山に集まる者たちと鑑真
どうも
勢いで執筆しました
完全創作ものです、よろしくどうぞ
この地に遣わされる者は、皆どこかに傷を持っていた。
眼を潰された者、血族を失った者、言葉を忘れた者。
ある者は罪を背負い、ある者はただ名もなく、この山に辿り着いた。
ここは唐招提寺――律を正す者の最後の拠り所と呼ばれていた。
堂宇は質素で、僧房は雨をしのぐに足る程度。
大陸から渡った鑑真和上が、長き旅の果てにたどり着き、終の地とした場所だった。
彼は、何も与えなかった。
迎えることも、問うこともなく、ひとつの言葉も発せず、ただ斜面に石を積んでいた。
誰が来ようと、背を向けたまま、それを続けていた。
その背の向こうに、教えがあるという噂だけが、風にまぎれて伝えられていた。
だが、教えは語られなかった。
彼は誰かに語るためにここにいるのではなく、教えが生まれるのをただ待っているかのようだった。
その年、また一人の者が麓から登ってきた。
その者は孝行者と呼ばれた。
老いた母を背負い、雪を越えてきたというその話は、すでに伝説のように語られていた。
だがこの山では、伝説も名声も意味を持たない。
孝行者は、鑑真の沈黙のもとで、黙って石を運びはじめた。
ただ一つ、彼の胸にあったのは――
「教えとは、受けるものではない」という、誰かの言葉だった。