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7.俺の事が好きらしい女友達に壁ドンされてる

 ほんの数時間前の花崎との一幕で脳内会議は持ちきりである。普段人間のことなんてアオ、もしくは義姉さんや母さん等家族のことしか考えてない脳みそのリソースが他の人に割かれるなんて今年に入ってからは初である。

 昼休み、誰もいない空き教室でぼーっと床に寝転んで脳内会議を開いているが、若干まだ混乱しているせいで意見が適当にまとまってしまった。

 花崎はあそこから休み時間になれば必ずちょっかいを出しに来た。机に座るだけならまだしも、頬をツンツンしてきたり髪を抜いてきたり独特なアプローチを仕掛けてくる。花崎が相手がちょっとうざがるようなアピールで気を引くキャラなのは百も承知なので俺はあまり気にしないのだが、そのアピールを俺がされているという状況に未だ困惑の色を隠せない。


「……あったまいってえ……」

「なにがよ〜音那〜」


 仰向けで寝転がっている俺の視界を全て奪うように花崎がしゃがみ込んで俺を見ていた。急にぬるっと現れたので心臓が全部の穴から出てくるくらい驚いて跳ね起きた。


「うっぽぉぉ!?!? びっくりしたぁ!!」

「……ぶふっ……うっぽぉって……あはっ……! 死ぬ死ぬ死ぬ……!」

「お前いい度胸してんな……殺す……」

「痛い〜。アイアンクローやめてぇ……っふははっ……!」


 花崎のサラサラな髪ごと小さい頭を捻り潰すように片手で掴む。ビビらせてきた挙句反射で出た声を笑うとは。万死に値する。

 そもそも今日本調子が出ないのはこいつのせいでもある。二人しかいない空き教室だからちょうどいい。この際腹を割ってはっきり話し合うのも一つの手だろう。


「……花崎」

「ん〜?」

「お前さ、俺のことどう思ってんの」

「……聞きたいの?」


 少し憂いを帯びた笑みを浮かべながら肩を竦めつつそう聞いてきた。俺は何も言わずに首だけ縦に振ってその問いかけに答える。

 花崎の笑みはより深いものになる。憂いにどこか艶っぽさすら見受けられるような、そんな笑み。タレ目が細くなり、俺にカーソルを合わせるように目を見てくる。


「まぁさっきは紛れて言ったような感じだしね。ズルいか」

「おう」

「うん……まぁ、好きだよ。すっごい好き、彼氏にしたいくらい好き」

「……マジでいつからだそれ」

「分かんない」


 俺がいつからと聞くのを分かっていたかのように、被せるくらいの勢いで『分かんない』と言った。花崎は俺と一年の頃からの仲だ。その時からずっと机の領土を半分支配されてきた身としては、本当にいつからなのだろうと首を傾げる。

 机を椅子にしていたのも嫌がらせ気味のかまちょと俺が勝手に思っていた節があるので、あれがもしやこいつなりのアピールだったのかもしれない。


「今日はなんでまたそんな大胆に来たんだ」

「なんか最近さ。音那スマホいっぱい触るし、DMの画面よく開いてるなって思って。もしかしたらネットで仲良い人ができて、私なんかもう興味無くしたのかなって考えたらなんか危機感募った感じ」

「乙女だななんか……」

「乙女なんだよ。ギャップでしょ?」


 おちゃらけている風にしているが雰囲気が明らかに違う。いつものいい意味でカラッとした軽い感じは無くて、全体的に湿っぽくて不安感が全面に出ている。

 俺は人生でその不安感を味わった事がないから分からないけれど、花崎が勇気を振り絞ってきたのは伝わる。それくらいいつもと違う。


「音那、恋した事ないでしょ」

「残念ながらした事ないな」

「じゃあさ……」

「なに……? な、なになに近いなちょっすり寄るなお前待て」


 ジリジリと俺との距離を詰めてくる花崎に、これまた後退りする俺。窓の方まで詰められて後ろへの逃げ場を失った俺に対して、花崎は更に横への逃げ場を失わせるように両腕でドンッと壁に手を付く。いわゆる壁ドンの姿勢が出来上がった。顔同士もかなり近くて、真っ赤な花崎の端正な顔がすぐ手の前にある。


「花崎……」

「私に恋させたい。私のこと、好きになって欲しい。私だけがいいよ、音那」

「……泣くなよそれくらいで……」

「それくらいってなにさぁ……! 私にとってはっ……それくらいじゃ収まんないの……っ!」


 恋はエゴだ。好きの押し付け合いで、自分の感情と底の方の本性がモロに出る。花崎の本性、心の底に閉じ込めていたであろう感情。独占欲が含まれた涙声の言葉が俺に刺さる。

 未だ壁ドンの体制は解けない。でも振り解こうと思えば余裕で降り解けるほど、先ほどまでの力強さは無くなっていた。

 本気は伝わる。好意も嫌というほど伝わっている。なのになんでこんなに、ストンと花崎が心に落ちないんだ。まるでもう"その椅子に誰かが座っている"かのような感覚だ。


「……花崎?」

「なに……」

「えーーと……考えさせてもらっても……?」

「……分かった」


 絶対内心納得してない様子で花崎は俺から離れた。花崎がこんなにも俺に対してのめり込んでいたなんて思いもしなかった。いつ好きになったか分からないくらい好きというのは、相当だと思う。だからこそ一旦花崎にも俺にも考えをまとめる時間と、感情を整理する時間が必要だと感じた。


「答えを出すのは割とかかるけどいいか?」

「ぜーんぜん? その間も攻撃しまくるし」

「うーわっ……こーわっ」

「覚悟しときな〜? 童貞クン?」


 ニヤッとしたいつもの花崎の笑みで若干安心したのも束の間、その目の奥に確かに愛憎渦巻いた感情が見て取れたのは気のせいではなかった気がする。何はともあれ、早めに決断を出さないととんでもない事になってしまうかもしれないと思った。


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