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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第三楽章 恋と青春と友情と!
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届け、風より速く!友情のバトン♪(前編)

朝の陽射しがカーテンの隙間から差し込み、あかりのまぶたをそっと叩く。


「んぅ……朝……?」


まどろみの中、枕元から聞こえてくる元気な声が、あかりの意識を引き戻した。


「ぴぃーっ! あかりー! おきるソラーっ!!」


「うあぁぁっ!? そ、ソラシー、顔の上はやめて~っ!」


ぱふんと布団を跳ね飛ばし、もぞもぞと起き上がる。

体育祭当日、いつもよりちょっと早起きしたあかりは、すぐに制服のハンガーに目を向ける。


「……今日から夏服!」


クリーニングしたまま保管されていた夏服の涼しげな半袖セーラーは、どこか独特な石油を思わせる香り。


洗面台の前で髪を結び直し、朝食に出されたおにぎりを頬張りながら、今日の応援団の動きやセリフを頭の中で繰り返し思い返していた。


「あかり、ぼんやりしているけど大丈夫?」


「ほぇ?……だ、大丈夫だよママ!ちょっと今日の応援団の事考えてたら緊張しちゃって……」


「うーんそうねぇ……今は食べる事に集中!ながら作業だと、どっちも中途半端になっちゃうからね?」


「はーい!」


菜月のアドバイス通り、一旦考える事をやめて目の前の朝食の味へと集中する。



「だいじょーぶソラ! あかりなら元気パワー全開で、応援できるソラ!」


と、横で穀物ミックスを啄むソラシーが小声でいつものように背中を押してくれる。

その声に、胸の奥が少しだけ軽くなった。


「……うん、そうだよね。頑張ってくる!」




———————————————————————————————————




「いってきまーすっ!」


「いってらっしゃいソラ~!」


梅雨で最近は隠れがちな太陽も、今日はしっかりと顔を出して暖かな……いや、もはや暑いくらいの日差しが町へと降り注ぐ。

ソラシーは「今日は暑いからお見送りソラ」とお留守番を選択していた。


じりじりと照り付ける日差しに、日焼け止めを塗ってきて良かったと心の中で呟きながら、足早に日陰のある桜並木へと向かう。



「おっはよー!今日はいよいよ体育祭だよ!!ドレミっていこーっ!!」


「おはよう。気合入りすぎよ、午後まで持つの?」


「おはようございます」


いつも元気なあかりと、それを気遣うみちる。そして変わらず冷静なアリサ。

皆夏服になりどこか涼しげな雰囲気を感じさせるが、一歩木陰から日向へと出れば――。


「暑い……」


お天気な事には感謝すれど、暑さは困る。

三人でわいわいと歩いていく途中、いつも通りあおいも合流する。



「あ、あおいちゃーん! おっはよーっ!」


「おはよ、あかり。今日のテンション……いつにも増して高いね」


「だって体育祭だよ!? 一年で一番燃える日だよ! 赤組、優勝だぁーっ!」


「朝から元気だね……でも、勝つのは青組だから!」


朝の光を浴びて4人並んで歩く通学路。

今日という特別な日が、いつもの風景すらきらきらと輝かせてくれる。


「でも……あっつい~……」


「これ、誰か倒れたりしないかしら……?」


「……保険委員ならここにいる。何かあればお任せを」



笑い合いながら校門をくぐれば、既に登校していた生徒達が運動着に身を包み、校庭でわいわいと談笑していた。

あかり達も一度教室に荷物を置き、ロッカーで体操着へと着替えると校庭へと向かい、それぞれの役割の場所へと別れて行った。



校庭の一角に集まった赤組の面々。

あかりの所属する2年A組は、3年A組・1年A組と同じチームで、赤組として優勝を目指す。


その中でも応援団として選ばれた、各学年から4人ずつの男女、計12人が円陣を組んで気合を入れていた。


「いよっしゃあああああっ!!いよいよ本番だああああっ!!気合入れていくぞおおおおおっ!!」


「「おおーっ!!」」


音頭を取るのは団長の3年の剛隆寺先輩。

見た目は中学生にはとても見えない、強面の濃ゆい顔をした熱い先輩だ。


「応援旗を立てぇいっ!!」


バッと音を立てて空へと翻った応援旗。そこには各学年毎に作成したオリジナルの応援旗が3旒並んでいた。

3年の応援旗は今にも飛び出しそうな戦国武将の兜を付けた獅子。旗の周囲に火焔模様。スローガンの四字熟語は「朱嵐怒涛」と力強いゴツめの隷書体で記されている。


2年の応援旗は「紅蓮一心」と文字がメインに描かれたもので、火炎模様の上を白い流星のようなマークが駆け抜けている絵が描かれている。


1年の応援旗は空を翔ける紅い鳳凰が中央に羽を広げ、背景は朝焼けのようなグラデーション。「紅蓮ノ翼」と小さく文字が入れられた物。


たなびく旗を見て、あかりの胸は期待と緊張でいっぱいだった。


ドキドキする……でも、絶対いい一日にするんだっ!


校庭にスピーカーから校内放送が流れ始める。


「全校生徒の皆さん、これより体育祭開会式を開始します。各学年、入場をお願いします!」


あかりはジャージの上から学ランを纏い、白い手袋をつけ、赤のハチマキをしっかり結ぶ。

整列した列の先頭にハヤトと並ぶと、視線の先には来賓席の保護者達や、ずらっと並ぶ先生達。


「うぅ、手足がカチカチだよぉ……」


「緊張してる?」


「してるしてる! カチカチ! でも、うまくやってみせるっ!」


吹奏楽のファンファーレが鳴り、1年生から入場を始める。1-Cが入場を終えたら、次はあかり達2-Aの番だ。


ハヤトは応援旗を掲げ、あかりは胸を張り、足並みをそろえて一歩一歩踏み出す。

背筋を伸ばし、顔をあげる。


自分の歩く先に、たくさんの声援がある。

クラスの友達が、先生が、家族が、そして仲間たちが――みんな、笑っている。


……がんばれ、私っ!


白い靴が、土の上を力強く踏みしめた。



———————————————————————————————————




入場を終えて校旗掲揚、長い長い校長の挨拶、ラジオ体操、代表生徒による選手宣誓とセレモニーが進み、いよいよ第一競技が始まった。


まずは学年別の100m走から。

すぐ競技が始まる1年生を残し、2年3年は一度各自席のテントへ。


思ったより長い開会式で直射日光に当てられていた生徒達は、顔を仰ぎながら各々水分補給をしている。

あかり達応援団員も水分補給を済ませたら、すぐに1年生の競技の応援の為応援スペースへと移動する。


「位置について、よーい……!」


パァンッとスターターピストルが響き渡り、第一走者の各色2人ずつ合計6人が一斉に地面を蹴り、ゴールへ向けて全力疾走する。



応援団の声掛けに合わせ、ジャージの袖をまくりあげる。

真っ赤なハチマキをキュッと締め直し、剛隆寺先輩の先導で振り付けと共に大声で声援を送る。


「せーのっ!」


「赤組ファイオーッ!!」


声を張り上げると、喉の奥が少しヒリついた。

それでも、笑顔で拳を突き上げた瞬間――背中に、仲間たちの熱が伝わってくる。


遠くからは、青組や白組も負けじと応援をしている様子が見える。


──勝ちたい。みんなで、最高の体育祭にしたい。


そんな思いが、心の奥で燃えていた。



次々に走者が走り出し、ゴールすると体育祭実行委員らの誘導により、1から6のフラッグの元へと順位別に並ばされていく。

放送委員が着順を放送していくが、スピーカーの反響と応援の声援に飲み込まれ、よく聞こえない。



そうしていると、あっという間に1年生の部は終わりを告げ、整列して退場ゲートから各クラスごとの席へと戻っていく。

次はあかり達2年生の部だ。


「おっしゃああああっ!!!2年生ファイトオオオオッ!!」


「「おーすっ!!」」


ハヤト以下4人が一度応援席から離れ、出席番号順に2-Aの列へと並び、入場する。


あかりは今までも、そして今回も一番最後を走る事になっているが、今年は隣のレーンにアリサがいる。一番最後の走者は良くも悪くも目立つ事が多い為、アリサがいて内心ほっとしていた。



今日は土曜日という事もあり、保護者席には大勢の人数がスマホやビデオカメラを手に、我が子の出番を今か今かと待ち受けている。

あかりは順番を待つ間、あの中に、ママやパパもいるのだろうかとキョロキョロと見回して二人の姿を探すと、視界の隅を青い影が横切った。


「……あ!ソラシーって事は……!」


ソラシーの姿を目で追っていくと、笑顔で手を振る菜月と陽太の姿を見つける事が出来た。


思わず笑みが零れ、陽太が構えるビデオカメラに向けて手を振ったりピースサインをしたりとアピールをしていると、早速第一走者から競走が始まった。


走っていく背中に、見覚えのある後ろ姿。青組のあおいだ。

競争相手に男子もいる事もあって、最終的にゴールラインを踏んだのは5番目。

ちょっと悔しそうな顔をしながらも[5]と書かれたフラッグの列へと並んでいた。



途中からあかりは緊張もあり、菜月たちへと手を振ることも忘れ、走りのフォームを脳裏で浮かべてイメトレに励んでいると、あろうことかみちるの出番を見逃していた。

ふと気付いた時にはみちるは[2]のフラッグの元に並び、1位を取った男子と健闘を称え合っていた。


そうしていると、一際大きな歓声が上がった。……ハヤトの走る番だ。


他のクラスからも敵ながら歓声を上げる女子も居て、ハヤトは少し困ったように頭を掻きながらも、号令がかかるとキッと表情を真剣なものに変える。


号砲の音と共に駆け出したハヤトは、ジェラシーに燃える他のクラスの男子達と競り合うもデッドヒートを制し、見事1着。これには他学年の応援席からも黄色い歓声が上がっていた。


……無論、それを見つめるひなたの目はとても熱っぽく。そしてまた、[1]のフラッグへ移動し他クラスの女子にキャーキャー言われる姿を見て目のハイライトを消していた。


そしてあっという間に最終走者。あかりとアリサ、そして他の4人の番がやってきた。


「大丈夫、大丈夫……練習通り、全力で走れば……!」


けれど、心臓のドキドキは止まらない。むしろ速くなっている気がした。

うるさい鼓動に息が乱れそうになるも、必死に緊張を抑え、ただゴールテープだけを見据えて意識を集中させた。


すぐ隣では、アリサがじっと前を見据えている。視線は落ち着いていて、まるで戦場に向かう戦士のようだ。


ふと、隣から声がした。


「……緊張してますか?」


「えっ……う、うん……ちょっとだけ」


アリサは、ほんの少しだけ微笑んだ。


「――あなたと走れるのは、きっと楽しい経験になります」


「……うん!」


その一言で、あかりの肩の力がすっと抜ける気がした。



「位置について――」


あかりは両足をしっかりとセットし、指先に力を込めて地面に触れる。


いける。がんばれ、私!


「よーい――」


風が、吹いた。


号砲が鳴ると当時に飛び出したあかりは最高のスタートダッシュを決められたと直感する。

身体が自然と前へ前へと動いていく。


周囲の声援が、風のように耳元をすり抜けていく。

日々のランニングにより鍛えられた足腰から生み出されるスピードは、例え男子にも負けず劣らずの速さを誇った。


——だが、この枠には……この子がいる。


ぞわっと背筋に感じるプレッシャー。ほんの100mを走る13~4秒の僅かな時間、アドレナリンが出て体感時間がゆっくりに感じていたあかりの目にも、あまりにも無慈悲に、あまりにも理不尽に、あまりにも美しく白銀が、隣で競り合う生徒等を置き去りにし、ぐんぐんと前へと距離を突き放していく。



アリサはあっさりとゴールテープを切り、2位のあかりとの差は1秒近く。

息を切らすことも乱すこともなく、ただ当然と言わんばかりに淡々と[1]のフラッグの最後尾へと並ぶ。


「はぁ……はぁ……アリサちゃん早すぎ……!」


走り終えたアリサやあかり、他4人の生徒へと応援席から拍手や声援が聞こえる。


「あかりー!ナイスランっ!!」


「うんっ、ありがとー!!」


肩で息をしながら、あかりは空を仰いだ。


青空が、まぶしくて――


……ほんの少し、涙が出そうになった。


あぁ……体育祭って、やっぱり楽しい……!



まだまだ体育祭は始まったばかり。あかりの……いや、生徒達の楽しい時間は続く。




———————————————————————————————————




午前の競技は、笑いと歓声と汗に彩られた。


「ひぇぇ〜!この縄、速すぎて腕がっ!」


「回せ回せーっ!! タイミング合わせろーっ!」


二年生の大縄跳びでは、ハヤトとあかりが声を張ってリズムを刻み、皆で息を揃え跳び続ける。

回数が増えるごとに「あと少しっ、もう一回!」と声を張る仲間たち。他のクラスでは足が絡んで転ぶ人が出るも、怪我することなく皆笑顔だった。


障害物走では、網をくぐり、跳び箱を飛び、平均台の上を駆け抜ける。


借り物競走では『笑顔が素敵な人』という紙を引いた男子が、照れながらも応援席にいたクラスメイト女子の手を引いてゴールするなど、青春の1ページを刻んでいた。


綱引きではアリサが全力で引いていると見せかけて、ただ綱を握っているだけだったが一戦目を完勝し、あかり達は汗まみれになりながらも全力でロープを引いた。


暑さと笑い声が入り混じり、午前の部最後の競技である、エンタメに振り切った部活動対抗リレーを終えて、来るはお昼休憩。



生徒達は家族の元へと移動し、それぞれのピクニックシートで昼食を楽しんでいる。


あかりは菜月と陽太の元で、広げた菜月の手作り弁当を囲みながら、今日の前半までの出来事を楽しげに話す。ソラシーはあかりの肩に乗って、弁当箱から顔を覗かせていたタコさんウィンナーを狙っていた。


その少し離れた場所では、みちるが祖父母と笑顔で話し、アリサも自然とみちるたちの輪の中で穏やかな空気に包まれていた。


あおいも普段忙しい両親が来てくれた事に目を潤ませながらも、輝く笑顔でお弁当を囲んでいた。



そんな穏やかな時間の流れるスミゾラタウンの快晴学園。



だが、その時間を蝕もうとする闇の襲撃が刻一刻と迫っていた。




———————————————————————————————————




舞台は、蝋燭に照らされた異空間のコンサートホール。


しんと静まり返った空間に、コツコツとヒールの足音が響く。


「……さて、そろそろ出番のようね」


転移門の前へと現れたのは、ミーザリア。


深紅のバラの描かれた優美な紫色のロングドレスを揺らし、肩には黒い羽織をまとい、瞳には冷たい炎が灯っていた。


そこへ、奥のバーカウンターからワイングラスを片手に現れるクレシド卿。


「今日は随分と早く出るのですね。あなたならいつも黄昏時を狙うというのに」


「厄介な太陽が現れたのですもの。今更一つ二つ出ていても変わらないわ」


ミーザリアは優雅に踵を返し、転移門へと向き直ると扉を開いた。

その手には冷たい輝きを見せるマイクと、少しトゲトゲした粗削りのミュートジェム。


「見せてもらうわ……ブレッシングノーツ」


音もなく、空気が波打ち、次元の裂け目が開いた。


ミーザリアはその中へと溶けていくように消えていく。


午後の太陽が、無邪気な子供達を照らすその頃。


闇はもう、すぐそこまで迫っていた。




———————————————————————————————————




午後の太陽がやや傾きかけた頃、校庭に再びアナウンスが響く。


「それでは午後の部を開始します! まずは、各色による応援合戦です!」


校庭の中心に、赤・青・白の応援団が整列する。観客席からも自然と歓声が上がり、生徒達のテンションは再び急上昇していた。


最初に前に出たのは、青組応援団。青を基調とした法被に身を包み、力強い和太鼓と共に迫力ある団結の舞を披露する。

次に前に出た白組は、チアダンスをテーマにした軽快なポンポンダンスと整然とした隊列で爽やかな青春感を演出し、保護者たちから拍手が沸き起こった。


そして最後に登場するのは、赤組――。


「いくぞぉぉぉっ! 赤組、気合い見せたれぇぇぇっ!!」


剛隆寺先輩の怒号のような声と共に、12人の応援団が力強く駆け出す。


「うおおおおおおっ!!」


ジャージの上から羽織った赤い学ラン。背中に「紅蓮」の文字が大書された法被。手には赤組カラーの扇子とメガホン、そして高く掲げた応援旗。


その中心に立つのは団長剛隆寺先輩。


「みんなの想い、ひとつにっ!! 赤組、全力ファイオォォーーーッ!!」


振り上げる拳。そろったステップ。太陽の光を受けて、汗に濡れた頬がキラリと輝く。


練習の成果を発揮するように、周囲の応援団も揃って一糸乱れぬ動きを見せる。

「ファイ!」「オーッ!」とリズムよく響く掛け声と振り付けは、観客の心をひとつに繋ぐ。


「赤は情熱ッ! 赤は勇気ッ! みんなの想いを、力に変えるッ!!」


全員で一斉にポーズを決めると、観客席から大きな拍手が巻き起こった。

中には感極まって涙ぐむ保護者の姿もあり、教員席の教師等もにこやかに頷いていた。


各色の応援団によるパフォーマンスに続き、各クラスによるパフォーマンスが始まった。


1年生は可愛らしい振付ダンスやエンタメに特化した笑いを誘う寸劇等を発表し、次はいよいよ満を持してあかりたち2年A組が登場する。


曲は、ポップで明るい地下アイドルソング『キラめき☆ミラクル・ステップ』


本家のアイドル達が踊る物とは違う、初心者でも踊りやすくアレンジしたステップとフォーメーションが目まぐるしく入れ替わるハイテンションダンスだ。


「いっくよーっ!せーのっ!」


センターのあかりを筆頭に、クラスメイトたちが笑顔で踊る。

あまりダンスは……と乗り気ではなかったアリサだったが、あかりの動きを癖まで完全コピーして踊るも、表情だけは真顔。

それに気付いてしまった他のクラスの生徒が何人か吹き出してしまう。


みちるは照れながらも、しっかりとステップを刻む。ふと視線を上げると、祖父母と目が合い、少しだけはにかんで笑った。


ダンスが得意な人も、苦手な人も。みんなが一生懸命に頑張って、ちょっとくらい失敗しても、誰かがそっとフォローしてくれて、そして楽しく笑い合う。

キラキラして、ちょっと恥ずかしくって。かけがえのないこの時間、この瞬間……それは。


――青春のひとかけら。



誰もが微笑み、汗を流しながら声援を送り、手を叩く。——そのときだった。


 


空気が一瞬で凍った。


スピーカーから鳴り響いていた音楽が鳴りやむ。


いや違う……奪われた。


「っ……これは……!?」


晴れていた空に赤黒い雲が沸き立ち、周囲を赤黒い霧に包んでいく。


異常事態になのに異様なまで静かな生徒と大人達。そんな彼等の目は、いつの間にかグラウンドの中央に立つ、体育祭には似つかわしくない優美なドレスを纏う女性へと向けられていた。


その女性は、深紅のバラの描かれた紫のドレスを纏ったミーザリアだ。



舞台の開演挨拶のように、ドレスの裾を持ち優雅にカーテシーをして、妖艶に微笑む。


「青春の輝きに誘われて、つい遊びに来てしまったわ。……でもご安心を。今日は、ほんの軽い前奏曲よ」


くすりと笑いながら、どす黒い輝きを見せるミュートジェムへ軽く口付けをすると、空へと放り投げた。


「いらっしゃい、ワルイゾー」


鈍く輝いたミュートジェムより、奪ったポジティブエネルギーを反転させ怪物が召喚される。

その姿は学ランにハチマキを巻き、両手にはバチを持つ和太鼓の身体のワルイゾーだった。


「ワルイゾオオオオオォッ!!」



それぞれの応援席から飛び出してワルイゾーの前に対峙したあかり達は、ポケットからブレッシング・パクトを取り出す。


「みんなっ!いくよっ!!」


「うん!」

「ええ!」



あかり、みちる、あおいが同時にブレッシング・パクトを掲げる。


「「ブレッシング・チェンジ!!」」


舞い散る光の羽根、魔法陣、音符の煌きが三人を包み込み、その姿を変えていく。



「響け、祝福の音色!一緒に紡ぐ想いのメロディ―!」


「愛の旋律、届けます!メロリィ・エンジェル!」




「瞬け、希望の星々!想いを重ねる星座の煌めき!」


「夜空を照らす未来の光!メロリィ・エストレア!」



「灯せ、情熱の誓い!闇夜を切り裂く暁の旭光!」


「光満ちる太陽の煌めき!メロリィ・ソラリス!」




「せーのっ!」

「「輝き奏でる祝福の調べ!ブレッシング・ノーツ!!」」



挿絵(By みてみん)





祝福の音符の戦士達、ブレッシング・ノーツが光輝きながら戦場へと舞い降りた。



アイキャッチからの一旦CMへ……。


ちょっと長くなってしまったので、前編後編で分けさせていただきました。

後編も既に書き進んでいるので近日中には投稿致します!


次回もお楽しみに!

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