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8.恋人ごっこをやりましょう

【オリオン : っていう経緯で今やべえんよな】


【アオ : やべえですね。フラグ立ちまくりですよそれ】


【オリオン : やんなぁぁぁ……! 俺そいつに対してそんな感情無いし……生半可な気持ちやとあいつに失礼やしどーすりゃええん!?】


【アオ : うーん……難しい議題ですね……】


 あの後もはや授業は何も手につかず、帰り道までずっと花崎のことを考えていたものの、一人で結論を出すのは不可能と判断して頼るのは結局アオ。突然こんなことを話されてどう思うかと不安になったが、すごく真摯に受けとめて俺と同じ目線になって考えてくれている。


 やっぱり俺より年上なのか? それとも精神年齢が高いだけなのか? 分からない。何も分からない。


【アオ : 僕は……恋はそんな安易にするものじゃないと思ってます。だからその人からの告白の答えは慎重に、ですよ】

【オリオン : それは分かってるけど……分からねえ……恋が分からん……】

【アオ : そもそもそこからですか!?】


 そうなのだ。俺はWEBで恋愛小説を投稿しているのに、恋というものをしてこなかった人間なせいで、いまいち花崎の告白に乗り切れていない感覚がしている。無風状態の風力発電所、波がない状態でやるサーフィン、雪がない時の雪合戦みたいに空虚な感覚だ。(それ)するための(感情)が整っていないんだと思う。


【アオ : じゃあ】


【オリオン : む?】


【アオ : ネットだし文字だけですけど、僕と恋人ごっこでもします?】


「……はぁぁ!?」


 突如アオから投じられた、ウソみたいなホントの提案。『恋人ごっこ』をやる。それもネットでDMするだけの仲の男と、それをやろうと提案するアオに大丈夫かという心配の感情が芽生えてくる。


「いやいやいや! いやっ……はぁ!?」


 言葉が出ない。いや出てはいるが、まともな単語が脳からアウトプットされないというのが正しいか。現に今も『いや』と『はぁ!?』しか言葉にできていない。

 文字を打とうとしてもどう反応するのが正解なのか全く分からず、打っては消して打っては決してを繰り返している。そんなことをしていると、アオから追撃のメッセージが次々送られてきた。


【アオ : だって恋が分からないんですよね? じゃあ色々と予行練習して恋を知っておかないとですよ?】

【アオ : 何事も経験ですよ。僕で経験になるかはともかく……】

【アオ : というか僕としても役得というか……うん】


「……ア"オ"ォ"ォ"……!」


 床に頭を打ちつけつつゴロゴロとのたうち回る。俺は推定年下の子に何をさせようとしているのだろうか。いやワンチャン年上の可能性はあるが。

 確かにやってみる価値はあるかもしれない。というかメリットの方が確実に大きいと思う。アオもやると言えば多分嬉しがるだろうし、互いの関係性もより深まる。何がそこまで引っ掛かっているのかが自分でもよく分からない。額を指で強めに突きながら思考を加速させつつDMを返す。


【オリオン : 仮にやるとしたら何が変わるんや今と】


【アオ : 僕が今より甘えます】


【オリオン : なるほど?】


【アオ : オリオンさんは甘えたい僕を甘えさせるんです。もちろん逆も然りです】


 具体的な情景が思い浮かぶ。

 学校終わりにDMを開くと、前とは全然違う文章の感じで俺にメッセージを送るアオ。そしてそれに今まで以上に甘々に返信する俺。

 頭にそんな情景を思い浮かばせれば浮かばせるほど、顔の熱が上がっていく。多分ほっぺも赤くなってるだろう。震える指先で文字を打つ。


【オリオン : なんかめっちゃ顔熱いんやけど】


【アオ : え? まさかオリオンさん恥ずかしいんですか?】


【オリオン : ……かも】





 冗談半分、本気半分で提案した『恋人ごっこ』。まぁオリオンさんだし、軽く交わしてツッコミ入れるくらいで終わるだろうなと思っていたのに……


【オリオン : なんかめっちゃ顔熱いんやけど】


【アオ : え? まさかオリオンさん恥ずかしいんですか?】


 これも遊び半分で打ってみた煽りのようなものだ。オリオンさんならちゃんとキレ芸で返してくるだろうという信頼の元、こういう煽りは割と普段から行う。ニヤニヤしながら返事を待っていると、返ってきたのは僕の想像を遥かに超える爆弾発言だった。


【……かも】


「…………かも!?」


 部屋の壁を全て貫通するくらい大きい声が出た。『かも』という言葉を理解するのに2秒ほど使ったけれど、理解したら途端に顔が沸騰してきた。

 あのオリオンさんが、いつも飄々としててなんやかんやで僕の攻めをいなし続けてきたオリオンさんが恥ずかしがっている。それも多分、僕との恋人ごっこを思い浮かべて。


「ぐぅっ……おっふ……!」


 まずい。このままだと心臓に大量の『萌え』を急激に注入された反動でキュン死してしまうかもしれない。僕の想像の姿ではあるけれど、僕より確実に大人なオリオンさんが、僕で狼狽えて顔を赤くしている姿なんて可愛過ぎる。頭をワシャワシャしてぎゅーしたい気持ちが昂って仕方が無い。


【アオ : じゃあやるって事でいいですか?】


【オリオン : ……メリットはあるもんな……】


【アオ : デメリットが見つかりません。やりましょう。やりたいです】


【オリオン : やりたいんかい。ほなまぁ……】


 そこから数分、おそらく悩みに悩んでいるのだろう。送信中から動かなくなっていて焦ったい。追撃を送ろうとも思ったが、急かすのもアレだしやめておいた。あくまでこれは僕が提案している事であって、やるかやらないかを決めるのはオリオンさん次第なのだから。

 待つ事十分。ポンっとメッセージが送られた。それを食いつくように凝視する。


【オリオン : 分かった。やろか恋人ごっこ。お願いします】


「……っっやっったぁぁ!!!」


 その文章を見た瞬間、感じたことのないくらいの感情の昂りを実感した。

 ようやくこの人との関係性の歩を進められる事に歓喜し、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。下の階にいる両親のことなんで考えず、とにかく飛び跳ねてからベッドに勢いよくダイブしてゴロゴロとのたうち回る。


「すき……!」


 枕を抱きしめて顔を埋めながら、一言だけそんな言葉が漏れた。小さいけれど大きい一歩。遠いけれど近い距離感に、少しだけ甘いスパイスが加わる瞬間に僕は、心躍る他なかった。

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