侵攻開始
今回は短めです。
それではどうぞ…!
――統一皇国歴6257年
時計の針が一巡し、新年を迎えると同時に皇国軍の駐屯地から複数の飛行輸送機が飛び立っていく。
出し惜しみは一切しない。動員できる限界まで各方面軍から引き抜きを行い、地方都市群ヴィクトリアへの侵攻を開始する。
前もって輸送機が通過する侵攻ルートへ魔導人形部隊を地上から進軍させ、次いで上空の待ち伏せ部隊を叩く為、防戦一方だった守備部隊から攻勢を仕掛け、激しい乱戦を引き起こす。
飛行魔法で最前線を突破した魔導歩兵部隊が、後方に控える対空迎撃部隊を襲撃し、対空砲火の機器や魔導人形部隊を破壊。
勢いに乗った皇国軍はそのまま敵の防衛線を食い破り、電撃戦を仕掛けていく。
皇国軍は、止まらなかった。
電撃戦は成功しているように見えた。
敵の防衛線は次々と破られ、要所とされた拠点は短時間で制圧されていく。
これまで防戦一方だった守備部隊は堰を切ったように前進を始めた。
ナノマシン通信では興奮と高揚が混じる声で無数のやり取りが行われ、もっと前へ、もっと前へと兵達の背を押す追い風となる。
敵は退いている。
敵は逃げている。
敵は我らを恐れている!
そう信じさせるには十分すぎる光景だった。
地上部隊は、進撃を続けた。
過去の戦闘の余波で瓦礫の海となった都市部を抜け、郊外の詰め所を制圧し、さらに敵地の奥へ。
本来彼等先行部隊の任務は、本命である特別侵撃魔導機動部隊の乗る輸送機が無事に通過できるよう、対空砲火や迎撃部隊を一掃する事までが任務であった。
しかし、まだ進める。ここで止まれば、今までの犠牲が無駄になる。
そんな義憤が兵達の判断を狂わせ、作戦予定地よりも更なる奥地への前進へ繋げさせていた。
まもなくナノマシン通信で、上空をVIP達が無事通り過ぎたと通告があり、兵士達は歓喜の声を上げ、未だ暗い夜空へ拳を突き上げた。
夜明け前には地方都市群、スターリへと到達する。
かつて皇国が後退する以前は、上位に入る程栄華を誇った大都市群であった。
その地を取り戻せる。甘美な誘いに抗えるものはいなかった。
夜明けと共に雪崩れ込んだ都市スターリ。
そこでも、敵の抵抗は散発的だった。
潰せる。
押し切れる。
旧式の魔導人形による迎撃や、散発的な敵の反撃を次々に打ち破り、いよいよこのスターリを占拠した。
そう思った瞬間だった。
――退路が、消えた。
後方で、爆炎が上がる。
橋梁が落ち、道路が崩れ、空路を塞ぐ魔導結界が展開される。
同時に、市街地の影、地下、廃墟の内部から伏せられていた最新型の魔導人形部隊が一斉に姿を現した。
数は、想定を遥かに超えていた。
――罠だ。
それを理解した時には、もう遅い。
退路は断たれ、補給線は寸断され、進撃していた部隊はスターリという鋼鉄の檻に閉じ込められてしまったのだ。
救出のため後続部隊が前進を試みる。
だが、包囲網の外縁に展開された敵部隊は厚く、突破を試みる度に犠牲が積み重なっていく。
進めば死ぬ。
退けど死ぬ。
この時点で、皇国軍はようやく理解し始める。
敵は、初めから崩れてなどいなかった。
逃げてもいなかった。
我々を誘っていたのだと。
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特別侵撃魔導機動部隊の乗る輸送機は、すでにスターリ上空を抜けるも、都市群ヴィクトリアまではまだ遠い空にいた。
ここから先は友軍による援護も無く、当然安全も確保されていない。
いつ敵の砲火に晒されるか。
いつ雲の隙間から敵の魔導兵が顔を覗かせるか。
機内の兵達は一切気の抜けぬ時間を過ごしていた。
『貴官等の進む門は開いた』と威勢の良い通信が入り、機内の雰囲気を高揚させるも、しばらくした後に入った通信によって一気に冷水を浴びせられたかのように静まり返る事になる。
『我々は包囲されている!退路遮断!至急救出を要請す』
悲鳴のような報告が、ナノマシン通信を通じて断片的に流れ込んでくる。
誰も口を開かない。
ここにいる者は全員、理解していた。
――あれは、もう助からない。
輸送機の内部は、異様なほど静かだった。
仲間の死を悼む言葉も、不甲斐ない友軍への怒号もない。
ただ、これから自分達が向かう作戦の重さだけが、無言の圧としてのしかかっていたのだ。
――その頃。
スターリ包囲戦に呼応するかのように、各方面軍の戦線が……動いた。
これまで、互いに様子を探り合うだけの小競り合いに留まっていた両軍。
無用な損耗を避け、戦局を動かさない程度の攻防を続けていた各戦線。
そこへ、救済の御手は一斉に牙を剥いた。
まるで、今夜皇国軍が動く事を、兵力がどこへ集中しているのか、その全てを知っていたかのように。
——要塞や要所の同時多発急襲。
どうせいつもと同じ魔導人形を戦わせるだけの簡単な戦闘。
そう思っていた各方面の防衛部隊は、地上と空から襲い掛かる魔導人形と義勇兵の波を前にして泡を食っていた。
今回の作戦以前から、各方面軍の防衛部隊は、じわじわと優秀な人員を引き抜かれていた。
そして今、残された防衛線からも更に大きく戦力が引き剥がされた後の事だった。
迎撃に回せる部隊は少なく、補給も追いつかない。
防衛部隊に出来る事は、ただ一つ。
自身の命を賭け、敵の進軍速度をほんの僅かに遅らせる事だけ。
津波の如く押し寄せる敵の物量を前に、満足に防衛機能を発揮できないまま要塞は落ちていく。
ひとつ、またひとつ。
それは戦いではなく、虐殺だった。
逃げ出そうにも、逃げたところですぐに追いつかれ殺される。
ならば、一分一秒でも足掻いて時間を稼ごうと、死兵と化したのだ。
輸送機内でそれらの報告を聞きながら、アリサは静かに理解する。
――情報が漏れている。
作戦内容。
侵攻ルート。
戦力配分。
そして、こちらの狙い。
すべて。
救済の御手は、
皇国軍の一手先を読んでいたのではない。
最初から、こちらの手札を把握していたのだ。
それでも、輸送機は進む。
今更後戻りは出来ない。
引き返す選択肢も、存在しない。
罠だと理解していても、その僅かな可能性を信じ突き進むしかないのだ。
もうこの時点で皇国軍は、ほぼ詰んでいます。
この盤面をひっくり返すには、敵の王将を取る必要があります。
その上で、帝都へ向けて押し寄せる義勇兵を撃退しなければなりません。
それでは、次回予告でお別れです。
~~次回予告~~
地方都市群ヴィクトリア。
そこはただの都市群ではない。
次々と無数に現れる敵を倒しても、目的は一向に達成されない。
狙うはただ一人。救済の御手首領であるフードの男……。
次回『地方都市群ヴィクトリア』
それでも、私は立ち止まらない。




