諦めからの脱却
※いじめ等の胸糞描写、トラウマのフラッシュバック描写あり
ライヤは、騎士団長の息子だから特別扱いされるんだと、同じ騎士候補達に疎まれている。
だから孤立してしまい、実力で周囲を黙らせるしか出来なかった。
しかし、ライヤは俺とは違って本当に強くて、誰かを守るために鍛錬を重ねる真面目さを段々と評価されるようになっていた。
(なのに…一度落ちてしまえばライヤでもこんな目に遭ってしまうのか…)
自分の憧れていたライヤ・ラズライトは、客観的に見れば騎士団に虐められる精神病患者に過ぎない。
転生したばかりの頃とは違い、前世の自分と今のライヤは、顔以外ほとんど大差がなくなってしまっている。
ぼーっと昔のことを思い出したり、ライヤと自分のことを考えているのが気に食わなかったのか、その間に罵倒を繰り返していた騎士候補の巨漢な男が、いきなり俺を壁に向かって突き飛ばした。
「ぅッ………!!」
「おい聞いてんのか!?てめぇほんっっと生意気で気に食わねぇ…一回痛い目に遭わせねぇとわかんねぇようだなぁ!!」
「そう来なくっちゃなぁ!!俺も一発………ってなんでベルト外してんだ…?」
壁に叩きつけられた勢いで、殴られると思っていた。
その方が、どれほどマシだっただろうか。
カチャカチャと鳴る金属音が耳に入った途端、嫌な予感がして背筋が凍りついた。
舌舐めずりをしながら近づいて来る巨漢の男に、俺は本能的に恐怖を感じて後退りするが、背後の壁のせいで逃げられない。
後ろではなく横に逃げれば良いのに、身体は恐怖に支配されて、全く動けない。
このままじゃ犯される
脳みそが危険を訴えているのか、呼吸が荒くなっていく。恐ろしさのあまり、心臓もバクバクと鳴り止まなくなり、涙まで滲んできた。
「どうせお前も姉貴と同じで淫乱なんだろ?一回試させろよ。恨むんならお前をお綺麗な顔で生んだ親を恨むんだな」
「っ!……はは!そういえばダチから聞いたんだけどよ、こいつ自分の姉貴のお気に入りの男にヤられそうになったらしいぜ」
「はぁ〜?おいおい!女装した時と言い、お前どんだけ男を誑かせば気が済むんだぁ?」
「言っとくけど、逃げたってどうせ誰も助けねぇよ!今のお前みたいな異常者なんかなぁ!!」
近づいて服を脱がそうとする巨漢の男を引き剥がしたいのに、ライヤの力でもそれは敵わない。
ライヤはずっと妬みだけでなく、こんな気持ち悪い劣情を向けられていたなんて、俺は全く知らなかった。
俺の知らないところで、ライヤはずっと戦っていたのかもしれない。自分に向けられる恐ろしい思いに振り回されまいと、孤独になろうが構わずに。
なのに、抵抗する力がないと知った瞬間に、俺はまた向こうの気が済むまで耐えれば良いと、諦めようとしている。
もう弱い自分は嫌だと思っているのに、過去の経験で染み付いてしまったものは、中々こびりついて取れることを知らない。
「ヤってくださいって顔してるお前が悪いんだよ!前のすかしヅラと違って女みたいな感じ出して誘いやがって!!」
「っ………や…やめ……はっ……ぁ……っ」
俺が一番気にしていることを持ち出して身勝手な罵倒を受けた瞬間、少年Aに虐められていた時のことがまた脳内で甦ってしまう。
息をするのも精一杯で、思い出したくないのに当時の感覚に戻されていく。
あの時はまだ全てを諦める前だったため、今のように脱がされながらも抵抗はしていた。だが、過去に打ち明けた複雑な事情を引き合いに出し、
『ヤって下さいって顔してるお前が悪い』
と、少年Aは不気味なほど歪んだ表情でベルトを外しながら言い放った。
秘密を平気で仲間にバラされたことよりも、打ち明けた時点でいじめのネタにできると思われていたことが、酷くショックだった。
言葉を失って抵抗する手が緩んだその瞬間に、俺はもう少年A達から逃げられなくなっていた。嫌だと声を上げようとすれば、一方的に静かにしろと口を塞がれた。
下品かつ屈辱的な言葉を浴びながら、その場にいた人数分が終わるまでひたすら続く苦痛に耐えるしかなかった。
そんな経緯もあり、俺はいつしか自分が耐えていればいつか終わる、孤独のまま生きれば辛い思いはしなくて済む。
そんな諦めの思考に陥るようになった。
孤独を選んだのは同じだが、俺とライヤには決定的に違うものがあった。
俺が諦めて耐えることばかり選んでいるうちに、ライヤは実力を身につけ、父親に認められるような騎士団長になるため、周囲の邪な感情に抗ってきた。
だから俺は、ゲームで登場したライヤが格好良く見えて、推しになるほど好きなキャラになった。それに比べて、自分は臆病で、耐えていればいつか終わると諦めてばかりの情けない人間だ。
俺は、ライヤ・ラズライトとして、強くて優しい父さんの息子として恥ずかしくない人生を生きると決めたはずだった。
なのに、今まではどうすれば良いのかずっと分からず、ライヤみたいに周囲に抗うことすら出来ずにいた。
だが、ライヤの本当の強さと自分の弱さの原因を知った今なら、はっきりと分かる。
少なくとも今ここで変わらなければ、俺はずっと臆病で弱いままの人間だということが。
(どうせ自分には無理だって諦めるのは…もう嫌だ!!)
「っ………!!やめろッ……俺に触るなっ…!!」
「あ?てめぇ今なんつった?」
「……俺が元騎士団長の息子だから優遇されてるって思ってるのかもしれないけど……っ…たとえ俺がいなくても、お前らみたいなクズが団長から評価されることなんか一生ねぇよ!!!そんな簡単なことも理解できないからいつまで経っても騎士候補のままなんだよ!!」
「ッ〜〜〜てめぇえッ!!!もっぺん言ってみろやぁああ!!!!」
俺の精一杯の罵倒に対し、巨漢の男は案の定ブチギレて俺の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。
やばい、流石に言い過ぎたかもしれない。
言いたいことをはっきり言えた爽快感はありつつも、俺は反射的に目をぎゅっと瞑った。
「お前ら何やってんだ!!こんな所で騒ぎ起こしてんじゃねぇぞ!!」
今度は別の低い声が、この空間を静まり返らせた。
目を恐る恐る開けると、オレンジがかった赤い短髪と深緑の吊り目を持つ騎士が、巨漢の男ともう一人の男を睨みつけていた。
助けに来た騎士を見た瞬間、俺は知らないはずなのに、勝手にその人の名前を呟いていた。
「…………アーサー・ローレント……?」
「よお、久々だな。ライヤ・ラズライトくん?」




