23.海に靡く
「初めまして、如月音那です」
「初めまして。秋峯悠木です」
パラソルに戻ってから改めて秋峯先輩と挨拶をした。成宮と同じような外ハネが特徴的な銀髪に栗色の瞳。全体的に硬派、シャンとしたイメージが先行する雰囲気だが、成宮に話しかける時はまるで真逆の雰囲気になる。
「奏斗くん〜撫でさせて〜」
「う……はい」
「やたー! わへ〜相変わらず手入れが行き届いてるなぁ……」
「……花崎、これがニュートラル?」
「奏斗に対してのセンパイはあれがニュートラル」
成宮が秋峯先輩を好きなのはそうだが、秋峯先輩はそれを知らず成宮を『可愛い後輩』くらいの感覚で撫でているのに甘んじているのが終わってる部分だろうか。プライドもクソもあったもんじゃないと思わず苦笑してしまう。
「成宮って……二組の従兄弟のイケメンさんより子供だよな……」
「比較対象が可哀想な気もするけどねぇ。あっちは正直奏斗でも比べるのが烏滸がましいレベルだから」
「だよな……」
「まぁどっちも別ベクトルで人を沼らせる達人ではあるよね。血筋なのかな〜」
二組にいる成宮の従兄弟さんと成宮を頭の中で比べる。確かにどちらも雰囲気はまるで違うが、別ベクトルの魅力があるしどちらも違う種類の沼を持っている気がするなと途端に理解が及んだ。
そんなことを考えていると、もう既に溶かされまくっている成宮の姿が。これがバレー部では日常茶飯事なのかと苦笑が漏れる。
「というか秋峯先輩、三年生なのにいいんですか? 受験とか……」
「私は推薦だから、ちょっと余裕あるんだっ」
「センパイは上手いぞ〜? 音那は知らないだろうけど〜」
「そうだぞ音那。先輩はすごい」
「フニャッフニャな顔面でそんなこと言われても説得力ないんやが」
もはや犬のような扱いをされている中学からの友人を冷めた目で見つつ、花崎の様子を伺う。
こいつの第一の目標はおそらく俺だろうが、第二の目標はこの二人だろう。しかしこの二人はもう自動的に進むだろうから実質目標は俺一人になっている。突然距離は近づくし、常に隣をマークされている。
「花崎、近い。色々当たる」
「当ててるんだよ〜」
「んがぁ……はぁ……」
「受け入れてるじゃん男の子〜」
「だーまれ」
花崎のアプローチは以前言った夏休みに決着をつけるという宣言通りかなり激化している。今までは視覚的、感覚的な攻め方だったのがかなり直接的になってきているのもそうだし、なにより行動に移すのが早い。俺の考えが纏まる前に花崎の存在を俺の脳みそに刷り込むつもりなのだろう。
「花崎」
「ん?」
「俺恋愛したことないしさ、あんまよく花崎の気持ちとか理解できてない気がすんねんけど……ほんまに好きなんか?」
「……はぁ? お前はな〜にを言ってる?」
「え?」
かなりの怒気が含まれた声色と、睨みを効かせた表情でこちらを見る花崎。まるで『私が誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ』とでも言いたげなその圧に、少し押されて後退りしてしまう。
「音那ぁ? この一ヶ月半の私見てねーの? どこをどう切り取ったらそんな質問が出るの?」
「い、いや……えと……」
「私の告白の答えは寄越さないクセに、私の心をドギマギさせるような行動とか言動はしまくって……なんなの? 私をどうしたいの?」
「……」
その言葉に目を伏せてしまう。花崎をどうしたいかは分からない。アオと始めた恋人ごっこも元を辿れば花崎からの好意への対抗策を練るためのものだったはずだ。いつの間にかそれは形を変えて、アオと俺がより深く仲良くなるための素材に変わってしまったがそこは変わらない。
ここ最近、花崎のことを考えれば考えるほど苦しくなる事が増えた。恋の苦しさではなく、申し訳無さと不甲斐なさの苦しさ。さっさと花崎という一人の女の子が勇気を振り絞って俺に届けてくれた一つの愛へ返答しなければならないのに、それもできない自分が嫌だ。
「……花崎」
「なに」
だから俺は、結論を出したい。
「俺はお前の……」
花崎への敬意と、あの子への好意の結論を。
「"好き"って感情が嬉しい。だけど告白に応えられるかわからない」
「嬉しいのに応えれないの?」
「だから今度花火でも見よう。そん時に全部片付ける」
「……私の勝てる勝率はある?」
「ある……と思う」
断言はできない。できないからこそ、リアルタイムで感じた事をそのままそっくりこいつに伝える。そうしなきゃならないと直感で思った。
◆
さっきのお兄さん優しかったなぁ。片目隠れの黒髪で、雰囲気から優しいオーラが滲み出てた。実際大苦戦していたパラソルも撃退してくれたし、お礼として渡した焼きそばも遠慮しがちに貰ってくれた。焼きそばを食べたかった天城には悪い事をしてしまったけど、1パックをシェアしたしいいだろう。
「オリオンさんもあんな感じなのかな?」
パラソルの下で海を眺めながらふとそんな事を思った。僕の考えるオリオンさん像がさっきのお兄さんに妙にダブる。相手優先の行動や、謙遜の仕方等々が同じだなと感じた。
「はぁーあぁぁぁ……天城の家族と天城に海にまで連れてきてもらって結局考えてるの、オリオンさんのことばっかじゃん僕……」
地平線を遠く見つめる。無限の物理的距離がある人の事をずっと考えている自分に少し呆れてしまう。会える事ができるかすら分からない人に、どうしてこんなに心を奪われてしまったんだろう。自分でもよく分からない。
オリオンさんはさっきのお兄さんみたいな人であって欲しいなと、無意識に考えていた。そんな無駄な事を考える意味なんて無いはずなのに。




