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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二部 第三楽章 初陣、そして……。
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鹵獲

地方都市での三面作戦は、開始される直前に瓦解していた。


皇国軍崩壊の引き金を引いたのはアウグストの副官である、V-077——通称ヴィー。


アウグストが討たれた瞬間、彼は秘匿していたナノマシン通信で合図を発し、二級国民出身の兵士達に蜂起を命じた。


混乱の最中、ヴィーに従う兵士らは魔導砲兵隊の背後へと雪崩れ込み、虎の子の大口径魔導砲の周囲を瞬く間に制圧していった。


照準が定められていたのは、目前に聳え立つ巨大な住居群。

だがその大口が吠える事はなく、沈黙を保っている。




「諸君!!我らは皇帝の剣たる魔導砲を鹵獲した! 今や魔導砲は我らの槍、皇帝の箱庭を崩す破城槌となる! 恐れるな!この瞬間こそが歴史の転換点だ、勇気を示せ!!」




ヴィーの激励に応えるように、歓喜に満ちた声が反乱兵の通信網を駆け巡る。


皇帝への忠義を貫いた砲兵達は次々と殺され、あるいは捕縛されていった。

裏切った制御班が主回路を掌握し、魔導砲は完全に反乱兵のものとなる。


後方を守っていた魔導人形中隊も、津波のように押し寄せた反乱兵と義勇軍の前に崩壊。

鉄屑と化した残骸が赤黒い地面に山を築いていった。


かくして、住居群殲滅部隊は丸ごと反乱兵らの手に落ちたのだ。


血煙の中で腕を掲げるヴィーの声が轟く。



「識別だ!味方を撃つな。腕に赤布を巻け。旗がなければ布切れでいい。この赤で我らは繋がる!」



兵士らは次々と赤い布を巻き、救済の御手の義勇軍と肩を組み、歓声を上げて合流していく。


赤き腕章はやがて戦場に広がり、皇国軍に潜んでいた()()()の境界を鮮烈に描き出した。


もっとも――欺くために敢えて赤布を巻かぬ者もおり、その場は混沌に彩られていたが。




———————————————————————————————————




アリサが身に降りかかる火の粉を払いながら、ようやくレオンハルトが陣を張っていた一角へと辿り着くと、彼女を出迎えたのは友軍からの容赦のない殺意といくつも突き付けられる杖先だった。


「オルディス二等兵……貴様が救済の御手の一派ではない証明をしてみせろ!」


疑心暗鬼に駆られた皇国兵が、一切の油断なくアリサの一挙一動へ注視する。

ここで下手な事をしたらレオンハルトに会うまでに至らないかもしれないと、アリサは杖型デバイスを小型化し腰へと下げた。


「……ここに来るまでの間に、多くの反乱兵を始末しました。戦績のログを見て頂ければ証明になるかと」


大人しく両手を頭の後ろで組み、抵抗の意思はないようにその場で立ち止まる。


皇国兵達は顔を見合わせ、杖を突き付けたままナノマシンバイザーでアリサの情報を読み取り、ようやく殺気を少し収めていく。


「……いいだろう、だがこの先魔導デバイスは手に持つな。いいな?」


「……感謝します」


未だにアリサへ杖を突き付けたままの兵士が多いが、彼等を刺激しないように手を上げたまま、防御陣を抜けてレオンハルトのいる指揮車両の元へと向かった。




アリサは指揮車両の前に立つと、兵士達に杖先で背を押されるようにして中へ通された。


車両内部には、焦燥を隠しきれずに貧乏ゆすりをしながら金髪をかきむしり、髪型をぼさぼさにしたレオンハルトの姿があった。

地図投影の光が彼の顔を照らし、その目は苛立ちと緊張、脳への負担の大きい処理を続けた影響で赤く充血している。


「……アリサか。よく生きて戻ったな」


短い言葉に、アリサは敬礼で応じる。

だがその直後だった。


――突如として、脳に直接響く声が部隊全員を震わせた。


『……全ての兵士たちに告げる!』


重く鋭い声が、全てのチャンネルを覆い尽くす。

その声に訝し気な表情を浮かべていたレオンハルトの瞳が大きく揺れ、顔色が一気に蒼白へと変わった。



「……この声……ヴィー?奴は何をしている……?っ、父上は……!?」



兵士達の視線が一斉に揺れる中、反乱の首謀者であるヴィーは堂々と告げ放った。



『我々は、皇帝の剣たる魔導砲を鹵獲した!

今やこの魔導砲は我ら二級国民と、救済の御手の槍である!


この瞬間を以て、皇国軍の圧倒的優位は崩壊した。

仲間同士で血を流す必要はない。――投降せよ!武器を捨て、手を取り合おうじゃないか。


我々はかつての友を敵としたくはない!

同じ軍服を着た者達よ、今こそ選べ!機械仕掛けの皇帝に殉じるか、人々を救う道を共に歩むか!


赤き旗を掲げよ!腕に布を巻け!

その印を掲げる者は、我らが仲間だ!


我々は救済の御手と共に、虐げられた人々の為に戦う!

皇帝の箱庭を打ち壊し、新たな秩序を築くのだ!』


演説が終わった瞬間、ざわめきが部隊全体を包んだ。

兵士達は怒りを隠さずに歯を剥き出して悪態をつき、強く握られた杖がギシリと音を立てる。


その中でレオンハルトは目を伏せながらも唇を噛みしめ、ついに耐えきれずに吐き捨てるように吠えた。



「ヴィー……!あの恩知らずの二級国民が……ッ!!」



強い怒りの感情を露わにし、何度も床を大きく踏み鳴らすレオンハルトとは対照的に、アリサは眉一つ動かさず、人形のように、ただじっと荒ぶる兄を見つめていた。




———————————————————————————————————




レオンハルトの怒号が響く中、指揮車の外では兵士達が互いを見張るように対峙していた。


まさか誰も裏切らないだろう。ここにいるのは同じ一級国民、皇帝に忠を尽くす為に軍人になったのだから。そう彼等は考えていた。



――だが、ヴィーの演説が兵士間の信頼感を揺さぶっていた。


今のところレオンハルトの張った防御陣営によって、反乱兵や救済の御手の義勇兵の侵入を防いでいるが、遠くから聞こえていた戦闘音や地響きが近付いてきている事も相まって、不安が頭をもたげてきたのだ。


場の流れと士気は劣り、更に言ってしまえば攻撃の要たる魔導砲すら敵の手に落ちている。

このまま皇国軍として殲滅されるのを待つのか、それとも皇帝より強き者へ靡くか。



ある一級国民兵士はナノマシンバイザーで顔が隠れているのを良い事に、強い迷いの表情を浮かべていた。


自身がレオンハルトに付き従うのは、将来への打算と安定を求めた為。

今の彼に、この皇国軍に従った所でこの先生き残る事が出来るのだろうか。



――今なら蜂起者たるV-077大尉への手土産に、レオンハルトを狩る事だって容易だ。



じっとりと背に汗が伝い、軍服のインナーを濡らしていく。

恭順と裏切りの天秤はまだ辛うじて均衡を保っており、後どちらかへの一押しがあれば簡単にどちらへ傾くだろう。



そんな時に、一石が投じられた。


「お、俺は救済の御手と共に、虐げられた人々のために戦う!」



声を上げたのは一人の一級国民の兵士だった。魔法で赤い布を生み出し、右腕へと巻き付けていく。


その一言を受け、数名の兵士が互いに目を見交わした。

ある者はゆっくりと腕に赤い布を巻きつけ、ある者は杖を小型化し腰のホルスターへ納めて目を伏せる。


最初は一人、次に二人。次第に裏切りの決意を固める者、投降しようと武器を納める者がちらほらと群れの中に増え、音もなく広がっていく。



皇帝へ忠義を誓った兵士は、目の前で次々と発生していく裏切者へ杖を突きつけるも、バイザーを解除し悲しみの色を浮かべる素顔が見えるようになった兵士達の顔を見て、魔力弾を放つのを躊躇してしまう。


「俺は、本当は嫌だった。二級国民だからとあんな無残に殺していいはずがなかったんだ。……皇帝は間違っている」


杖先を向ける皇帝派の兵へ、寝返った兵達は手を差し伸べる。——救済の御手の旗のように。



「ッ……馬鹿な!今まで俺達が享受していた一級国民の恩恵を忘れたのか?二級と救済の御手の奴等が余計な事をしなければ、我々は平和なまま過ごせていたというのに!」


流され絆されてしまいそうになる自身を奮い立たせるように、いつでもお前を撃てるのだと杖先をしっかりと目の前の元友軍へと向ける。


だがその杖先は頼りなく震えていた。



諦めと融和の空気が漂い始めた小隊拠点に、突如轟音が鳴り響き、武器を納めた兵士の一人が胸を穿たれ地へと倒れ伏した。



「貴様ら——何をしている?」



指揮車から杖を構えたまま降りてきたレオンハルトの怒鳴り声が、嫌に静かに感じる戦場の空に響いた。


「皇国軍の誇りはどうした?皇帝陛下への忠誠は、貴様らが受けた恩は?——ふざけるんじゃねぇ!!」


苛立ちと共に振るわれる杖から三つに枝分かれした紫電が放たれ、裏切者を裁いていく。

杖を下ろし無抵抗でいた兵士達はその身を一瞬で焼け焦げさせて地へと倒れ行く。


その光景に恐怖しながらもレオンハルトの粛清を諫めようと、一人の皇帝派の兵士が敬礼しながら一歩前へ踏み出した。


「し、少尉殿!恐れながら申し上げます……!彼らは友軍であり、一時的に臆病風に吹かれただけで……懲罰に留められた方が」

「敵を庇うか……!その時点で貴様も同罪だ!」


叫びと共に放たれた雷撃が、止めようと前に出た兵士の胸を撃ち抜き、激しく地に叩き伏せさせる。

生死を問わぬ苛烈な裁きに、周囲の兵士らは息を呑んだ。


「ッ……隊長に続け!!」


「くそ……!やっぱりこうなるのか!!」


誰かが叫んだ攻撃の合図がきっかけとなり、一斉に兵士らが持つ杖が()へと向けられる。

皇帝派と救済派。


分かり合う事の出来なかった両者は、ついに武力を交えた全面衝突へともつれ込んだ。



轟音と閃光。燃え盛る業火が舞う戦場へ、防御陣を突破した救済の御手の義勇軍が指揮所へ突入し、いよいよ近くの敵とどちらが生き残るかの泥臭い死闘へと変わっていく。


変形させた魔導デバイスで鍔迫り合い、どこからか放たれた魔法が敵味方なく降り注ぎ、もはや運の良し悪しが生存に繋がる乱戦。


悲鳴と怒号が入り乱れ、血と火花が混じり合う混乱の最中、鋭い殺気がどこからかレオンハルトへと注がれる。



彼は槍型へと変形させた魔導デバイスを繰り、次々と襲い来る義勇兵と反乱兵を捻じ伏せると同時に、皇帝派の兵士へと激励を飛ばす余裕を見せる程の圧倒的な強さを見せつけていた。


あまりの乱戦で危機感知と敵意感知の警告が絶えず発され、その煩わしさにレオンハルトは感知機能を切っていたのだ。




「――ッ!」



アリサの脳裏に電流が走った。——直感が警鐘を鳴らしている。


兄の頭部を狙い撃つ、狙撃魔法の気配。

しかもそれは、一級国民の兵士にしか許されていない術式だった。


思考よりも速く身体が動く。


「……ッ!」


杖を兄に向け、衝撃魔法を放つ。

魔力の奔流がレオンハルトの身体を横から弾き飛ばし、狙撃の光弾は彼の耳を浅く裂いて通り過ぎていく。


「ぐぁっ!アリサ……貴様……!」


血走った目で兄がこちらを睨みつける。

彼の視線に映るのは、自分を攻撃した妹の姿。

庇ったはずの行為は、皮肉にも()()()に見えてしまったのだ。



父からの()()()()に兄を支え、命を助けた。

だが、アリサの胸には達成感も、今度こそ家族を守れたという誇りもなく、ただ淡々と任務をこなしただけだと無味乾燥さだけが満たしていた。


彼女の白い頬を、爆ぜる火花が赤く照らした。



~~次回予告~~

敵味方入り乱れた乱戦の最中、私の放った一撃は、兄を救ったはずだった。

だが、それは裏切りの証と見なされる。


今の私は、兄が生き残るための戦力にすぎない。


その時、混乱と裏切りの戦場から、撤退の号令が響く。


次回、「敗走」


それでも私は、立ち止まらない。

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