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冷酷の騎士  作者: 川咲鋏
2/22

束の間の喜び

死んだと思ったら、元カノの美加理がハマっていた『花園の天使』の攻略キャラのライヤ・ラズライトに転生した。


その事実に、俺は驚きを隠せない。


ファンタジーな出来事が起こったこともだが、何より俺は、ライヤが推しキャラだからだ。

美加理がプレイしているのを横で見ていているうちに、気づけば自分も別のデータファイルを利用してライヤを攻略するためにプレイしていたぐらい、俺は"ライヤ・ラズライト"にハマっていた。


ライヤは一見無口でクールなキャラに見えるが、その裏は孤独やトラウマという意味でかなり辛いものがある。

攻略キャラの中では、一番主人公に対して警戒心を抱いている。その理由としては、男にだらしない姉のせいで女性が苦手になってしまったせいだ。更には父が元騎士団長による影響で騎士候補生からは親の七光りと疎まれ、友人はアーサー以外いない。

それでも他者から疎まれる孤独など諸共せず、最後には姉によるトラウマを乗り越えるライヤを、俺は憧れと共にある種の親近感を抱くうちに、推しとして好きになっていったのだ。


そんな推しに転生できるなんて夢みたいな出来事を、俺は経験している。そこに気づけば、段々と驚きは喜びに変わっていく。

先ほどセルレウスに頼まれた伝言をグランディエに告げるよりも、俺はすぐにでもやってみたいことが思い浮かぶ。辺りを見回して、もう一度鏡を探していると、壁に鏡が備え付けられているのを発見した。


鏡に近づき、改めて自分の姿を確認する。


映っている姿は、死んだ目に根暗オーラ満載で、自他共に認めるほど女々しい雰囲気の俺ではない。

少し眠たげだが青紫色の綺麗な瞳を持ち、寝癖が治り切っていない青みがかった黒髪が映える端正な顔立ちをした、ライヤ・ラズライトそのものだった。剣を腰に抱え、落ち着いた色合いの服装を纏う姿も、非常に似合っていると思う。

推しの姿を見ることができて、俺は柄にもなく有頂天になりかける。どうにも我慢できなくなった俺は、ライヤにして欲しいポーズを鏡の前で決めてみた。


無表情のまま髪をかき上げ、ちょっと顔を上げて見下ろしてみる。左目の下の泣きぼくろが素晴らしい。前世の姿でやろうものなら「何カッコつけてんだ勘違いインキャ」とリンチされそうなことも、ライヤの姿でなら許されるだろう。


もっと剣を構えてカッコいいポーズをしたい。


大事なことを忘れて呑気にそう考えていると、見張りをしている扉の向こうから声が漏れてきた。


『ッ……!?美加理…!?大丈夫か!?美加理!!』


グランディエらしき人が、美加理の名を呼んでいた。

好きだった人の名前を聞いた俺は、先ほどの高揚感が動揺に変わるのを感じた。


(えっ……えっ…!?なんでグランディエが…"美加理"って……!?)


まさか、ずっと会いたいと願っていた美加理が扉の向こうにいるのか。

だとすれば、美加理が『花園の天使』のゲームヒロインの"ミーシャ・グレイス"の身体に転生しているかもしれない。


不思議なことに、俺にはこの世界のライヤが今までどう過ごしていたかの記憶が残っている。


ライヤの記憶の中にある"ミーシャ・グレイス"は、ゲームで見た設定とは違う。

基本的にはさっぱりした性格をしているが、時折何かを思い出したかのように重暗い表情をする姿は、俺の知っている美加理そのものだった。

そんな美加理のことを、ライヤは好きになっていたようだ。

ただ、転生者だと知る前は、"ミーシャ・グレイス"の持つブルーグレーの瞳が、《誘惑》の力を持っていることをそれとなく感じており、関わってはいけないと思い避け続けていた。しかし、対面してしまったことで避け続けるわけにもいかず、交流を重ねるうちに…という感じだ。

女性が苦手なライヤも恋ができるようになったのだと涙ぐみそうになるが、俺は記憶を覗いてるうちに最悪な事実にも気づく。


美加理は、既に国王アレキサンドラ・サッピールスの愛妾となっている。

よりにもよって、ゲーム全体のバッドエンドのきっかけとなる相手だった。ライヤの恋も叶わない上に、美加理が後々バッドエンドのような不幸な目に遭うかもしれない。

アレキサンドラに見捨てられ、独りぼっちになって自殺してしまうという、また辛い人生を歩むと思うと、今すぐにでも美加理を助けたくてたまらない。


話が終わるタイミングを伺うのも忘れ、俺はあの命令を果たす言葉を投げかけた。


「……グランディエ様、陛下がお呼びです」


グランディエには、アレキサンドラの足止めをしてもらうしかない。なにやら美加理に熱を上げているような会話も聞こえきたため、既に妻がいる男の側に美加理を置いておきたくないのもある。


「あ、ああ…ライヤか。分かったよ今行く。美加理、今日は早く帰ってしばらく休め。また気を失うことがあると危ないからな」

「確かに今日もちょっと危なかったですし…今日は早く帰って寝ます」

「はは、ぐっすり休めよ」


グランディエは、案外美加理のことを大事に思っているようだ。手を出さなかったのは良かったものの、やはり妻のルイーズ・ヴィクトワールに告げてやりたくなる。だが、それはそれで美加理にも被害が及びそうなので、流石にそれは改めた。

出てきたグランディエは、俺に「ご苦労さん」と声をかけるだけして、アレキサンドラの元に向かっていった。


グランディエの足音が聞こえなくなるまで待っていると、美加理がドアを開けて出てきた。


(ッ………美加理だ………目の前に…美加理がいる……!!)


姿は"ミーシャ・グレイス"だが、俺にとっては間違いなく美加理にしか見えない。顔を見ようとして、《誘惑》の力を持つブルーグレーの瞳を見てしまったが、俺はおかしくなることはなかった。


当然だ。"ミーシャ・グレイス"の瞳を見る前から既に愛する人がいる相手に、《誘惑》のチカラ効かないのだから。


「……ライヤ様、お待たせして本当に申し訳ございません」


美加理が、慣れないのに頑張って貴族令嬢のような話し方をしている。そんな状況ではないのに、そういうところが可愛いと思ってしまう。


「………いや、大丈夫だ。俺は…命令を全うしただけだ」


何をカッコつけた話し方をしてるんだと、自分にツッコミを入れたくなる。

ライヤっぽく喋ってはみたが、美加理の前ですると、なんとなく気恥ずかしい。


やっと話せるのに、緊張して言葉が紡げない。


アレキサンドラの愛妾のままでいると、不幸な目に遭ってしまうと伝えたい。それを防ぐために、俺のことを知って欲しい。



俺と、()()()()結ばれ━━━━━━・・・



《ようやく"ミーシャ・グレイス"を我が物にできる……それなのにお前の魂は本当に意気地なしで情け無いことだ》



頭の中に、何かが入り込んできた。

否、その前に俺は思ってもいないことを考えていた。

悪魔の囁きかのように、そいつは俺に美加理を抱けと言っている。その声はライヤのを少し低くしたようなもので、ねっとりとした喋り方はライヤとは正反対だ。


ふざけるな。

美加理にまたトラウマを与えるなんてできるわけない。

性的に受けた傷がどれほど深いものかを知っててそんなことをするのは、人間のすることじゃない。そう強く思っているのに、入り込んできた何かのせいで、思考は次第にぼやけていく。

身体も、いつのまにか思うように動かせなくなっていた。

「あの…結構騒いでしまったので何か怪しまれてしまいましたか?迷惑をかけて本当に申し訳………えっ…!?」

美加理に再び声をかけられた途端、俺の身体は勝手に近づき、腕を掴むなり壁に押し付けていた。

手を離したいが、身体が上手く動いてくれない。

「え、えぇ…!?ライヤ…様…?あの…やっぱり怒ってますよね…?」

戸惑うのも当然だ。美加理が怖がっているのに、離れられない。身体が言うことを聞いてくれない。



まるで、金縛りに遭っているかのようだった。



そんな状態で、俺の口も勝手に言葉を紡ぎ始めた。

「……………"美加理"、なのか……?」

俺に突然正体を言い当てられた美加理は、驚いた表情をして、言葉を失っていた。

「っ……!?え…な、なん……え、ライヤ様…?」

目の前にいる俺が本当にライヤなのかとでも言うように、美加理は目の前で起きてることに混乱している。にも関わらず、俺の口はまだ喋ることを止めなかった。

「やっぱり…!まさかあの美加理がアレキサンドラだけじゃなくて、グランディエにまで好かれてるなんて思わなかったよ…家で『花園の天使』をプレイしてた頃はアレキサンドラは推しとしては好きだけど実際に付き合うのは嫌だって言ってたのに」

確かな本音ではあるが、言うつもりはないのにそれがつらつらと口から滑って止まらない。



「…………まさか……"真佑"…!?」



その名前を言ったと同時に俺やライヤの普段の表情からは自分でも想像できない笑顔になっていくのが、なぜか恐ろしく感じた。


「ッ……!!やっと会えて嬉しいよ…美加理!!」


美加理に会って伝えたかったことも、今では勝手に喋らされている上に、不快な気持ちしか残らなかった。


真佑が楽しそうなのは一瞬だけです。美加理視点の話で分かると思いますが、しっかり地獄に堕ちます笑

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