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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二部 第四楽章 戦場を駆ける
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帝都急襲

統一皇国歴6255年。


長引く戦火の中、皇国軍はなおも拡大し続ける戦線の維持に追われていた。

補給線は延び切り、戦闘地帯での兵士の密度も減っていた。それでも練度と統制に勝る皇国軍は緩やかにその支配地を取り戻していく。



その中に、懲罰部隊(ネームレス)の姿もあった。

過酷な戦線を渡り、当初の面子の大半が死に絶えても、それでも無くなる事の無い部隊。


その実態は変わらない。前線の穴埋めと、使い捨ての駒に過ぎなかった。





――最前線


兵士達はいつも通りの夜を迎えていた。

風は穏やかで、空を遮る雲も少ない。崩落した街からは灯りが消え、漆黒の闇には無数の星々が浮かんでいる。


敵影なし――歩哨の報告は定型文を送りつけた。



遠くの地平線では、雲がかすかに光っている。

稲光ではない。轟く音もない。夜戦の魔法の光だ。



「妙に静かだよなぁ……嵐でも来るのかね」


誰かが呟いた冗談交じりの呟きに、ゲラゲラと品なく笑う男達をアリサはテントから冷たい目で見ていた。

理由もなく胸が騒つく。こういう時は大抵ロクな事が無い。


最年少で分隊長となっていたアリサは、ナノマシン通信で自分の分隊員へ呼びかけた。


「……N-760、L-201 Q-039 Y-335。いつでも動けるように準備しておくように」



『はい、分隊長殿!』


すぐに返事を返したのはY-335一人だけ。

彼女はアリサよりも年上ではあるが、確かな実力を見せるアリサに心酔し、戦場でもぴったりと着いてくる女性兵士だ。


それ以外は皆男兵士で、見た目からアリサを舐めてかかっていたが、Y-335へちょっかいを出そうとした所を容赦無く叩き潰した事から渋々従っている。



「……Y-335以外の三人、返事が遅い」



返事を待つ間にも、嫌な予感は増していく。

本来なら冬の風は肌を刺すほど冷たいはずなのに、今夜はどこか生暖かさを感じる。


「……嫌な風」


「ふぁ~あ……分隊長殿、鼻が利くんすねぇ。今夜は南風が吹いているみたいですよ」


小さく呟いたアリサに、テントの外から欠伸交じりの軽薄な声が返る。L-201だ。




南――その先には帝都がある。

普段なら最も安全な方位で、気にも留めない方向だった。


だが今夜だけは……なぜか嫌な予感が止まなかった。




———————————————————————————————————




帝都防衛は皇帝近衛部隊と魔導人形に任され、日夜帝都の治安を守っている。

前線から遥か遠い帝都では、敵の襲撃の心配も少ないと、市民らも安全だと気の緩みすら見せていた。



夜間は外出禁止令が出されてはいたが、一部の二級国民は構わず出歩いていた。

――無論、憲兵やパトロール用魔導人形に見つかったら拘束されるが。




この日もいつもと変わらぬ夜が流れていたはずだった。



街灯の魔導灯が、白亜の石畳を穏やかに照らしている。

整然と並ぶ建物はどれも静まり返り、遠くの塔の鐘だけが、時を告げるように鳴っていた。



パトロール魔導人形から路地裏を走り抜けて逃げる不良青年達が、スリルを楽しむように笑みを交わし合う。


「フゥーッ!!捕まえてみろってな!!」


「チョロいもんだぜ!」



若者達は細かく路地を曲がって魔導人形からの視線を切り、飛行魔法で近くの違法雑居ビルの屋上へと飛び上がり、完全に追跡から逃れる。



愚かにも路地を走り続けていく魔導人形を覗き見て、若者達は声を押し殺しながら笑った。



「はぁ~、今日もスリルたっぷりだったな!」


「やめらんねぇよな!!——って、おい……あれ、なんだ……?」



――突如、西の空から何の前触れもなく、圧縮された魔力の輝きを放つ流星が5つ、帝都上空へ向けてぐんぐんと昇っていくのが見えた。

遅れて地の底から響くような不気味な轟音が若者達の耳を打つ。




――それは、とても美しい輝きであった。



極彩色の輝きを宿す流星は、一つが放物線の頂点である帝都の遥か上空で炸裂し、夜空を昼間よりも激しく明るく染め上げた。



「なんだよ、あれ……花火じゃねぇよな?」


軽口を叩いた瞬間、衝撃波が帝都を襲い、間髪入れずに残りの4つの流星が皇帝の住まう居城近くへと降り注いでいく。

まるで空と大地が裂けたかのように、破壊の奔流が全てを白く塗り潰していく。


次の瞬間、鼓膜を突き破るような衝撃音。

地面が、建物が、空気そのものが震えた。


「何のひかッ――」


若者の言葉は、爆風に掻き消された。


押し寄せた衝撃と灼熱がありとあらゆる建物を粉砕し、若者達の身体を一瞬で消し炭にする。


大地が、空が燃えていた。


死が、帝都全域を覆っていく。


世界の終わり――そんな錯覚を覚えるほどの力だった。




強固に重ね掛けされた防護魔法と耐魔術コーティングの施された鉄壁の白亜の巨壁は、かの魔導砲の直撃を受けてでも軋みを上げて一部が崩れるだけで、死の息吹を耐えきった。



無論、壁を守る魔導人形の大半はバラバラになるどころか高熱で溶け落ち、白亜の壁に汚い染みの塗装を施していた。



白亜の巨壁に防がれる形で何とか建物の形を保っていた軍司令部では、緊急の魔導通信が悲鳴のように交錯する。


『敵襲!帝都西方に魔力反応多数!繰り返す、敵襲!既存する全戦力を以て迎撃に迎え!』



吹き荒れる粉塵と空へ濛々と立ち昇るキノコ雲が、その威力の強大さを物語っていた。




夜空を裂いた魔導砲の輝きが収まる頃には、帝都の中心には、直径数百メートルの巨大なクレーターが口を開けていた。


――そして、沈黙。

白亜の都は、音のない夜へと沈み込んだ。





———————————————————————————————————





――翌朝。


前線基地には、いつもと変わらぬ朝が訪れていた。

雪混じりの風が吹きつけ、テントの布をぱたぱたと叩く。


結局ある時間を境に、身体の毛が逆立つような悪寒に襲われたアリサは、そこから一睡もする事が出来ず、相変わらず暴力的な味の効率食を敢えて味わって食べて眠気を覚ましていた。



結局分隊長様の思い過ごしだと悪態をつくN-760以下分隊員が、夜中に纏めておいた荷物を解こうと手を掛けた時、ネームレスに帝都までの後退命令が出た。





それまで指揮下に入っていた大隊はこの前線を維持する為に残り、ネームレスだけが帝都へと急行する事態に兵士達は顔を見合わせていた。



神妙な顔付きの中隊長の指揮の下、兵士達は普段正規部隊しか使用させてくれない『高速兵員輸送車』に乗り込み、前線を後にした。



車内で語られたブリーフィングは、相変わらず端的な物だった。


「帝都周辺に急襲した義勇兵を殲滅せよ」



任務を受けたアリサは、わずかに眉をひそめた。

嫌な予感が、また胸の奥で疼く。




地表から浮遊し、滑る様に走行する兵員輸送車は、その速度に見合わず揺れも少なく騒音もなく快適であった。


だが、誰も言葉を発さない。

発したところで応えてくれる人はいないのだ。



アリサは何も言わず、ただ目を閉じて両手を組んだまま強く握りしめていた。

それは祈りのようでもあり、心を殺す為のルーティーンでもあった。




———————————————————————————————————




昼頃、ようやく車列が小高い丘の上に差しかかった。

遠くに見える帝都は白亜の輝きを失い、所々から噴き上がる黒煙に覆われていた。




アリサは車窓に手を当て、微かに息を漏らした。

――あの悪寒は、やっぱり()()()()ではなかった。




久方振りに戻ってきた帝都は、もう既に死んでいた。


そして彼女は悟る。

この戦いは、敵を最後の一人まで完全に滅ぼすまで終わらないと。





常に皇国軍へ吹いていた追い風が、ついに止んだ。

今回救済の御手が使用したのは五門の劣化魔導砲と、一門の純正の魔導砲です。 

唯一白亜の巨壁付近に着弾したのが純正品。

それ以外にばらけて落ちたのが劣化品です。


それでは次回予告です


~~次回予告~~


崩落した帝都に燻る火は、まだ消えていない。


魔素が薄れ、無機質な魔導人形だけが動き続ける。


死を抱え、私達は再び進む。


次回、「崩壊の都」


それでも、私は立ち止まらない。

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