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気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第二楽章 動き出す物語 
21/85

光を追って、星は駆ける

悲報、ストックが切れました。 今後の更新は活動報告通り、遅くなりますので平にご容赦を……


「フハハハハハハハッ!!! さぁさぁ、お嬢様方ァ! 今宵もまた、爆音の芸術を奏でに参ったぞォォォッ!!」


空から降り立ったのは、騒音迷惑おじさんこと──ディスコードのフォルティシモ男爵!



「フライングヒューマノイドの正体は……このおじさん……!?」

「ちょっと……うそでしょ……。魔法……なの?」


目の前の光景に密かに興奮する者、同じ不思議な力を持つ人間の到来に困惑する者。そして何より、友達を巻き込むわけにはいかないと必死にどうやって二人を逃がすか頭をフル回転させている者に分かれていた。



「フハハハっゲホッゴホッ……ぬぅ。やはり今日は大人しくいくか……。さぁ!爆音の三重奏(トリオ)をとくと味わいたまえっ!!!」


そういうと男爵は指揮棒を振り上げると懐から取り出した()()のミュートジェムをそれぞれ叩き、空へと放り投げた。


「「「ワルイゾォォォォ!!!!」」」


ズシンと音を立てて三体のワルイゾーが地面へと降り立ち、アスファルトに蜘蛛の巣状のヒビを走らせ穴を空ける。


「ッ……!!みちるちゃん!杏堂さん!早くここから逃げようっ!!」


初めてあかりが戦った、メトロノーム型のワルイゾーが三体。特に秀でた特殊能力こそないものの、巨躯を誇る彼らの足が地面に着地するたびに、足元の舗装が剥がれ、空気が震える。


何とかしてでも、二人を逃がさなきゃ……!


「柚木さんっ!あれは何なのっ!怪獣……?UMA??」

「何なのよあれ……。こ、怖い……」


みちるとあおいは自分達の方へと迫ってくるワルイゾーに戸惑いながらも、まだ現実を受け止めきれていない様子で立ち尽くしていた。


無理もない。だってこれは非現実そのものだ。テレビや漫画の中でしか見ないような敵が、今目の前にいる。


そして──彼女等の友人であるあかりは、それと戦う光の戦士なのだ。


「二人共!いいからっ!とにかく早く逃げてっ!」


あかりが声を張り上げる。正直心の中はもうパニックを起こしていた。

何より……この場にいるのが、彼女達だというのが最悪だった。

何も知らないクラスメイト。やっと仲良くなれた、大切な友達。


……そんな二人を巻き込んでしまった。いくら記憶はぼんやりと消す事は出来ても、もし戦いの余波で二人が怪我をしてしまったら?


怖い。すごく怖い。でも……!

でも、それでも──このまま黙って隠したまま逃げるなんて、できない。


迫り来るワルイゾーの勢いに、あおいもみちるも我に帰り、背を向けて走り出す。

その背中を見送りながらあかりは一人立ち止り、振り返るとワルイゾーの前へと立ち塞がるように両手を広げてここから先は通さないという意思を身体全体で見せた。



「え……?ちょっとあかり!何しているのよ!!」


走る足音が減った事に気付いたみちるが振り返り、通せんぼをするかのように立つあかりを見て叫んだ。

その声を聞いてあおいも立ち止り、あかりを見て驚愕した表情を浮かべた。


そんなみちるとあおいへと顔だけ振り向き、ニッと笑った。


「大丈夫、私に任せておいてっ!」


その言葉に、二人が目を見開く。


「後で説明するから!……二人ならちゃんとわかってくれるって信じてるから!」


あかりはポケットから光を放つパクトを取り出し、胸の前で構える。


「ブレッシング・チェンジッ!!」


輝く優しい光があかりを包みこみ、白い羽が舞い、光がはじけた。


光の渦が収束していく中、制服姿の少女だったはずのあかりは──

「響け、祝福の音色!一緒に紡ぐ想いのメロディ―!」

「愛の旋律、届けます!メロリィ・エンジェル!」


そう名乗りを上げ、前に進み出た。

その姿に、みちるも、あおいも、息を呑んだまま言葉を失っていた。



「ウ、ソ……あれって……あかり……なの……?」

「……まさかそんな、いや……まさか……ね」


変わったのは姿だけじゃない。

エンジェルの瞳には、揺るぎない決意の光が灯っていた。


「さぁぁぁああッ!!演者は揃った!ならばあとは奏でるのみッ!!」


フォルティシモ男爵が指揮棒を振り回すと、ただ走ってこちらへ向かっていたワルイゾーの動きが急に変わり、あえてタイミングをずらし連続でエンジェルへと拳を叩きこむ。


「そんなの、当たらないよっ!」


ひらりひらりと雨あられの如く叩き下ろされるワルイゾーの拳を避けつつ、反撃のパンチやキックをワルイゾーへ当てていく。

追撃で決定打の必殺技を出そうとすると、やられていたワルイゾーを庇うかのように、他のワルイゾーが身を挺して攻撃を繰り出してくるため、二の足を踏まされる。




エンジェルとワルイゾー達の戦いを少し離れたところから見守るあおいとみちるだったが、偶然ワルイゾーが振り回した腕が道路標識看板にあたり、ひしゃげた看板がみちるの方へと鈍い音を立てて空を切り裂きながら飛んでいってしまった。


「しまっ……!?」

「ワルイゾォゥ!!!」


注意の逸れたエンジェルへ死角からのワルイゾーの横からの拳が直撃し、近くの街路樹をへし折りながらアスファルトの上を転がっていく。


「ひゃああっ!?」


目前にスローモーションのようにゆっくりと近付いてくる看板を、身体が石のように固まってしまい、ただ見ているだけしかできなくなってしまったみちる。

もうだめだと目を瞑り、やがて襲ってくるだろう痛みへの恐怖を滲ませ歯を食いしばった。


―—その時、白銀の影が看板とみちるの間に立ち塞がるように空から急降下し、飛来した看板を容易く弾き飛ばした。


「ッ……。……?あれ……私……?」


何かの衝突音が聞こえたのにいつまでも衝撃も痛みも走らない事を不思議に思い、ぎゅっと瞑っていた目を開ける。

目の前にはこちらに背を向けてはいるが、黒の軍服を思わせるようなロングコートを靡かせ、その下には魔法少女を思わせるドレスを纏った、見覚えのある銀色のアンダーポニーテールの少女が立っていた。



「……あり……さ……なの?」


声をかけるとゆっくりと目の前の少女がみちるへと向き直る。その目元には銀色のバイザーが付けられており、はっきりとした表情は伺う事は出来ない。しかしみちるには目の前の少女がアリサである事がはっきりと分かっていた。


「認識阻害が効かない……。なら……」


アリサは杖型デバイスをみちるへと向け、みちるを気絶させると記憶消去の魔法を発動させる。この1分弱の記憶が消せれば良いと、一瞬の処置だった。



その様子を見ていたあおいは、完全に言葉を失い、またアリサの発動させている認識阻害によって()()()()()()()()()()()()()()現象が起き、完全に脳内がオーバーヒートを起こしていた。


アリサはそんな立ち尽くすあおいを一瞥すると、気を失い力なく横抱きにされているみちるを抱えたまま空へと飛び立ち、空を裂く風音と共にアリサの姿が闇の彼方へと消えていく。


そこに残されたのは──ぼんやりと立ち尽くす杏堂あおいと、ボロボロになった道路標識看板の残骸だけだった。


しばらく脳の処理が追い付かず動けなかったあおいだが、目前で繰り広げられる土煙の中からボロボロになりながらも果敢に立ち上がり、ワルイゾーへと挑んでいくエンジェルの姿に、はっと気を取り戻した。



必死に立ち向かう、ひとりぼっちのメロリィエンジェル。


目の前の少女は、もう何度もワルイゾーの拳を受けて地面に叩きつけられていた。

魔法少女染みた衣装はあちこち破れて、光の粒がちらちらと漏れている。


それでも、エンジェルは……あかりは折れる事なく立ち上がっていた。


「 まだまだ……!やれるもんっ……!」


ボロボロになっていても、それでも浮かぶ力強い笑顔が、痛いほどまぶしかった。


息が、苦しい。心臓がずっと早鐘を打っている。

あおいの手が、無意識に胸元を押さえる。


けれどそれは、恐怖からだけじゃなかった。




あの子は、こんなにも……こんなに傷だらけになって、それでも、まだ誰かを守ろうとしている。



自分は逃げた。恐怖に飲まれて、一歩も踏み出せなかった。

目の奥が熱い。


ずっと、遠くから見ていればいいと思ってた。

下手に誰かと関わって傷付くのも怖かった。

自分から誰かの心に踏み込むのも、勝手に踏み込まれるのも嫌だった。


でも……!



その時だった。


ワルイゾーの一体が、エンジェルの背後へと回り込んでいた。

その拳が、彼女の認識外から不意に振り下ろされ―—


「──危ないっ!!」


あおいの声が届いた一瞬のタイミングで、エンジェルが身を捻ってかわす。

しかしその代償にバランスを崩し、がら空きになった腹部へ、別のワルイゾーの一撃が突き刺さる!


「ぐっ……ああぁッ!!」


地面を転がり、埃を巻き上げて倒れるエンジェル。


その姿を見た時、あおいの心の中で、何かが弾けた。



「──あかりっ!!」


叫んだ瞬間、胸の奥が強く光った。

いや──それは胸の内にあった、本当の気持ちが燃え上がった瞬間だった。


気づけば、その手に光が集まっていた。


見覚えのない──神秘的で不思議な力感じる、星の形をした宝石が中央に埋め込まれたコンパクト。


ブレッシングパクト。


手の中に吸い寄せられるように、それはぴたりと収まり──心の中に、自分自身の声で問いかけが響いた。


――貴女は、その輝きに何を願うの?


……あの子を助けたい!私も……誰かを守れるような強さを……!もう、傷付く事を恐れない!



あおいを中心に光り輝く風が渦巻いた。


胸元に光が灯る。星の粒が視界を満たしていく。

 


「……もう、見ているだけなんて……いや」


「誰かに見つけてもらう星なんかじゃない──」


「私が、誰かを照らす星になるの!」


一際ブレッシングパクトが輝き、脳裏に浮かぶ通りに掲げて叫ぶ。


「ブレッシング・チェンジ!!」



その言葉と共に、あおいの瞳に溢れる決意が星のように輝いた。


ブレッシングパクトから溢れた光があおいの身体を包み、風がふわりと巻き起こった。


彼女の身体の周囲を、星屑のような粒子が円を描きながら高速で回転する。

それはまるで天体の円周運動のように、淡い銀と紺のラインが空中に描かれ、天球儀のように彼女の周囲を回り始めた


杏色をした肩までの髪は腰程まで伸び、夜空を思わせるディープネイビーブルーへと染められる。


足元から紺と星柄のタイツが静かに浮かび上がり、ぴたりと脚へと沿って形を成す。

その上に星の紋章をあしらったニーハイブーツが、ひとつずつ、光の閃きと共に装着される。


続いて、胴体部分には深い宇宙のような色合いのドレスが現れ、そのスカートには無数の星座模様が煌めきながら刺繍のように浮かび上がる。


スカートは二段構成に。内側のパニエがふんわりと広がり、外側の星空スカートがその上をひらりと舞う。


「瞬け、希望の星々!」


あおいの周りを回転していた星屑がチャクラム型の魔法武器へと変貌し、左右の手の甲の上に浮遊するように静止した。


「夜空を照らす未来の光!メロリィ・エストレア!」




挿絵(By みてみん)




目元には迷いのない静かな光。

まっすぐにワルイゾーを見据える瞳には、かつての傍観者ではなく、誰かの為に立ち上がる強い意志の輝きが宿っていた。




「ン……な、なんじゃこりゃァァ!? し、し、知らぬ顔が増えておる!!誰だお前はああああッ!!! 」


焦りながら指揮棒を振り回すフォルティシモ男爵。

目をぎょろりと見開き、エンジェルの方をすっかり忘れたかのように叫んだ。


「ワルイゾォォォ!!先にこっちの新しい奴を叩き落とすのだッ!!!」


三体のワルイゾーが一斉に叫び声を上げ、エストレアへと迫る。


だが──彼女は恐れる事も狼狽える事もなく、冷静にワルイゾー達を見据えた。


「させないわ」


そう呟くと同時に、両手を横に振る。


その動作に合わせて、彼女の両手に浮かぶチャクラムが滑るように飛び出し、ひとつは空中で軌道を変えてワルイゾーの膝を打ち抜いた。


もうひとつは直線的に飛び、三体のうちのひとりの巨腕をかすめながら回転して背後へ抜ける。


「ワルイゾ……ッ!?」


物理法則を無視した不規則な角度からの連続した攻撃に、ワルイゾーたちは立ち位置を崩す。

だがチャクラムはそれで終わらない。旋回し、折り返し、軌道を描きながら再び別方向から襲いかかる!


──まるで星々の運行。


「ふふっ……次、右側から来るわね」


淡々とつぶやきながら、手元へと戻ったチャクラムを再び射出する。

その銀の軌道は三体目のワルイゾーの目前ギリギリをすり抜け、背後にあった倒木に直撃し、破片を巻き上げる。


動きを見ている──ただそれだけで、エストレアは敵のパターンを掌握し始めていた。


「凄い……!凄いよっ!エストレア!!」


数の差をものともせずに翻弄するエストレアへエンジェルは感嘆の声を上げる。

まだ身体も痛むが彼女が時間を稼いでくれたおかげで立ち上がれるまで回復できた。



「ぬおおお!!チャクラム……こりゃまた珍しいッ!しかも冷静!!厄介な敵よ!」


男爵は再び指揮棒を構えるが──その横を、虹色の閃光が駆け抜けた。


「そっちばっかり見てたら──足元、すくわれちゃうよ!!」


叫んだのはメロリィエンジェル!

傷だらけになりながらも、エストレアが時間を稼いでくれたおかげで彼女は再び立ち上がっていた。


「ここから先は──二人でいくよっ!!」


短く呼吸を整え、エストレアとアイコンタクトでタイミングを取り、チャクラムで崩されたワルイゾーの防御の隙を突いて、一気に距離を詰めていく。


「はああああっ!!」

「ワルイゾーッ!!」


狙われたワルイゾーを庇うように別のワルイゾーが割って入ろうとするも、エストレアによる追撃のチャクラムが的確にワルイゾーの足元を打ちぬき、動きを止める。




「これならっ!!プリズムシャイニングキック!!」


高く飛び上がりながら光の粒子を巻き上げ、空中で回転したエンジェルがそのままの勢いでワルイゾーの胴体へとキックを直撃させる。

その瞬間七色の輝きが爆ぜ、ワルイゾーの身体が大きく跳ね飛び、ようやく静止するも気絶したかのように動かなくなった。



二人の連携により、明らかに戦局がエンジェル・エストレアへと傾き始めていた。


ワルイゾーが一体倒れ伏した事により数的優位を失い、エンジェルが相手取るワルイゾーは防戦一方になり、エストレアが相手取るワルイゾーは四肢にダメージが蓄積し、片膝をついて静止する。



「──仕上げ、いくね……!」


静かに呟いたその目に宿るのは、惑うことなき光。


エストレアは両手を突き出し、脳裏に浮かぶイメージに従いエネルギーを集中させる。

すると両手の前には星々の軌道を思わせる魔法陣が浮かび上がる。


左右に浮かんだ金と銀、二枚のチャクラムが高速回転を始め、その魔法陣をなぞるように円を描いて飛び交う。

チャクラムの軌道は次第にひとつの光輪へと変わり、輝きを集束させていく。


「いきます……!ミーティア・レイ!!」


中央に集まった光が、一条の閃光となって放たれた。


それはまるで、夜空を貫く流星の矢。

チャクラムが形成した光の輪を射出装置のように用い、流れ星のようなビームが一直線にワルイゾーへと迫った。


「ワ、ワルウウゥゥっ!?」


直撃を食らったワルイゾーが勢いそのままに後ろへと吹き飛び、エンジェルと戦っていたワルイゾーをも巻き込んでもなおビームの勢いは止まらず、最後は一番後方で指揮を執るフォルティシモ男爵へと襲い掛かった。


「ぬぉおッ!?こりゃいかんッ!!!」


慌てて次元の穴を開くと着弾する前にそそくさと逃げ込み、姿を消した。


目標を失ったミーティア・レイはそのまま空へと伸びていき、キラキラと光の粒子を散らしながら流星の如き尾を引いて消えていった。



残されたのは倒れ伏すワルイゾー達。

エンジェルは戦いの傷と疲労で地に膝を付けて肩で息をしている。

ならば、ここは自分がやるしかないとエストレアはワルイゾー達へと歩を進め、倒れ伏すワルイゾーたちの前に静かに立ち止まる。

そしてそっと、胸の前で両手を重ねるように合わせる。


星の粒が溢れ出すように彼女の周囲を包みこみ、夜空を描く魔法陣が淡く浮かび上がる。


その中心に、淡い光で形作られるようにして現れたのは一本の美しいフルート。


銀と青の光沢を放ち、管体には星座を模した細かな紋様が浮かび上がる。

まるで星が奏でるために作られた、神秘の楽器。


彼女はそれをそっと手に取り、演奏の構えを取ると吹き口へと顔を寄せる。


「……終わらせましょう」



もちろん今まで楽器演奏はしてこなかったあおいだったが、

どう吹けばよいのか──その旋律のすべてが、まるで最初から知っていたかのように脳内に流れ込んできた。


「もう、暴れなくていい……。この旋律で、あなたたちの苦しみを癒してあげる」


あおいはそっと目を伏せ、傷つき倒れたエンジェルと、苦悶するワルイゾーたちを見つめる。



胸の内から溢れるその願いは、確かな音に変わろうとしていた。


「癒しの音色──トゥインクル・セレナーデ」


その言葉を最後に、ゆっくりと息を吸い、フルートの吹き口へと唇を添える。

 

音色が響いた瞬間、旋律に呼応するように星々が一斉に瞬き始め、エストレアを中心に空間に星の形をした光が溢れ出す。


星々が彼女のまわりに渦を巻き、銀河のような光輪が出現。

足元には巨大な星座陣が浮かび、天球儀を思わせるオーラが広がる。


一音、また一音と、澄んだ音色が世界に満ちていく。

それはまるで、星々が奏でる優しい子守歌。

フルートの旋律に合わせ、空間に無数の星屑が現れ、淡くきらめきながら舞い踊る

 

最後の一音が奏でられた瞬間、

浄化の光が空より降り注ぎ、爆ぜるように光の柱が広がり、戦場をやさしく包みこむ。


その光がワルイゾーたちに届くと、黒く濁ったオーラが剥がれ落ちるように砕け、

その身体から暗い音符のような影が浮かび上がり、ゆっくりと空へ昇っていく。

まるで星の海が祝福するように、星屑が流星となってワルイゾーたちを包み込んでいった。


──すべてが終わった。



演奏を終え、エストレアは静かにフルートを下ろし、夜空に舞い上がる残光を見つめた。

 

ワルイゾーのいたところにはハーモニック・ジュエルが3つ浮かんでおり、それを大事そうにエンジェルが回収する。


ワルイゾー達が消えた事により、傷付いたアスファルトも街路樹も近くの建物もすべて元通りになり、空を覆っていた赤黒い雲や霧もたちまち霧散した。



「ピピピィ!!凄いソラ!新しい救世主様ソラ!!エストレアかっこよかったソラ~!!!」


空からソラシーが興奮しながら舞い降りてきてエンジェルの頭へと止まる。


「えっソラシー!?どうやって出てきたの?」

「全力全開で窓を開けて出てきたソラ!」


えっへんと胸を張るソラシーを頭から降ろして胸の前で抱き、未だ立ち尽くして空を見上げているエストレアへと近付いていく。


「ありがとうエストレア!おかげで助かっちゃった!でもまさかあおいちゃんまで変身しちゃうなんて」


エンジェルが声を掛けた事により我に返ったのか、はっとした表情を浮かべた後にエンジェルへと向き直る。

「うん、自分でもびっくりだよ。まさか昔見たアニメみたいな事が本当にあるなんて……。その子は?」


エストレアの視線がソラシーへと向けられる。


「ソラシーはソラシーソラ!ハルモニアランドから救世主様を探してこっちの世界に来たソラ!……エストレアのその楽器、良く見せて欲しいソラ……!」


「え……これ?」


エストレアがフルートを見やすいように持ち上げると、ソラシーはエンジェルの腕の中からぴょんと抜け出してエストレアの腕へと飛び移った。


「ピィ……間違いないソラ、伝説の楽器の力を感じるソラ……!!感激ソラぁ……!!」


エストレアの腕から頭へと飛び移ったソラシーがご機嫌にピョンピョン跳ねながらダンスを踊るように喜ぶ。そのふわふわした感触がくすぐったくて、エストレアの顔に笑みが浮かび、またそんな二人?(一人と一羽)を見ていたエンジェルもにっこりと笑顔を浮かべた。




日が完全に落ちた夜空の下、変身を解除した制服姿のあかりとあおいは、二人並んで歩き出す。


「柚木さん……本当に、ありがとう」


ぽつりとあおいが切り出す。

その声音には、これまでの冷静で距離のある雰囲気とは少し違った、素直な感情がにじんでいる。


「えっ、ううん!そんなの……私こそ、助けてもらっちゃったし!」


「でも……あんなにボロボロになっても、誰かを守ろうとして……すごかった。柚木さんのあの姿、忘れられないと思う」


一瞬、足を止めてしまうあかり。

その目が、少し潤んでいた。


「……そっか。私……、ずっと怖かったんだ。メロリィエンジェルになって、誰にも言えなくて、でも自分で戦うって決めたから逃げ出したくなくて……」


あおいはそんな彼女の横顔を見つめながら、静かに言葉を返す。


「うん。きっと、これからも怖いことはあると思う。でも……一人じゃないよ。私も、変わったから」


その言葉に、あかりは驚いてあおいの方を見る。


「……変わった?」


「うん。ずっと、人と距離を取ってた私が……、今はもうちょっと、誰かのそばにいたいって思った。誰かを守りたいって、初めて思った」


照れ臭そうに、でも確かな想いを込めてそう話すあおい。


あかりは思わず──くすりと笑った。


「……えへへ、なんか……ちょっと、うれしいかも」


「……なにそれ」


「あおいちゃんって、やっぱりちょっとツンデレだよね?」


「ち、違うしっ」


からかうように笑うあかりに、あおいはぷいっと顔を背ける──でも、少し耳が赤い。


そんな二人の背中が、夜道に小さく並ぶ。


「ねぇ、もう私あおいちゃんって呼んじゃってるけど、いいかな?」

「……うん、じゃあお返しで私もあかりって呼ぶね」


──確かなきっかけと、一歩目。

ふたりの間に、確かな絆が芽生えはじめていた。



「……そういえば、みちるちゃんは?」

「……あれ?そういえば……道路標識が飛んできて……危なくって……」


あおいが思い出そうとしても、脳内に霧が立ち込めたかのように、記憶に黒塗りをされたかのように何かがあった事を思い出せない。


「そう……!そうだよっ!ワルイゾーのせいで道路標識が飛んで行っちゃって!……そこから私もワルイゾーにやられていたから分からないんだけど……無事なのかな?」


「……思い出せる限りだと、標識に血も何もついていなかったし楠さんもすぐそばに立っていたはず……なんだけど、なんで……思い出せないの」


「ピ、ソラシーが来た時には二人しか近くにいなかったソラ」


二人して黙り込んでしまうが、すぐにあかりがその空気を破った。


「……私、帰り道みちるちゃんの家の前通るから、帰りに見て来るっ!無事に先に逃げられていたならいいしっ!」


「うん……!そうだね、お願いするよ」




その後、あおいの住むマンションの玄関前まで一緒に帰ったあかりは、あおいと連絡先の交換を済ませ、翌日の休みにこれからの事、これまでの事も色々説明すると約束をして別れた。





新キャラ メロリィ・エストレアの登場でした


そろそろキャラクターも増えてきたので近々ネタバレにならない程度の登場人物紹介を投稿しようと思っています。


それでは次回もお楽しみに~!

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