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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二部 第四楽章 戦場を駆ける
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第四分隊 中編

まさか三分割になるほど長くなるとは思いませんでした。 

それでは中編です。どうぞ!

 作戦通り、アリサとL-201、Q-039はパワードスーツの補助性能を最大にして瓦礫の影から飛び出していく。

 まずは見張り台へ全力を込めた炸裂魔法を放ち、続けて起動を始めた魔導人形へと魔力弾や岩石弾を浴びせかけ、目立つように砲撃陣地の左翼方面へと駆け抜けて行く。


 もし後ろを走るL-201かQ-039のどちらかが、瓦礫や雪に足を取られ転倒したとしても、誰も振り返る余裕はない。振り返り助け起こそうと足を止めてしまえば、間違いなく死ぬ。




 走り抜けていく三人へ重装型魔導人形の両肩につけられた砲塔がゆっくりと照準を付ける。

 魔導人形といえ、軍用に調整された機体達は生半端な人間の兵士よりもよっぽど有能であった。


 人形達は同じ場所を狙うのではなく、照準をリンクして確実な弾幕を張り、面制圧をかけようと魔力砲を斉射した。

 


 「防御しようなんて思うなッ!機動に全振りしろッ!!」

  

 


 アリサが叫ぶより早く、L-201が加速しQ-039が宙へと飛行魔法で逃れた。

 

 その結果降り注ぐ魔力砲が地面や遮蔽となる瓦礫を粉砕しながら大地を震わせていく。

 

 飛行したQ-039は直撃こそ貰わなかったが、爆風の煽りを受けて地面へ叩き落とされ、続けて雨霰の如き降り注ぐ魔力砲の斉射を受けて爆風の嵐に飲まれた。


 アリサとL-201はナノマシン補助を全身に流し、筋肉に無理を強いる加速をかけ、薄く青白く後を引く魔力の残光を残しながら戦場を駆け抜けて行く。


 ――だが、魔導人形の無機質な赤いランプの輝きは、人力だけでは不可能な速さに達したアリサとL-201の姿をしっかりと追っていた。僅かな時間で演算を終えると、正確な僅差射撃で二人の行く先へ炸裂砲弾を撃ち込まんと照準を合わせた。





 ――刹那、閃光と熱が走る。

 着弾点から膨らむ爆風が高速で移動する二人の姿を隠す。確実に敵を排除せんと、魔導人形らは続けてその周囲へ向けて連続して焼夷魔法弾を叩き込み、最後にアリサらが視認された付近を獄炎地獄へと変えた。







 三人共排除したと配置に戻ろうとする魔導人形の生体センサーに反応が走る。

 一体の魔導人形がぐるりと頭部パーツを反応方面へ向けると、頭部パーツが硬質な岩石弾に圧し潰された。


 「はぁ……ッ!はぁ……ッ!!まだだ、まだ終わっちゃいねぇぇえッ!!」


 片腕が千切れ飛んだQ-039が、残った片腕で魔導デバイスを握り締め、やってやったとばかりに笑みを浮かべる。

 

 腕から止め処無く流れ出る血の臭いが鼻腔を強く刺激する。溢れるアドレナリンとナノマシンの鎮痛効果で痛みは鈍い。だが脈打つたびに鈍い痛みが突き刺すように増していく。


 歯を食いしばり強引に足を進めて他の魔導人形へと岩石弾を撃ち出し注意を引く。



 「俺は……俺はァッ!!!」


 

 ナノマシンが傷口を塞ぎ、ゆっくりと腕を再生成していくが、きっとこの腕が治る前に自分の命は燃え尽きるだろう。……それどころか、今こうしてデバイスを振るえている事すら奇跡に等しい。

 どうせ遅かれ早かれ皇国は滅ぶ、なら今やる事をやって逝くか、何も成し遂げられずに逝くか。

 

 それなら俺はせめて、ほんの僅かでも爪痕を残し――

 




 魔導人形達は感情を持たない。手負いの死にかけた敵に仲間の一機が潰されたが、その事実(不慮の事故)に動揺する事はない。ただそうであれと命ぜられた通りに砲塔を動かし、魔力砲を放つ。

 


 ――対象の四散を確認。確実に排除完了。



 任務を終え、魔導人形達が定位置に戻ろうとするも、生体センサーに再び仕留めたと情報処理された素早い人間が反応し、逃亡を続けるのを確認。——追跡を開始する。




———————————————————————————————————

 



 

 N-760は瓦礫の影からQ-039が消し飛ぶ瞬間をただ見ているしかなかった。

 そんな彼の隣でY-335はかすかに身体を震わせ、生唾を飲み込みながらも杖型デバイスをしっかりと握り締め、分隊長(アリサ)から与えられた任務を果たそうと、いつでも煙幕魔法を放てるように準備をしていた。


 

 「ッ……!正面の奴も動いた!……糞ッやるしかないのか……ッ!!」


 N-760も手にした杖型デバイスを構え、タイミングを見計らう。


 「……ねぇ、N-760。うまくいくと思う……?」


 「……さぁな。……それよりどうした、らしくないじゃねぇか」



 気丈にふるまうN-760も声が僅かに震えている。本人はそんなつもりもなかったのだが、身体は正直だと自虐気味に苦笑いを浮かべた。


 「……Q-039は先に逝った。分隊長とL-201も今は頑張っているけど……きっと……。だから、託された私達がしっかりやり遂げよう」

 

 

 重装型魔導人形は徐々にアリサ達に釣られ、持ち場を離れて数を減らしている——それでも安全とはとても言えない。だからと言ってだらだらと時間をかけ過ぎてしまえば、命を投げ打って囮に徹した分隊長や戦友の決死の努力が無駄になってしまう。



 偉そうに高説を垂れても、いざ踏み出そうとする度に襲い掛かる死への恐怖感がY-335とN-760に二の足を踏ませる。


 「……ええいっ!!俺は行くぞ!!Y-335……怖いならそこで震えてやがれ!」


 決心を付けたのか、投げやりに言葉を吐き自身を奮い立たせるN-760が、煙幕魔法をフルパワーで展開し、ナノマシンとパワードスーツの補助を借りて全速力で走り出す。


 それに遅れてY-335も煙幕魔法を詠唱しつつ飛び出したN-760の後を追った。



 煙幕は既に薄暗い周囲をさらに暗く漆黒に染め上げ、視界を黒く塗りつぶす。ただ視界を塞ぐだけでなくジャミング効果もある為、魔導人形にも効果的な魔法なのだ。


 煙に紛れ走り抜ける二人を魔導人形は認識できず、アリサ達を狙っていた魔導人形も数秒の混乱を見せた。しかし目前の脅威を排する事を優先したのか、照準は執拗にアリサ達を狙い続ける。



 「……第一関門は突破したか」


 必死に魔導人形を引きつけながら左翼方面へ引きつつあったアリサは、煙幕魔法が展開したのを見届け今のところは作戦が順調に進んでいる事を察した。

 

 彼女も直撃弾こそ受けていないものの、焼夷弾や炸裂弾の破片等で火傷や細かい切り傷を多く受けており、機動力にナノマシンのリソースを全振りしている現在、回復速度は遅い。


 今は直感と幸運で避け続けられているが、一呼吸毎に魔力と体力がハイペースで失われている。

 ようやく建物へ飛び込んで射線を切るも、お構いなしに連続した魔力弾が撃ち込まれ、あっという間に更地へと変えられてしまいゆっくり息をつく暇もない。



 「……ッ」


 L-201とも敵を攪乱させる為に二手に別れ、今彼が生きているのかは分からない。アリサに出来る事は、彼と魔導砲破壊に向かった二人の無事を祈りながら、敵の攻撃を全力で避け続ける事だけだった。





———————————————————————————————————





 濃密な煙の中、Y-335とN-760はほとんど視界を失った状態で全力疾走していた。

 バイザーに表示される方角を頼りに、奥へ奥へと駆け抜けていく。

 

 その間にも耳を裂く砲撃音が鳴りやむ事は無く、アリサ達がまだ粘っている事を後押しにして、何度転びかけてもひた向きに足だけを動かし続けた。


 

 Y-335は呼吸する度に肺の奥が焼けるようで、口内は乾き切り吐き気すら覚えていた。

 この道の先は、間違いなく死が待ち構えている。今自分は死ぬ為に走っていると考えてしまうと怖くて足がすくんでしまいそうになる。



 ――それでも……足は絶ッ対に……止めない!!




 「ッ!!9時方向に敵反応ッ!!」

 

 「構うなッ!前だ!前だけ見てまっすぐ進め!」


 前を走るN-760が叫ぶも、徐々に薄まる煙幕の向こう側に魔導人形の赤いセンサーがギラリと光るのが見えてしまう。


 「来るッ!!」

 

 Y-335が咄嗟に防御魔法を展開するも、タイミングが紙一重で避弾経始の角度を取れず、殺しきれなかった魔力弾の衝撃に吹き飛ばされる。

 視界がぐるりと回り、宙を舞った後雪と灰の混じる地面へ叩きつけられた。


 

 「ぁ……ぇ……?」


 意識が朦朧としてすぐに立ち上がる事は出来ない。視界も額から流れる血で汚れ、このまま任務を放り投げて眠ってしまえと身体が意識を奥深くへ引き摺り込もうとする。


 ――もう……いい……わけないッ!!

 

 優しく毛布を掛けられ、甘く寝かしつけられるかのような誘惑に必死に抵抗し、キツイ目覚まし代わりに自分の舌を噛み切れても構わないという覚悟で噛み締めた。




 「うおおおおおおッ!!!」


 痛みで意識がハッキリした所に、N-760の雄叫びが響いた。


 彼は煙をかき分けるように突進し、魔導人形へ雷撃や魔力弾を叩き込む。

 ——これも、アリサから幾度となく叩き込まれた魔導人形の弱点をピンポイントで穿つ技術だった。

 


 肩の砲塔が誘爆で吹き飛び、致命的なダメージを受けた巨体が機能を停止して崩れ落ちる。




 ――しかし喜ぶのはまだ早い。煙幕がいよいよ晴れてしまい、阻害されていた生体反応も復活してしまう。

 

 バラバラと中型の魔導人形が敵の排除に動き出し、バイザーに表示される敵の数が続々と増加していく。

 時間はこちらの敵にしかならない。二人一緒に行動すれば敵に包囲されてしまい、突破する時間も運すら足りないだろう。


 「へっ……。おい、Y-335……動けるか?」


 「……なんとか。でも任務を終えるまでは止まるつもりはない……!」


 「そりゃ上等。——悪ぃが後は頼んだぜ。走れ!!」


 

 集まってきた大量の魔導人形が一斉に小口径の魔力弾を連続で撃ち出してくるのを、N-760は一人防御魔法で受け止めた。

 小口径で消耗が少ないからか、魔力弾の嵐は止まる事を知らず、防御魔法を張ったままのN-760は次第に息切れするように魔力切れの時が迫っていた。


 「ぐぁっ……!?チッ……糞がッ!!」


 防御魔法の膜が揺らぎ、不安定になった防御壁を貫いて魔力弾が身体を抉っていくが、片膝をつきながらも必死に倒れないように踏ん張り、残った力で叫ぶ。


 「早く行けぇッ!!バカ野郎がぁぁぁッ!!」


 N-760の血混じりの絶叫が、Y-335を追い立てる。

 溢れる涙を拭う暇もなく、彼女は弾かれるように脚に魔力を集中させて駆け出した。

 



 出会いがしらに遭遇する中型魔導人形も、慌てて出てきた義勇兵も今の彼女を止める事は出来ず、いよいよ視界の奥に巨大な砲台が見える場所までY-335は迫っていた。

 

 帝都中央方面へ向けられた五門の砲身は、魔力が集中しているのか赤黒く光り始め、まるで脈動するかのように鈍く輝いていた。


 「……これが、魔導砲……!」


 Y-335は被弾しながらも護衛の義勇兵と技師らを始末し、痛みに歯を食いしばって耐えながら露出した制御端末へと杖を向けた。

 

 ――自分が使える残りの魔力のありったけを爆裂魔法にしてシステムを破壊する。



 術式を練り上げるY-335の頬を自然と涙が伝った。




 ……思えば、理不尽な人生であった。

 元々二級国民の出ではあったが、皇国へ忠誠を誓い自らの意思で皇国軍の門を叩いた。救済の御手の蜂起でも疑われぬように必死に同胞を討った。謂れのない嘲笑も耐えた。


 なのに、最後は男共の欲望を拒絶しただけで懲罰部隊行き。証言も目撃者も居たのに、握り潰された。


 私の忠誠は、これまでの忠義は、そんなに安い物だったのだろうか。



 ネームレスに堕ちて、正規軍よりも容赦ない下卑た視線に晒された私は、身も心も汚され、全てを諦めるのは時間の問題だと思っていた。


 ——でも、あの人(H-163)に出会った。

 

 自分より遥かに幼いのに、剥き出しの刃物のような冷たさと鋭さを持つ少女。

 

 戦死者の補充として第四分隊に振られた私は、分隊長が幼い少女だという事に呆気に取られてしまった。お子様分隊と陰口を叩く他の分隊員(L-201)も居た。


 だが、彼女は()()でその立場に就いている事を次の出撃時にすぐに思い知らされた。


 

 歴戦の兵士顔負けの胆力に、無駄のない的確な指示。近接戦でも魔法射撃戦でも顔色一つ変えずに敵を屠る怪物。あれを目前にしてしまえば……誰も逆らおうなんて思わない。

 


 人伝に彼女があのオルディス家の末女だと聞いて、鬼神たる強さは納得出来た。……いや、それ以上にあの人の才能は数千年に一人いるかいないかの化け物だった。それを見抜いた元当主のアウグスト大佐は慧眼の持ち主だったのだろう。



 だから私は、彼女に憧れた。人形のように整った顔立ち、戦場であっても美しく靡く白銀の髪。そして何人たりとも寄せ付けぬ圧倒的な強さ。

 

 ——そして、時々纏う寂しげな雰囲気。あの夜空を見上げる顔を見てから私は、彼女の傍に居たいと思った。私が生きている限り……ずっと、支えたいと願った。




 

 練り上がった魔法を放つ瞬間、Y-335は無意識のうちにナノマシン通信を開いていた。

 

 「分隊長……私……!」



 ——背中に衝撃。パワードスーツの防護を突き破り、何か熱い物が自分の背に突き立ったと感じた瞬間。閃光は内包された炸裂魔法を解放し、彼女の人間としての形を奪い去った。




Y-335が放とうとしていた爆裂魔法は遂に放たれる事なく、主を失った魔導デバイスだけが手を離れ転がっていきました。

しかし、杖に刻まれた魔力だけは、まだ——。




それでは次回、後編もお楽しみに。



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