14.義姉さんとデート?
梅雨も終わり本格的に夏が始まった七月。期末テストをしっかりとそこそこな点数で交わした。
そして本日俺は、野暮用で都会の方の街に繰り出していた。最寄りの駅で電車に乗り数十分程揺られてから着いた駅の改札を出て、待ち合わせ場所の噴水まで歩く。
「久々に会うな義姉さんと。正月ぶりか」
今日は久しぶりに一人暮らしをしている義姉さんと会うために来た。理由としては単純で、義姉さんが『なーくんに会いたい』と発作みたいにグズり出したから。母さんも止めないどころか、むしろ可哀想だから行ってあげてと助長する始末なので仕方無しだ。
待ち合わせ場所が見えてくると、見覚えのある明るい茶髪が見えた。のと同時にその人に言い寄っている男二人の姿も見えた。
相変わらずモテているな……。ここは一つ、いつもの作戦で行こう。
「あーお兄さんたち。この人、俺の恋人なんで」
「も〜! なーくん遅い!」
「ごめんなさい月音さん。後でちゅーするから許してください」
「え〜♡」
「……てことなんでお兄さんたち。すいません」
そう言いつつ圧のある笑みを向けると、チャラ男な風貌な男二人はごめんなさいと深く謝ってそそくさ帰っていった。謝り方的に根っこはいい人たちだったようで、少し悪い気持ちになってくる。しかしナンパしてるほうが悪い。
そう思いつつ義姉さんの方を見ると、俺の腕に抱きつきつつ頬擦りしている始末だ。化粧が崩れるぞ。
「義姉さん?」
「月音って呼んで?」
甘い声でそう言う義姉さんをジト目で睨みつつ、腕に絡みつく義姉さんを振り払う。
「ブラコンやなぁ相変わらず……」
「もぉぉ! 意地悪だなぁ!」
「義姉さんの急な呼び出しに応えてあげる優しい弟に感謝してって思っとるんやがこっちは」
「んふーありがとっ!」
にっこりと笑いながら、背中まである黒色のメッシュが光っている茶髪を靡かせながら俺の目の前に立った義姉さん。名前は如月月音。俺が生まれる前に父さんと母さんが迎えた養子で、俺とは血のつながりはない。そのせいか大が付くほどのブラコンであり、俺へのセクハラが大好きな一人暮らし中の大学二年生。
なぜ養子として義姉さんを迎えたのかは知らないが、義姉さんは元の父親も母親も好いていないと言っていた過去があるから俺も深くは詮索しない。なにより、義姉さんの機嫌を損ねるとかなりめんどくさい。
「で? なにするの」
「ん? ラブホ行く」
「義姉さんすまん。心苦しいけど今日はここまでと言うことで……」
「ごめんごめん! 冗談だよ! 単純にデートしたくて……だめ?」
「まぁデートならええけど……お金は全部持つ?」
「お義姉ちゃんに任せなさい!」
そう言いながらムンっと張った胸をドスっと叩く義姉さんを見て少し笑いが溢れる。綺麗な顔して行動は中々可愛らしいギャップで何人も男を釣り上げてきた義姉さんは流石だなと思いつつ歩き始めると、義姉さんはしっかり俺の手を握って隣で満面の笑みを浮かべている。
「義姉さん、恋人繋ぎをする意味は?」
「デートだから」
「やる意味なくない?」
「絶対ある。やらないならここで5歳のガキになってやる」
「やめろアホ。分かったからそれだけはやめて」
俺が渋々了承すると、義姉さんは満面の笑みを浮かべ恋人繋ぎをしている手の力が強まった。
にぎにぎと俺の手を吟味するかのように、骨の部分を指の腹でなぞったりする義姉さん。気にしないようにしつつ顔を見てみると、ふむふむと言ったような表情を浮かべている。
「義姉さん……楽しい?」
「楽しいよ〜? また一段となーくんが『男』を感じる手になったなぁって」
緑と青の瞳が俺を見つめる。少し恍惚とした笑みを浮かべつつ、手は未だ俺の手をにぎにぎしたまま。普通の男ならばもう落ちているだろうが、俺は16年間この人にセクハラを受け続けているので何も感じない。強いて言うのであれば今日も可愛いなと言うことだろうか。
そんな義姉さんの攻撃を交わしつつ、スマホをふと見るとアオからDMがきていた。今日は土曜日だしアオも休み。つまり現実では義姉さん、こっちではアオからの攻撃を捌かなければならないのだ。
【アオ : オリオンさん。今日スフレ作ったんです。美味しそうでしょ?】
その文言と共に送られてきたのは、見るからにフワッフワなスフレパンケーキ。一緒に切られたバナナが盛り付けられており、絶対に美味いのが確定しているビジュアルに思わず唾を飲む。
義姉さんの手を握り返しつつ、アオにすぐ返信する。
【オリオン : 美味そうすぎ。食べたい】
【アオ : だめ〜。これは僕のご飯です〜】
【オリオン : は〜? 感想求めといてなんやお前〜?】
【アオ : えへへ】
クソが可愛いな。恋人ごっこしだしてから可愛さにアッパー調整でも入ったのか?
そう思うほどにアオへの想いが強まっているということなのだろうか。はたまた本当に素でアオが可愛いのか。しかし美味そうなスフレである。頭の中はすでにフワフワで甘いスフレに支配されている。
「義姉さん、カフェ行かん?」
「え? いいけど何食べるの?」
「スフレ」
「なーくんが……スフレ……!? いつからそんなオシャンティな……!」
「ええから行こ。義姉さんの行きつけとかあるやろ」
繋いでいる手を急かすように引っ張る。
一方DMではスフレを自慢するように美味しさを実況してくる小悪魔が、小刻みにわざとらしく『うまぁ!?』とか言い出していた。勘弁してくれ。




