、眩しくて閉じていた目を開いた。
しかし、側にいたはずのミーシャは、もうどこにもいなかった。




