修行と峻厳
続きです
つらつらと
鑑真は、石を積むことを教えとは言わなかった。
だが、それ以外にするべきことも示さなかった。
弟子たちはその無言に従い、やがて土を掘り、木を運び、寒さと飢えのなかで身体をすり減らしていった。
教えは、どこにも書かれていなかった。
紙も筆も、語りも与えられなかった。
声を発すれば、その場から追われるという噂もあった。
やがて、弟子たちの間から言葉が消えた。
ただ石と土と木だけが、音を立てた。
ある日、弟子のひとりが凍った水辺で倒れた。
誰も近づかなかった。助け起こすことは「教え」ではなかったからだ。
彼は夕暮れまで凍ったまま、そして翌朝にはいなくなっていた。
孝行者は、それを見ていた。
彼はただ一人、教えの外に立っているようでもあった。
ある日、鑑真の背中に向かって問うたことがある。
「これは、何を産むのか。」
鑑真は振り向かなかった。
だがその日、彼は石を積むのをやめ、黙って谷へ降りていった。
それが応えだったのかどうかは、誰にもわからなかった。
その翌日から、弟子のひとり――名を持たぬ青年が、岩を砕きはじめた。
その眼には涙も怒りもなく、ただ空のように色がなかった。
孝行者はその姿を見て、ふと胸の奥に母の手を思い出した。
あの手もまた、何かを産もうとして、何かを失っていたような気がした。