柄のタイツ
僕の人生の進捗は、青空に星々が輝いて見えるところまで来ていた。四六時中、光過敏に悩まされている。そして君はただ皮肉が言えるだけの人間だった。それ以降に続くべき愛というものを分かっていない。だから創作に向いていない。ある日君は廊下の陰に隠れ、その廊下にはマグマ柄の全身タイツを着た男がよく現れるようになった。マグマ柄の男は顔を隠し、どこからともなくおどけた身振り手振りで出てくると、正体は紛れもなく君だったが僕はそのことを黙ったまま、玄関からこの廊下を出ていくことにした。マグマ柄の男が僕の後を追いかけて来ることはなかったが、扉越しに泣き慣れていない人の泣く声が聞こえた。全身タイツに塩辛い涙がしみ込む音……。
僕の人生の進捗では、青空に星が輝いて見えるくらいしか何も手にしていなかったから、四六時中光過敏だった。玄関から坂道を走って駆け下りると、薄暗い路地を抜け、街まではすぐに下りることができた。一段と太陽が眩しい。叔父は死んで軍用高級車の一部にされてしまった。全財産だった2000円も野良猫がハンバーガーに挟んで食べてしまったし、僕の手元に残ったのは、押すと鳴るカプセル型頭痛薬のぬいぐるみと、側面に『watermelon』と印字された白い羊が一匹だった。
「メェ~。」ピィ~、ピィ~。
羊が一生懸命ぬいぐるみをかじってよだれまみれにしている。もう僕はそう長くないのかもしれない。四六時中光過敏に悩まされて、代わりに夜は普通の人より早くやって来るのだった。
青空にも星が見えてしまうから、夜にはこれ以上ない程に星が光って見えた。羊の側面の『watermelon』の印字も鈍く反射して光っている。咥えられたぬいぐるみもよだれが滴ってヌラヌラと光っている。するとおどけた身振り手振りで、どこからともなくマグマ柄の全身タイツが現れた。明らかにアイツのシルエットではない、それは細身の女だった。顔は隠れているが、喋ると口の辺りがもごもごと動いた。
「わ~羊可愛いですね~。もらいま~す。」
「メェ~。」ピィ~、ピィ~。
マグマ柄の女と羊は夜の街へ姿をくらましてしまった。




