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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第三楽章 恋と青春と友情と!
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しとしと、ころころ、甘い時間♪

みんなの熱気溢れる汗と涙の体育祭も終わりを告げ、今まで耐えてくれていた曇り空もいよいよ梅雨の長い雨へと移り変わっていく。


「はぁ~あ……ねぇソラシー、今日も明日も……ここから一週間ずぅーっと雨だって」


朝食を食べながら、テレビから流れて来る気象情報を見てあかりがため息をつく。


ソラシーはと言うと、あかりの言葉を聞いてチラっとテレビを一瞥した後、湿気で羽がぺったりしているのを気にするように羽繕いをする。


「ピィ……」


「ほらあかり、食べるときはちゃんと食べなさいー?」


「はぁーい……」


あかりはトーストの端をかじりながら、ふにゃっと気の抜けた声を漏らす。


「せっかく土曜日でお休みなのに、お出かけもできないし……はぁ~」


「ぴぃ……」


ソラシーは相槌を打つように小さく鳴き、そっと羽であかりの手を撫でる。

そんな二人の様子をキッチンで見ていた菜月が、ふっと微笑みながら声をかけた。


「雨だからこそできることなんて、探してみたらどうかしら? あかりは友達と過ごすのが好きでしょ?」


「ん~~……そうだけどさぁ、外で遊べないし……ジメジメして蒸し暑いしー……」


気が乗らない様子のまま、あかりは牛乳を一口飲みながらリモコンでニュース番組を別の番組へと切り替える。


『お客様ぁ!本日ご紹介致しますのは、私イチ押しのこの包丁』


『えー、この法案の必要性の根拠と致しましてはー』


『ジメジメした今の季節にこそオススメ!さっぱり爽やか柑橘料理!』


『わ、私の最強デッキがぁぁぁ!?』


適当にチャンネルを変えていたあかりだったが、しっくり来るものがなく最初のニュース番組へと戻した。


特にやりたい事も決まらず、残っていたトーストを一気にサクサクと食べてしまい、牛乳で流し込む。


「ごちそうさまっ!」


食器を台所へと運び、菜月へと手渡すとあかりは自室へと戻った。




———————————————————————————————————




窓の外から聞こえてくるのは、しとしとと降り続ける雨の音。

時々吹く風に煽られ雨粒が窓ガラスを打ち、パラパラと音を立てる。


あかりは自室のベッドの上で、寝転がったままスマートフォンを片手に画面をスクロールしていた。

ゆるめの部屋着に身を包み、話題のアイドルグループのMVを見たり、気になっていたショート動画を次々に消化したりと、時間は緩やかに過ぎていく。


ソラシーはうつ伏せになっているあかりの背中に乗っかり、うろうろと歩き回った後羽繕いを始めた。


「うーん……雨、ずーっと止まないなぁ……」


ぼやくように呟きながら、スマホの天気アプリを開いてみるも変わらず、今日から一週間の天気はずらりと傘マークの列。


「わぁー……ホントにずーっと雨じゃん」


画面を見つめたまま、ふにゃぁと顔をゆがめてベッドへと顔を埋める。


「いつも頑張っているから、あかりもたまにはゆっくりするのが良いソラ……」



ディスコードの襲撃もなく、学校もない土曜日。

本来ならどこかに出かけたり、遊びに行ったり、ちょっと冒険めいたことだってできるはずだったのに、今はただ、ベッドの上でごろごろと転がっているだけ。


退屈。

そして……ちょっぴりさみしい。


「せっかくの土曜なのになぁ……」

スマホを持ったまま、思わず大きなため息を吐いたその時だった。


 

不意に、左腕に装着されたブレッシング・リンクが微かに震えた。

通知音と共に、優しい光が一瞬だけ点滅し、小さなウィンドウが表示される。


「あれ?何だろう」


通知をタップすると、エプロン姿のみちるが画面へと映し出された。


『おはよ、あかり。今日は雨だけど……午後からみんなでうちに来ない?喫茶店の方が落ち着いてからなんだけど……お菓子作りでもしながら、作戦会議しようと思って』


「おはよー!みちるちゃん!それすっごく良いと思う!!」


ぱあっとあかりの顔が明るくなる。


「ピィ?」


ソラシーが羽をばたつかせ、あかりの肩へと跳び移る。


ブレッシング・リンクの画面を覗き込むようにすると、ソラシーのふわふわの羽毛が頬に当たって、少しくすぐったい。


『ソラシーもぜひあかりと一緒に遊びに来てね。あおいには先に声かけたんだけど、来れるって!』


「わぁ……!私もぜんっぜん行けるよ!!今からでも大丈夫なくらいっ!!」


食い入るように画面を見つめての力の入った返事に、みちるは僅かに苦笑しながら続けた。


『それじゃあ、お店が落ち着く頃の14時に裏の玄関前に集合しましょう!……雨の中来てもらって悪いけれど』


「ううんっ!そんなの全然大丈夫だよーっ!じゃあ午後楽しみにしているねっ!」


ブレッシング・リンクの通信を切ると、あかりはこれまでの無気力な鬱屈した気分がどこかへ飛んでいくのを感じていた。


「ソラシーソラシー!お菓子作りに、作戦会議もだって!?やったーっ!!」


ばっと寝転がった体勢から飛び起きると、あかりはソラシーを両手で抱き上げ、思わずくるくると部屋の中で回り始める。


「やったーっ!雨でも楽しい事あるんじゃん~!何作るんだろう~!楽しみだぁ~っ!」


「あかり、良かったソラ!味見はソラシーに任せてソラばっちりチェックするソラ!」


されるがままにぐるぐると回されながらも、ソラシーは楽し気に羽をパタパタとさせていた。




雨音はまだまだ止まない。

けれどあかりの心には、もう一足先に晴れ間が差し込んでいた。




「あ……目が回るぅ~……」


「ソラぁ……」

 





———————————————————————————————————




 

雨脚は朝よりもやや落ち着いたものの、まだ空は厚い雲に覆われたままだった。


そんな中、一際元気よく揺れる赤いドット柄の傘がひとつ。


「ふんふんふ~んっ♪」


傘の柄をくるくる回しながら、大きな水たまりを飛び越えるように歩くのは、もちろんあかりだった。


雨靴代わりのレインブーツがぴちゃりと音を立てるたび、楽しげな鼻歌が小さく漏れる。




今日は薄手の涼し気なシャツと撥水スカートに身を包み、肩からはお気に入りの小鳥が描かれたエコバッグ。

中には、菜月から借りてきたお菓子作り用の型やラッピング袋、そしてもしも余ったら持ち帰る用のタッパーまで完備されている。


「雨ってちょっと憂鬱だったけど、こうして楽しみがあると悪くないかも~っ!」


「ピィ!あかりと一緒ならソラシーはどこでも楽しいソラ!」


「えへへ……ありがとソラシー!」


傘の下、頬を寄せあって笑い合うあかりとソラシーの表情も心も、輝く晴れ模様だ。




桜並木へと差し掛かると、パラパラと一定のリズムで降り注いでいた雨が桜の葉に遮られ、大きな粒の雫が傘の小間を叩きリズムが変わる。


やがて、目的地である喫茶店「rosse」の入り口が見えてくると、あかりはその入り口の横から裏へと続く小道を進む。


「わっ!先に来てた〜っ!」


あかりの声と足音に気付き、先に到着していたあおいは、いじっていたスマートフォンの画面から視線を上げた。


「やっほー!あおいちゃん、待った?濡れてない?」


「やっほ、私も今来たところだよ」


あおいは静かに微笑むと、畳んだ傘を置かれていた傘立てへと入れる。表情はいつも通りクールだが、どこか口元が和らいでいる。


「今日はお菓子作りだもんねっ。ふふっ、楽しみだなぁ!」


そう言ってにこにこ顔のあかりに、あおいもひとつだけ、ふっと小さな笑みを返す。


「……うん。私も、ちょっと楽しみにしてた」


その時、裏口のドアが控えめに軋む音を立てて開いた。


「お待たせ。準備出来てるから、どうぞ上がって?」


エプロン姿のみちるが、やわらかな笑みを浮かべながらふたりを迎え入れた。


「みちるちゃん、こんにちはーっ!お邪魔しますっ!」


「お邪魔するソラ~!」


「こんにちは、みちる。……今日もコーヒーの素敵な香りがするね」


「ふふ、ありがとう。さ、上がって。アリサも着替えて待ってるわ。……珍しくアリサもちょっとそわそわしてたみたい」


「えっ、そわそわ?……あはは、気になる~!」


玄関に入ったあかり達は、階段を登ってリビングへ。


「……ようこそ。あかり、あおい。……それとソラシー」


しっかりと髪を結び、エプロンを纏い、今すぐにでも取り掛かれると言わんばかりに腕まくりをした、やる気満々なアリサが三人を出迎える。


「こんにちはアリサちゃん!今日はよろしくねっ!」


「よろしくね、アリサ」


「よろしくソラ~!ソラシーは味見係ソラ!」


ソラシーがアリサの頭へと飛び移り、ぴょんぴょんと楽し気にステップを踏む。


その時、キッチンでお菓子作りの準備をしていたマダムが顔を出した。


「あら、皆さんいらっしゃい。来てくれて嬉しいわ。……みちるちゃんもアリサちゃんもとっても喜んでいたのよ」


「ちょっ!お、おばあ様……!!」


「ふふふ」


マダムの予期せぬ登場に、アリサの頭上にいたソラシーが固まる。さっきまで思いっきり喋ってしまっていたのだ。

冷や汗を流しぬいぐるみのように微動だにしなくなったソラシーへマダムが目を向ける。


「小さいお友達も大歓迎よ。……おいで小鳥さん」


「ぴ、ぴぃ……」


マダムが差し出した指へ、ソラシーは恐る恐る乗り移り、自身へ向けられる視線へ居心地悪そうに目を合わせた。


「ピッ……!?」


()()()()()()。その魔法の行使に気付いたのはアリサとみちるの二人だけだった。

あかりとあおいには、ただマダムが微笑みながらソラシーを撫でているようにしか見えていない。


「ふふ……なるほどね。()()()()()()()()()と。これからもみちるちゃんとアリサちゃんをよろしくね、ソラシーちゃん」


「ぴひぃ……」


不思議な感覚から解放されたソラシーはパタパタとあおいの肩へと飛び移り、未だ目を白黒させていた。


「オーブンは予熱する時と、鉄板を出し入れする時は重々に気を付けてね?」


「「はーい!!」」


マダムは優しく微笑むと、階段を降りていきお店へと戻っていった。





———————————————————————————————————






リビングの奥にあるキッチンでは、すでにいくつかの材料がテーブルに並べられていた。


薄力粉、アーモンドプードル、粉糖、無塩バター、バニラエッセンス。

基本の材料の他にもローストされたクルミ、粉末抹茶、アールグレイのティーパック。


その傍らには、まんまるでころころとした姿が可愛らしい『スノーボールクッキー』の写真付きのレシピが数枚置かれていた。


「今日はね、色んなスノーボールクッキーを焼こうと思って!」



みちるが置かれたレシピを指差して説明を始める。


その傍らでアリサが作業場として使用するダイニングテーブルに全員分のボウルを並べ、いつでも作り始められるように準備を進めている。


それぞれのレシピを説明するみちるの楽しそうな口調に、あかりの目がキラキラと輝いた。


「うわ~!見た目も可愛いし、なんかオシャレ~っ!最高にドレミってる!!」


「ふふ。お手軽だし、すぐに食べなくても冷蔵庫で冷やして食べても美味しいの。あかりが持ってきてくれたラッピングセットに入れたらすぐにプレゼントにもできるわね!」


「……!これ、うちでも作れるかな?」


興味深そうにレシピを覗き込むあおいに、みちるは微笑みながら答える。


「そんなよっぽどアレンジしない限り簡単に作れるわよ!最悪オーブントースターで作れるレシピもあるらしいわ。……じゃあ、誰がどれを作るか、希望はある?」


せーので指をさし、くるみ入りのレシピがあかりとみちるで被ったが、主催者という事でみちるが譲り、王道のシンプルなレシピをみちる。


くるみ入りがあかり。


抹茶入りがアリサ。


紅茶入りがあおいといった割り振りに決まった。



「室温に戻したバターだけもうそれぞれラップで包んであるから、それを使ってね」


順番に使う材料の計量を行い、四人は泡立て器を使って柔らかくなったバターと粉砂糖を混ぜてクリーム状になるまで擦り混ぜていく。


「次に粉をふるいにかけて混ぜるっと……」


借りてきたお店の器具も使って薄力粉とアーモンドプードルをふるいにかける。


「みちる先生っ!アーモンドプードル入れたら粉ふるいが詰まりましたっ!」


「先生って……、ま、まぁいいけどっ!少し強めに左右に細かく振ってみて、それでもだめならラップで上から押してあげると意外と落ちてくれるわよ」


「ラジャーっ!そーれ、ふんっふんっ……あっ、落ちた落ちた~っ!」


あかりが苦戦していた粉ふるいから、ぽすぽすと粉がこぼれ落ちると、隣のアリサがちらりと視線を向けた。


「……圧を掛ける時にふるいが動き過ぎている。それだとボウル外へ粒子が飛散して無駄になって勿体ない」


「うあっ、やめてアリサちゃん、それ以上は私のお菓子の尊厳が……!」


「……頑張って」


僅かに口元を緩めながら、アリサは自分のボウルの生地に抹茶を少しずつ加え、均等に混ぜ込んでいく。彼女の混ぜ方は機械のように正確で、すでに生地の質感も良さそうだ。


「……すっごく丁寧に混ざってるね、さすがアリサ」


隣で紅茶の茶葉をティーパックから取り出し、細かく刻んでいるあおいがちらりとアリサへ視線を送ると、アリサはそれに気付き、目を合わせた。



「……あおいの茶葉も、良い香りがする」


「ね、コーヒーも好きだけど、紅茶も落ち着くから好き」


「……なるほど。悪くない」


互いに短いやり取り。だが二人の間に流れる空気は和やかだった。




一方で正面のあかりとみちるはというと。



「うーん……くるみって、どのくらい砕いたらいいんだろ?ざくざく系?それともさらさら?」


と、あかりがくるみを袋に入れて麺棒で叩きながら、みちるに尋ねる。


「ある程度粒が残ってた方が食感にアクセントが出て美味しいと思うわよ。……あ、待って!それ以上叩くとやり過ぎ!」


「わっ!?あぶなっ、ふぅー……ナイスストップ、みちるちゃんっ」


「ふぅ……。何か手伝える事あれば言ってね?」


「うんっ!ありがと!みちる先生っ!」



ポロポロしていた生地が混ぜていくにつれて固まっていき、ひとまとまりになってきたらラップで包んで冷蔵庫で寝かせる。


それぞれ付箋で名前を貼っておき、取り違えがないようにする。



「さて、ここから30分時間があるわけだけど……。作戦会議といきましょうか」


「……秘密の会議なら、良い場所があります」


「「良い場所??」」




皆で移動したのは、アリサの屋根裏部屋。


アリサ特性のマジックハンドでハッチを開けて梯子を下ろす時には、あかりが目を輝かせて「秘密基地みたいー!!」とはしゃいでいた。



さすがの屋根裏部屋も、4人も入ると圧迫感を感じる。座る場所も限られている為、アリサは机の椅子に。あかりみちるあおいはベッドへと腰掛けていた。

ソラシーはあかりの膝の上。



「ここがアリサちゃんの……!」


「シンプルだね、でもアリサらしいな」


興味深げに部屋を見回すあおいとあかりへ、みちるが咳払いをして空気を正す。



「……それじゃ、改めて本題に入りましょうか」


みちるの声に、屋根裏部屋の空気がわずかに引き締まる。


話題に上ったのは、最近のディスコードの動き。ワルイゾーの強化傾向と、それを操る男爵やミーザリアという幹部の存在。


あかりが語るのは、ワルイゾーの動きをコントロールし、爆音で全てを塗りつぶすフォルティシモ男爵の厄介さ。



あおいが冷静に告げたのは、観客を魅了し操るミーザリアの歌声の影響と、襲い掛かる幻惑の恐怖。



そしてみちるが言葉を選びながら漏らしたのは、今の連携技の限界。



アリサは無言のまま、静かに三人の意見を細かくノートへとまとめていた。



これからの戦いは、ただ力で押すだけではいけない。敵は確実に情報を集め、戦術を変えてきている。


では、どうすれば良いか。


「うーん……どうする……?」


沈黙が屋根裏部屋を支配する。


それぞれ考え込むように目を閉じたり視線を彷徨わせたり、こめかみに指を当てたりと色々なポーズで良い案がないか考え込むが、これといった案はやってこない。



そんな静かな屋根裏部屋に、居眠りしていたソラシーから可愛らしいお腹の鳴る音が聞こえ、思わず皆が吹き出した。(アリサを除く)


「そ、ソラッ!?今のソラシーの……ソラ?」


恥ずかしそうに羽で顔を隠すソラシーの背をうりうりと指で撫でながら、あおいが口を開いた。


「とりあえず……次までの宿題にしない?」


あおいの言葉に、皆が静かに頷いた。


時計は既に予定の30分をとうに過ぎていた。





———————————————————————————————————





冷蔵庫から取り出したクッキー生地はしっかりとまとまっており、緩い粘土を思わせる固さになっていた。



オーブンに予熱をセットしてからそれぞれ一度しっかりと手を洗い、一口サイズに千切って丸めてクッキングシートを敷いたプレートへと並べていく。


まんまるの形が綺麗に並べられているのがみちるとあおい。

大きさと形に少しばらつきがあるものがあかり。

どれ一つとってもコピーされたのでは?と思うくらい完璧な球状で等間隔に並べられているものがアリサのもの。


「むむ……私のだけなんかイビツ……」


「ピ、ボコボコソラ」


「むぁ~!ソラシーっ!!」


「ピッピピ~♪」


追いかけっこを始めるあかりをあおいが諫めている間に、アリサがオーブンへとプレートをセットし、加熱のスイッチを押した。




甘い香りがキッチンいっぱいに広がり始めたのは、それからほんの十数分後のことだった。


焼きたてのスノーボールクッキーは、それぞれが作った種類ごとに色も香りも微妙に異なり、それがまた可愛らしさを引き立てている。




粗熱が取れた後、仕上げの粉糖を茶こしを使って白い雪を降らせていく。


ふわりふわりと舞い落ち降り積もる甘い雪は、小麦色のクッキーを雪玉へと変身させていく。


「はい、完成っ!みんなお疲れ様!」


並べられた4色のスノーボールたちは、ころころと並ぶその姿だけで、暑い夏をほんの少しだけ、冬の気分にさせる。



「すっごい、ほんとに売り物みたいっ!」


「私達でもお店みたいに作れるんだ……なんだか、楽しい!」


目を輝かせて喜ぶあかりとあおいの姿に、みちるは思わず表情を緩めた。



「……皆を誘って良かったですね、みちる」


そのみちるの隣へ寄り添うように立つアリサがそっと囁く。


「うん……。良かった……本当に!」



その時、青い小さな影がクッキーの並ぶ皿の前へと仁王立ちした。


「もう……もう食べて良いソラ……!?」



きゅるるる……とお腹を鳴らすソラシーに皆は笑いながら顔を見合わせた。


「「どうぞ召し上がれ~!」」



「ピッピィ~!!いただきますソラ~!!!」





———————————————————————————————————





ソラシーが美味しい美味しいと一皿全て平らげてしまった為、二回目に焼きあがったクッキーを皆で楽しみ、残った物をお土産として、小さな袋にそれぞれ少しずつ詰め、ラッピングのリボンを結んだ。


「パパもママも多分びっくりすると思うなぁ~!きっと喜んでくれるって思う!」


「あはは、きっとそうだね!……私の両親も喜んでくれると思う」


あおいも嬉しそうにうなずきながら、自分の包みをそっとカバンにしまい込む。


その背中を見つめながら、みちるがふわりと微笑んだ。


「ねえ、また今度……違うお菓子も、みんなで作らない?」


「賛成っ!」


「うん、またやろうよ!」


しとしと雨の音が止まぬ中、リビングの中には笑い声がころころと転がっていた。




甘くて優しい──そんな時間が流れていく。




作中に出てきたクッキーのレシピコーナー!

サクほろ食感がクセになる、まんまるスノーボール!

ここでは物語で登場した4種類のレシピをご紹介します!  本当に簡単にできるのでお勧めです♪

作者も時々焼いています笑


基本のスノーボールクッキー

〈材料(約30個分)〉


無塩バター:80g(室温に戻しておく)


粉砂糖:40g


薄力粉:120g


アーモンドプードル:30g


バニラエッセンス:少々(お好み)


仕上げ用粉砂糖:適量(量が少ないと雪玉っぽくならなので豪勢に!)


〈作り方〉


・室温に戻したバターを泡立て機でほぐし、バニラエッセンスと粉砂糖を加えて白っぽくなるまですり混ぜる。


・ふるった薄力粉とアーモンドプードルを加えてゴムベラでさっくり切り混ぜる。(少し粉っぽさが残るくらい)

(ここで生地がパラパラしますが混ぜるとちゃんとまとまってきます)


・生地がまとまってきたらラップで包んで冷蔵庫で30分ほど寝かせる。


・一口大に丸めて、クッキングシートを敷いた天板に並べる。


・170℃に予熱したオーブンで様子を見ながら13〜15分焼く。


・粗熱が取れたら、粉砂糖を茶こしでまぶして完成!


☆みちるのひとこと

「まずは下手にアレンジを加える前に、基本レシピからチャレンジするのがおすすめよ。焦らず、丁寧にね?……バニラ感をもっと出したいならエッセンスの代わりにバニラシードを混ぜ込むのもオススメよ!」



くるみ入りスノーボール

・基本のレシピに、ローストしたくるみ30g(粗めに砕いたもの)を加えるだけ!

 ざくざく食感と香ばしさがたまらない一品!


☆あかりのひとこと

「くるみの食感と香ばしさがアクセント♪ シンプルなのに、いろんな人にあげたくなっちゃう美味しさだよっ!」


抹茶スノーボール

アーモンドプードルを25gにして、抹茶パウダーを5g加えると色鮮やかな和風クッキーに。

ほんのりビターで上品な味わいは、アリサの静かなこだわりを感じるかも……?


☆アリサのひとこと

「料理は理科の実験同様、しっかりと計量する事。目分量や直感は玄人だけに許された技法。……目を離して変化を見逃すと致命的。火の扱いには注意するように」


☕紅茶スノーボール

・アールグレイなどお好みのティーバッグ1袋(約2g)を取り出し、細かく刻んで生地に混ぜるだけ。

 紅茶の香りがふわっと広がり、ちょっと大人びた気分になれる一品。


あおいのひとこと

「これも王道の味の一つだよ。ほろほろ食感と、鼻へ抜ける紅茶の豊かな香りを楽しんでみてね」



~ポイント~


粉を混ぜるときはぐるぐる練らず、Jの字を描くように「さっくり」切り混ぜるのがコツ! 

丸めるときに手のひらで転がすときれいにまとまります。


粉砂糖は粗熱が取れてから、たっぷりかけるのが見た目も映えるコツ!クッキーが熱いうちにかけちゃうと、粉砂糖が溶けちゃうので注意。(溶けない粉糖を使うのもアリ!)


お手軽ころころスノーボールクッキー

ぜひおうちでも、好きな味で作ってみてくださいね!




~~次回予告~~


ねえねえ、みんな~!

父の日って、ちゃんと「ありがとう」って言ってる?

私ね、今年はちゃんと伝えたいなって思ってるの!


だって、どんなに遅く帰ってきても「ただいま」って笑ってくれるし、

私が元気ないときも、さりげなく声をかけてくれるんだよ? ……パパって、すごいよね。


あおいちゃんも、みちるちゃんも、それぞれのお父さんに「ありがとう」を届けるために、小さな作戦を考えてるみたい!


いつも言えない気持ちも、今日はちょっと勇気出して――

心をこめて、ありがとう!


次回、「いつも、ありがとうの日」


新しいハーモニー、始まるよっ♪


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