表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気が付けばニチアサ世界に紛れ込んだみたいです  作者: 濃厚圧縮珈琲
第一部 第二楽章 動き出す物語 
11/73

守りたいって気持ちがドレミってる!メロリィ・エンジェル誕生!!

ぷるぷるモチモチ!音符の形のカラフル可愛いグミだよ!

今なら可愛い音符占い付き♪

メロリィグミ 好評発売中!



ピッカリパジャマで夜もメロリィ!

暗いところでキラキラ輝く!ピッカリパジャマ!

お布団抽選で当たるかも!?

「買わなきゃ当たらない!買えば当たるかもしれませんぞ!?」



可愛いジュエリーの魔法で、あなたもメロリィエンジェルに!

キミも一緒に――ドレミっていこっ?

メロリィエンジェル なりきりジュエリーセット!


それでは本編へ、れっつごー

ピピピッと規則正しく鳴り響くアラーム音。

だが、それを止めようとするベッドの主の挙動は恐ろしく遅い。


「う~……眠いぃ~……」


目覚まし時計のボタンを止めようと、ノロノロと腕を伸ばし音のする方へ手を下すと、ふんわりとした感触。


「ピッ……!?」


「うへへ~……ふわふわ~……ふわっ!?」


身体を跳ね起こして目覚ましを止めると、枕元にいたのはソラシーだった。

寝るときにはちゃんと段ボールベッドで丸まっていたのに……寝すぎて夜中ずっと起きていたのかな?


「ん~~っ!起きたっ!おはようソラシー!」


「おはようソラ、あかり!」


カーテンを勢いよく開けて、朝の眩しい光を一人と一羽が全身で受け止める。

うんうん!今日もいい天気!




パジャマを脱いで、洗面所で顔を洗い、跳ねた寝癖を整えて――

ハーフツインテールをいつものように結ぶと、鏡に向かってピース!


「今日も絶好調にドレミってる!」




冷蔵庫からコップ一杯の牛乳を注ぎ、一気にごくごく。


「ぷはぁ~っ!今日もおいしっ!」


自分の朝食代わりにエネルギーバーをサクッと食べると、用意しておいたソラシーの水と鳥のエサを手にして自室へ戻る。


「ソラシーって、こういう穀物系のご飯で大丈夫そ?」


「ぴぃ、とにかくお腹が空いてるから何でもきっとおいしいソラ!」


夢中でエサを啄むソラシーを見て、あかりは自然とにこにこ。

春休みの日課だったランニングも今日がラスト。

少しさみしい気持ちもあるけれど、それよりも――


「よーし、ラスト一周!気合い入れてドレミってこっ♪」


ちょっと大げさなくらいに背伸びして、しっかり柔軟運動をはじめた。





「いってきまーす!」

「ピピィ!」


最後の一周へ向けて家を出ると、ソラシーは飛ぶリハビリを、あかりはそれに合わせペースを落とし、いつもの道を走り抜けた。

途中でソラシーが肩に留まり休む事もあったが、今のところは翼も問題なさそうで危なげなく空を飛べている。ただ飛ぶにしてはあまりに羽ばたきが少なすぎるが………、走っているあかりは気付かず、ソラシーの回復をただ喜び笑顔で見守っていた。


桜並木を通り過ぎ、川沿いのランニングコースを通り抜け、商店街を横切り、住宅街の坂を上り、出会った顔見知りの人たちへとおはようを交し合い、気が付けばソラシーと出会った神社の前までやってきていた。後はもうちょっと走ればゴールの家だ。


走りながらちらりと見上げたソラシーの姿に、あかりは心からの笑顔を向けた。


「飛べるようになって、ほんとによかったね!」


「ぴぴぃ! あかりのおかげソラ!」


ソラシーの羽ばたきはまだゆっくりだが、風に乗っているかのように軽やかだった。

でも、羽の動きは思ったより少ない気がして……。


「ほんとにソラシーって、不思議な鳥さんだよね~……ふふっ」


――それでも、今はまだ。

その小さな違和感に、あかりは気付くことなく、ただの()()()()()として、優しく受け止めていた。




「たっだいま~!!」

「ピピィ~!」

ばーんと玄関のドアを開け、元気よくゴールを切る。リビングから両親の「お帰り」の声が聞こえて来るが、リビングへと向かう前に手と口を洗い、その際に肩に乗るソラシーへと小声で耳打ちする。


「じゃあソラシー、昨日の約束通りねっ!怪しまれないように………!」

「分かったソラ………!」

ピョンッとあかりの肩から飛び、彼女の頭の上に乗ると自分は普通の鳥モードに徹するソラシー


しっかり念を押して、リビングのドアを開ける。

「ただいま!パパ!ママ!」

「お帰りなさい、今日で目標はゴールね!お疲れ様!」

「偉いぞ~あかり!おっ、ソラシーも元気そうだね」

「ピピィ♪」


リビングに入ると、テーブルの上には焼きたてのトーストと目玉焼き、サラダにフルーツヨーグルト、そして湯気の立つコーンスープが用意されていた。


「うわぁ~!今日も朝ごはん豪華~っ!」


あかりはそのまま椅子に滑り込むと、両手を合わせて元気よく宣言する。


「いただきまーす!」


「ピピィ♪」


元気な声に合わせて、ソラシーも小さく羽を広げてピョンとテーブルの端に着地する。


「あらソラシー、ちゃんとご挨拶もできるのね」


「ピ……ピピィ!」


「ふーん、カラスぐらいの賢さがあるのかな??元気になって良かったね」


陽太がじっとソラシーを眺めながらコーヒーをすすり、感心したように頷く。


あかりはぎこちない演技のソラシーに苦笑しながらトーストをかじる。一方ソラシーはというと、器に入ったシードを啄みつつ、実はあかりの前に置かれているヨーグルトを興味津々でじーっと見つめている。

それに気付いたあかりは、鳥にヨーグルトを食べさせても大丈夫なのか少し悩んで、トーストを小さくちぎり、その上にヨーグルトをかけてこっそりとソラシーの近くへと置いた。


「あり……ピピピィ~♪」

「ん??」

「ありがとねママー!!今日もとっても美味しいよー!!」


思わず漏れかけたソラシーの声をまねるようにしてあかりが大声で誤魔化し、陽太の疑念を打ち消す。


やがて全員の朝食が終わり、陽太が席を立ちながら声をかける。


「ご馳走様ママ、美味しかったよ。さてと……あかり、ソラシーのことちゃんと見ててあげるんだぞ?もちろん明日からの学校の準備も忘れずにね」


「うん、任せて!私、今日でもっと仲良くなるんだから!」


にっこりと笑って答えるあかりの頭に、ぴょんっとソラシーが飛び乗った。


「ピィッ!」


その動きに思わず笑いがこぼれる家族の朝。そんな穏やかな家族との時間はゆっくりと流れていくのだった。



─────────────────────────────────────





朝食を終えて、一旦自室へと戻ったあかりは毛繕いをするソラシーを眺めながら明日からの学校の準備を始めた。


通学用の鞄をクローゼットから取り出し、筆記用具やノート等の中身が入っている事を確認し自分の勉強机の上へと置く。


制服もクリーニングが済んでビニールで包まれた状態なのを取り出し、ハンガーで吊るしておく。


「明日から新学期だからねー、ソラシーは私が学校行っている間はここで待っててね?」

「がっこーソラ?」

「うん!そこでみんなと勉強したり運動したり部活したり!楽しい事ばかりじゃないけど、でも私は学校は好きだよ!」

「ソラ~……!」


ソラシーの目には、楽し気に笑うあかりがキラキラしたオーラに包まれているように見えていた。もしかするとこの子はハルモニアランドに伝わる伝説の救世主なのでは……?と目を輝かせた。


「あかり、大事な話があるソラ……!」

「ん?なーに?」


ある程度準備も終わった為、あかりはソラシーを抱っこしながらベッドに腰掛ける。


「ソラシーの国、ハルモニアランドの事ソラ」


ソラシーはあかりの膝の上でくるっと姿勢を変えると、あかりの目を見つめながらいつもよりも少しだけ真剣な声で語り出した。


「ハルモニアランドは、音の魔法で満ちた国ソラ。空に浮かぶお城、風のように踊るメロディ、光る楽譜が空を流れて、誰もが自分の音を持っていたソラ。」


「……わぁ、すっごく綺麗そう!絵本みたいな世界なんだね!」


「でも今は、ちがうソラ……」


ソラシーの羽が少しだけ震えた。


「ある日、どこからともなく黒い影達が現れて……楽譜を破り、音を濁らせて、国じゅうのメロディがバラバラになったソラ。歌も、笑い声も、心の音さえも……宝石にされて奪われていったソラ……」


「そんな……!」


あかりは思わずソラシーを抱きしめる。


「ソラシーは、最後まで国を守ろうとした仲間たちに託されて、ひとりだけ()()()()()逃がされたソラ。でも……使命を果たさないともう戻れないかもしれないソラ……」


「……その使命ってどんなことなの?」


「……ハルモニアランドに古来から言い伝えられている、異世界の救世主を探すことソラ。必死にお導きに従ってゲートを越えてきたから……きっとこの町にいるはずソラ!」



しん、と静まる部屋の空気。

けれど、あかりは迷いなく言った。


「それなら、私が一緒に探すのを手伝うよ!」


ソラシーがぱちくりと目を丸くする。


「本当にいいソラ……?」


「だって、ドレミってない世界なんて、きっと悲しいでしょ? 音があるから、人は笑って、泣いて、歌って、心がつながるんだもん!」


「……!!」


「よしっ、ソラシー!これから一緒に、世界をドレミらせに行こっ!」


「ぴっ……ぴぴぴぃぃぃっ!!(感激ソラァァ!!)」


あかりはもう一度ソラシーを優しく抱き締め、そのまま立ち上がった。


「さぁて!そういう事なら善は急げだよっ!その救世主様ってどんな人なの??早速探しに行かないと!」


やる気満々なあかりをソラシーはじっと見つめて、彼女を指さすように羽を向けた。


「多分……あかりソラ!」


「そっかぁ~私か~!……ん?ごめん、ちょっと待って、ソラシー……もう一回言って?」

「ぴぃ、キラキラしたオーラも昨日あかりがくれた元気の出る素敵な音も、あかりが伝説の救世主様ソラっ!」


「えっ……えぇ~~~!?!? わ、私が!?」

あかりは思わずぴょんとその場で跳ねるように飛び退いた。


「ちょ、ちょっと待ってよソラシー!私、ふつーの中学生だよ!? お掃除サボっちゃうし、テストだって時々その……調子悪いし、救世主ってタイプじゃあ――」


「でも、ソラシーには分かるソラ! あかりの音は………すごく、やさしくて、強いソラ………!」


ソラシーはふわりとあかりの肩に乗り、まっすぐな目で見つめる。


「だからきっと、あかりなら………また世界を()()()()()()ことができるソラ!」


「ぅ……」


ほんの数秒だけ、あかりは黙り込む。


だが次の瞬間には、目をぱちんと開き、いつもの笑顔でガッツポーズ!


「よーしっ!分かったよ!……ドレミってない世界なんて、やだもん!私が、ドレミらせてやるっ!」


「ピピィ~~!!」


ふたりの心がひとつに重なったその時、キラリと音符の粒が舞い、運命の歯車が音を立てて回りはじめた。




「よしよし!それで私はどうすればいいの?」

「……分からないソラ、でも救世主様はとってもキラキラしていて特別な楽器を使うと伝承があるソラ」


そう言って悲しそうに俯いてしまったソラシーの頭をあかりが慰めるように優しく撫で、何か思い当たるものはないかと考えるも、自身と楽器に結び付くものはない。せいぜいあかりができる音楽は歌を歌う事くらいだからだ。


「う~ん……ねぇソラシー、その楽器ってどんなものか分かる??」

「ぴぃ……ソラシーも壁画で見ただけだからどんな楽器かは分からないソラ……」

「……あ!じゃあ調べてみるから見てて?」


あかりはスマホの検索機能を使い、思いつく限りの楽器の画像をソラシーへと見せ、ピンとくる物がないか試していった。



まずはトランペットやフルート等笛系は違うみたい、次に見せたピアノや太鼓系も違う………。

次に弦楽器を見せると力なく首を振ってばかりいたソラシーが食い入るように画面を見始めた。


「こ、これソラ……!この小さいの!」

「小さいの……ってことはバイオリンの事?私バイオリンなんて弾けないよ~……」

「ほかにもあと二つあったはずソラ……!そのどっちかかもしれないソラ!」


気を取り直して再び楽器を検索していくが、あかりの考え付く限りの楽器には該当するものがないらしく、今はバイオリンが唯一の手掛かりとなった。


「でもさ、バイオリンって私にはちょっとハードル高いかも~……」


あかりは頬を指でつつきながら、少しだけ困ったように笑う。


「私にできるのって、せいぜい歌くらいだよ~。ランニング中とか、よく気分で歌ったりしてるし!」



ソラシーがぴくりと反応し、あかりの方をじっと見つめる。


「その歌……どんなだったソラ?」


「え~、特別な歌じゃないよ? でも……朝走りながら、自然に出てくるんだよね。今日も元気にドレミってこ~♪ みたいな」


あかりが無意識に口ずさんだそのフレーズに、ソラシーの羽がふるふると震えた。


「それソラ!今の音……とってもキラキラしてるソラ!!」


「えっ!? 私、何かした??」


「ぴぃ……たぶん……救世主様の力って、きっと特別な()そのものソラ……。バイオリンは、その力を目覚めさせる()の一つかもしれないソラ!」


「ふむふむ……。難しい事は良く分かんないけど、とりあえずそれなら私……ソラシーの為に歌うね!」


まだ歌詞もしっかりとしたメロディーも定まっていないが、心に浮かぶ通りの音階を口ずさむ。ランニングの時と同じように特に何かが起こるわけでも、自身の身体が光るわけでもない。ただそれを聞くソラシーはとても心地よさそうに、そして羽の先がほのかに青く光り始めていた。


「来た……来たソラ……!やっぱりあかりは伝説の救世主様ソラぁ……!!」

ソラシーは想いが高ぶったのか、部屋の中を飛び回り始める。そのソラシーの飛んだ後には飛行機雲のように青く輝く音符のようなものがキラキラと輝いていた。


綺麗……!


意識が音符の光に向いてしまい、あかりの歌が途切れるとソラシーの軌道に合わせ漂っていた音符たちもゆっくりと消えていく。

それを見届けるように、あかりはぽつりと呟いた。


「なんだか……すごく不思議だった。ちょっと恥ずかしいけど、でも……嬉しかったな」


ソラシーがふわりとあかりの肩に降り立ち、くちばしをちょこんと彼女の頬に当てる。


「ソラ……ありがとう、あかり。きっと、きっとこれならハルモニアランドのみんなの心も取り戻せるソラ……!」


「えへへ……そう言ってもらえると、なんか、すっごくドレミってきた!」


心がポッと温かくなる。

知らないことだらけ、できるかわからないことばかり――でも。


「私、やるからね!ソラシーも、ソラシーの故郷の世界も、どっちも守ってみせるよ!」


まっすぐなあかりの瞳に、ソラシーも強く頷いた。


──そしてその時、あかりの部屋の窓の外に、まるで闇のように黒く濁った()()が、空をふわりと漂っていた。

それはまだ、誰の目にも映っていない。


けれど――物語は、もう始まっている。




─────────────────────────────────────




ちょうどその頃、仕事中のアリサの脳裏に電流が走った。その瞬間、アリサの視界には世界が一瞬だけ歪んで見えた。


結局一昨日の夜に観測した謎の青い飛行体、あれの調査に行けたのは昨日の夜。それもみちるが入浴中のそこまで長くない時間しかなかった。


結果は何の痕跡も得られず、要警戒で悪意感知の範囲を広げる対策しか取れていなかったが、それが功を奏したのか今まさに網に引っ掛かったようだ。


何も知らない人間には気付かれない程度の異常。

しかし自分には、確かに見えた。

()()が、侵入してきた痕跡。


どす黒い、他人を害さんと悪意を持った存在が……ずいぶんとひ弱な反応だが、時空の穴を超えてこの世界に侵入をしてきたのだ。

明らかにこの世界の文明を超えた、異物だ(自分と同じ)



現れた場所は青い飛行体を見失った神社付近、恐らく青い飛行体と同じ世界からの侵入者だろう。

飛行魔法ならすぐに現場に急行できるが、そうは出来ない要因がある。


生憎今は昼前のラッシュ、マダムが副業(占い師)で不在の中、店を抜ける事は難しいだろう。歯痒さに思わず視線に鋭さが増してしまい、それをばっちり見ていたみちるに


「ちょっ……!怖い怖い怖い……!!」


と怒られてしまう程だった。



アリサはもし万が一この店に、この楠家に危害を加えようと異物がこちらに向かうものなら、全力で叩き潰す気でいた。


戦闘態勢の構築は済んでいる。


武器の展開も、心のスイッチ一つだ。


……だが今一番どうにかすべきなのは、ラッシュ客を捌く事なのだ。悪意感知で測った謎の侵入者の脅威度は実はかなり低い。アリサにとっては片手間でも軽く処分できる雑魚に過ぎない。


一旦即時出動は見送り、事態がどう転がるかを感知し続け、昼休みのタイミングで処分しに行くと決めた。



─────────────────────────────────────



「ピッ……!?ピヒィ……あいつらが来たソラ……!」

突然ソラシーが全身を震わせ、何かに怯えるようににあかりの腕の中へと飛び込んできた。

「あいつらって!?」

「ハルモニアランドを襲った……黒い奴等ソラ……!きっとソラシーの事追いかけてきたソラ……!」


未だ救世主の実感の持てていないあかりはどうすることもできず、ただ震えるソラシーを撫でて落ち着かせることしか今は出来なかった。



「……ソラシー、大丈夫だよ。私がちゃんと守ってあげるから!

「ぴぃぃ……」

ふるふると震える感覚が腕に伝わってくる。

この子を無理に連れていくわけにはいかないと、もう一度ぎゅっとソラシーを抱きしめてから段ボールのクッションへと下ろす。


「ぴぃ……、あ……あかり……?」

「待ってて、私がやっつけてきちゃうから!」


二ッと笑顔を見せ、ソラシーを安心させるようにガッツポーズをする。机の上を見て何か武器になりそうな物を探すがある訳が無い。……仕方ないか。


ソラシーへ手を振りながら自室を出て、階段を降りて真っ直ぐ玄関へ。


「いってきまーすっ!」



外へと飛び出して、どこへ行こうか悩むもあかりの直感がソラシーと出会ったあの神社の森を思い出させ、まっすぐ森へと向けて走り出した。


そんなあかりの背中を窓から見つめるソラシー。

だが先程より増した黒い気配に怯え、再び段ボールのクッションへと頭を隠し、震えてしまっていた。

「ごめん……ごめんなさいソラぁ……」





神社へと辿り着いたあかりは、朝に通った時よりもどんよりとした、嫌な雰囲気を感じていた。ずっとこの場所にいると気が滅入ってしまいそう。


大きく深呼吸をしてから神社の参道を外れ、ソラシーに出会った裏手の森へと進んでいくと、自然と足取りが重く、息苦しさすら感じていた。

「なに……これ……」


気を振り絞って歩を進めると、ようやくソラシーと出会った場所へと差し掛かった。するとそこには真っ黒な燕尾服のような服を纏った長身の男が、焦げた草むらに手を当て四つん這いになりながらソラシーの痕跡を探していた。


あれがソラシーの国をめちゃくちゃにした……敵……!


ごくりと唾を飲み込み、震える手を握り締めて立ち向かおうと一歩踏み出すと、すっと静かに男が立ち上がった。


「チィッ……いないぞ、いないぞおおおおぉぉぉぉ!!!!」


唐突に空へと爆音で咆哮を上げ、近くの木々から遠くの森まで驚いた鳥達が慌てて空へと飛び立つ。


「うるさっ!!」

「なぁにぃっ!!!」


まだ耳がキーンとしている為あかりは両耳を手で塞ぎ、迷惑そうに目の前の怪しい男を睨む。

「--------!!!!!!!!」


「え!!!何!!!聞こえないっ!!!!


「-----!!!」


「だから!!!聞こえないって!!」


すすっと男があかりに近付くと、両耳に当てている手を下ろさせ、再び5歩ほど後退し満足気に頷く。


「ゥ我が名はァっ!!!!フォルティシモ男爵ぅぅぅぅ!!!!!!ディスコード幹部、ぶぁくおん(爆音の)のぉぉぉ!!マエストロァァァ!!!!」プァプァプァプァーン(レゲエホン)



「あああああもうっ!!!もうっっ!!!!」


耳を塞いでも爆音過ぎてしっかりと名乗りは聞こえていた。耳の奥にくわんくわんと響き続け、しばらく周囲の音も聞こえにくくなり、あかりは正直恐怖心よりも最早目の前の男への怒りの方が勝っていた。








「あかり……。うぅー……逃げちゃダメソラ……!ソラシーも行かなきゃ!」


まだ震えが止まらないが、それでもせっかく会えたあかり(救世主)だけを危険に晒すことはできない。

ソラシーは翼を広げると飛び上がり、器用に足で窓の鍵を開けて外へと飛び出し、黒い靄が漂う神社へと飛び立っていった。





「フハハハ!!運が良かったな小娘!!!このフォルティシモ男爵と出会えた事、一生の誇りとするが良い!!!!!」

「何が男爵だ!!ただのうるさいおじさんだよっ!!」

「ただのおじさん……だと!?フォォォルティッッッッシモ!!!!!おじ様と呼び給え!んん~ん!!」


武器より先に耳栓が欲しくなってきた。何なのこのおじさん……。


「それより小娘っ!!ここに来たという事は、逃げた青いメロディーバードを知っているな!??大人しく案内せよ!!!!」


「嫌だっ!絶対に教えないっ!!!」



あかりの返答に大げさな身振り手振りで失望を露にすると、どこからともなく黒い指揮棒のような物を取り出し、ビッとあかりへと突き付けた。


「ならば仕方あるまい、このフォルティシモ男爵の名演に、感涙の用意をしておけぇい!!!!ハイライトの時間だ!ワルイゾー、全開フォルティッシモッ!!!!」



男爵がどこからか取り出した宝石のような物を握り締めて指揮棒で三回叩くと暗い輝きがあふれ出し、光が収まると身の丈をはるかに超えた巨大な黒い……メトロノームに腕と足を付けたような巨人が現れていた。


「ワルイゾー!!」


「な……何これ……!?」

「さぁ、最後のチャンスだ!メロディーバードの行方を言えぃ!!」

「ワルワルイゾー!!!」


じりじりと近付き圧をかけてくるワルイゾー。自分の倍以上の大きさのワルイゾーに攻撃されたらひとたまりもないが、あかりは震える足を叩き、きゅっと手汗が滲む両手でスカートを握り締め、キッとワルイゾーとフォルティシモ男爵を強い意志の籠った瞳で見つめた。


「……意地でも言わんつもりか!生意気な小娘め!!ならば望み通り幕を下ろしてやろう!!やってしまえワルイゾー!!!」

「ワルイゾー!!!」



ズシンズシンと音を立ててワルイゾーが迫り、巨躯に見合った太い腕を振り上げ、あかりへと振り下ろす。

「きゃあああああっ!!」

寸でのところで直撃は避けるも、地面に叩きこまれた拳の風圧であかりの身体は簡単に宙を舞い草むらへと転がり落ちた。


「あかりーーーっ!!!」


空からソラシーがまっすぐ舞い降りて横たわるあかりの元へと身を寄せる。

「ソラ……シー……なんで……?危ないよ……?」


「ごめんソラ……!ソラシーが勇気がないばっかりに……」

痛む腕を伸ばし、ソラシーを撫でて微笑む。

「大丈夫、これぐらい……へっちゃらだよ……!」

これ以上心配させないように、無理やり身体を起こしてゆっくりと立ち上がる。落ちた時に打ってしまったのか、庇うように地面についた右腕と右足がじんじんと痛む。



「見ぃつけたぞ!メロディーバード!!!さぁお前も大人しく音を寄越すのだ!!!」

「ワルイゾー!!」


そんなあかりにお構いなしにフォルティシモ男爵はワルイゾーをけしかけ、あかりの腕の中に納まるソラシーを奪おうと追撃を仕掛けてきた。


「させない……!」


右足に鈍い痛みが走るが、掴みかかるワルイゾーの手をかいくぐり、転びながらも攻撃をかわしていく。

しかしワルイゾーも甘くはない、もう捕まるのも時間の問題になってきた。


「あかり!もうダメソラ!これ以上はあかりが……!」

「……ううん。絶対に負けない……!だって守るって決めたんだもん!ソラシーも!ハルモニアランドのみんなも!」


「フクク……何をごちゃごちゃ言っているのかね??もうこれで余興も終わりだ!終わらせなさいワルイゾー!」

「ワッルイゾー!!!」


「絶対、絶対守る!! 守りたいって気持ちが――ドレミってるの!!だからっ!!」



突如、あかりの目の前の空間が眩い光を放ち、あまりの輝きにワルイゾーの動きが止まる。

「な、なんだァ!?何の光ィ!!??」


キラキラ輝く光と共に空気が震え、目の前に浮かび上がったのは、透明な羽根のような装飾に包まれた小さな宝石のコンパクト。

音符の意匠が浮かび上がるそれは、まるで空気を震わせるように()をまとっていた。


目の前に浮かぶ光のコンパクトを、あかりは迷わず両手で包み込む。


「――ブレッシング・チェンジ!!」


高らかな掛け声とともに、あかりの身体が光に包まれていく。

コンパクトが開き、中から飛び出すように舞い上がった音符が空中でキラキラと輝き、五線譜が巻き付くように彼女の身体を包み込んでいく。


まるで光で編まれていくように、五線譜の軌跡がスカートを形作る。


優しい風が髪をふわりと持ち上げると、ミディアムだったあかりの髪が腰ほどの長さへと伸び、煌めく金髪に染め上げられ、音符をあしらったリボンがハーフアップに髪を結び直す。


手足を純白のグローブと二―ソックスに包まれ、背中には白い羽根のようなリボンがふわりと広がった。



胸元のハート型の金具に、手にしていたブレッシング・パクトがスッと吸い込まれ、ブローチとして煌めく。


「響け、祝福の音色!一緒に紡ぐ想いのメロディ―!」


全ての装いが完成し、彼女は空中で軽く一回転。



「愛の旋律、届けます!メロリィ・エンジェル!」

足元に広がる光の五線譜と共に着地し、背後には淡いピンクと白の音符がはじけ、羽のようなエフェクトが舞い散る中、あかりはウインクをひとつ。


「大丈夫、私がそばにいるよ?」

その笑顔は、どこまでもまっすぐで――どこまでも優しかった。


挿絵(By みてみん)

お待たせしました。メロリィエンジェル爆誕でございます。

今プリ〇ュアで言うところのBパート前半くらいかな………

次のエピソードで所謂ニチアサ1話が終わります。どうぞ今後ともお付き合いください。


それでは次回もお楽しみに~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
な、長い…いいお話なんですけど、長い…読むのキツイなあ…どれも必要なお話だからこそ、どこかで区切ってほしいですね…冗長とかではないんです、必要な流れではあることも分かるんですけど、読んでてきつかったで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ