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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第三楽章 恋と青春と友情と!
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この光、誰かを守るために!

守られるだけじゃない、自分も誰かを守りたい……。そんな決意を胸に温かな七色の輝きに包まれ、メロリィ・ソラリスが極寒の地となった戦場へと舞い降りた。


燃えるような紅の髪が風にたなびき、胸元の太陽を模したブローチが微かに脈打つように輝いている。


静かにワルイゾーとミーザリアへ視線を注ぐソラリスに、冷気を口から漏らし続けるワルイゾーは喉の奥で呻くように声を漏らした。


「ワルイゾ……」


凍てつく霧が視界を歪ませ、辺りの空気は氷の膜で覆われたかのように冷たく重い。


しかし、その中に立つ少女の瞳には迷いがなかった。

だが……震えがなかったわけではない。でもその身に灯された光が、確かに彼女の心を支えていた。


「……っ、ふぅ……」


深く、静かに息を吐く。

緊張を押し殺すように、肺の奥から吐き出すその呼気さえ、白く凍る。


自分でも信じられないくらい、身体は冷静だった。

けれど、心の奥では、いくつもの想いが渦巻いていた。


 


あの時、もしアリサが庇ってくれなかったら。


あの時、自分がもっと早く動けていたら。


……守られてばかりいた私に、戦う資格なんてあるの?


思考の底から浮かび上がる不安を、ソラリスはそっと指先で握りつぶすように拳を固めた。

それらの想いは、もう、かつての楠みちるのものだ。


今はもう、自分を縛らせない。


それを教えてくれた仲間達がいたから。

それを抱きしめてくれた、あの声があったから。


だから今、立っていられる。


「メロリィ・ソラリス……ね。ふふ、良い名じゃない」


静かにミーザリアが口を開いた。

冷えた風の中、鈴の音のように響くその声が、空気にさらなる緊張をもたらす。


「でも、太陽の輝きだなんて……ずっと守られてばっかりのお嬢さんには、名前負けしちゃいそうだけど……?」


冷たい微笑とともに、細身のマイクをそっと構え、背後にスピーカーを出現させる。

その瞳にはただ……興味、未知への関心だけが浮かんでいた。


ソラリスが、ゆっくりと歩を進める。


ギシッ……ギシィ……と霜や氷で覆われた地面が、靴音と共に軋む。


「みんなを守るって、決めたから。だから、あなたなんかには負けない……!」


その言葉には、自分自身を鼓舞する力が込められていた。

不安も恐怖も、ほんの少し残っている。


けれど、それ以上に強くあったのは……誰かの笑顔を守りたい。という気持ちだった。


「ふぅん……それが、貴女の答えなのね」


ミーザリアの声が凍りついた空気を優しく撫でるように流れる。


「なら、試させてもらうわ。ソラリスという音色がどこまで響くか」



瞬間――。


「ワルイゾォォォッ!!」


ワルイゾーが咆哮し、両腕から次々と氷塊を生み出しては投げ付け、避けるソラリスの行く手を阻むかのように、氷の牢獄を作り出していた。


それに合わせてミーザリアも歌声をスピーカー型の魔法具で増幅させ、強烈な魅了・幻覚の世界へと誘う。


前回、ミーザリアの歌への耐性があると分かったソラリスをしても、増幅された歌声は脳裏を揺さぶり、存在しないはずの幻覚を次々と生み出す。


しかし、ソラリスはぐっと歯を食いしばり、自らの頬を強く張った。

口の中が切れたのか舌に血の味を覚え、それに合わせてじんじんと頬にしっかりとした痛みを感じる。


じわ……と涙が滲むも、自分を襲う幻覚は立ち消え、今まさに放たれたワルイゾーの氷塊を跳躍し避ける。


「へぇ……もう正気に戻ったの。……やっぱり厄介ね」


ミーザリアはさらに歌い続け、すぐに幻覚効果を植え付ける事は出来なくても、じわりじわりとソラリスの正気度を削っていく。


耳を塞いでも手をすり抜けて聞こえてしまう歌に集中力を乱されながらも、飛来する氷塊に直撃する事なくワルイゾーへの距離を狭めていくソラリス。


だが距離を詰めるにつれ、ワルイゾーの近くに完全に全身を氷に覆われて氷像と化してしまった、エンジェルとエストレアの姿を見つけてしまう。


今はワルイゾーも二人は戦闘不能とみなしているのか、これ以上の攻撃を加える様子はない。だが人質として二人を狙われたら……。



「……エンジェルとエストレアを助けなきゃ!」



右手に握る短槍に魔力を込めると、赫灼たる光明を纏い、更には真夏の太陽を思わせる熱を帯びた。


思い浮かぶままに、短槍を投げ放つ。狙うは、氷漬けとなった二人の傍ら。


紅蓮に輝くその穂先は、氷もアスファルトも豆腐のように貫いて……深く、突き刺さった。


その刹那、突き立った槍を中心に地面の氷が解け、完全に凍り付いていた二人を覆っていた氷も瞬時に溶かしていく。


「うわっ、あっつぅ!?」

「……でも助かった!」


二人が氷から解放され、よろめきながらも立ち上がった。


「エンジェル!エストレア!無理はしないで下がって!このワルイゾーには私が一番相性が良い!」


次々と放たれる氷塊を軽々と躱し、ワルイゾーの懐へと距離を詰めると、渾身の力を込めて拳をワルイゾーの腹部へと振りぬくが、金属の腕に阻まれてワルイゾーの巨躯を後ずさりさせるだけに留まる。


「ソラリス!私もっ……ッ!」


エンジェルが追撃を狙おうと、氷の解けた大地へとしっかり足を付けて地面を力強く蹴り出そうと姿勢を取るも、短時間とはいえ氷像と化していたエンジェルの体力はもう既に僅かで、ふらつきながら膝をついてしまう。


「エンジェル!ソラリスが無理しないでって言ってたでしょ?」


すぐにエストレアが駆け寄り、倒れそうなエンジェルの肩を抱くようにして支える。


「うぅ……悔しいけど、ソラリスに任せるしかないか……」


悔し気な表情を浮かべ、果敢にワルイゾーを攻めるソラリスを応援するように見つめる。



一方的に攻撃を受け続けていたワルイゾーは咆哮を上げると共に、足元へと冷気ブレスを放ち、ソラリスの攻撃の余波で溶けた地面の氷を再び張り直す。


そしてそのまま、冷気ブレスを避ける為に距離を取ったソラリスへと轟音を響かせながら突進を仕掛けてきた。


地面を砕きながら突撃してくる重機のような巨躯に、ソラリスの瞳が一瞬見開かれる。


「来た……ッ!」


反射的に跳躍。

ほんの数秒前まで彼女がいた場所を、アイスヘラの手が薙ぎ払うように通り過ぎ、空振った先にあった店の壁を粉々に砕いていく。


粉砕された壁の破片が宙を舞い、氷片と共に辺りへ降り注いだ。


「大きいくせに速いじゃないの……!」


跳び退いた先にも追撃の氷塊が飛来するが、落ち着いて危なげなく回避する。


エンジェルとエストレアは助けられたが、数的不利は変わらない。それでも不思議と心は沈まなかった。

それどころか、ソラリスは不敵な笑みを浮かべていた。


「何よ……何だか燃えてきたじゃない……っ!」


そんなソラリスの表情を、エンジェルとエストレアが……そしてさらに離れた位置からアリサが見つめていた。


「あれが……ソラリスの力……」


「初めてなのに……やるね。さすがだよ」


「……………みちる」



アリサは左手で握り締め治療していた右腕を離す。みちるを庇った際に氷塊が右腕から直撃し、寸でのところで防御魔法が間に合い肉体が四散せずに済んだものの、衝撃は殺しきれず。


みちるに破片が飛ばないよう無理に角度を付けていなした為、受けた衝撃により意識が朦朧とし、右腕の骨も筋肉もぐちゃぐちゃになっていたのだ。


水蒸気による目隠しがあったおかげでみちるにショッキングな姿を見せずに済み、無事の応答を済ませた後、意識が落ちていた。





ワルイゾーが凍らせてはソラリスが溶かし、振り払われては接近し、時々良い一撃がワルイゾーのワッフルコーンの身体へと突き刺さり、一部に亀裂を走らせる。

ソラリスの目は金色に輝き、攻撃の際に纏わせる炎の火力は段々と上昇していた。



「ッ……!」


突然の頭痛。ミーザリアの歌による幻覚に身体が抗っているのか、僅かに攻撃の手が緩む。

その隙を逃さんとワルイゾーは滅茶苦茶に暴れまわり、インファイトを続けるソラリスを強引に引き離す。


「ワァァルゥゥゥイッ!!」


ソラリスが跳躍して振り回される腕を避け、着地してから再び接近戦に持ち込む前に、ワルイゾーは大きく息を吸い込み、冷気ブレスを放つ姿勢を取った。


「……エンジェルッ!!槍をソラリスにッ!!!」


氷に覆われる冷たき戦場に、今まで誰も聞いたことのないアリサの大声が響く。

聞こえたその声に従い、エンジェルは自分達のすぐそばで地面に突き立ったままの短槍を引き抜き、ソラリスへ向けて投げる。


「ゾオオオオオオッ!!!」


ワルイゾーの起死回生を狙った冷気ブレス。極寒の吹雪染みたそのブレスに当てられたものは悉く凍り付き深い氷の牢獄へと閉じ込められていくだろう。

その矛先がソラリスに。更にその背後で膝を突き動けないままのエンジェル達を射線上に捉えていた。


それがワルイゾーから放たれたその瞬間、ソラリスはエンジェルから投げられた短槍をしっかりとキャッチした。


「ありがとうエンジェル!……これ以上はやらせないっ!」


エンジェルとエストレアを庇うように、一歩も退かない覚悟を胸にその場でしっかりと立ち、身の毛もよだつような悪意の冷気が迫る中、ソラリスの両瞳が細められる。


少し振り向いた視界の端で、二人の姿が映る。

自分の(チカラ)で助けた、守りたい仲間たち。

彼女達の命を、ここで絶対に奪わせてなるものか。


「私が――守るって、決めたんだから!」


その瞬間だった。

胸元の太陽のブローチ、それの中央に埋め込まれているブレッシング・パクトがまばゆく閃き、

彼女の右手に握られた短槍が、真紅の光に包まれて脈動を始める。


まるで心臓の鼓動のように、力強く。


ブローチの輝きが槍へと集い、紅炎の渦が穂先を包み込む。

魔力が溢れ、迸る。

その熱に、周囲の霧も氷もかき消されていく。


「この光は……誰かを、守るためにあるッ!!」


叫ぶと同時に、ソラリスは槍を振りかぶる。

紅蓮の輝きはついに太陽のごとき閃光となり、炎を纏って回転し始めた。


「――ソル・フレアノヴァ!!」


右腕を振り抜くように、全力で槍を投擲する。


その軌道はまさしく、天より降り注ぎ給う光芒の如し。


その一閃は吹雪の如き冷気ブレスを容易く正面から切り裂き、溶かし、ワルイゾーの頭部へと正確無比に突き刺さる。


「……まずいわ!?」


ミーザリアが声を発した、その刹那。


爆発――だが、戦場を焼き尽くすようなものではなく、一点集中の爆砕熱波。

ワルイゾーの頭部のジェラートが消滅し、コーンの装甲にも深い亀裂が走る。

黒煙と焦げた甘苦いアイスの香りが漂い、ワルイゾーは力なくその場に膝をついた。



ソラリスは確認の為に、微動だにしないワルイゾーへと近付いていくが、()()を失ったワルイゾーは時々身体をびくっと動かすだけで、攻撃することも暴れ出すこともなかった。


「ソラリス……!まだ、終わってないよっ!」


静かな……。溶けた氷が水となり滴る程度の僅かな音しか聞こえていなかった戦場に、エンジェルの声が響く。



……そうだ、その通りだ。ワルイゾーはただ力だけで倒せば良いわけじゃない。


ソラリスはそっと、胸元のブレッシング・パクトに手を当てた。

温かな脈動が、まるで答えるように掌に伝わってくる。


「この光は……この力は壊すためのものじゃない。救うためのもの……」


彼女の呟きと同時に、パクトがふわりと淡く輝いた。

それはまるで彼女の決意に呼応するように、輝きを強めていく。


そして空気が、ゆっくりと変わっていく。

戦場に漂っていた冷気が和らぎ始め、足元の霜が溶けて水へと還る。


その中心に立つソラリスの足元に、金と紅を織り交ぜた魔法陣が浮かび上がる。


やがてパクトの輝きが一際強くなり、思わず目を閉じてしまう。次に目を開けた時にはソラリスの目の前に輝くバイオリンが静かに浮きながら姿を現していた。


それは木目の温もりを感じさせながらも、どこか神秘的な輝きを湛えていた。

ボディは白銀と紅のグラデーションで彩られ、太陽を模した紋章が刻まれている。

弦は光を通すような透明な素材でできており、弓には赤く煌めく魔力の粒子が漂っていた。


ソラリスはそっとそれを受け取り、胸元に抱くようにして一歩前へ進む。

その動作は、静謐で美しかった。

まるで朝焼けの空に溶け込む鳥の羽音のように、慎ましく、凛としていた。


ソラリスは目を閉じ、脳裏に流れ込む情報に身を任せ、そっと演奏の構えを取る。

みちるとしてもバイオリンは幼い頃に習っていた為、その姿勢は自然で、程よく力が抜けていた。


風が、そっと頬を撫でる。


そして、弓を静かに弾き、ラの音からチューニングを始める。


だがさすがは魔法の楽器と言うべきか、弦は緩む事無く音のズレも無く、完璧な状態でソラリスを迎えていた。


「闇に捕らわれた心。私は……それを放ってはおけないわ。この光はきっと、あなたにも届くはず」


魔法の楽器により導かれるようにして弓を操る。

楽譜も何もない。脳裏に浮かび、手が自然と動き即興で紡がれるメロディー。

それはまだ誰も知らない曲だったが、深く響く音だった。

水面に落ちる雫のように、静かで優しい。

だがその一音が、大地を、空を、空気を震わせていく。


響きはゆっくりと広がり、朝の陽射しのように戦場全体へと満ちていく。

赤黒く染まった空が、淡く金色に変わっていく。


闇夜からの夜明け――そう、これは確かに始まりの光だった。


「導きの旋律。サンライズ・ルミナ・プレリュード」



挿絵(By みてみん)



ソラリスの声が、旋律と共に空へ溶けていく。


彼女の奏でる音色に合わせて、魔法陣が回転を始める。

地面を伝って紅と金の光が走り、周囲の凍てついた瓦礫を優しく照らしていく。


ワルイゾーの身体にも、その光が届いた。


ワッフルコーンの装甲に刻まれていた亀裂が共鳴するように輝き、そこから黒い靄のようなものがふわりと浮かび上がる。


「ワルイ……ゾオ……」


声にならないうめき声が漏れる。

もう怒りや破壊の感情ではなかった。

怯え、哀しみ、苦しみ――そんなものがにじみ出ていた。


ソラリスは目を細める。

その音に込められていたのは、ただひとつ。


「……大丈夫、もう怖くないよ」


彼女の言葉が、バイオリンの音と重なり、優しくワルイゾーの心へと染み込んでいく。


紅蓮の旋律が夜の帳を払い、金色の光が大地を抱擁する。

太陽の柔らかな輝きがすべてを包み込み、そっとほどいていく。


やがて、旋律がゆるやかに終わりへと向かうにつれて、ワルイゾーの身体を包む黒い瘴気が完全に剥がれ落ち、装甲が崩れ、その姿が薄くなり、日の光に導かれるように消えていった。


後に残されるのは重力に逆らうように、ふわりと空中に浮かび上がる光の粒。

ハーモニック・ジュエルだ。



ソラリスは弓を降ろし、深く息をついた。

肩の力が抜け、彼女の中にも安らぎが広がっていく。


戦場に訪れた静寂。

冷たさはもうなかった。

ただ、朝の陽だまりのような、あたたかな光がそこにあった。


「……ありがとう」


ソラリスは静かに呟いた。

救われたのは、きっと敵だけではない。

彼女自身もまた、あの旋律によって――誰かを守るという光に包まれていたのだ。



ワルイゾーが浄化されると共に、滅茶苦茶に破壊された店や住宅が金色の輝きに包まれて元通りになっていく。


そして、残されたのはエンジェル達ブレッシングノーツの三人とアリサ。そして形勢が逆転して一人残されたミーザリアだ。


「メロリィ・ソラリス……。あなたの熱意、想い。見事なものだったわ。拍手してあげる」


それでもなお、余裕の表情は崩さない。言葉通りパチパチと拍手の音が響き、ソラリスは怪訝そうな顔でミーザリアを見つめる。


「今回はこれで退いてあげる。次は……もっと苦しめてあげるから楽しみにしていなさい?」


妖艶な笑みを浮かべ、投げキッスを残して次元の穴を開き、消えていく。


ようやく空の赤黒い雲も、一度ソラリスに消し飛ばされたはずだったが、いつの間にかまた周囲を漂っていた赤黒い霧も立ち消え、少し傾いた日差しが少女達を照らした。


「……っと、そうだ。みんなの記憶も癒してあげないとね」


そう言うとソラリスは再びバイオリンを構え直し、脳裏に流れ込む言葉と旋律を奏で始める。


「——メモリア・エンブレイス」


彼女の足元から光の円環が広がり、まるで陽だまりのカーテンのように周囲を包み込む。


奏でられる旋律に、人々の記憶に残っていた怪物の影や恐怖の痕跡が穏やかな眠りの中で、春の雪解けのようにゆっくりとほどけていく。


どこか懐かしいような、思わず涙が滲みそうになる旋律が、風に乗って響く。


アリサは、少し離れた場所からその光景を静かに見守る。


「……」


一瞬、彼女の右腕が疼く。だがその痛みすら、音色に乗せられたソラリスの想いに和らいでいくようだった。


エンジェルとエストレアもそっと息を吐き、まるで夜明けの日の光に包まれるように目を細めて見つめている。


「これで……もう、大丈夫」


長い長い悪夢の夜が明け、優しき朝が来たかのような光の余韻だけが、そこに残っていた。




———————————————————————————————————




午後の陽が傾き始めた帰り道。


戦場となった住宅街は、何事もなかったかのように静寂を取り戻していた。


巻き込まれてしまった人々の記憶は『メモリア・エンブレイス』によってやわらかく包まれ、まるで何事もなかったかのように、日常に戻っていく。



そんな静かな住宅街を、少しずつ西へ傾いていく陽を背に、四人の少女たちが連れ立って歩いていた。


「うぅ……情けないよぉ……せっかくみちるちゃんに助けてもらったのに何もできなかったー!」


あかりが頬を膨らませながら、ふらふら歩きつつも、みちるをちらちらと見ている。


「まあまあ。あかりがいつも最前線で戦っているのを見ていたから、初陣でもみちるが動けたのよ」


あおいは落ち着いた口調で言いながらも、みちるを見ながらいつになく口角が緩ませていた。


「そ、そんな……私はただ夢中でやっていただけで……!」


みちるが慌てて両手を振って目を伏せる。


「うん。でも夢中だったとしても、誰かを守るためにって、ちゃんとその想いが届いてた。……だから、みちるちゃんはとっても偉いよっ!」


そういいながらあかりがみちるの右肩へと抱き着く。


「そ、そうかな……!」


みちるの瞳が、瞬きとともに潤んだ光を宿す。


あおいとアリサも立ち止まり、あおいはみちる左肩から、アリサは背後から、そっとみちるを抱きしめる。


「ピ!ソラシーも!」


ソラシーもみちるの頭へと着地し、羽を広げて彼女の頭をなでるように抱きついた。


「メロリィ・ソラリス、正式加入だねっ!」


「ふふ……改めてようこそ、ブレッシングノーツへ」


「…………うんっ!」


みちるは目を閉じて小さく深呼吸し、両腕と背中、そして頭上からも感じる温もりの心地良さに胸がトクンっと高鳴る。


「……ありがと……みんながいたから。私……怖くなかったよ。みんながいてくれて……良かった」


そう小さく呟いたその声に、あかりはきゅーんと顔を赤くしてより一層みちるを強く抱き締める。


「そ、それずるいよぉぉぉ!!みちるちゃん大好きだよぉーっ!!」


「あはは、あかりらしいね。じゃあ私も」

あおいがやれやれといった表情で肩をすくめながらも、便乗してぎゅっと身体を寄せる。


「ソラリス、かっこよかったソラ~!ピィィ~!」


「ふふっ……本当にありがとね、みんな」




ほんの一瞬、遠くの空にきらめく流星が走った。

まるで、新たな希望の星が昇ったことを、誰かが祝福してくれたかのように。

5月の終わり、初夏の陽射しがきらきら眩しい頃。

私たちの学校では、もうすぐ体育祭なんだって!


クラスはリレーやダンスの練習で毎日バタバタ……でも、なんだか楽しそう♪


満場一致でリレーのアンカーに選ばれたのは――アリサちゃん!?

ひなたちゃんとハヤトくんの関係も、なんだかドレミってきてるし……!?


うんうんっ!これは絶対に楽しくなりそうな予感っ!


次回、「友情全開っ☆体育祭へ一直線!」

新しいハーモニー、始まるよっ♪



日曜日に何とか間に合った……次回もお楽しみに!

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