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chapt 3 ソースキングダム

こんにちはkzfactryです。今回は言わずと知れた漫才をテーマにしました。今時はなかなかドツキやツッコミなどコンプライアンスの事もあり、あまり好まれない方もいる感じに見受けられます。ドツキやツッコミを自分達の日常と比較して忌避するのではなく、戦闘シーン満載の舞台やプロレスリングなどと比較してプロフェッショナルのショーとして楽しめないかな?と思っています。


       kzfactry




__マゴッタはものすごく真剣な表情で作業をしていた。ひたいからも汗をかきつつ(左額のヤクミもあるのでちょっと紛らわしい)何かを一生懸命作っている。…?ちっちゃくて可愛らしいマゴッタ?…いや、どうもスピーカーのようだ。四つも。名付けてスピーカーマゴッタ(そのまんま)。コネコネコネコネ。出来立てホヤホヤなのでツルツル光っている。本人(本スピーカー?)たちも嬉しそう。


『ふう、これでいいかな?あとはこの子達をハウスマゴッタにセットして…から…』


プルンプルンプルルルルーン!


その時フォンマゴッタのコールが鳴る。今日はプルプルの気分のようだ。


『はーい♡』


マゴッタが作業を中断して電話に出ると…


『『『ミヤビじゃありませーーーーん!!!』』』 キーン!! バタッ!


とてつもない音量で叫び声が。マゴッタは耳をやられ、体中にヒビが走る。フォンマゴッタは気絶する。かわいそうにマゴッタとフォンマゴッタの目が渦巻状になっている。フォンマゴッタが気絶しても通話は続けられるらしい。


『あないな下品な芸能はこの私が絶対認めまへん!!ソースキングダムの新世界花月(NWK)です!すぐに来なさーーーい!!!』


余りの音量にマゴッタは頭までキンキンして思わずよろける。しかし困った妖精さんがいるなら行かなければならない。フォンマゴッタに心臓マッサージ?と人工呼吸をすると、ふらふらとしながらだがフォンマゴッタは立ち上がる。すごいパンチをもらったボクサーみたいだ。


『フォンマゴッタ、Reニアちゃん呼んでくれる?』


       *


 現れたReニアちゃんは磁石の妖精。Uの字型の顔。と言ってもUの底の部分に丸い可愛らしい顔があって、Uはむしろツノの様に見える。とっても元気な男の子の妖精さん。


『久しぶりー、マゴッタ!』


ニコニコ顔でマゴッタに挨拶する。とっても明るいいい磁石の妖精さんだ。…ただ体の大きさはマゴッタとさほど変わらない様だけど、Reニアちゃんは何をするのに呼ばれたんだろう?


『どこへ行きたいの?』


『ソースキングダムの新世界花月だって、わかる?』


Reニアちゃんはちょっと首を傾げたが、両手をポンと叩いて


『新世界花月!わかるわかる。210カックンのすぐ側だ。210カックンとは友達だからね、すぐに行きたいの?』


『うん、すっごい急いでいるみたいだった。早く行ってあげなきゃ』


…急いでると言うよりは脅かされていたような…?マゴッタはどこまでも優しい。


『リョーカーイ!』


Reニアちゃんは元気に手をあげて応えると、するするっと軽やかにハウスマゴッタの屋根に登る。それを見たマゴッタが、


『ハウスマゴッタ、フックモード!』


そういうと、ハウスマゴッタの屋根から?マークそっくりのフックが。それをReニアちゃんが両足で挟む。


かちんっ


音がするほど強力にくっつく。足も磁石になっているらしい。


『それじゃ準備はいいかーい?』


『いいよーーー♡』


『サーチ、アンドロックオン!目標210カックン!!』


Reニアちゃんがそう叫ぶと、U字型のツノの先からギザギザマークの電磁波が出だした。どんどん数が増えていき、


ビュンッ!


物凄いスピードで西の空向かって飛んでいく。


『にゃん!』 『うぅぅ!』 コロコロコロ


……ハウスマゴッタの家の中でサーメNYANとWooちゃんのびっくりした様な声と転がる様な音が。そう言えばマゴッタは二人に何も言っていないような。いきなり家がすっ飛んで行ったらびっくりして転んじゃうよね。

 Reニアちゃんのスピードは物凄くて、あっという間にクッキーを詰め合わせたような日本にそっくりの景色が見える高度に達した。そのままグングンと西を目指す。あれ?左の方でにこやかに手を振っているのはMフジさんかな?ぶんぶん手を振っている。そのあとミャーゴキャッスルの上で手を振っているのはHKシャアさんとHKチイさんの兄弟かな。今日も仲が良い。猛烈なスピードなのであっという間に塔の妖精さんが見えてきた。


カイイーーーン! 『あいた!』


同時に音がした。Reニアちゃんが210カックンにくっついた音と悲鳴が同時。体のおっきな210カックンの脇の下あたりにReニアちゃんとハウスマゴッタがくっついた。


『あたた、あらら?Reニアちゃんやない、ひっさしぶり』


210カックンはちょっとびっくりしたみたいだけどにこやかにReニアちゃんに声をかける。


『おんや、お客はんも一緒やん?』


ハウスマゴッタが?型のフックからスルスルロープを伸ばしてゆっくり降下していく。ほんとハウスマゴッタは器用。降りきったところで、Reニアちゃんが210カックンに声をかける。


『久しぶりー!♡元気してたーー?マゴッタがソースキングダムに来たいんだって』


ハウスマゴッタから三人のタマゴ達がとてとてという感じで出てくる。…気のせいかマゴッタにはポカポカ殴られた様な跡と引っ掻かれた様な跡が。マゴッタがちょっとシュンとなっている。可哀想。…自業自得だが。


『おや、あんさんがマゴッタはんでっか。噂はよう聞いてま』


210カックンはニコニコしながら話かけてきてくれる。ちょっと小柄で気さくな塔の妖精さんだ。


『新世界花月に行きたいんだけど210カックンは知ってる?』


『もちろん知っとるがな〜、この道を南にぶわーっと言ったらドーンとつき当たる。ほいたらグルングルン回って目〜凝らしたら見つかんで♡』


……なんだかわからないけど南に行けばいいらしい。三人はReニアちゃんと210カックンにお礼を言うと、とててて〜と南に向かって走り出す。すると道の真ん中に犬の妖精さんが三人並んで楽しそうにおしゃべりしてる。三人とも丸っこくて毛深い。チャウチャウの妖精さんの様だ。三人共すっごく毛深くて丸っこくて可愛い。なんかおしゃべりに夢中のようだ。


『チャウチャウチャウチャウ、チャウンやチャウ』


『チャーチャッチャッチャ、チャーウン?」


『CHAチャチャはチャーウんやがな。CHAウーヤンはCHAチャイとチャウンやろ?』


『CHAチャチャもチャッチャチャッチャ決めたってーな』


『ほいたらワシはミックスジュースと豚まん』


『ワイも』


『ワシも』


『みんな一緒やないかーーーーい!』


……さすが外国。言葉もわからないし色々わからない。三人のタマゴ達が呆気に取られて見ていると、チャウチャウの妖精さん達はやたら立派なひさしが付いている建物に入って行った。そのひさしに“新世界花月“と大きく書いてある。


『ここだぁ、立派な建物だね♡』


 三人のタマゴ達も続けて入っていく。新世界花月に入るといきなり扇子の妖精さんが二人現れてマゴッタ達の前に立った。顔は広げた扇子を逆さにしたような三角形。一人は男性で縦に長い黒の帽子(烏帽子?)を被り、ちょっと角張った様に見える明るめの藍色の和服を着ていて、マゴッタ達をジロリと見ながら手に持った扇子を広げて口元を隠している。鋭いほどの切長の目。

 もう一人は女性。こちらの扇子の妖精さんはさらに目力が強い切長の目。…怖いくらい。服はオレンジがかった赤色の和服。紅葉色か?十二単というのだろうか、やたら重ね着している。重くないのかしら?

 マゴッタ達がホケーっと二人を見ていると、女性の方が先に口を開いた。


『やっと来はった、遠いところから来てもろて。おおきに』 キラーン


『僕マゴッタ♡こちらズーラWooちゃんとサーメNYANでーす♡』


マゴッタスマイルとWooちゃんの触手フリフリ、それにサーメNYANのつぶらな瞳。誰もが余りの愛らしさにノックアウト……のはずなのだが、扇子の妖精二人は目をギンと光らせると、男性の方が扇子越しに口を開く。


『元気なお子さんやねぇ、ほんま明るくてよろしおす』 パパパッ キラーン


女性の扇子の妖精さんがさらに目力を強くして言う。


『私は扇モミジ、こちらはにいはんの扇ミヤビです。二人でハンナリKugeと言う漫才師をやらせてもろてます』


『よろしゅう、どちらから来はったん?』 キラーン


……さっきからキラーンという音が聞こえる。よく見るとサーメNYANの目が何かに反応して光っているようだ。何か重大な秘密があるのだろうか?


『タマサンフリーダムで〜す♡』


マゴッタが元気よく言うと、扇モミジの目が一瞬ギンッと光り、


『まあ、ようしらしまへんけどええとこなんでしょうなぁ、ほんまにこないな子達がすくすく育ちはって』 キラーン


 またまたサーメNYANの目が光る。扇子の妖精さんの言葉に反応している様だが…


『ところで、ソースキングダムの芸人はん達は野趣溢れる芸風やさかい相手はんの頭をパッカンパッカン叩いて笑いを取りに行きはる。わてらミソダシエンシェントCityの者は恐ろシューてそないなことでけしまへん。ぜひわてらと共にソースキングダムの皆はんに品性のある笑いを伝えて欲しいんです』 キララーン


 キラーンと音がするのはサーメNYANの目だが、パパパという音は扇ミヤビの烏帽子から出ているようだ。烏帽子をよく見ると横に線が入っていて五段に分かれている。今まで黒色だった烏帽子が下からイエロー色に一段階光っている。光るときに音が鳴るようだ。…これにも秘密があるのかな?

 とにかく今回マゴッタに課せられたミッションはかなり難易度が高そうだ。でもマゴッタはタマゴの妖精なのであまり難しい事はわからない。持ち前の元気さで


『いいよ〜♡頑張る!』 パパパパッ


……何故か烏帽子の二段目がイエロー色に光った。扇ミヤビと扇モミジ二人とも扇子で口元を隠し、三人のタマゴから目を離さないまますり足で離れていった。とっても器用。


        *


 マゴッタ達が劇場の中に入っていくともう漫才が始まっていた。


“オカンとオマケ“


と演目のところにある。二人の漫才師のユニット名のようだ。オクラの妖精さんとレンコンの妖精さんかな?レンコンの妖精さんは輪切のボディにメガネをかけ可愛らしい髪をアップにしている。レンコン(Laneコンさん)がお母さん、オクラ(Oakラン)が息子さんらしい。


『は〜〜、やっと着いたわソースキャッスル。ええとこやね。ほな早速…』


ぱんっ


LaneコンがOakランの頭をスパーンと叩く。Oakランは顎から滑る様に倒れる。


『いきなり何すんねん、オカン!』


『いつも世話になっとるソースキャッスルのお堀はんを掃除せなな…って、なんでシャベルが喋っとんねん!シャベルが喋るで混乱するやんか!』


『シャベルやあらへん!ワシやワシ、息子のOakランや!!』


どっっっ!


会場が笑いに包まれる。さらにLaneコンがOakランを抱えてシャベルですくう様な動きをしたらさらに会場の笑いが大きくなった。


『勘弁してーな、オカン。ワシの顎はシャベルやあらへんで!』


その後も爆笑の漫才が続く。マゴッタ達も大爆笑。とってもテンポの良い本場の掛け合い漫才だ。素晴らしい。


『早く串カツになりたーーーーい!』


『やめさせてもらうわ!』


締めの二人の言葉でさらに会場が大爆笑になってオカンとオマケの漫才は終わった。大喝采。タマゴ達も拍手拍手。


パパパパッ


タマゴ達の見えないところで扇ミヤビの烏帽子の三段目がオレンジ色に光った…


           *


 次のステージはハンナリKuge。扇子の妖精さん達の番だね。


ぷ〜〜…ぱぁ〜〜♬


ゆっくりしたテンポの高い笛の音が響きだした。ステージの両脇から扇ミヤビと扇モミジがすり足で登場してきて中央のマイクに向かって話し出す。


『ハンナリKugeです、よろしおす』


舞台で漫才が始まった頃、丁度会場に三人の妖精さん達が入って来た。サトウキビさんとゴーヤさん、それにパパイヤの妖精さんかな?三人共妖精の種族は違うが一様にボリューミーなボディ。コロコロと健康的に太っている。その三人が慌てて入ってきてマゴッタ達のそばまで来た時に


ステン!


サトウキビの妖精さんが転んでしまった。大丈夫?


『はや〜、でーじあふぁー、しに恥ずい!』


『あぎじゃびよー、ひーじー?』


『KB佐藤さんうふそー、ひーじー?』


『ソースキングダムでしにかむん、でーじくぇーとーんくるぶんさぁ』


……言っている意味はわからないが、マゴッタ達の隣に腰掛けた。


『ぐぶりーさびら、あれ、ちゅらかーぎーわらびんちゃー♡』


マゴッタ達に一番近い場所に座ったパパイヤの妖精さんがにこやかにマゴッタ達に言う。意味はさっぱりわからない。会場が静かなので声はよく聞き取れるのだが。…会場が静か?ハンナリKugeさん達が漫才していなかったっけ?思い出したようにステージを見ると、今日イチの目力でマゴッタ達三人と新しく入って来た妖精さん三人を睨んでる。


パパパパッ


扇ミヤビの烏帽子の四段目がオレンジ色に光った。今度は皆ではっきり見ていたので光ったのがわかった。あと一段しか残ってないのだが、何かが起きるのだろうか?扇ミヤビはこほんと咳払いを一つすると、気を取り直したように漫才を続けた。…漫才はしていたのね。どうもソースキングダムに住んでいる遠縁の親戚が扇ミヤビで、ミソダシエンシェントCityに住む扇モミジの家に遊びに来たという設定らしい。


『やーえろうすんまへん、すっかりゴチになってしもうて。やーしかしなんでんな、ミソダシエンシェントCityの食べもんは上品ちゅーか味うすぅーて何食べてるかわからしまへんな』


扇ミヤビがかなり大袈裟に誇張してソースキングダム言葉を真似て言う。…悪意まで感じてしまう誇張度合いだ。それに対して扇モミジが目をキラーンと光らせて


『よろしおすな。さすがソースキングダムの方は舌の方がコエとるようで…。ほなぶぶ漬けでもおあがりなさいます?』


『ほんまでっか?ほな遠慮のういただきまっせ』


…ここで二人が最大の目力で客席を見る。そして


ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン…♬

     チャッチャチャチャ チャッチャチャチャ♬


サスペンスドラマで流れる様な音楽が会場全体に響き渡る。


『ミヤビじゃありません!』 パンッ


扇ミヤビが決め台詞を言うとそれに合いの手を入れる形で扇モミジがお腹を叩く。そして再び目力。…顔芸なのかな?ソースキングダムの妖精が多い観客は何が何やらという感じでポカーンとしている。会場はシーンと静まり返った。

 …何故かサーメNYANだけが目をキラッとさせてくすくす笑っている。ハンナリKugeの何かがサーメNYANの感性に刺さったらしい。さすがサーメNYAN。


ごそごそ


静かになったから丁度いいタイミングだと思ったらしい、KB佐藤さんが手持ちの袋から何かを出す。綺麗な袋に入った人形焼?よく見るとさっき出演したオカンとオマケやハンナリKugeさん達がモチーフになっている。可愛らしい人形焼きだ。


『はや〜、KB佐藤さんちゃー食べてるさ〜、がちまや〜』


…相変わらず何を話しているかはわからないが、KB佐藤さんは人形焼の袋を開けるとマゴッタ達三人に


『わらびんちゃーかめー♡』


と言って人形焼を差し出してきた。12個入り。マゴッタの顔が嬉しそうになり、


『ありがとう♡』 カパー…


マゴッタがお礼を言うのと同時にWooちゃんが大口を開けていた…


ぱくんっ もふっもふっもふっ


…Wooちゃんに一瞬で捕食されてしまった可哀想な12体の人形焼達。


『あぎじゃびよー!』


KB佐藤さんがびっくりして腰を抜かしている。…初めてWooちゃんの捕食シーンを見たのでは無理はない。


『ううううぅぅぅ〜〜〜!♡』


Wooちゃんが触覚でハート型を作って回り出した。Wooちゃんのピンクのオーラが周りに広がる。


『はー、びっくりした。凄いねこの子!美味しかったかい?』


Wooちゃんはとってもにこやかに頷く。


『もっと食べる?』


KB佐藤さんがまた袋から取り出そうとした時、


ウーーウウウーー!!


空襲警報?消防車のサイレンの音?がしてきた。そっちの方に目をやるとステージ。そういえばまだハンナリKugeの漫才中だったような…。音は扇ミヤビの烏帽子から出ているようだ。見ると烏帽子のてっぺん部分が赤く光って点滅している。それにこの音。明らかに警戒音だが…。下を向いていた扇ミヤビが顔を起こしてギャラリーの方を向くと、


『『『ミヤビじゃありませーーーーーーん!!!!!』』』


大砲を撃ったような音量と衝撃波が会場内に炸裂する。ステージ近くの妖精さん達は失神してしまったようだ。


『わ〜〜〜〜〜!!』


マゴッタ達三人は衝撃で会場の外まで吹き飛ばされてしまった。フォンマゴッタから聞こえてきたのはこれか。…などと考える余裕もなく、


コロコロコロコロ


なにせタマゴの妖精、よく転がる。建物のかなり奥の方まで転がってしまった。ひゃー大変。三人はフラフラしながらやっとの思いで立ち上がると、


『しくしくしく』


泣いている妖精さんがそばに居た。紅生姜の妖精…SHOWベニちゃんだ。とっても悲しそう。マゴッタがすぐ気がついて駆けつける。


『どうしたの?大丈夫?』


聞いてみると、この後SHOWベニちゃん達のトリオ“オヒルノオトモ“の出番らしいのだが、“ツッコミ“が全然上手くいかなくて落ち込んでいたらしい。“ツッコミ“とは漫才の中での高等テクニックの事のようだ。…なるほど、しかしマゴッタには難しいことはわからないのでダンスすることにした。


『SHOWベニちゃん、見てて』


 ボックスステップからのマゴッタスピン、それに初お披露目のターキアダンス。まだちょっとぐらぐらするが、マゴッタは一生懸命。マゴッタからは暖かくて柔らかい光が湧き出す。すると泣いていたSHOWベニちゃんも


『くすくす、そのダンス面白い♡』


ターキアダンスを気に入ってくれたらしい。マゴッタも一生懸命覚えた甲斐があってちょっと鼻を高くして(マゴッタに鼻は無いが…代わりに額のヤクミがピーンと立っている)ターキアダンスを踊る。すると


『なになに?面白そうなことやってるね』


なんと、先ほどステージに出ていたオカンとオマケの二人が現れた。息子のOakランの方が話しかけてきた。マゴッタのターキアダンスに興味津々。お母さんのLaneコンも微笑ましい素敵な笑顔で話しかけてくる。


『新しい芸人さんなのかな?素敵なダンスだね』


その二人に気がついたSHOWベニちゃんがちょっと畏まって立ち上がりながら挨拶する。


『Laneコン師匠、Oakラン師匠、おはようございます』


…何やらソースキングダムではしきたりの様な挨拶があるらしい。


『畏まんなくていいよ〜、どしたの?』


Oakランが笑いながら言うと、SHOWベニちゃんがマゴッタがダンスするまでの経緯をかくかくしかじかと話す。


『ふーん、なるほどね。それで最近SHOWベニちゃん元気なかったんだ…』


どうやら二人ともSHOWベニちゃんの事を気にかけてくれていたらしい。優しい先輩だ。


『私、TKデンネン先輩やOKマンネン先輩を“ドツク“なんて出来なくて…』


SHOWベニちゃんは下を向きながら細い声で言う。しばらく黙って聞いていたOakランがニコニコしながら喋り出す。


『SHOWベニちゃん“ドツク“はね、暴力じゃ無いんだ、合いの手なのさ。叩くのが強すぎてもダメだし弱すぎてもダメ、タイミングもすごく重要なんだ。それをギャラリーの様子を見ながらタイミングよくスパーンと決めて大爆笑を取ると、ものすごく嬉しいんだ』


『え…?』


ちょっとピンとこないSHOWベニちゃん。すると横で聞いていたLaneコンもタイミングよく会話に入ってくる。さすがコンビ。


『そうよ、ベニちゃん。叩かれるのは痛いけど、“ドツかれる“のは“オイシイ“のよ』


…何やらプロどうしで高等な会話が始まる。専門用語が多すぎてマゴッタの目は?マークになっていたが、SHOWベニちゃんは少し解ってきたようだ。


『“オイシイ“の…?』


『そうよ、ベニちゃん』


Laneコンはニコニコしながらそう言うと、


スパン!


Oakランの頭を叩く。


ステーン!


Oakランが顎から滑りながら転ぶ。


『見て、“ネンキ“が入ってくると、突然の“ドツキ“にもこんなに綺麗に滑りながら転べるでしょ』


LaneコンはOakランの頭を優しくポンポンしながら言う。Oakランは顎を伸ばして倒れた姿勢のまま渋い顔で、


『それにしても母さんの“ドツキ“はキツ過ぎるけどね…』


『スコップ(?)が文句言ってんじゃないの、話がややこしくなるでしょ』


…Wooちゃんの翻訳能力のおかげで逆に話がややこしくなってしまったが、場がほんわかとした笑いに包まれた。さすがプロフェッショナル。SHOWベニちゃんも楽しそうな顔になった。横になっていたOakランが起き上がりながらSHOWベニちゃんに言う。


『SHOWベニちゃん、取り敢えず自分が求められている事を自分のカラーを出してしっかりやる。それしかないんじゃないかな』


『うん、ありがとう♡』 タタター!


SHOWベニちゃんは嬉しそうに皆に手を振ってからステージの方に走って行った。何かふっ切れたのかな?いい笑顔。


『頑張れ〜〜!』


          *


 いよいよSHOWベニちゃん達の“オヒルノオトモ“の番がやってきた。ドキドキ。TKデンネンとOKマンネンと三人で舞台袖から登場してくる。…ん?SHOWベニちゃんは背中に大きなものを背負っている。何だ?


『こんにちわ〜、“オヒルノオトモ“で〜す。トリオで漫才やらせてもらってま〜す』


OKマンネンが元気よく喋り出す。


『いや〜この間初めてクニサンエンパイヤに行って来たんですけど、思ったほど大したことありませんでしたわ。妖精さんの数だってシーンサイバシと変わらないくらいしか居なかったし…』


このフリを聞いた瞬間SHOWベニちゃんの目が光った。背中に背負っているものを刀を抜くような動きで手に持った。何?びらびらっとした厚紙の束?これが伝説の“ハリセン“か?しかも目の覚めるようなレッド色のハリセン。そのまま流れるような動きでOKマンネンの後頭部を叩く。


スパーーーーン!


『シーンサイバシの1000倍はいたわ、あほーーー!』


SHOWベニちゃんの猛烈なツッコミ。


余りの勢いにOKマンネンの体が浮き、平たい顔から目が飛び出す。それに鰹節のような髪の毛がひらひらひら。涙もちょろちょろちょろ。


その猛烈なシーンを見てTKデンネンの瞳に怯えが走った。…が、さすがプロフェッショナル。次の会話に切り込む。…こうなると漫才というより決闘のような…。


『そうそう、それに塔の妖精だってこの街の210カックンの方が大きかったし…』


そのフリを聞いたSHOWベニちゃんの瞳が再びキラーン。


『向こうのトウエドさんの方が何倍もでっかいわ〜!!』


今度はハリセンをバックハンドで


スコーーーーン!!


TKデンネンは丸っこいせいか錐揉み状にスピンしながら吹っ飛ぶ。まるでフィギュアスケートの空中スピンみたい。目が細いので目玉は飛び出してないが代わりに出っ歯がどばーんと伸びて涙を撒き散らしながらOKマンネンとは反対側にパタッと倒れる。やはり鰹節の様な髪の毛がひらひら。後に“レッドデビル“と呼ばれる伝説のツッコミ師、SHOWベニちゃんの開花の瞬間だ。……ホントか?

 余りに物凄い“ツッコミ”だったので最初はギャラリーも呆気にとられていたがやがて、


『『うわーーーー!!!』』 パチパチパチパチ!


会場一杯の声援と拍手が。


『ナイスツッコミ!』『最高のタイミングだ!』『綺麗なコケだったぞ!』『SHOWベニちゃんカッコいい!』


会場は興奮の坩堝に。SHOWベニちゃんのツッコミ芸は完全に受け入れられたようだ。ハリセンを振り抜いたポーズのまま止まっていたSHOWベニちゃんもとっても嬉しそう。


 マゴッタも会場の雰囲気に当てられて声援を出していたが、流石に喉が渇いてきた。するとサーメNYANが透明のプラカップに入った冷たくて美味しそうなジュースを持っている。マゴッタの視線に気がついたサーメNYANが、


『レイコー、飲むにゃん?』


と言ってマゴッタに渡す。マゴッタの仲間達はみんな優しい。


『ありがとう♡サーメNYAN、ごくごくごく…』 ピタッ


ん?いきなりマゴッタの動きが止まった。


『にが〜〜〜〜〜〜!!』


 サーメNYANから渡されたのはミルクもガムシロップも入ってないストレートのアイスコーヒー。子供舌のマゴッタにはひとたまりもなかった。……それにしてもサーメNYANの好みは渋過ぎる。余りの苦さにマゴッタはくるくる回りながらステージの上まで上がって行ってしまった。あら大変。SHOWベニちゃんのツッコミを食らって倒れている(気絶している?)TKデンネンとOKマンネンのちょっと前、三角形の頂点になるあたりにばったりと倒れ込む。……すると、みるみるマゴッタのボディが黒くなっていく。少しパープル色が入っているか?顔もどんどん暗くなっていき、ベージュ色になってきた。


ターンP


マゴッタはまた変身してしまったようだ。ピータンの妖精さんなのかな?ハラハラして見ていると…。ピクッとターンPの体が身震いした。


『…オイシイよ…』


ターンPから声が…。それだけでなく音楽がかかり出した。


ダッタッ♬ダッタッ♬ダッタッ♬


不自然な格好でターンPが起きる。なぜかTKデンネンとOKマンネンも起きる。二人はまだ気絶しているようで、目が開いていない。…しかし、三人揃って下向き加減で腕をちょっと前に出してダラリとさせている。まるでオバケの様。


『オイシイよったらオイシイよ♬コワないよ♬』


ターンPのボイス、それにミュージックからの満を持してのダンス。


ダッタッ♬ダッタッ♬


ターンPがキレッキレの動きでダンスを始める。初めて見る……オバケと言うよりゾンビ?の様な格好で手首や足を曲げ、左右にぶんぶん体を振りながらダンスする。まるでプロダンサーの様。それに何故か後ろで踊っているTKデンネンとOKマンネンが完璧にシンクロして踊っている。二人はまだ気絶から覚めていないようで、顔が下向いたままダンスしている。ターンPの強制シンクロダンス?物凄い能力だ。

 盛り上がっていたギャラリーはさらにヒートアップ。アップテンポのミュージックとダンスにノリノリだ。それにいつの間にやらサーメNYANとWooちゃんもステージの上に。ターンPの横のいいポジションに陣取ってやはりシンクロダンス。Wooちゃんは触覚で。サーメNYANは丸っこくて小さい手足で。ダンスダンス。


         *


 少し離れて扇モミジは眩しそうに盛り上がっている会場とステージ上の妖精達を見ている。そしてポツリと


『アニさん、うちらやっぱり間違うとる思いますわ。みんなあんなに楽しそうどすえ』


でも扇ミヤビはまだ悔しそう。苦い顔で


『あんな人さんの頭をツヅミでも打つ様にポカポカ叩いて笑いをとるだなんてあてにはでけしまへん!』


『でもこの会場で楽しんでないのは私らだけですよ?郷に入っては郷に従え。昔の人もいうとります。ミソダシエンシェントCityではなくソースキングダムで仕事をするならそこの妖精さん達が喜んでくれる漫才をやらんと、ウチらプロフェッショナルですよって』


そう言うと扇モミジはいつの間にか手に持っていたシャクをす〜と撫でた。その動きに気付いた扇ミヤビがギョッと目を剥く。笏とは聖徳太子が持っていた様な大きくてカッタイ板。それを撫でながら扇モミジが言う。


『アニさん、私ら後発ですよって同じハリセンって訳にはいかしませんよねぇ…』


扇ミヤビが真っ青になって後ずさる。キラーンと光る扇モミジの目力の強さが本当に怖い。


ジャジャジャジャーン!ジャジャジャジャーン…♬

     チャッチャチャチャ チャッチャチャチャ♬


……何故かここで彼らハンナリKugeの漫才で使用している効果音が流れる。そう、サスペンスドラマで流れる様なちょっと怖い音楽だ。


『…ま、待て、妹よ。シャクなんて大きくてカッタイ板でドツカレたら、漫才じゃなくてサスペンスになってしまいますえ』


……こんな危ないシュチュエーションでもちょっと面白いことを言おうとするのはやはり芸人のサガなのか…。扇ミヤビは後退りした後、猛ダッシュで逃げ出した。


『ひえ〜〜〜〜!』


果たしてハンナリKugeの逆襲はあるのだろうか?


            *



読んでいただけたでしょうか?実は今回ほとんど調べないで会話を書き上げました。なので色々と納得できない表現もあるかと思います(涙)。しかし関西弁は関西出身では無い私が『いけるんじゃね?』と思って書き上げてしまうくらい日本全国に浸透しているハイパーな方言だと思います。関西の方には他県の人間が関西弁を使うのを嫌がる方がいるとも聞きますが、標準語並みに全国に広がっている言語の先達として、しょうがない、本当の関西弁を教えてやるか、くらいのスタンスで暖かく見ていただけると嬉しいです。


        kzfactry



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