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22.白髪魅惑のマーメイド

 今現在海に来てから30分程。俺はパラソルの下で持ってきた椅子に座って整っている。花崎と秋峯先輩、成宮は海へ向かっていった。成宮はほぼ半強制ではあったが。


「ふぃ〜……海はいいねぇ……あっちぃけど」


 ジリジリと下の砂からも上の太陽からもトーストにされそうなくらいの熱が襲ってくるが、風もしっかり通ってくるからロケーションとしては最高だ。しかし腹が減った。海の家に行ってあいつらの分まで焼きそばを買ってくるかと、財布を持って海の家へ向かう。


「ん? さっきの子だ」

「う〜ん……パラソル……」


 さっきパラソルを借りるときに出会った白髪の男の子を道中で見つけた。30分経ったはずだが、パラソルを開くのに四苦八苦している様子だった。


(うーん助けるのもいいけど……不審者よな完全……)


 親しい親戚の子とかならまだいいだろうが、赤の他人にいきなり助けの手をやっても普通に不審者で通報されて一撃アウトだ。一撃アウトなんだが……


「あの〜……」

「ひゃあっ!? な、なに……ってあ、さっきのお兄さん」

「パラソル開けない?」

「え、えっと〜……そ、そんな事ないですよ? ちょっとパワーが出ないだけでそんなことは……」


 目を逸らしつつ強がりな発言をする男の子。多分連れの人に『開けれるから海行ってきていいよ!』とか言ったんだろう。自分で開くと言った手前、誰かの力を借りるのも忍びないと言ったところか。


 しかし非力そうな腕で無理やり開こうとしてもビクともしないパラソル相手に何もできないのも事実。男の子は少し悩んでから、心底悔しそうな表情を浮かべながら俺の方を向き直った。


「ごめんなさい……開いてもらってもいいですか?」

「オッケーオッケー。むしろやってええん? 俺今結構不審者な感じやけど」


 一応通報されるのは嫌なので確認を取る。すると男の子は不思議そうに顔を傾げて、俺に対して当たり前みたいな口調で話す。


「困ってるところを助けに来てくれたんですし、さっき面識が出来た人ですから不審者じゃないです。あと僕じゃこいつに勝てないです」

「ふはっ……っ確かに……」

「笑わないでくださいよ! そんなんなら僕がやります!」

「でも勝てへんねやろ?」

「ぐ……まぁ……はい……」

「じゃーお兄さんに任せとき」


 悔しそうな顔をしてパラソルの前から退く男の子と入れ替わり、俺がパラソルを手に取る。さっき立てた時と同じ容量でバサっとパラソルを開いて立てる。


「よしっ出来たよ」

「はやぁ……僕の30分の死闘はなんだったんだろう……」

「まぁまぁ。金具とか硬いししゃーないよ」


 そういってフォローしても納得いってなさそうな顔で頬を膨らませている。可愛いなと思ってしまう。

 そんな様子を見ていると、何故か頭の中に浮かんだのはアオ。どこか被るところがあるのか、はたまた無意識で思い浮かんだだけかは定かではないが。


「お兄さんお兄さん」

「ん?」

「お兄さん、ありがとうございます」


 その言葉とぺこりと頭を下げる男の子の健気さが、ドスっとものすごい勢いで心に刺さった。心の中で胸を押さえつつ片膝をつく。可愛すぎる、なんだこの子は。


「そーいえば……君は誰と来てるん?」

「僕は友達とその親と一緒に来てます」

「ええや〜ん。楽しんでな」

「はい!」


 そう言って男の子と分かれる。あのまま話し込んでいたら、いずれ本来の目的を忘れるところだった。海の家に着くと先ほどより明らかに列が混んでいた。


「はぁぁしゃーねえかぁ……」

「なぁにしてんの?」

「お"あ"っ!? っだぁ花崎! てめぇいい加減にしろや!」

「えへへ〜。面白いんだもん音那の反応〜」

「くそっ……!」


 いつの間にか背後を取っていた花崎に心臓が穴という穴から出そうな感覚になる。睨んでみても花崎はスルーで、俺の手を引っ張りながら海の家へ歩いて行く。長めの列の最後尾に着いてからようやく手を離してくれた。


「ここでしょ目的地。ついた」

「そりゃそうだがな……引っ張る力がつええよ」

「お姉さんよりマシでしょ?」

「それはそうです」


 義姉さんの怒りに満ちた乱暴引き摺りに比べれば確かに大したことはない。ルーズショルダーになりそうなくらい肩が痛かった事を思い出し、少し肩をさする。


「というか音那。私に対して何か言うこと無い?」

「はぁ? 別になんも無いけど」

「じゃあヒント。海とかプールでしかこの私は見れません」

「……? え、なに?」

「……男の子が好き」


 一体なんだと首を傾げたが、補足情報のおかげですぐに理解できた。おそらく水着の事だろう。花咲の着ている水着はシンプルな黒ビキニ。本人のプロポーションも相まって普通の男ならばイチコロぐらいの破壊力を有している。確かに『似合ってる』の一言くらい言えばよかったな。反省だ。


「水着か? 似合ってるぞ?」

「んん〜もどかしぃ……!」

「ん? あぁ、可愛いぞ。普通に」

「……っ……分かってんじゃん……」

「だろ」


 顔を赤くしてそっぽを向く花崎。髪を指先でクルクルと照れ隠しのように触っている姿は、心にギュンとくるものがある。女子にしては高い身長と綺麗な顔立ち、そしてプロポーションも良いのだ。そりゃキュンとするだろう。

 そんな花崎を眺めていると、海の家の店員さんが出てきた。


「すいませーん! 焼きそば売り切れましたー!」

「え"」

「あれ、私たちって焼きそば買いに来たんだよね確か……」


 周りからも落胆の声やため息が聞こえてきた。どんだけ売れたんだよと心の中でツッコむが、無いものを嘆いてもどうにもならない。列から離れてパラソルの方へ戻ることにした。


「はぁ〜あぁ……海の焼きそばはマストなのに」

「まぁ無いもんはしゃーねぇわ」

「だよね……はぁ……」


 肩を落としため息を連発する花崎と共に歩いていると、またも白髪の男の子とエンカウントした。それも両手には焼きそばが2パックも。


「あ、お兄さんお兄さん。お礼品渡すのを忘れてたので……」

「え? いや別にええよ?」

「いえいえそういうわけにはいかないので。さっきパラソルを借りるついでに買ってた焼きそばをどうぞ。今さっき売り切れてましたよね?」


 そう言って笑顔でどうぞと焼きそばを差し出してくる男の子。それをキラッキラな目で見ている花崎がボソッと呟いた。


「……白髪魅惑のマーメイド……だ」

「え?」

「マジ何言っとるお前?」

「だって! 天使でしょこれ! 白髪魅惑のマーメイドじゃん!」

「いや分からん分からん分からん」


 花崎が意味不明なことを言い出して男の子を大変困惑気味である。安心して欲しい、俺もまじで意味が分からん。


 取り敢えず焼きそばを受け取ってお礼をする。男の子も少し頬を赤くして『どういたしまして』と言ってから自分のパラソルの方へ戻って行った。


「あの子可愛かった……妹にしたい……」

「いや男やろあの子。水着見とらんかったん?」

「……は? あんな可愛い男の子存在していいの? 天災じゃない?」

「初見の感想でそれ出てくるんおもろいけどちょっと分かる」


 二人してあの男の子のえへへという照れ顔がフラッシュバックして、少しニヤける。可愛いし礼儀正しい中学生なんてそりゃ弟妹にしたいに決まっている。そうに違いない。俺からすればアオを弟にするのと同じ感覚だろうか。


(……でもアオが弟はしっくりこないんよな……なんでやろ)


 謎の違和感を覚えつつ、秋峯先輩と成宮が待つパラソルに二人肩が付くくらいの近さで並んで歩いていく。現実世界では花崎とあの男の子でいっぱいなのに、何故か頭の中はずーっとアオが居座っていた。

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