だって、守りたいから!
フォルティシモ男爵とワルイゾーが怯んだのも束の間。
眩い光と音符の嵐が晴れると、そこに立っていたのは先程までのひ弱な少女ではない。
キラキラの光と音符に愛された、可憐ながらも力強さを感じさせる天使だった。
「な、ななな………!!!メロリィ・エンジェルだとおおおおぅっ!!!!!ワ、ワルイゾー!早くやれっ!!ちょっと見た目が変わったくらいで!!」
「ワルイゾー!!」
黒い巨体が、再び地響きを立てて動き出す。
(怖い………でも、守らなきゃ……!)
手に武器はない。
何か必殺技が浮かぶわけでもない。
けれど胸の奥には、誰かの涙を見たくないという――それだけは確かな想いがあった。
「はああああっ!!」
気合いと共に地面を蹴る。するとさっきまでの怪我していた重い身体とはまるで違い、身体が羽のように軽く感じ、踏み込んだ力そのままに猛スピードで進んでしまう。
「うわっ!!!ぶつかるっ!!!」
身体を庇うように顔の前で両腕をクロスして勢いそのままにワルイゾーへとぶつかる。
「ワルっ!?!?」
激しい衝突音と共に、エンジェルよりも巨躯を誇るはずのワルイゾーがくの字に折れ曲がり、木々を巻き込みながら激しく吹き飛んでいく。
その一方でぶつかったはずのエンジェルには痛みもなく、まるでクッションを叩いたかのような手応えのみが両腕に残っていた。
「うっそぉー………なにこれ、凄いっ!!」
エンジェルは自身の両手を握ったり開いたりしながら、自分の思っている以上のパワーが出ている事に驚きつつも、土ぼこりの向こうで立ち上がるワルイゾーへと油断せずに身構えた。
「何をしているワルイゾー!!反撃だァ!!!!」
「ワ、ワルイ、ゾー!!」
走りながらこちらへと拳を振り上げて駆け寄ってくるワルイゾーを迎え撃たんとエンジェルもぎゅっと右手を握り締め、再び大地を強く蹴った。
「ワルゥッ!!!」
「やああああっ!!!」
双方の拳がぶつかり合い、そのあまりの勢いに衝撃波が砂煙を巻き上げた。
「っ!こんのぉぉっ!!」
拳での押し合いの均衡を破り、あえて力を抜いてワルイゾーの体制を崩させ、その懐へと潜り込むと連続してパンチを叩き込む。
「どこかっ!弱点とかっ!ないかなぁっ!!」
そのまま、最後の一撃を全力の力を込めて叩き込むと、ワルイゾーが再び吹き飛び木々をへし折りながら転がり、すぐに立ち上がろうとするも膝を崩してその場でダウンしてしまう。
「ワルッ………ゾォ!!!」
「いくよっ!!もういっぱーつっ!!!」
エンジェルは走りながら大きく飛び上がり、ガクンッと膝を崩したワルイゾーに、全力の正面ジャンプキックをお見舞いした。
「……えーいっっ!!」
「ワルイッゾォォッォォ!?」
90度に近い角度からのキックを食らい、ワルイゾーはその場で地面にめり込むようにして動きを止める。
「ぴ、ぴぴぃっ!メロリィエンジェル!!がんばれソラ~~~!!カッコいいソラ~~~!!!」
その姿を空から見ていたソラシーが必死に応援を送る。
油断してそんなソラシーへと目を向けて手を振ろうとすると、ズン!と拳が腹部に叩き込まれ、エンジェルは再び吹き飛ばされる。
「くぅっ……!」
鈍い痛みに耐え転がりながらも、すぐに起き上がる。
「戦いの途中で余所見とはァ!!!呆れてモノもいえぬわああああああィッ!!!!!」
ワルイゾーに気を取られ過ぎて、フォルティシモ男爵の存在を忘れていた。最後まで油断しちゃいけないとエンジェルは自分の顔をパンッと叩き、気合いを入れなおした。
「大丈夫、全然大丈夫!まだドレミってる!」
冷や汗をかきながら、涙目になりながら、それでも笑って立ち上がるあかりの姿。
それを見たフォルティシモ男爵は、思わずぽかんと口を開け、また感心するように笑みを浮かべた。
「……ほう、まだ立ち上がるかメロリィエンジェル……?」
「当たり前だよ!私はまだ負けてないっ!まだ、終わってないの!」
その一言に、空気が震えた。
ほんのわずかだが、空気に音符のきらめきが混じる。エンジェルの心の強さに音符が共鳴し輝きを増していった。
「このままやっていても痛みが増すだけだぞ?見ての通りワルイゾーも健在だ!そしてこの私も、微塵も本気を出してんなあああああああいっっっ!!!!!!そろそろフィナーレといこうじゃあないかっ!!!」
「ワッルイゾーっ!!!」」
ようやくめり込んでいたワルイゾーも穴から抜け出し、両腕を振り回して怒っているような声で威嚇をする。
「エンジェルーっ!!!頑張ってソラ―!!!!」
心配そうに、それでも応援を続けてくれるソラシーをしっかりと見つめ、満面の笑みで応える。
私がここにいる理由。怖さも何もかも置き去りにして、私がメロリィエンジェルとして立つのは——!
「だって………守りたいからっ!!!」
強く、まっすぐなその言葉。
その想いに――胸のブレッシングパクトが強く美しく煌めいた。
「ぬぉっ!!この光……またか!? さっきの変身の時と同じ……!」
フォルティシモ男爵が後ずさりする。ワルイゾーも眩しそうに腕で目?の部分を隠すようにして立ち止まっている。
ブレッシングパクトが一層強く輝いたのちに、エンジェルを取り巻く音符と光、透明ながらも七色に光る羽が一点に集まり、楽器———ライアーへとその姿を変えた。
「ピィィッ!!伝説の救世主様の楽器ソラ………!!!!エンジェル!!その楽器を使うソラ!!!」
エンジェルは頷くとそっとライアーを手に取り、考えるより先に身体が動き自然な動きで構える。
「ぬぅぅぉおおおおおおおおっ!!!!!弾かせんっ!!!!私の公演の邪魔はさせぬうううううううっ!!!!」
「ワルイッゾゾゾゾゾオー!!!!」
エンジェルの演奏を阻止せんとなりふり構わずフォルティシモ男爵とワルイゾーが同時に飛び掛かってくるが、もう遅い。
「この想い、旋律にのせて――!」
エンジェルの声が空に響いた瞬間、ライアーが淡く光り、そこから透明な五線譜が宙に浮かび上がる。
彼女の背後に大きく広がった五線譜は、まるで空に描かれた虹のように輝き、音符がひとつ、またひとつ、弾けるように生まれ、そよ風のような優しい旋律がまるで春の陽だまりのように、やわらかな色で世界を包み込んでいく。
「心のメロディ、響けっ!」
ライアーの弦をそっとなぞる。その瞬間、音が空へと広がり、やさしい光の波紋が地面を包むようにひろがる。
空に舞い上がった光の音符たちは、まるで花びらのようにひとつひとつふわりふわりと落ちていき――
まっすぐに、ワルイゾーとフォルティシモ男爵を包みこむように降り注ぐ。
「これは………!!!不味いっ!!!!」
フォルティシモ男爵はワルイゾーを置いてその場から無理やり離れ、完全に音のドームが二人を包み込む前に範囲外へと逃れる。
「ハーモニック――!」
指が弦をなぞるたびに、光と音が空間を彩る。
小さな音が次第に重なり、旋律となって世界を満たしていく。
愛おしさ、優しさ、つながりたいという想い……そのすべてが音になり、空気を満たしていった。
そして、最後の一音を――!
「――フィナーレ!!」
静かな祈りのように響いた最後の音。
その一音で、音符たちは光となり、ワルイゾーを包み込む。
力で押さえつけるのではなく、温かいあたたかい毛布のように、やさしく、すべてを受け入れるように。
「愛の旋律、届けましたっ♪」
暴れ狂っていた黒い巨体は優しい音の波に身を沈められ、ワルイゾーの目の辺りからひとすじの涙のような光が漏れ、空気中に溶けるように薄くなり消えていく。
浄化されたあとに小さな、透き通るような宝石………ハーモニック・ジュエルが静かに浮かんでいた。
「………やったソラ!エンジェルが勝ったソラぁー!!!!」
ふわりと地に降り立ったエンジェルがそっとジュエルを両手に包み込み、やわらかくほほえむ。
「ドレミって、笑って、つながって………!それが、私たちのハーモニーだよ」
彼女の背後で、光の音符が舞い、風が優しく揺れる。
「ぐぬぬぬぬ…………!!!!静かすぎるゥっ!!!!!!美しき爆音こそ芸術よォ!!!!!!!!今日の所は一旦退いてやるっ!!次の公演を楽しみにしていたまえっ!!フォォォルティッッッッシモ!!!!!」
喧しい捨て台詞を吐き、対照的に静かに転移ゲートで姿をくらまして神社の森へ静寂が戻る。
戦いの余波でなぎ倒されてしまった木々も、エンジェルの癒しの効果か穴ぼこすらすべて元通りになり、今ここであった事が夢だったのではないかという錯覚すら感じてしまう程だった。
「エンジェルーーーっ!!!!やったソラ!!頑張ったソラ!えらいソラぁー!!!」
空からミサイルの如く急降下し飛び込んできたソラシーをエンジェルは優しくキャッチして、頭をふんわりと撫でてあげる。
「………」
「エンジェル………?」
ずっと黙っているエンジェルを不思議に思ったのか、ソラシーが腕の中から彼女の顔を見上げると、エンジェルの目からポロポロと涙が零れていた。
「ぴっ!?どうしたソラ??やっぱりどこか痛いソラ………??」
「ううんっ!………ちょっと安心したら涙が出ちゃった」
きゅっとソラシーをしっかりと抱き締め、ふわふわの羽毛へ顔を埋める。ソラシーもそんな彼女を慰めるように、ゆっくり優しく頬擦りをして応えた。
エンジェルとソラシーが初陣を終え、お互いの無事を喜びあっているその様子を、全身透明化したアリサが木の上から見下ろしていた。
雑魚が更に雑魚を呼び出した時は捨ておこうかと思いつつも、そのすぐ後に突如膨大な魔力反応を観測し、ナノマシンが脅威レベル中を叩き出した。
さすがにこれは見過ごせないと、マスターへ早めの休憩を貰い現場へと直行して来たのだった。
彼女の目下には、ロストした青い飛行体………魔力を帯びている青い鳥と、それの飼い主なのか強い魔力反応を見せるパワードスーツを展開した少女。
残念ながらついでに排除しようと思っていた雑魚は既に逃げた後みたいだ。
「………排除する」
………随分と無防備に背を晒している。………兵士としては未熟も未熟だ。
右手の杖型デバイスを持ち上げ、静かに淡々と狙うは少女の首筋………無防備で、隙だらけの後ろ姿。
彼女の中で目に映る少女と一羽は<楠家へと危害を加えるかもしれない未知の勢力>、それ以上でも以下でもない。敵対しないという確証がない限りは、敵なのだ。
首元から脊髄を切断し焼き切る。反応可能時間0.1秒。あの程度の練度なら防御不可——。
せめて痛み無く即死させようと確実に首を落とせる切断魔法を発動させようとした。
「ッ………!」
突然少女の身体が光に包まれ、よもや自爆かと防護魔法へと切り替えるも、パワードスーツを解除しただけの様だ。
認識阻害魔法が組み込まれたパワードスーツだったのか、先程までの姿とは髪色も目の色も違う姿をした少女。
それだけなら自ら装甲を解除した好機と即座に切断魔法を叩き込むのだが、青い鳥へと微笑み戯れる少女の顔に見覚えがあった。
「………あかり?」
つい杖型デバイスを下ろしてしまう。随分私も甘くなったものだと心の中で自虐するも、彼女相手に無条件で杖を振るう事は、アリサの身体は抵抗なく出来ても心がそれに待ったをかけていた。
「………」
アリサは音も気配も残さず、樹上から姿を消した。
その場に残ったのは、ただ静かな風と、少女のすすり泣く声だけだった。
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「申し訳ッ!!!ございませんでしたああああああぁぁぁぁああああ!!!」
暗く広がる漆黒のホール。
大理石の床に顔面から突っ伏したままのフォルティシモ男爵が、ずぅぅぅっと全力の土下座中。
彼のレゲエホーンが転がり、ホールの静寂にカラカラと転がる乾いた音だけが響いた。
「またうるさいわねぇ……鼓膜が破れるかと思ったわ」
その声は艶やかで、ぞっとするほど冷たい甘さを持っていた。
黒と紫のドレスを身にまとった女幹部――哀歌の歌姫・ミーザリアが、蔑んだ笑みを浮かべて男爵を見下ろす。
「音量だけが芸術じゃないのよ、男爵。……うふふ、そろそろ楽譜からも外される頃かしら?」
「ギィィィィッ……黙らんかああああ!!爆音こそが魂ッ!!芸術ッ!!鼓膜の祝福ぅぅぅぅ!!!」
がばっ!と顔を上げて吠えるフォルティシモ――だが。
「喧しい」
冷ややかな一言とともに、すっと差し出されたのは白手袋をはめた手。
その手の主、黒燕尾服の執事風幹部――クレシド卿が、静かにレゲエホンを拾い上げ、音もなく握り潰した。
「貴殿の演奏は、調和を乱しました。反省を、記譜台の上に」
「くっ……ぐぬぬぬ……!」
再度崩れ落ちるフォルティシモ男爵。そんな彼のくっきりしたM字の生え際をなぞるようにしてツンツンとつつくのは、この重厚な場には似つかわしくない子供。
「……ねぇ、負けちゃったんだって?」
その声はどこか眠たげで、子どものように無邪気だった。
「ねぇねぇ、どのくらい音外したの? ぜーんぶ? 一音残らずグチャグチャ?」
リタルダンド――パジャマのような衣をまとった、白髪の少年。
M字の額を触った指を男爵の服で拭くと、彼の前にぺたんと座り込んだ。
「だいじょうぶだよ?ボクもよく外すもん。……でも、そのあと、壊すから」
にこぉっ……と笑ったリタの笑顔に、フォルティシモですら背筋を凍らせる。
「……やめてくだされリタ坊。貴殿の再調律は、心が持たんのです……ッ!」
「うふふっ♪ じゃあ今度一緒に、♭♭♭♭♭♭♭……ってしてあげるね?」
少年は無邪気にくすくす笑いながら、壊れかけたメトロノームを逆さまに振っていた。
「グラーヴェ兄さまがいなくてよかったねぇ?一報入れとこうかぁ?」
「ぞ……ぞぞぞ、それだけはご勘弁をぉぉ……!」
男爵が涙目で額を床へ擦らせて震える。
「ふふ……ねぇ、今度は誰が歌うのかしらねぇ……?」
ミーザリアがくるくるとグラスを回す。
「次の楽章――指揮者を変える必要がありますな」
クレシドが静かに言うと、
リタが床に寝転がりながら、壊れてしまったメトロノームをぽんぽん叩いて呟いた。
「もう一回男爵が行ってもいいけどぉ?ボクは眠いや」
そのぽんぽんのリズムが、まるで何かのカウントダウンのように、空間に響いていた――。
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あの後、家へと戻ったあかりはしばらく魂が抜けたようにぼんやりとしたままで、昼食も夕食も上の空のまま取り、お風呂に入るまでの時間をベッドへ横たわり過ごしていた。
深く、大きく息を吐く。
足の先から指の先まで、ようやく緊張がすうっと抜けていく。
「ぴぃ……あかり、大丈夫ソラ……?」
肩にちょこんと留まっていたソラシーが、不安そうに彼女を覗き込む。
それに、あかりはゆっくりと微笑んで返した。
「うん……へっちゃら。ちょっと疲れただけ」
そのまま、ベッドへとうつ伏せになり枕へと顔を埋める。
目を閉じたあかりの頬を、ソラシーの小さな羽がそっと撫でる。
「………夢みたいだったよね」
寝返りをうち、天井をぼんやり見上げながら、あかりはつぶやく。
しばらくして――。
「おふろ、入ってくるね……!」
立ち上がったあかりは、ゆっくりとバスルームへと向かう。
お湯を張る音が、いつもより長く感じられた。
湯船に浸かったその顔には、ようやく緊張が解けた少女らしい表情が戻っていた。
「………がんばった、よね……私……」
ぽつりと漏らすその声。
小さな泡が湯の中で弾けた。
水面に映る自分の顔が、どこか少し変わったように見えた。
髪も目も、何も変わっていないのに………心だけが、ほんの少し、前より強くなった気がする。
風呂上がり、ドライヤーで髪を乾かしながらソラシーに話しかける。
「ソラシー、今日はありがとうね。ソラシーがいてくれたから、私、あんなに頑張れたんだと思う」
「ぴぃぃ……!ソラシーこそ、あかりが一緒だったから怖くなかったソラ!」
お互いを褒め合うように、軽くタオルでソラシーをぽふぽふ撫でる。
そのまま、ふたりはベッドにごろん。
「ねぇ、ソラシー……」
「なにソラ?」
「また、来るのかな? あの人たちみたいなの」
「…………きっと、来るソラ。でも、エンジェルがいればきっと大丈夫ソラ」
「うん……。私、守るから。ソラシーも、みんなも、私の大好きなこの世界も」
そのまま布団にくるまり、あかりは微笑む。
夜が更けていく。
カーテンの隙間から覗く月が、ふたりをそっと見守っていた。
やがて、少女は眠りにつく。
それは戦いを越えた最初の夜。
メロリィエンジェルとして目覚めた第一楽章だった。
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同じ頃、明日は学校だからと早めに屋根裏部屋に押し込まれたアリサは、みちるが寝ている事を気配で察知し静かに梯子を下ろし、階段を降りた。
リビングの扉を開けるとダイニングテーブルにはアリサの来訪が分かっていたかのように、マダムがテーブルへと一人座り、待っていた。
「今日もお疲れ様アリサちゃん。………話があるのでしょう?」
「………マダムの慧眼、感服致します」
マダムの正面の椅子に座り、アリサは今日の日中での出来事を報告した。謎の青い鳥、別世界からの刺客
、そして柚木あかりの事。
「うーんなるほど。アリサちゃんは、その青い鳥とあかりちゃんを見てどう思ったのかしら?」
「………彼女は、敵性反応を示していなかった。状況的に無抵抗。青い鳥に関しては戦闘能力は皆無、排除するにあたらないかと」
「ふふ………それだけかしら?」
「………」
沈黙。
それが、アリサにとっての答えだった。
詠子は、それ以上は問い詰めなかった。
ただ、そっと口元に笑みを浮かべる。
「……優しくなったのね、アリサちゃん」
「………優しさという感情は………判断を鈍らせる毒みたいな物です………私には無い物です」
「そうかしら? でも、あなたの手はちゃんと止まったわ」
マダムの言葉に、アリサは視線を横へ逸らした。
「じゃあ、これからは少しだけそのあかりちゃんの様子を、見ていてあげてちょうだい。観察でも、監視でも、護衛でもいいわ。どんな理由でも」
「………それは、命令でしょうか?」
「いえ、提案よ。……でも、もしあなたの心が少しでも揺れたのなら、それを見逃さないことね」
その言葉に、アリサは目を伏せしばらく無言だったが、意を決したようにマダムの目を見た。
「……了解しました。学校の間は、監視を続けます」
「ふふ………ありがとう。あ、それと――」
ふと、詠子が小さく笑う。
「みちるちゃんと同じクラスになったら、あの子の事よろしくね」
「………はい、問題ありません」
相談の礼を言い、リビングを後にしようと階段へのドアを開ける。
「アリサちゃん」
「………?」
「おやすみなさい」
「………おやすみなさい、マダム」
そう言って階段を上がるその背を見送りながら、詠子は静かに目を細める。
「幸せの青い鳥に天使の降臨………。また星が動いたわね」
無事、ニチアサでの1話が終了しました。
きっと脳内でEDが流れている事でしょう………。
ではここで次回予告
日常が戻ってきたはずの朝
でも、胸の奥がちょっとだけザワザワするのは、なんでだろう?
何はともあれ、今日から学校生活、はじまります!
………え?転入生?どんな子が来るのかなー!楽しみっ!!
次回、「転入生がやってきた!」
キラキラの学園生活……?
それとも、運命が奏でるプロローグ……?
おたのしみに!