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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第三楽章 恋と青春と友情と!
32/86

みんなでおでかけ♪ゴールデンウィーク!

夜、球技大会の熱気もすっかり落ち着き、あかりは自室のベッドに寝転びながら、スマホを見つめていた。

画面には、今日の球技大会の様子を撮影したクラスメイトたちのSNS投稿が次々に流れてくる。

ひなたの笑顔、アリサのトロフィーを掲げた姿、自分たちの頑張りの軌跡。

少しだけ、胸がくすぐったくなる。


「ふふっ……みんな、がんばったよね……」


ぽつりと呟いて、枕に顔を埋める。──けれどその直後。

左腕につけたままのブレッシング・リンクが振動して、再び顔を上げて画面を確認する。


見れば電話のアイコンが光っており、すぐにタップするとあおいの顔が映し出された。


『ああ、あかりもお疲れ様。こんな時間にごめんね、ちょっと気になることがあって」


「ううん、あおいちゃんも今日はお疲れ様!それで、どうしたの?」


『……今日のワルイゾーとフォルティシモ男爵の事なんだけど』


あおいがちょうど話し始めた時、画面が分割されみちるの顔が映し出された。

風呂上りに通知を見て急いできたのか、まだ髪が濡れていていた。


『ごめん、遅くなっちゃった。まずは二人共お疲れ様ね』


「お疲れ様みちるちゃん!ひょっとしてお風呂上り?」


『ええ、上がって一度部屋に戻ってきたらリンクが光っていたの。髪は後で乾かすから大丈夫よ』


『そっか、みちるもお疲れ様。……ちょうど今話し出した所だからもう一度最初からね。今日のワルイゾーと男爵の件なんだけど……あかりが倒したって事でいいの?』


「えーっと、ワルイゾーを浄化したのは私だけど……体育館の外まで吹き飛ばして弱らせたのってあおいちゃんじゃないの?」


『……私は、まともに戦う前に一撃を食らって気絶していたんだ。みちるも見ていたよね?』


話題を振られたみちるはびくっと肩を震わせ、少々上擦った声で答える。


『え、ええ!……照明が落ちてきて、みんなを守るために受け止めていたらその隙に……って感じよね?』


あおいは間違いないと少し悔しさを浮かべながら頷いた。


「……じゃあ、あのワルイゾーは誰が……?」


『私も……あおいが気絶しちゃって、宮崎さんを連れて体育館の外に逃げちゃって、その現場は見ていないけれど……』


三人の間に沈黙が流れる。あかりはブレッシング・パクトを取りに教室まで戻り不在。あおいはワルイゾーにやられ気絶。みちるはそもそも非戦闘要員。ならば、一体誰がワルイゾーを壁に穴を空けて吹き飛ばした挙句、即浄化できるまで追い詰めたのか。


あかりとあおいが首を傾げながら、うーんと考え込んでいる傍らで、何か思い詰めた顔をしていたみちるが、突如沈黙を破った。


『……一応、言っておこうかしら。私ね……落ちてきた照明から宮崎さんを庇った時、飛び散った破片とかからもアリサが助けてくれたの』


「アリサちゃんが!?」


あかりにとっては未だに謎の多い少女であるアリサ。サッカーの動きを見ている限り常人越えした運動神経を持っているのは何となく分かっていたが、だからといって生身であの巨体を誇るワルイゾーを撃退できるはずがない。


『アリサが撃退したって筋は……うん、ないね。あまりに非現実的過ぎる』


あおいですら首を横へ振った。となると、三人の知らない新たな勢力、敵か味方かはっきりしない()()が助けてくれたと考えるしかない。


「……会ってみたいな、その人と」


そう呟いたあかりに、みちるとあおいが目を見開いて驚愕するような表情を浮かべた。


『危ないよ、間違いなく』


『そ、そうよ……!まだ味方って決まってるわけじゃ……!』


それに対し、あかりは恐怖の色を浮かべるところか逆に笑顔を浮かべていた。


「そうかなぁ~?悪い人なら圧倒的不利な私達側についてくれるなんてしないよ!人質も一杯で、エストレアも気絶して大ピンチだったのに!」


『……』


再び、みちるは何かを考え込むように口元に指を添えて黙り込む。

このままだと時間だけが過ぎ去ってしまうと、あおいが咳払いをして改めて仕切りなおした。


『……とりあえず、今回の姿なき謎の助っ人さんの事は一旦保留にしよう。今後もしその助っ人さんが現れたのなら、協力してもらえるように対話を試みても良いね』


「うんっ!それに賛成!」


『……そうね』


やがて会議は終わり、思っていたより球技大会で身体が疲れていたのか、早々に解散になり、また明日学校で!と別れの挨拶を告げて通話を切った。


「んん~……一体誰なんだろう、謎の助っ人さん……ソラシーは何か感じる事あった?」


クッションで毛繕いをしながら、あかり達の会議が終わるのを待っていたソラシーへと問いかける。


「分からないソラ!……でも、少なくてもソラシーの知る救世主様が持つ魔力とは別物の気がするソラ……」


「そっかぁ~……ソラシーでも分からないか……」



今は謎の助っ人の事は手掛かり無しで正体も目的も全く分からない。──でも、ブレッシング・ノーツとして活躍していれば時間の問題かもしれない。


不安と、新しい仲間への希望。すべてがごちゃ混ぜになって、あかりは布団をぎゅっと抱きしめた。


……明日も、ちゃんと、みんなに会えるかな。明日もドレミった一日になるといいな……。


あっという間に意識が遠ざかっていき、そのまま眠りへと落ちていった。



———————————————————————————————————



翌日、朝の教室は昨日の余韻でまだにぎやかだった。

「3年C組強かったな〜」

「てか、咲良さんマジですごくなかった!?」


いたるところで交わされる会話の中に、自然とあかりも溶け込んでいた。


そして、ホームルームの終わり際。

担任の先生が笑顔で話す。


「さて皆さん、もうすぐゴールデンウィークですね。怪我や事故のないよう、楽しい連休を過ごすように。どこか旅行に行くのなら、どこにも行けない先生にお土産をお願いしたいな」


教師のジョークにふわっとした笑いが教室に広がる。

笑いながらあかりは、もうすぐやってくるゴールデンウィークに胸を躍らせ、ふと一つブレッシングノーツの皆に提案してみたい事を思いついていた。



流れるように時間は過ぎて昼休み。


あかり、あおい、みちる、アリサの4人は並んでお弁当を広げ、いつものようにおかず交換会を開き、ある程度お腹が満たされた所であかりが手を上げて切り出した。

「ねぇ、ゴールデンウィークなんだけどさ!せっかくだから、みんなでどこか遊びに行かない? 買い物でも、カラオケでも、なんでもいいから!」


あおいが目を丸くし、みちるが一瞬困ったような表情を浮かべる。


「……ごめんなさい。連休中、私達お店の手伝いがあるかも。おじい様とおばあ様だけじゃ、回らない時もあって……」


アリサはチラとみちるを見た後、静かにコクコクと頷く。


「謝ることじゃないよ! そっか……うーん……」


「……私、行きたいな」


ぽつりと、でもはっきりと、あおいが言った。


「久しぶりに、ちゃんと遊ぶってこと……してみたいかも」


その言葉に、あかりがぱあっと笑顔になる。


「良かった!じゃああおいちゃんは参加ねっ!」


そして、あかりはみちるとアリサの方にも優しく向き直る。


「みちるちゃんも、もし行けるようになったら……絶対来てほしいな」


みちるは目を伏せ、少しだけ表情を曇らせる。

だが、そのやり取りを静かに見ていたアリサの視線が、僅かに揺れていた。




———————————————————————————————————




その夜、楠家。


「……お願いがあります」


みちるが入浴中、アリサはリビングで寛いでいたマスターとマダムに真っ直ぐに頭を下げた。


「……ゴールデンウィークで忙しいのは理解しています。ですが一日だけ、みちるを休ませていただけませんか。その分私が二人分の働きをします故に……」


マスターとマダムは互いに視線を交わすと、にこやかに笑った。


「アリサさんが頼み事とは、とても珍しいね……もちろんいいとも!」

「アリサちゃんもみちるちゃんも、いつも手伝ってくれていて本当に感謝しているわ。子供は子供らしく遊べるときに遊ぶのが一番なのよ?良かったらアリサちゃんも一日お休みどうかしら?」



「……感謝しますマスター、マダム。しかし、私は午後から参加しますのでそれまではお店の方を手伝わせていただきます」


もう一度、深く頭を下げるアリサ。


そうして、連休のお出かけ計画への準備は、静かに進んでいくのだった。



———————————————————————————————————



それから数日後、あっという間にカレンダーは5月へと変わり、皆も楽しみにしていたゴールデンウィークがやってきた。


みちるが躊躇いがちに「5月3日、お出かけしてもいい……?」と祖父母へ相談すると、返ってきたのは、待っていましたと言わんばかりの満面の笑みと快諾だった。


「そうかいそうかい!行っといで。せっかくのお休みなんだから、友達と楽しんでおいで」


「ありがとうございます!おじい様、おばあ様!」


喜びに頬を緩ませるみちるを見て、ずっと独りで誰かと関わることも遊ぶこともしてこなかった彼女の変化を、芳夫と詠子は心から嬉しく思う。その目元には、そっとぬぐわれた小さな涙の跡があった。




「……アリサも、一緒に連れていってあげても……?」


ふと、みちるが小さく声を落として口にした。自分だけが休みをもらって遊びに行くのは、どこか後ろめたかったのだ。


「ええと……あの子も、私と同じで、最近まで……一人だったから。だから……」


その気遣いを受けたアリサは、背筋を伸ばしたままほんの一瞬だけ視線を揺らした。


「……お気持ちは、感謝します。ですが、私は午後からの参加で十分です」


「でも……」


「……午後には、必ず合流します。だから……気にせず、楽しんでください」


きっぱりと断るその表情は無機質にも見えるが、どこか彼女なりの優しさが滲んでいた。

そのやりとりに、みちるも黙って一度だけ頷いた。


……本当に、不器用なんだから。


心の中で、そっとそう呟く。




———————————————————————————————————




5月3日、午前十時前。図書館の前で、あかりは小さく手を振って待っていた。


「おーい、こっちこっちっ!」


「あかり、早いね」


そう言いながら歩いてくるのは、淡いラベンダー色のブラウスにスキニーデニムを合わせたあおい。手にはしっかりとした革のショルダーバッグ、軽やかだけど落ち着いた雰囲気の私服だ。


「ふふ、気合い入ってるからねっ。あ、みちるちゃんも来た!」


その言葉に振り返ると、少し照れた様子で手を小さく上げるみちるの姿。白いブラウスに淡いベージュのスカート、そして薄手のカーディガン。まるで絵本から抜け出してきたような、上品で春らしいコーディネートだった。


「……お待たせしてしまってごめんなさい」


「ううん!むしろ集合時間ぴったりだよ~。みんな揃ったし、行こうか!」


「出発ソラ~!!」


「あれ、ソラシー?どこにいるの?」


「ここソラ!」


あかりの持つ小さな鞄からソラシーがひょっこり顔を出す。


「今日は一緒に行きたいって言っててね!モールの中はぬいぐるみのフリをして頑張ってくれるみたい!」


「なるほど、今日はよろしくねソラシー」


あおいがソラシーの頭を軽く撫で、ソラシーも「ピッ」と返事を返した。


「それじゃ、気を取り直してしゅっぱーつっ!


あかりが元気よく言うと、三人はわいわいと話しながら、大通り方面へと歩き出した。




大型のショッピングモールは、お昼前だというのに既に人で賑わっていた。


館内にはアロマの香りが漂い、色とりどりの広告ポスターやポップが目に飛び込んでくる。子どもたちの笑い声やアナウンスの音、スーパーマーケットからのレジのピッという音が混ざり合い、まるで一つの音楽のように響いていた。


「わぁ……すごい人混み……」


思わず目を丸くするみちる。ふといつかの事件でアリサが男を投げ飛ばしたあたりの床を見るが、綺麗に直されて何事もなかったのように照明の光を反射していた。


「ザ・連休って感じだね~。さ、今日は片っ端から回っていくよーっ!」


あかりに引っ張られる形で、三人はモール内を歩き回る。途中、雑貨屋のウィンドウに並ぶぬいぐるみを見てあかりが立ち止まり、みちるがコスメ売り場の香水を試し、あおいが書店の新刊コーナーに興味津々でのぞき込むなど、それぞれのらしさが自然に出てくる。

ソラシーはというと、ペットショップの鳥のご飯コーナーでしばらく品定めをして、あかりへと『ことりのおやつ』と『とりさんのにぼし』の二つをおねだりしていた。


やがて、あかりの目が輝いた。


「ここ!入ってみたかったお店~っ!」


ガーリーな雰囲気のカジュアルブランドショップ。春の新作がずらりと並び、店内には軽快な音楽が流れている。


「うわぁ、かわいい……!」


さっそくハンガーを手に取るあかり。あおいは鏡の前でトーンの違うトップスを見比べ、みちるは戸惑いつつも手にとったカーディガンを鏡に当ててみていた。


「ね、試着してみようよ!」


あかりが声を上げると、店員さんが優しく試着室へ案内してくれる。


──そして数分後。


「じゃーん!どう?このワンピ、似合う?」


試着室のカーテンを開けたあかりがくるっと回る。ひまわりの花柄のワンピースがこれから来る夏に映えそうで、とても可愛らしい。


「……うん、すごく似合ってる。明るくて元気なあかりらしいね」


「私もそう思う。色もぴったり」


「えへへっ、ありがと~!」


続けてあおいがシックなネイビーワンピで登場。スタイルの良さが際立ち、モデルのような佇まいに。


「こっちも大人っぽくて素敵」


「……みちるちゃんは?」


「わ、わたし……こういうの、慣れてなくて……」


そっとカーテンが開く。みちるは淡いミントグリーンのブラウスに、白のレーススカート。少し照れながら出てきたその姿に、二人は思わず目を見張った。


「「かわいい!!」」


「……っ! か、からかわないで……」


「いやいやいや、本気だから!すごく上品でおしゃれだよね!」


「清楚系お嬢様の本領発揮って感じ……!」



みちるは顔を赤らめつつ、微かに笑った。


服を通じて、またみんなと距離が近付いていく。そんな時間だった。





昼が近づき、三人はモール内のフードコートへ移動した。


セルフサービス式のカウンターで注文し、それぞれトレイを手に4人掛けのテーブルへと向かう。あかりは王道の醤油ラーメンにミニ炒飯のセット、あおいはグリーンカレー、みちるはローストビーフ丼を選んでいた。


「……なんか、みんなバラバラだね」


「こういうのがフードコートの醍醐味だよ~!」


ソラシーには買ってあげたことりのおやつを早速開封し、空いている椅子に紙ナプキンを敷き、その上に穀物を広げておく。もちろんソラシーを周りの人から見えないように鞄や紙袋で隠しておくのを忘れずに。


食べながら話題は自然と学校の話、球技大会のこと、そしてアリサのことへと移っていく。


「アリサちゃん、午後から来るって言ってたよね」


「うん。ちゃんと待ち合わせ場所も決めたし……大丈夫だと思う」


「……ちゃんと来られるか、少し心配ね」


みちるがそっと言った言葉に、あおいは首を振る。


「アリサはしっかりしてるし、大丈夫だよ」


「……うん。そうね」


そうして三人は食事を終え、軽く口を拭きながら時間を確認する。


午後一時半。そろそろ、彼女がやってくる時間だ。


「じゃ、そろそろ行こうか。あの噴水前で合流、だったよね?」


「うんっ!」


三人はトレイを片付けて立ち上がり、吹き抜けの中央にある広場へと向かっていった。






吹き抜けの中央広場、噴水のそば。


水しぶきの音と、子どもたちの笑い声が響く中、その人影は静かにそこに立っていた。


「あ!アリサちゃんー!」


手を振って駆け寄るあかりに、アリサは手を軽くあげて応える。

黒のショートジャケットに白のカットソー、すらりとしたパンツスタイルはどこか大人びていて、通行人の視線を引いていた。


「待たせちゃった? ……って、あれ?」


近付いたあかりが目を見開く。アリサの手には、薄く包装された紙袋が握られていた。


「約束の時間より早く着いたので……そちらの店舗で、外出に適した服を購入しました。……変でしょうか」


いつも通りの無表情のままのアリサだったが、その耳がほんのり赤く染まっているのを、あかりは見逃さなかった。


「ふふっ……うん、似合ってるよ! すっごくかっこいいっ!」


「……ありがとう」


話すあかりとアリサ、そこから少し離れた所ではみちるが立ち止り、顔を赤くして口元を手で押さえていた。


「うそ……アリサ……ちょっと破壊力が……」


「みちる、大丈夫?」


少し口角を上げ、悪戯に笑うあおいにみちるは目を反らしながらも腕を組んで平然を装う。


「だ、だだっ大丈夫っ!こほんっ……私達もいきましょ!」


そうして四人は、ようやく全員揃ったのだった。






「それでねっ! さっきまでフードコートでいっぱい食べちゃったから、今度はちょっと動こうって話になって!」


「ゲームセンター! だね?」


あかりの言葉に、あおいが続け、みちるが小さく頷く。


「……初めて入るかも。そういう場所」


「えっ、みちるちゃん初ゲーセン!? じゃあいっぱい遊ばなきゃ!」


「……施設説明を見るに、集中力、射撃力、殴打力の育成施設という事か」


「うん……まぁ一部はそうなんだけど、そうじゃない気もする……!」


「いや違うでしょ」


そんなやりとりをしながら、四人は賑やかな音楽の鳴り響くアミューズメントフロアへ足を踏み入れた。


中には煌びやかなクレーンゲーム、太鼓を叩く音が鳴り響くリズムゲーム、写真シール機、そしてレースやシューティングの筐体まで、カラフルな光と音の渦が広がっていた。


「うわ〜〜、にぎやかっ!」


「……情報量が……多い……!」


キョロキョロとクレーンゲームやバスケゴールゲームなど様々なゲーム機を興味深そうに見るみちるとアリサを置いて、あかりは早速、太鼓の鉄人に目をつけて突撃。するとあおいがすっと隣に立つ。


「あおいちゃん、勝負……だね?」


「負けないよ、私は」


「ピ……これは揺れそうソラ……」


異様な迫力を見せる二人を尻目に、みちるはアリサと連れ添いクレーンゲームを見て回っていた。


「ふふっ、いっぱい景品があるわね」


「……はい、不思議なものですね。ぬいぐるみから菓子類、雑貨。……エナジードリンクまであるのか……興味深い」


みちるがふと足を止め、UFOキャッチャーに目を向ける。中には、ぬいぐるみのような可愛い動物型マスコットたちがぎっしりと詰まっていた。


「……」


無言で一枚の百円玉を機械に入れると、慎重にアームを動かし、ふわりと持ち上げられた小さなシロクマのぬいぐるみが、するりと出口に落ちる。


「取れちゃった……」


「……おめでとう?」


みちるは微笑みながらぬいぐるみを胸に抱え、ふわふわの触り心地を楽しむ。


「観察と、タイミング。あとは……少しの運があればって所かしら」


その言葉を聞き、アリサがじっとクレーンの構造を見つめていた。


「……なるほど、そう言う事か」


ぼそりと呟いた直後、彼女も一枚の硬貨を投入し、見事に景品を一発で山から落としゲットした。


「……みちるのアドバイスのおかげで、私も無事に取れた」


「うん、おめでとう!……アリサのは茶色いクマなのね」


アリサは、じっとみちるの胸に抱く白熊と自分の手にある茶色いクマを見て、ぼそりと呟いた。


「……私とみちるみたいなクマ……ですね。大事にしましょう」


そう言ってアリサもみちると同様、胸へとクマを抱き寄せ優しく撫でながらみちるへと微笑みかける。


「ッ……!かっこいい……というかズルい……うぅ~……」


顔を赤くしてシロクマのぬいぐるみで顔を隠してしまうみちる。そんな彼女の様子を不思議そうに見るアリサだった。




次は写真シール機コーナー。

太鼓の鉄人から息を切らし汗を流したあかりとあおいが合流し、無理矢理に近い形で連れ込まれたみちるとアリサは、変なスタンプやキラキラの加工の見本に戸惑いながらも、 あかりの「絶対思い出になるから〜!」という一言に小さく頷く。



そして、シャッター音の連打。


「これね~、加工次第では表情も全然変えられちゃうんだよね!……ここをこうして……アリサちゃんの顔を……」


あかりやあおい、みちるまで加わって取った写真の加工を行い、完成した写真シールを4人で分ける。


「ぷっ……す、凄いアリサちゃん満面の笑み……っ!!」


「ふふ……絶対しないわ……こんな顔……っ!」


「くふふ……みんなも加工モリモリね。ソラシーもいい味出しているよ」


「そうソラ?……気のせいか、ソラシーの顔もキラキラしてるソラ……」


「これが……私?」


ひたすらに笑いをこらえるあかり・あおい・みちると、加工され満面の笑みを浮かべる自分を見て心の奥がきゅっと絞められるような感覚に陥るアリサ。

それでも、この写真はとても大事な思い出だとしっかりと胸ポケットへとしまい込んだ。



「よーし! じゃあ次は大本命のお店行こっ!」


あかりが指さしたのは、ピンクとラベンダーに彩られた夢のようなショップ。


夢のような色使いと、キラキラの小物に囲まれた店内。


「ここ……『プリティハーモニー』っていうんだって!つい最近開いたばかりで気になってたんだ!」


「わ、可愛い……!」



『プリティハーモニー』は、まるで子どもの頃に憧れた魔法少女のアトリエを現実にしたような空間だった。

淡いピンクとパープルを基調とした棚には、ミラー付きのリップパレットや、小さな星型のチーク、ラメ入りのネイルが整然と並ぶ。


店内は小学生の女の子から大人なお姉さんまで幅広く賑わっており、皆がキラキラとした笑顔を浮かべていた。


入店した四人の視線が、さっそく色とりどりのコスメに吸い寄せられていく──。


「うわぁ〜〜!どこ見てもかわいいが渋滞してる!!」


目を輝かせて店内を見てまわるあかり。あおいは少し距離を置いて、落ち着いた目でアイシャドウを吟味している。


「でも……発色はなかなか悪くない。子ども向け商品だけじゃないって事?……侮れないな」


「ね、あおいちゃんそれも似合いそうだけど、こっちの青もちょっと大人っぽくて良くない?」


「……うん、ちょっとエストレアっぽい。こっちのはエンジェルっぽいイメージでしょ?」


「おぉ~!さすがあおいちゃん!よく見てる~!」


みちるはコーナーの一角で、金色の縁取りが入ったミラー付きのコンパクトを手にしていた。


「これは……?太陽の紋が入ってるのね。オシャレで素敵な物ばかりあるわね、このお店……」


──そして、アリサ。


一歩引いた位置で棚を眺めていたが、ふと、手を伸ばして一本のリップを取る。

色は無彩色に近い、うっすらと輝きを帯びたクリアグロスだった。


「それ……いい色だね。アリサちゃんっぽい」


隣に来たあかりがそう言うと、アリサは小さく瞬きをした。


「私は……私らしさというものが良く分からない。でも、選ぶなら……これが、一番しっくりきます」


その言葉に、みちるがそっと微笑む。


「無色ではなく、光を宿した透明……か、いいじゃない!」


「……ありがとうございます」


言葉少なにそう返したアリサの横顔に、わずかな温もりが宿っていた。


そして四人は、それぞれの自分らしさを感じるお揃いのデザインのリップを一つずつ手に取って、レジへと向かった。





モール内のカフェ、午後の空。


淡い光が差し込むガラス張りの店内で、四人は丸いテーブルを囲んでいた。

目の前には、それぞれが注文したデザートたちが並んでいた。


あかりは定番のイチゴのショート。あおいはビターな抹茶と黒蜜が入ったタルトを。みちるは紅茶ゼリーと洋梨のさっぱり系のケーキ。そしてアリサの目の前にはプリンアラモードがドドンと鎮座していた。


「アリサちゃんのプリン、すっごく可愛いっ!それに美味しそう~!」


「……プリンと生クリーム、フルーツにチョコバーまでもがこの一皿に。パフェと迷ったが……念願のデザート……」


スプーンを握る手に力が籠る。まずはメインを張るプリンから。

差し込もうとするスプーンを弾力のある黄色いボディがプルンッと揺れて抵抗する。

ぐっと力を籠めれば、そんな抵抗もむなしく、頭に被るカラメルと一緒にそっとスプーンに掬われてアリサの口へ。


──その瞬間、アリサの目がわずかに見開かれる。

久々に展開されるのは脳内食レポの嵐。

ナノマシンが爆発的に回転するアリサの思考回路の処理を補助するくらいには、プリンの衝撃は大きかった。


散々脳内であーだこーだと評論の言葉を並べていても、結局彼女の口から洩れた言葉はとても簡潔。

「……甘い」


「ふふっ、プリンってそういうもんだよ」


あかりが笑うと、あおいも微笑んで続ける。


「美味しいって感じたなら、それが一番大事」


「……はい、とても美味しいです」


アリサは小さく、笑みを浮かべるようにしながら二口目、三口目とスプーンを運ぶ。


そんなアリサの仕草に、みちるはそっと口元をほころばせながら自身の頼んだケーキに手を付け始めた。



カフェのBGMに紛れて、静かな笑い声がテーブルの上に生まれる。

そして、ほんの数秒後──


「……また、こういう時間があっても……いいかもしれません」


ぽつりと、アリサが言った。


誰もそれに声を出しての返事はしなかった。ただ、皆が同じように優しく微笑み、頷いていた。


それだけで、充分だった。




———————————————————————————————————




日が傾き、歩く四人の影を長く長く伸ばしていく。


「今日は……ほんとに楽しかったね!」


あかりが笑顔で言うと、あおいがそっと頷く。


「そうだね。たまにはこういう日も、悪くない」


買い物袋を抱えたみちるも、どこか名残惜しそうに空を見上げた。


「……少し、名残惜しいわね」


「でもまた来ればいいじゃん! GW、まだまだあるし♪」


そう言って歩くあかり達一行。次第に、あおいの家が近くなり、彼女の足が止まる。


「じゃあ、私はここで。もう家近いから……今日は本当に楽しかった。あかり、企画してくれてありがとね」


「うん、気をつけてね!」


「また次は学校でね?」


「……お疲れ様でした」


残りの三人はあおいへと別れを告げ、帰路をゆっくりと歩いていく。

図書館近くを過ぎ、桜並木に差し掛かり、見覚えのある喫茶が道の向こうへと見えた所でみちるとアリサも足を止めた。


「じゃあ私達もここで。今日は誘ってくれて……ありがとねあかり」


「……自分からも、感謝を。良い一日だった」


二人からの感謝の言葉にあかりは照れながらも明るく返した。


「ううんっ!また集まれる時集まろうよ!……今度またみちるちゃんの家遊びに行くから!」


そんなあかりの言葉に、みちるは茶目っ気を出して綺麗なカーテシーを決める。


「お待ちしていますわ?」


と、気品たっぷりに別れを告げる。アリサもその横で綺麗にペコリと頭を下げていた。


「じゃあ、またねっ!」


あかりは手をぶんぶんと振り、時々二人を振り返りながらも桜並木を歩き出し、みちるとアリサもその後ろ姿が見えなくなるまで手を振り見送った。



———————————————————————————————————




「──ただいま戻りました」


みちるとアリサがエプロンを着け、喫茶エリアへと戻るとマスターとマダムは優しい笑顔で二人を出迎えた。


「おかえり、みちる。アリサさん。楽しかったかい?」


「……ええ。とても、素敵な一日でした」


「マスターとマダムのご厚意、大変ありがたかったです」


その返事に、二人の老夫婦も静かに頷き、優しく笑う。


アリサは深く一礼して、先に店内の定位置へと戻り、みちるも同様に店にチラホラとまだくつろぐ客のお冷等足りないものはないかをチェックしながら定位置のアリサの隣へと戻るのだった。





ちょっと長めな平和なお買い物 お出かけ回でした。


次回は一度短編集を挟んでからの本編となります。


どうぞお楽しみに~!

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