人生で最大の間違い
真佑の中学時代の話。ほとんどトラウマのフラッシュバックみたいな内容。
※いじめ、虐待などの胸糞要素の抽象的な表現あり
自分の人生に最も悪影響を及ぼしたと言える間違いを犯したのは、中学の時だった。
別の小学校から来た人の方が多く、小学校の友人達とは皆離れてしまった中学で、俺はなかなか人と打ち解けられずにいた。
そんな俺に対して、他校から来た"少年A"は友達になってくれて、元々一緒にいたらしい仲間にも入れてもらえた。
元気で明るくて、俺みたいな陰気な奴にも平等に接してくれる優しい少年A。俺は、その裏の顔もろくに知らないまま、すっかり信頼し切っていた。だからこそ、少年Aに俺自身の複雑な事情も打ち明けた。
父さんが亡くなってからは母と上手くやっていけないこと、母が連れて来た男に触られたり悪戯をされて気持ち悪かったこと、隣人からは全てを見て見ぬふりされていること、学校しか居場所がないことを。
少年Aは、俺の身の上話を静かに黙って話を聞いてくれた。
『今まで辛かったよな』
『なんかあったら俺に言えよ』
今までは小学校の友達にすら、父さんが亡くなったこと以外で家の話をしたことはなかった。隣人から声をかけられて事情を話しても、最後には引いた顔をして去って行ってしまう始末だった。
初めて貰った温かい言葉を受けて、俺は嬉しくてたまらなかった。
少年Aとなら、俺は初めて親友と呼べる関係になれるかもしれない。
その喜びが一瞬のうちに冷え切ったのは、一週間後だった。
『なあ、吉田って暗くてうぜぇよなぁ。明日からアイツで遊ばね??』
いつもとは違う歪んだ笑顔をする少年Aの一言に、俺は耳を疑った。
俺を無視して、一緒にいる仲間も便乗して賛成しており、明日何してやろうかと、作戦会議でもするように残酷な話し合いを行なっていた。
当時の俺は、ただただ動揺して、信じがたい光景を受け入れまいと、脳内は現実逃避思考に入っていた。
どうして皆はそんな酷いことを言うんだろう。
誰かを虐めたいなんて信じられない。
そうだ、もしかしたら知らない間に虐めたいと言ってる相手と喧嘩でもしたんだ。でなければ、こんなことを言うはずがない。
黙って話を聞くしか出来ない俺に気づいた少年Aは、いつもの笑顔で話を振った。
『お前はどうしたい?まずは体育で連続攻撃とか良いと思わね??』
自分でも青ざめていたと思う顔色なんか目もくれずに恐ろしい提案をする少年Aを、俺はもう見ていたくなかった。
「っ………ぼ、僕は……やりたくないっ…!吉田くんが可哀想だし…それに君にもそんなことして欲しくない…!こんな話、もう止めた方が良いよ……!」
静まり返る空間に、緊張が走る。
しばらく目を見開いて黙っていた少年Aは、いつもの笑顔で口を開いた。
『……わかったよ。ごめん、この話はもう止めようぜ』
俺は、少年Aのこの一言で分かってくれたんだと勘違いしていた。
あの歪んだ笑顔が少年Aの本性だと気づけていれば、俺は間違いを犯さずに済んだかもしれなかった。
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その次の日、俺の机の上には花が生けられた花瓶が置かれていた。
花瓶の下では、油性ペンで大量の悪口が書き込まれており、机の中はゴミだらけだった。
誰がこんなことしたんだと辺りを見回した先で、少年Aは仲間を引き連れてニヤニヤと笑っていた。
その顔はまさしく、最初に違和感を抱いたあの歪んだ笑顔だった。
『アイツの代わりにお前がおもちゃになれよ、優しくて勇敢な真佑くん?』
その日から、俺は少年Aにありとあらゆる虐めを受けることとなった。
物を隠されたり、机に落書きなんて当たり前で、体育の授業を利用してボールを何度もぶつけられたり、体当たりを繰り返されて、俺は怪我をたくさん作った。
制服のシャツをハサミで切られた時は、簡単に新しく買い替えることも出来ず、冬は学ランを頼りにしながら、基本的には破れたシャツで過ごした。酷い格好で過ごしていても、少年Aを気に入ってる担任は見て見ぬフリをして何も言ってこなかった。
傷ついた格好で帰って来ても、母は心配もしなかった。担任と同じように何も言わないならまだしも、母はボロボロの俺を見る度に苛立ったように物を投げ、罵倒する始末だった。
毎日毎日、家でも学校でも俺は罵倒されて虐げられる。寝室も、母が連れて来た男が布団にまで忍び込んで来るため、安らげる場所も無い。
俺の中で、最初に生きる気力を無くしていたのは、その頃だった。
少年Aを中心に虐められ続けて色々と限界を感じている状態で帰って来たある日、いつもは男を連れて来るため夜の9時にしか帰って来ない母が夕方なのに先に帰って来ていた。
その日の母はかなり不機嫌な様子だったため、仕事で何か言われたのだろうと、声を荒げられる前に逃げようとした。
だが、母に見つかってしまった。
そして、俺の顔に作られた傷を案の定見つけてしまい、また苛立ったように罵倒を始めた。
「またみっともない傷作って…!!自分は可哀想とでも言いたいの!?見せびらかしてんじゃ無いわよ!!アンタなんかより私の方が余程しんどいんだからね!?」
「っ……ごめんなさい…」
「ッ〜〜〜!!なんでアンタはこんなに弱いの!?蒼真さんにも似てないってだけで胸糞悪いのにっ…!!どうせいじめられてんのはやり返しもしないアンタに原因があるんでしょ!?こうなるって分かってたらアンタなんか産まなきゃ良かったわ!!!」
父さんと比べられるだけなら、まだ我慢していられた。
しかし、母は俺が虐められていると分かった上で傷口を抉るように罵らないと気が済まないようだった。
いつもなら黙って寝室に逃げていたが、何度も繰り返されるその振る舞いに、その日の俺は何かが爆発してしまった。
「ッ〜〜〜!!!うるせぇんだよクソババア!!!産んでくれなんて頼んでねぇよ!!そんなに俺が嫌なら生まれる前に俺のことを殺せば良かっただろ!!!!ぁっ……!」
初めて母に反抗した。だが、すぐに言い過ぎてしまったと後悔した。
産んで欲しくなかった、なんて言ったら天国にいる父さんが悲しむ。
そう母に言われて打たれると思い、目をぎゅっと瞑っていた。が、いつまで経っても頬に衝撃は来ず、不思議に思って恐る恐る目を開けた。
母は考え込んだような表情でため息を付いていた。そして、いつにも増して冷たい目をしたまま、静かに口を開いた。
「そうね…アンタなんか妊娠が分かった時点で堕ろしとけば良かった。そうしていればこんなに悩まずに済んだのにね。ほんと馬鹿なことしたわ」
あの時の俺は、まだ何処かで母に期待していたのかもしれない。
「なんてことを言うの!!」と頬を打たれて、生まれることを望んでいたと言われたかった。そうであれば、自分が父さんみたいに強くなれないのが悪いだけなんだと、少年Aにやり返すか改めて奮起することが少しは出来たかもしれない。
否、本当に最初は生まれることを望まれていたのだとしても、あの時点で完全に母から愛想を尽かされたに違いない。
もう誰にも頼れる人はいない。その残酷な事実に気づいた俺は、全てを諦めた。
少年Aが飽きるまで付き合うしかない。飽きて他にターゲットを変えてくれたら、俺は次に期待して友達なんか作らない。
新たな友達を信用し切って、また少年Aのように裏切られるぐらいなら、最初から一人でいる方がマシだ。
中学にして、ライヤ・ラズライトと同じように孤独を選んだ瞬間だった。
次回もしんどい描写が続きます




