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冷酷の騎士  作者: 川咲鋏
19/26

知られざる過ち

※胸糞要素多め


「ッ…………………はっ!!ここは……!?」


ルシフェルの指が額に触れてから、意識が戻るまでそんなに時間はかからなかった。

それよりも、目の前にある景色が、先ほどまでいた病室とは全然違っている。


ここは俺が過ごした前世の世界だ。

しかし、どこか街並みが違う。会社通勤で歩き回っていた都内には確かにあったものが無くなっており、歩く人々も一世代前の服装ばかりしている。手に持っている携帯らしきものは、スマホとは全然違う形だ。


(今いる場所って…俺が生まれる前ぐらいの頃の世界なのか…?)


ルシフェルによって強制的に元の世界に返されたのかと思ったが、どうやら俺のことは皆気づいていないようだ。

一安心したのも束の間で、俺は見覚えのある人がこちらに向かってくるのを発見した。


その人は長くサラサラとした黒髪を揺らし、茶色のつぶらな瞳を蕩けさせながら、その視線を隣にいる背の高い男性に向けている。

その女性は初めて見たはずだが、俺は誰だかすぐに分かった。


(ッ………か、母さん……?最後に見た時と全然違う…昔はこんな感じだったのか…)


俺の知ってる母さんとのあまりの違いに、俺は驚きを隠せない。

母さんは、少なくとも父さんが亡くなって以降は完全に茶髪に染めてミディアムヘアにしており、化粧も濃くて派手な女性だった。しかし、今見ている母さんの姿はそれとは真逆の、ナチュラルメイクで初々しい清楚系と言った印象だ。


見慣れない母さんの隣にいる背の高い男性は一体誰なんだろうと眺めていると、よく見えなかったその男性の顔がはっきりと現れる。

その男性は、男の俺から見ても見惚れてしまうほどの精悍な美形で、20代後半手前ぐらいで若々しくありながら、スーツをばっちりと着こなしていた。

その人は母さんの手を引いて、愛する人に対する優しげな眼差しを向けている。その目を見た途端、俺はある人を思い浮かべた。


「ッ!!!あ………あぁ…っ…」


父さんだ。


俺の知ってる姿とは違うのに、とても懐かしくて懐かしくて、一気に涙が溢れ出した。

父さんのあの優しい目は、何も変わっていなかった。会いたくてたまらなかった父さんを久しぶりに見て、思わず抱きつきたくなってしまった。

もう子供じゃないのに、ついそうしてしまいたくなるほど、俺はたとえ過去でも父さんに会うことができて嬉しかった。


莉愛(りな)、父さん達が来月の連休に会いたいって言ってたんだ。俺としては莉愛のこと紹介したいんだけど、予定はどう?」

「もちろん大丈夫!蒼真さんのご両親に会わせてくれるなんて嬉しい!」

「じゃあ来週の休みに店決めをしようか」

「分かったわ。蒼真さん、明日からの出張頑張って。来週楽しみにしてるね」

「ああ、気をつけて帰るんだよ」


父さんと母さんはまだ結婚していないらしいが、二人の姿は幸せな恋人同士そのものだ。

両親に会わせたいと考えるほど父さんから大事にされて愛されているのに、こんなに幸せそうなのに、母さんは何をするというのだろうか。

二人の様子には何も問題は無さそうだ。やはりルシフェルは、単に俺を不安にさせたかっただけなのではないかと思えてきた。


母さんのことは杞憂で終わると思っていたその時、不意に母さんがガラケーを取り出した。


「私よ。今から会える?……ほんと!?じゃあいつものところに集合で♡」

(ッ……!?か、母さん…?今…誰と話して…?)


母さんの電話でのやり取りに、俺は嫌な予感がした。

電話が終わると、母さんの背後に何者かがやって来る。襟足を伸ばした金髪で、いかにも軽薄そうな男だ。

その男は、あろうことか手で母さんに目隠しをしてきた。


「だーれだ?」

「っ!!ゆーくん!?もぉ〜〜びっくりしたじゃん!!蒼真さんに見られたらどうすんの!?」

「ごめんごめん!りなちゃんにどうしても会いたくてさ!それより…いつものとこ行こうよ」

「っ!……うん♡」


ゆーくんと名乗る男は、母さんをどこかに連れて行く。

母さんの恍惚とした表情からして、行き先は恐らくあそこ以外あり得ない。頼むから行かないで欲しいと願っても、俺の気持ちなど届くわけがない。


二人は、ラブホテルに入って行った。

部屋に入った母さんは、躊躇いなく浮気相手の男とキスをし、そのまま男ごとベッドに倒れ込んだ。

目の前で繰り広げられ始めた見たくない悍ましい光景に、俺は吐き気すら覚える。

何が起きているのかはっきりとは見えないが、父さんに対する裏切りを目の当たりにして、俺は母さんを心の底から軽蔑した。全てが終わるまで、俺は何も見ないように目を瞑り、耳を塞ぎ続ける。

父さんを亡くして以来、母さんが連れ込んだ男と戯れている声が聞こえてきた時のように。


塞ぐ耳の隙間から入り込む音が止み、やっと全てが終わったらしい。

二人が布団の中で微睡んでいる最中、母さんが突然口元に手を当てて、吐き気を催し始めた。そのままトイレで吐いたみたいだが、その後に何かを確信したような表情をし始めた。


(母さん…?どうしたんだろ…)


「りなちゃんだいじょーぶ?」

「ゆ、ゆーくん…私、妊娠してるかもしれない……多分…二週間前ぐらいに生でしちゃった時のやつ…」


息が詰まって、心臓がドクンと強く響く。同時に嫌な汗が背中で流れる。


母さんのお腹にいるのは、恐らく俺のことだ。


妊娠を聞かされた男は、最悪の事実でも聞かされたとばかりに戸惑う表情を見せていた。


「……は??ちょ…嘘でしょ!?なんで??」

「そんなのこっちが聞きたいんだけど!?ああもう!!蒼真さんに何て言えばいいの!?」

「俺が悪いってのかよ!?つーかそれ本当に俺の子なん!?本当はその彼氏なんじゃないの!?」

「ッ………!!蒼真…さんの……」


口論の最中に男から無責任な言動をされたにも関わらず、母さんはいつものようにヒステリックに怒らない。むしろ、何か考え始めていた。

こういう時の母さんは、大体良からぬことを考えている。それを知っている俺は、過去の光景を見せられるまでに感じた胸騒ぎが気のせいではないと思い始めていた。


頭の中で何か結論を導き出したらしい母さんは、口端を吊り上げる。しかし、男に向き直る時には、不気味なほどに柔らかく笑っていた。


「……取り乱してごめんね。ゆーくんの言う通り、妊娠したのは()()()()()()()よ」

「っ………え、急にどうした……?」

母さんのあまりの変わり様に、男は若干顔を引き攣らせた。その様子には気づかないまま、母さんは続ける。

「そういうことにしておけば良いのよ!それなら蒼真さんとも別れずに済むわ…!」

「お、おう…でも彼氏にどう言うの?」

「蒼真さんとも一ヶ月前にヤったのよ。勿論ゴムありだけど…穴が空いてたかもってことにすれば流石に蒼真さんも信じてくれるはず」

「ははっ…ひでー女だな。蒼真さんって人は顔も良くてハイスペックな上にちゃんとソッチも上手くて言うこと無しなのに、なんで俺とこんなことしてんだか」

「ゆーくん、貴方のことは勿論好きだけど、私が結婚したいのは蒼真さんなの。どれだけ美味しくても毎日三つ星シェフのレストランばっかりは流石に飽きちゃうし、たまには居酒屋とかジャンクフード店で刺激的なものを食べたい。ゆーくんだってそうでしょ?」

「いや分かるけど浮気を飯で例えんの典型的すぎだろ(笑)」

「結婚したらそれも止めるから、その時にはもうゆーくんとはさよならだからね。折角あれだけのハイスペックな男と結婚できるチャンスなんだもん。そのためなら私は嘘でも何でもやってやるわ」


涙が止まらない。


母さんは父さんに対して酷い裏切りをした。絶対に許したくない。

なのに、それをまだ信じたくないと思ってしまう自分がいる。偶然時期が重なっただけで、本当に父さんの子供を妊娠したと信じていたい。


《ここまで分かりやすく真実を見せたのにまだ認めないのか?お前は本当は……》

「やめろっ……これ以上は言わないでくれ…!!」

《良い加減現実に向き合え。無理なら俺がちゃんと教えてやるよ》

「黙れ!!!!」


何も聞きたくない。


何も知りたくない。


もうこれ以上、本当のことは何も見たくない。


俺が何を思おうと、目の前の悪魔に気持ちなど届くわけがない。



《真佑。お前は自分が誇りに思う父親、水瀬蒼真の子供じゃないんだよ》



悪魔は、どこか憐れみを含んだ目で突きつけてきた。

今見た恐ろしい悪夢は、現実で起こっていた事実であると。


真佑母・莉愛のクソっぷりはまだこれだけじゃありません。実在するモデルのほんの一部分の性格と、こんな女or母親は嫌だを詰めまくったキャラなので最早しょうがないです笑

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