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冷酷の騎士  作者: 川咲鋏
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悪夢は再び

真佑の苦難はまだまだ続きます。

俺が乙女ゲーム『花園の天使』の世界で攻略対象のライヤ・ラズライトの身体に転生してから、三ヶ月経った。

転生前は、天音美加理が死んで生きる意味すら見出せず、かと言ってろくに死ぬこともできないまま、ひたすら無の中で過ごしていた。

そんな俺の人生を良い意味でも悪い意味でも変えたのは、この異世界転生だった。


この世界でも、俺は乙女ゲームの主人公ミーシャ・グレイスに転生していた美加理をまた失うことになり、今度こそ死のうと思っていた。だが、悪魔のルシフェルの言うように、神様にかけられた呪いのせいで自ら死ぬことは叶わなかった。


残酷な現実に酷く絶望し、この世界でも美加理に対して知らぬうちに犯してしまった罪を強制的に自覚させられて、一度は狂いかけた。そんな俺に、グレイが父さんのために善く生きろと言ってくれなかったら、今頃どうなっていたのだろうか。

早々に教会で永久奉仕をさせられるなら、まだ良い方だろう。最悪の場合、カルミアが働く病院ではなく、犯罪者を当然の如く人間扱いしない病棟に閉じ込められた可能性もあった。そこで拘束されたまま一生を過ごし、今のように未来に希望を見出すこともなく独りで死んでいったかもしれない。


だから俺は、最悪の可能性に進まないようにしてくれたグレイに感謝している。

俺が誇りに思う家族である父さんの存在を思い出させてくれたおかげで、自分の罪に向き合い、ライヤ・ラズライトとしてこれ以上恥ずかしくない人生を送ろうと思えた。

グレイだけじゃない。他にもこの世界で感謝しなければならない人はいる。


アーサー・ローレントは、罪を犯した上にライヤの姿なのに酷く情けない振る舞いをしてしまう俺と、まだ友達でいてくれた。

過去に親友だった人に裏切られ、虐められて以来、友達というものを心から信じられなかった。しかし、アーサーだけは友達として信じられると思わせてくれた。

前世では誰も一緒に飲める友達はいなかったが、アーサーとはいつか本当に一緒に酒を飲みたいと思う。


そして、一番はカルミア・サントリナだ。

幼い頃の夢を諦めて、親から逃げる道しか選んでこなかった俺に、医師になりたいという夢を思い出させ、未来に可能性があることを教えてくれた。

カルミアと出会えたことで、俺はたとえ今は難しくても、まずはカルミアの助手として医療関係の仕事に就きたい。貴族社会で保守的なライヤの両親からどう思われても構わない。勘当されようと、自分から母と縁を切ったことのある俺にとっては上等だ。


そのために、今日も俺はカルミアから頼まれた大量の荷物運びと薬の補充に勤しんでいる。

手伝い始めた頃は、元々鍛えられていたライヤの身体を上手く使えず、加減出来ずに働いて最後には死にかけていた。だが、今では身体の使い方も分かってきて、死にかけるまで至ることはなくなった。

精神疾患が回復したと判断され、退院する日が来るまで、俺はカルミアの元で手伝いでもなんでもして働くつもりだ。

事故で父さんを亡くした日から、現実を知って諦めるまでに見た、医師になるという夢を今度こそ叶えたい。

俺は、唯一の光であり、一人の人間として尊敬する父さんのために良く生きたいと願ったのだから。


「カルミアさん、荷物全部運び終わりました」

「もう終わったの?始めた頃に比べて本当に早くなったわね。かなり無理しただろうから休憩してきなさい」


最後に残ったでかい荷物を運び終わり、俺は休憩を許された。

一息つくために、俺は病室のベッドに横たわった。


「ふぅっ……慣れても疲れるものは疲れるな…やり甲斐はあるけど…」

《呑気なものだな。この前まであんなに死にたがってたくせに》

「うるさいなぁ…こっちだって一生懸命やってるんだ…ってまたお前か!!」

せっかくの休憩を台無しにされた気分だ。久々に現れたルシフェルは、疲れて寝転がる俺を嘲笑するような表情で見下ろしている。

今更何しに来たんだろうかこの男は。カルミアのことを魔女だのなんだの言ってたくせにまたここに現れて、一体どういうつもりだ。

「何の用で来たんだ?」

《お前が平和ボケして腑抜けた面するようになったから腹が立って来たんだよ》

「たいした用事じゃないなら帰ってくれないか?俺は休憩したらまたカルミアの手伝いに向かうんだから」

こんな悪魔に構っていられるほど、今の俺はもう暇ではない。

夢のために奮闘している最中に邪魔をされてはたまったものじゃない。ただの恨みで来たのなら、さっさと帰って欲しい。

《……随分と偉そうな口を聞くようになったな。俺に構う暇はないってか。それほどまでに夢を叶えたいのか?既にこの世にいない"父さん"とやらのために》

「ああ、そうだ。俺は父さんを亡くした日から…父さんみたいになってしまう人が現れないために医者になりたいと思っていた。途中で諦めた夢だったけど…今なら叶えられると思ってやってるんだ。だからもう邪魔するなよ、ルシフェル」

以前の俺なら、ルシフェルの小馬鹿にするような言い方をされた途端に、感情的になって掴みかかるしかできなかった。今は、心身共に不安定だった頃とは違う。

諦めて何処かに置いて行ってしまった夢をやっと取り戻せたのだ。その夢を、二度と邪魔されたくない。


その意思を聞いたルシフェルは、諦めてどこかに行ってくれると俺は思った。

しかし、ルシフェルは突然お腹を押さえて、ぶるぶると震え出した。


《っ……はは……っ…》

「………?どうした?腹でも痛いのか?」

《はははっ……!!あははははッ!!!あーっはっはっはッ!!!!あまりに傑作すぎて片腹痛いわ!!》


あまりに小刻みに震えるから心配になったが、それは杞憂どころか、むしろしてはいけないものだった。

ルシフェルは腹を抱えながら、俺に向かって大声で嘲笑い始めた。その姿はあまりに狂気的で、こいつが嫌でも悪魔だと気付かされるほどだった。

「何で笑うんだよ!何かおかしいことでも言ったか…?」

《何って…その父親のために生きるお前があまりに愚かしいからに決まってるだろ》

「ッ!!!」

ルシフェルの言葉を聞いた途端、身体中の血が一気に湧き出し、反射的にルシフェルの襟首を掴んだ。

「お前ッ!!!父さんを侮辱でもする気か…!?もしそうなら今すぐ殺してやる!!!」

《ははっ、凄い剣幕だな。そんなにあの父親を尊敬しているのか…?》

「当たり前だろ!!父さんは…父さんだけは俺を最期の瞬間まで育ててくれた大事な人なんだ!!」

俺のことは何とでも言って良いが、父さんだけは馬鹿にされたくない。こんな人でなしの悪魔なんかに。

《本当に父親だけはお前に優しくて、最期の瞬間まで育ててくれたのか?》

「ああ、そうだ!分からないなら何回でも言ってやるよ!!俺は父さんを誇りに思ってて…俺にとっては唯一の光だと思ってるんだ!!」


俺がどれだけ怒っても、悪魔には全然響いてる感じがない。それどころか、父さんを誇りに思う気持ちを伝えれば伝えるほど、何故かルシフェルの意地悪そうな目は冷えていくのを感じる。

その違和感に気づくと、ルシフェルは静かに口を開いた。

《……その父親に本当はどう思われていたのかを知っても…そう言い切れるか?》

「ルシフェル…お前は何が言いたいんだ…?」

《お前は父親に愛されていると信じて疑っていないようだが…お前がどれだけ父親を尊敬していても、父親の方はお前のことをどう思っていたんだろうなぁ?真佑くん??》

「……………っ」

ルシフェルの不安を煽る言い方に惑わされたくない。なのに、無性に胸騒ぎがしてくる。

俺は、確かに今までは父さんに愛されていると信じて疑っていなかった。途中で母さんからの愛情を失ったとしても、父さんが生きていれば俺はもっと幸せでいられたはずだったのにと、思うこともあった。

父さんが俺のことをどう思っていたかなど、改めて考えたらダメだと頭では分かっているのに、胸騒ぎがますます止まらなくなる。


《真佑、まず母親からの愛情を失ったという考えが間違っている。最初から存在していないものを勝手に失ったことにするなよ》

「ッ!?母さんは俺に失望して嫌いになったんじゃないのか…?」

《ああ、あの女は最初からお前を愛してなどいない。むしろ邪魔に思っていた。あの()()を犯した日から…ずっとお前を憎んで過ごしていた》

「あ、過ち…?父さんを亡くして…俺が励まそうとした日のことか…?あれは俺が悪くて…」

《その過ちはお前が悪いわけじゃない。そもそも…お前はどうすることもできなかったものだ》

「どうすることもできなかった…?それって………っ!?」


いやだ。


これ以上気づきたくない。


俺自身がどうすることもできなかった理由で、母さんは生まれた時から俺を憎んでいる。今まで母さんを見てきた俺は、自分の母がどういう人間なのかを嫌と言うほど知ってしまっている。


俺の母さんは………。


《察しはついてるみたいだが…ちゃんとした答えは今から教えてやるよ。真実をじっくり確かめろ》


ルシフェルの指が、顔の方に伸びてくる。

嫌な予感がして、俺は後ろに仰け反って逃げようとした…が、もうその時には遅かった。


ひんやりとした悪魔の指が額に触れた途端、俺は自分の意識が一気に吹き飛ぶ感覚に陥った。


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