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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第三楽章 恋と青春と友情と!
35/88

焦がれて、揺れて、届く光

日本が予言通り滅亡しなかったので無事投稿です。


それではどうぞ!

「それでは、お休みなさい」


楠夫妻に就寝の挨拶をし、自室の天井裏部屋へと戻って梯子を回収しようとハッチから下を覗き込んだ時、みちるが立っているのが見えた。


「アリサ、ちょっと……いいかしら?」


みちるはパジャマ姿のまま、もじもじとパジャマの裾をいじっていたが、どこか決意を秘めたような眼差しになり、アリサを真っ直ぐと見つめた。


「……梯子は揺れるので、お気をつけて」


そっと彼女に手を貸して部屋に招き入れる。




室内には最低限の淡い照明が灯され、換気の為に開けられた窓からは、少し湿った生暖かい風が吹きカーテンをゆらゆらと揺らしている。

机の上は整理整頓され、明日の月曜日の時間割通りのノートと教科書が並べられている。

……そして、ベッドの枕元にはみちるがプレゼントした桜の刺繍のテディーベアと、クレーンゲームでゲットした茶色のクマのぬいぐるみが寄り添うように置かれていた。


「……ふふ」


毛並みのせいか、テディーベアの目がアリサのように無表情染みていて思わず笑みが零れてしまう。

そしてよく見ていると茶色のクマの首にも赤いリボンが巻かれている。……みちるを模した物なのだろうか。


みちるがアリサの部屋を見回している間にも、アリサは梯子を上げてハッチを閉め終えていた。


「ごめんね、こんな時間に。……でも、今夜はどうしても、アリサに話したいことがあるの」


「いえ、構いません。……どうぞベッドに座って下さい。


アリサに促され、みちるはベッドの端に腰かけると、両手を膝の上に乗せてぎゅっと指を絡める。ほんの少しだけ震えているのが、アリサにはわかった。


「……私ね、明日……あかりとあおいにも話そうと思ってる事があるの。でもその前に……」


言いかけて、目を伏せる。思い出すのは幼い頃のあの炎。自分の中にある、制御できない力への恐怖。


「これは、冗談でも嘘でもない本当の事。……私が、魔法使いであることを……アリサには先に、ちゃんと伝えておきたかったの」


アリサの瞳が静かに揺れる。そのまま、言葉を挟まずに彼女の次の言葉を待っていた。


「私、昔……とても酷い事をしてしまったの。まだ幼くて、自分の感情を抑えきれなくて。あの日、初めて魔力の暴走が起きたの。……突然蜘蛛を目の前に突き付けられて、私……怖くって、どうしても抑えきれなくなって……それで、周囲を……」


言葉が途切れた。


アリサはそっとみちるの隣に腰掛け、彼女の固く握り締められた震える手に軽く手を添える。


「……私は、怖かった。あの力がまた暴れたら、きっと私は誰かを傷付けてしまう。せっかくできた友達も、私を……」


涙がこぼれる寸前で、アリサの手が彼女の手をしっかりと包んだ。


「……私も、みちるに謝らなければならない事があります。……私は実は知っていました。あなたが常人とは異なる()()という力を持っていることも、その力を完全に操れずに恐れていることも。……マダムから、聞いていました」


「……!」


「でも、私は何も恐れていません。だって、何があってもみちるの傍にいると誓いましたから。みちるが自分自身を孤独に追い込む事で、親しい誰かを傷付けないようにする選択を取った勇気も、感情が揺れ動き、いつ暴発するか分からない魔法の力に怯えながらも、誰かを守ろうと行動してきた事を、みちるは誇るべきです」


その言葉に、みちるの瞳が揺れる。押し込めていた涙が、ぽたりと手の上に落ちた。


「そっか……そうだったんだ……アリサ……ありがとう……」


「みちるは、もう一人ではありません。私もいます。あかりも、あおいも。私達は、みちるのことを誰も化け物だなんて思いません」


「うん……うん……!」


静かな部屋の中で、二人は寄り添うように肩を並べて座っていた。時刻は深夜、もう既に日付も越え、窓の外では星の瞬きが深い夜空に広がっている。


やがて、みちるがそっと横に座るアリサの肩へと頭を乗せ、体重を預ける。


「……アリサって、本当に不思議な人ね。まるで、私の心の中まで見えているみたい」


「それはどうでしょう。マダムの専門分野では?」


「ふふっ……実は私も、ほんのちょっぴり使えるのよ。見通しの魔法……本当にちょっぴりだから、深くまでは潜れないけど」


涙をぬぐったその笑顔は、いつかの写真に映っていたものと同じように、穏やかで、優しいものだった。

それが、今はアリサ一人へと向けられていた。


そっと、優しくアリサはみちるの頭を撫でる。


「……明日の皆への告白、きっと大丈夫です。あかり達なら二つ返事で受け入れてくれますよ」」


「ん……。うん……ちゃんと、自分の言葉で伝えてくる」


大人しく撫でられているみちるの頬は、薄暗い部屋の照明の中でも分かるくらい赤く染まり、じっとアリサの目を見つめる瞳も潤んでいた。



「……あ、あの……アリサ?……これは私のワガママだから。嫌なら……嫌って言ってくれていい。その上でお願いがあるの」


「……?」


「……。……あ、の……。今日、一緒に寝ても……良い?」


みちるが勇気を振り絞って、やっと絞り出すかのように微かで、消えゆくような小さな声でのお願いだったが、アリサにはバッチリ聞こえていた。

むしろそんな事で良いのかとあっさりと受け入れ、ベッドから立ち上がった。


「はい、もう夜も遅いですし。……少々狭いかもしれませんが、よろしいでしょうか」


ダメ元のお願いが、あっさり了承されるとは思っていなかったみちるは、慌てて首を縦にブンブンと振る。


「だ、大丈夫……それくらい、全然平気よ!」


そう言っても、内心はもう心臓が跳ね上がるほど緊張している。けれど、それでも今日は――この夜だけは、どうしてもアリサのそばにいたかった。


布団の端を少しだけ持ち上げて、みちるは遠慮がちにベッドへと潜り込む。

アリサも部屋の明かりを落とし、反対側からそっと横になり、カーテン越しの月明かりが二人の顔を優しく照らした。



しばらくお互いに無言の時間が続き、時々みちるがもぞもぞと動く衣擦れの音と、静かな呼吸音だけが屋根裏部屋を満たしていた。


「……アリサ、あの……手、握ってもいいかしら」


「……はい。どうぞ」


みちるの手がアリサの手を探り、そっと触れる。そしてそのまま、ぎゅっと握り返された。


「……ありがとう。なんだか、すごく安心する……」


「……私もです。……不思議ですね」


囁くような声で交わされる小さな言葉たちは、やがて眠気に溶けていく。


みちるはゆっくりと目を閉じ、左手に感じる柔らかく滑らかなアリサの手の温もりを、自分が眠りに落ちるその瞬間まで感じていたいと、ほんの少しだけ握る力を強めた。


うるさいくらいにドクンドクンと脈打つ鼓動を、ベッド越しに隣のアリサに気付かれてしまわないだろうか。

緊張して出てしまっているだろう手汗は気持ち悪くないだろうか。


そんな不安から、目は瞑っているものの、眠りに落ちる瞬間が中々やってこない。


「……アリサ、まだ起きてる?」


「……はい、起きていますよ」


返ってきた声に、どこかホッとしたようにみちるは微かに笑った。

そしてちょっぴり、意地悪な質問をしてみようと小声で囁いてみた。


「……ねえ、アリサ。もしも……もしもよ?私が誰かを好きになって、想いを伝えて……恋が実ったら。その時は……ちゃんと笑って、祝福してくれる?」


「もちろんです。……でも、少しだけ……妬けてしまうかもしれません」


「えっ……!?」


みちるの目がバチっと開かれ、ぱちくりと瞬いた瞬間、頬がふわっと赤く染まっていく。


「い、今の、どういう意味……」


「さぁ……どうでしょう。分からないですね」


口調こそいつもと変わらないままのアリサだったが、その口元には間違いなく笑みが浮かんでいた。


「もうっ……!」


ぷいっと顔を背けるみちる。でもその唇の端は、きゅっと上がっていた。


「……ねぇ、アリサ」


「……何でしょう」


「こうして手、繋いだまま眠るの……悪くないかもね」


「私も、そう思います」


ぎゅっと、少しだけ手を握り直す。


その温もりに包まれて、みちるは再びそっと目を閉じ、深呼吸をした。


「……さっきの、好きな人の話だけど……。まだ好きっていうより……気になってる人はいるの。……ううん、でも……やっぱり好き……なの……かな……」


「……驚きました、まさか本当に……?」


だが、もうみちるからの返事はなかった。

静かにすうすうと寝息を立て始めたのを聞き、横目でみちるの寝顔をちらりと見てから天井へと視線を戻した。


アリサは静かに目を閉じ、彼女の眠りを感じながら、繋いだままの手をもう一度優しく握り返す。


まるで、その想いを大切に包み込むように。


屋根裏の小さな部屋、並んで眠る二人の間には、誰にも邪魔されない時間が流れていた。


そしてその夜が、明日を少しだけ、優しく変えてくれるような……そんな気が、していた。


「おやすみなさい、みちる」


――夜が明けるまで、二人の手はそっと繋がれたまま。


もう、孤独ではない。


想いを分け合い、寄り添い合う静かな夜は、静かに穏やかに過ぎて行った。




———————————————————————————————————




翌朝、機械仕掛けのようにピタリと同じ時間に目覚めたアリサは、いつも通りに起き上がり、動きを止める。

右手が未だにしっかりとみちるに握られたままだったのだ。


ナノマシンにより網膜に投影された時刻は6時。まだ余裕はあると、眠るみちるの顔を寄り添いながら眺めてみる。


一般的な女子に比べると整った顔立ち。いつもは人を必要以上に寄せ付けないように、わざと冷たい印象を持たれるような表情を浮かべているが、眠っている時やあかり達の前にいる時に見せる柔らかな表情は年相応のあどけない少女のものだった。


「……」


それから数分が過ぎた頃、みちるの長いまつ毛が揺れ、眠たげに瞼がゆっくりと半分開けられる。


「んん……ん……あれ……アリサ……?」


「……おはようございます、みちる。今日も良い天気です」


「うん……おはよー……。お……?んんんっ……!?」


バチッとみちるの目が見開かれ、ボッと音が聞こえるくらいの勢いで顔が真っ赤に染まる。


「んなっ!なななななっ!!ち、ちかっ……!?はわわあっ!?」


「おっと」


慌てたみちるが離れようと身を引くが、驚きのあまりアリサの手を固く握ったまま後退した為、アリサを引っ張る形で寝返りを打つ事となった。


するとどうなるか。

不意を突かれ手を引っ張られたアリサはバランスを崩し、みちるの上へとのしかかる事を避けようと、みちるへと覆いかぶさる形で受け身を取った。——いわゆる床ドンの体勢である。



挿絵(By みてみん)



「…………」


「…………」


すぐ近くで見つめ合う二人の間に静寂の時間が流れる。聞こえるのはお互いの息遣いと、窓の外から聞こえてくる小鳥たちの鳴き声くらいだった。


「……」


「……?」


至近距離でアリサと目が合ったみちるは、かなり遅れて状況を理解した瞬間。


「ぴぃっ!?」


耳まで真っ赤になり、情けない悲鳴を上げてジタバタと暴れだした。


「あのっみちる……!危険ですっ!」


アリサも慌てて体を起こそうとするが、みちるが思い切りシーツを引っ張ったため、今度は二人してベッドの上でバランスを崩し――


どたんっ!と音を立ててアリサがベッドの下へと落下した。


「ちょっ、あの、アリサごめんなさいっ!わ、わたし、何してるの!?ほんとにもうっ……っ、ああぁぁぁあっ!!」


みちるは布団に顔を突っ伏し、悶絶しながらバタバタと足をばたつかせる。恥ずかしさの極みに達した彼女は、もう目も合わせられなかった。


アリサはというと、落ちた時に打った臀部をさすりながら立ち上がり、軽く咳払い。


「……はい、大丈夫です。ですが、みちる。そろそろ起床時間です。朝食の準備も始まっている頃かと」


「えっ、う、うそ……!? や、やばっ!」


みちるは顔を真っ赤にしたまま跳ね起き、目に入った姿見で、自分の髪が跳ねまくっているのを見てしまう。


「ちょっ、髪!凄い跳ねてる……!?どうしようー!私今日大事な話するって決めてるのにぃぃ!」


アリサはそんな彼女を黙って見つめながら、小さく口元を緩める。


「……今朝のことは、しっかり思い出として残しておきますね」


「やめてぇぇぇぇ!!恥ずかしすぎるぅ!!」


その悲鳴は屋根裏部屋にこだまし、賑やかな一日の始まりを告げた。





———————————————————————————————————





昼休み。いつも通り中庭に集まったあかり達はいつも通りに一緒に食事を取る。


弁当箱を開ける音。ちょっとした雑談の笑い声。紙パックのジュースのストローを指で弾く音。

そのどれもが、いつもと変わらない平和な日常の風景のはずだった。だけど、みちるの胸の奥は、ずっとざわついていた。


「みちるちゃん、これ……おひとついかが?」


差し出されたのは、あかりの手作り弁当のミニ春巻き。揚げたての時はパリパリしていたであろう茶色い皮は、今はしっとりと油を纏い輝いていた。


「ありがとう……ん、美味しいわねこれ」


「でしょー?揚げたのは昨日の夜なんだけど、冷めても美味しいようにってママが手伝ってくれたんだ!」


あかりはそう言って、にっと笑った。

その隣では、あおいが黙々とサンドイッチを食べている。けれど、その目線はさりげなくみちるの方へと向いていて、何か言いたげな様子にも見えた。


みちるは……少しだけ俯いた。


……今、話そうか


今日、伝えると決めたのだ。もう、逃げないって……昨日、アリサと約束した。


でも、いざこの場になると、胸の奥がきゅっと縮こまる。


もし……もしこの瞬間に、あかりとあおいの笑顔が曇ってしまったら?

私を()()って思ったら?

()()使()()という言葉に、拒絶の色を浮かべられたら……?


「……みちるちゃん?」


ふと、視線を上げると、あかりとあおい、そしてアリサまでもが、そっと自分を見ていた。


焦りそうになる心を押しとどめて、みちるは震える声を、ぎゅっと押し出す。


「……あの、ね。お昼休みじゃなくて、放課後……話したいことがあるの。三人に、聞いてほしいこと」


それは、まるで懇願のような響きだった。


あかりが、ぱちりと瞬きしてから微笑む。


「うん、いいよ。じゃあ、帰りにちょっと寄り道しようか」


「放課後……分かったわ」


あおいも静かに頷く。アリサは何も言わない。ただ、みちるの背中にそっと手を置いて、温もりをくれた。


その小さな手が、胸の震えを少しだけ静めてくれる。


うん……ちゃんと話そう。怖くても、もう逃げない。



———————————————————————————————————



放課後のチャイムが鳴ると、校舎の中は帰り支度を始める生徒たちのざわめきに包まれた。


みちるは教科書を鞄に収めながら、ちらりと後方の席のアリサを見る。彼女は既に準備を終えて立ち上がっていた。彼女の瞳が、何も言わずに「行きましょう」と語っている気がした。



不安や緊張を読み取られている。それでも何も言わず、ただ隣にいてくれる。みちるは小さく息を吐き、立ち上がった。


「じゃあ、屋上に行かない? 人も少ないし……静かだから」


あかりが微笑んで提案してくれた。

みちるは少しだけ驚いて、すぐに頷いた。


もしかして、察してくれてるのかな……。


校舎の上階、扉を開けて屋上へ出ると、少し強い湿った風がみちるの長い髪を揺らした。


日も長くなり、まだまだ太陽も高い位置にいて少し眩しい。

フェンス越しに見える栄えた街並みのビルにも日差しが反射し、遠くに覗く海も、きらきらと光を反射していた。



ブレッシング・リンクであおいも屋上へと呼び出し、みちる・あかり・あおい、そしてアリサの四人が集合した。


今はこの四人以外誰もいないが、時々この屋上も吹奏楽部が練習に来る為、あまりもたもたはしていられない。


静かな時間。心臓の鼓動だけが、耳の奥でドクン、ドクンと鳴っていた。



「……あの、ね」


その言葉を切り出すまで、みちるはどれほどの勇気を振り絞っただろう。


「……今日、こうして時間を作ってもらって、ありがとう。実は……みんなに、ずっと伝えたかったことがあるの。怖くて、言えなかったこと……」


誰も言葉を挟まない。ただ、みちるの言葉を待っている。それが、みちるには何よりも逃げ場を失わせていた。


「私は……普通の人間じゃないの。昔から、他の人にはない不思議な力があって、それをずっと隠して生きてきたの」


「……それは、この前のワルイゾーへ使った力?」


小さくあおいが呟いた。みちるは、はっとして顔を上げると、あおいと目が合った。


「うん……。こんな事言ったら、馬鹿言わないでって言われるかもしれないけど、私は……魔法使いなの」


風が少しだけ強く吹き抜ける。

論より証拠と言わんばかりに、みちるはおもむろに片手をあげ、手のひらを上にして前へと突き出すと、金色に温かく輝く炎を生み出して見せた。



「でも……私はこの力が、ずっと怖かったの。小さい頃、同い年の男の子に悪戯されて、蜘蛛を目の前に突き付けられた時……怖いって感情が爆発して……勝手に力が暴走して……。気が付けば、燃やしてしまった。真っ黒に、消し炭みたいに」


記憶が、痛みと共に胸を締め付ける。


「男の子も、その余波で火傷しちゃって……。私のせいで、これからも誰かを傷付けてしまったらどうしようって、ずっとそう思ってた。怖くて……誰かと深く関わるのが怖くて……。本当のことを話したら、みんな私のこと、怖がるかもしれないって」


唇が震える。目の奥がじわっと熱くなる。


「でもね、みんなと出会って……あかりと、あおいと、アリサと過ごしていくうちに、少しずつ、気持ちが変わってきたの」


このまま隠していたら、いつか自分が大事にしている人を、自分の秘密で傷付けてしまう。


だからこそ、今ここで――。


「私は……それでも、みんなと一緒にいたいの。もしこんな私でも……受け入れてくれるなら、私は……」


言葉が震え、そこで止まってしまう。



一歩、あかりが近づいた。みちるの手を、そっと両手で包み込むように握る。


「受け入れるに決まってるよ、みちるちゃん」


あかりの声は、まっすぐで、揺るがなかった。


「話してくれて、ありがとう。怖かったよね……それでも、私たちに伝えてくれて、本当にありがとう!」


続いてあおいも一歩みちるへと歩み寄り、ふっと小さく笑ってみせる。


「最初は驚いたよ。でも、怖いとかそういうのは全然ないよ。私達だって、メロリィとして不思議な力使っているわけだし。みちるがどれだけ悩んで、どれだけ勇気を出したのか……。早く気付いてあげられなくてごめんね。……魔法があるとかないとか関係なく、私は楠みちるっていう人が好きだよ」


言葉の一つひとつが、胸に染み込んでいく。


「もちろん私もみちるちゃんが大好きだよっ!」


あかりがそう続けて、みちるをぎゅっと抱きしめた。続けてあおいが、アリサも皆でぎゅっと抱き締め合った。


みちるの目から、ぽろりと涙がこぼれた。嬉しくて、心が温かくて、もう何も怖くなかった。


「……みちるは、今ようやく……本当の意味で、仲間になれたんですね」


アリサのその言葉が、静かに優しく響いた。





日がようやく陰りを見せ、空が少しずつ金色に染まり、一緒に連れ添って帰り道を歩く四人の影を伸ばしていた。


みちるはその中で、初めて本当の自分を、隠すことなく自然に笑えている気がしていた。


ありがとう……みんな


心の奥で、そっと呟く。


「……そうだっ!明日はさ、最近急に暑くなってきたしアイス食べに行こうよ。ランニングしていて最近見つけたアイス屋さん、行ってみたいって思ってたんだ」


そんなあかりの一言に、あおいが「ええ、悪くないわね」と返し、みちるも「ふふ……行ってみたいかも」と微笑んだ。


アリサも小さく「賛成です」と頷いて、四人の笑い声が空へと響く。


――焦がれて、揺れて、それでも光る方へと手を伸ばした勇気は、ちゃんと届いた。


それは小さくて、でも確かに心を照らす光。


この日、みちるはもう一度、生まれ変わった。


そして、その笑顔の隣には、いつだって、あの三人がいてくれるのだと思えた。



だが、幸せな時間を過ごす彼女達の知らぬところで、また一つ、不協和音が静かに芽吹こうとしていた。


みちるの想いが届いた放課後。

だけど、ディスコードの静かな影が、またひとつ忍び寄ってきていて……?

次回、メロリィノーツに試される、新たなハーモニー。

「きらめく笑顔と、忍び寄る影」お楽しみにっ!

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