39 セリーナは大変…別の意味で
日曜日の昼。
ここはセリーナの臨時拠点の小屋……いや、もう臨時ではない。妖精の女王のおかげで、すでにセリーナの家の一分になった。
今朝、セリーナたちはナイジェリアの森中心部の遺跡ダンジョンを周回した。タピオカはサクラリアにサポーターの役目を教え、兼ねて彼女のレベル上げを行った。そして今回は、前には出来なかった「悠希抜きの状態」でのセリーナの実戦訓練でもあった。
セリーナはすでにこの遺跡ダンジョンを何度も周回しているため、内部の仕掛けや敵の配置は知り尽くしているはずだった。だが、悠希はやはり心配だった。以前はセリーナと悠希だけで挑んでいたため、「悠希抜きの状態」彼女が一人で戦う姿を誰も見ていないことに悠希は不安を覚えていた。だが今回はタピオカが同行している。もしセリーナが戦闘に慣れず攻略が難しくなっても、タピオカが即座に支援できる――その安心感があった。
二回周回したあと、転移で翠夢の森の小屋に戻ると、小屋の外には女王様が……まさか二日連続で来てくださった。すぐに迎え入れ、そのまま一緒に昼食を取ることになった。
その時、悠希たちは現実で昼食を取るためにログアウトしていた。
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『その時、妾は光魔法〈レイ〉で闇を消し、同時に……名前は忘れたが、その悪魔を倒したわ。』
女王様の武勇伝を聞きながら、サクラリアと私は昼を食べていた。
『お母様!すごいわ!わたくしもお母様のように魔法が上手にできるのかしら。先ほどのダンジョンでは、わたくし何も出来なかったの。』
『サクラリア、あなたは妾の娘。すぐに出来るようになるわ。練習あるのみ。さあ、プリンをお食べなさい。』
『ありがとう、お母様~!』
『セリーナたちから何を学んだかい?』
『ええ、セリーナは外の世界に出た時どうすべきかを。タピオカ様からは戦い中の立ち回りや魔法の応用方法を教わりましたわ。』
『そっか、ありがとうね、セリーナ。』
はっ!急に私に……!
「いいえ、当然のことをしただけです。」
『精霊殿とタピオカ殿は昼を食べたあとまた来るのかい?』
「はい、午後は迷宮都市に行くためにバールヴィレッジへ戻り、買い出しと旅の準備をするのです。」
『もう行くのか……』
「精霊さんは転移できるので、すぐにでも戻れますよ。結界も友人が入れるように設定してくださったので、女王様ならいつでも歓迎いたします。」
『ありがとうね。母親になったのは初めてなので、この子はお願い。』
女王様は私に頭を下げ、私も慌てて頭を下げた。
「とんでもないです。サクラリアは勉強熱心で大人しいです。こちらこそ彼女の補助魔法に助けられました。」
『そう、続けてお昼を食べてくれ。妾のことは気にせんでいいわよ。』
「あ、ありがとうございます。」
……今はこんな感じで、私はすごく食べ辛い環境で昼を食べているのです。
昨日女王様と別れたあと、私はこの小屋で夕飯まで精霊さんとタピオカさんに、この一週間の出来事を話した。
ただ試しにフェアリーイーターを狩っただけで、知らないうちに妖精たちを救っていたなんて、全然思いもしなかった。そして妖精が小屋に集まったせいでフェアリーイーターは群れが襲来したけれど、私は結界の中で楽々と掃除できた。
それだけで妖精の女王と縁を結べたのだ。
そのあと、精霊さんとタピオカさんにたくさん褒められた。私の集めた小さな無垢晶も、ストレージに入れると勝手にサイズが整えられていた。詳しい仕組みは分からないけれど、そのおかげで異常状態を防ぐ首飾りが作れ、昨日女王様に贈った。……やっぱり精霊さんの方がすごいのでは?
先ほど女王様がサクラリアの分の首飾りを作るよう精霊さんにお願いしたため、無垢晶を用意してくださった。そして精霊さんとタピオカさんが、私とサクラリアの分の首飾りを一緒に作ってくれて、今は待つだけですね。
それで今朝、私たちはサクラリアの“レベル上げ”のために遺跡ダンジョンへ行った。精霊さんは私の実戦訓練のために精霊界へ戻り、タピオカさんだけが残った。私は初めて一人でクリスタルゴーレムと戦った。
マナが見えるせいか、攻撃の予兆が分かる。だから避けるのは簡単だった。精霊さんと何度も倒してきた相手だから、攻撃パターンも覚えている。大振りばかりの単純な動きなら、わざとでなければ当たらない。
タピオカさんは精霊さんが私に戦闘を教えるように、サクラリアに回復や補助魔法の使い方を教えていた。サクラリアの補助魔法のおかげで、私の魔法の威力はもう普通の人のものとは違ってきている。
……お父さんに会いに行くだけなのに、こんなに強くなる必要があるのだろうか。
でも、ヤークみたいな悪い商人もいる。一人旅は思った以上に危ない。だから次は迷宮都市へ行くのだろう。――これが普通なのかな。……大丈夫、かな。
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セリーナとサクラリアが女王様と一緒に小屋で昼を食べている頃。
悠希とタピオカはログアウトし、現実で昼食を取りながらメッセージアプリで通話していた。
タピオカは今朝のダンジョンでのセリーナの戦いを初めて目にし、その感想を悠希に伝えていた。
「魔法使い装備のセリーナでは、クリスタルゴーレムはすぐに倒せるよね。」
『ええ、ノーダメで倒せた。サクラリアに魔法強化を与えたあと、背中の弱点にファイヤーボールのみで倒せた。』
「そっか、あの装備では魔法攻撃は星月ドレスより高いんだな、即死前に倒せるか。」
『この前に話してた熱膨張あと冷凍でボスは即死できるなことか?あれは見たかったわね。』
「セリーナのレベルはもう50越えだし、あのボスはもうほぼ雑魚になったからな。もう見れないと思う。ではあの遺跡のダンジョン内の実戦は?」
『予想通り、全く問題がありません。途中の雑魚はほぼサクラリアのレベル上げと、唯一の攻撃魔法〈マナショット〉の練習。ボスは秒殺。セリーナはあなたの言った通り、泡水をアラクネにぶっかけたあと、あのロッドの固有技〈アブソリュートゼロビーム〉で一発KO。』
「そっか、無事にアラクネを倒したね。良かった。」
『そうですね、なぜセリーナはダンジョンに入る前にボディソープを用意したのか……最初はおかしいと思った。でも確かにアラクネは虫で、まさかあんな方法で強いデバフを与えられるとは思わなかったわ。あの世界はホントにリアルだと再び実感しました。』
「初見の時はめっちゃ大変だぜ。攻略動画では安全策としてファイヤーボールでの遠距離攻撃を予想していたが、実際は周りも燃やされて危なかった。あの世界では気軽に火魔法を使わないほうがいい。ガチで危ない。」
『っていうか、あなた達魔導国に行ってないよね。』
「ああ~言いたいことがわかる。魔導国は行ってない。でもセリーナはゲーム内で見たことのない魔法を使えるんだよな。」
『そう、それ。セリーナに聞いたら、自然に出来たって。あの子は魔法の天才か?』
「わからないよ。ログアウトしたあと、このゲームシステムがセリーナに影響しているのかもしれない。その魔法は俺のメニューにも確認できた。でも文字があの世界の文字だから読めない。だから俺は使えない。魔法カスタマイズページもロックされたままなので、俺はある程度威力をコントロールできるだけで、ゲーム内の魔法しか使えない。」
『そうなんだ~。ではサクラリアも回復や補助魔法以外の魔法を使えるかもね。』
ゲームとの違いは意外と多い。そう思いながら、悠希は昼食を続けつつ攻略サイトの妖精解説ページを開いていた。
「って、タピオカくん、サクラリアの立ち位置は、そのままゲーム内の妖精と同じだと思う?」
『うん~サクラリアの体で戦闘しましたが、“ほぼ”ゲーム内の妖精と同じ位置ですね。ただ恐らく同時にNPCの立場もある。』
タピオカはサクラリアの立ち位置について冷静に分析していた。
「HPバーがあるから?」
『ええ、攻撃魔法は〈マナショット〉のみなのは、ゲーム内の妖精と同じく、〈マナショット〉は例の固定ダメージの通常攻撃。残る魔法は全部回復と補助魔法数種類のみ。しかし、ゲームみたいに完全無敵ではなく、HPバーがあるということは、敵の攻撃を受ける。』
「ですよね、あの世界じゃゲームみたいにペットが無敵とか、技に無敵時間とかはないんだろう。そういえばセリーナが言ってたけど、サクラリアが生まれ変わった時に虹色の光が出たらしい。やっぱUR妖精か?」
『ええ、そうね。ネットに載せたUR妖精の資料に確認しました。使える魔法はほぼ同じ。』
「まあ、側から回復と補助魔法を使えるサポーターがいるだけで、戦闘は前より安心だと思う。魔法少女に変身したあとの“月”魔法は?攻略サイトには月属性魔法のことはやっぱり見つからないよ。」
『あ~それね。私も探しましたよ。プレイヤーが作れる妖精シリーズを完凸しても、月魔法が使えるとは書かれていないし。あの世界しか使えない、それとも妖精が装備したら使えると思う。』
「メニューでその魔法の説明文は何が書かれている?」
『効果しか書かれていないわ。今使えるのは〈ムーンフォートレス〉、全属性の魔法ダメージ半減、有効時間は30秒。』
「これはこれは……すごいなぁ~。」
『ええ、しかし、今のサクラリアのMP上限では2回しか使えない。だからレベル上げは必須。』
「今朝のダンジョン周回をしたあと、レベルはどれぐらい上がった?」
『ほぼすべての雑魚を倒してからアラクネと戦って2周した。今のサクラリアのレベルは29になったよ。』
「早いね…。」
『やっぱり、焼鳥丼は強いわ~。』
「わかる~!ってセリーナがフェアリーイーターから普通に課金アイテムの“ティンクルドロップ”を採れるんだけど……セリーナにお願いして、再びフェアリーイーターを狩る?」
『いいえ、その様子では、迷宮都市ヴァロリアに行く間。毎晩あのダンジョンを周回すれば、レベルはすぐに50近くに到達できる。あなたもセリーナのお嬢様魔法使い装備を完凸したいでしょう?ちょうどいいでは?』
「そうだな…ティンクルドロップを採るより、ダンジョン周回の方がレベル上げが早い。セリーナの杖と装備も凸したいし、では迷宮都市に到着するまで、その方針で行こう。」
『逆にポジションは大丈夫そう?私は前のゲーム〈ドラゴンの遺産〉でも弓で遠距離アタッカーとヒーラー兼任でしたけど、豆腐くんは確か片手剣メインですよね。セリーナは魔法アタッカーにするつもり、大丈夫?』
「そうだね、俺がログインする時は一応星月ドレスに着替えて、あのUR短剣〈月影〉と〈星光〉で戦うつもり。片手剣も使いたいが、今作れるSRクラス剣はアラクネの見た目だけがいいレイピアだけ。あ~アラクネのSR弓も作れるが、作る?装備ではサイズは自動的に変わると思うが、サクラリアは弓使えるか?」
悠希はアプリ越しに皿を洗う音を聞いた。タピオカは昼食を食べ終えたようで、彼も少し食べる速度を上げていた。
『手があるから使えそうじゃない?メニューの装備枠がないだけで装備できないのは、あの世界では変だと思う。試しに作れば?……あ!そうそう!私も試しにメニューで製作しましたが、作ったものは妖精サイズなの。あの子の生活用品を作るために木材が欲しい。あなたのストレージの中には木材が足りないわよ。』
「あ~~ごめん、あの小屋を作るために使い切った。あとで採りに行こう。そのことだけど、あの小屋は女王様の力で、もうセリーナの家になった。他の家具を作らないといけない。確かに前のゲームでは、タピオカくんの部屋はすごく綺麗だったな。セリーナの家の内装は頼めるか?俺はその方面のセンスがない。」
『もちろん、任せて!かわいい部屋を作って見せる!サクラリアの家具も作らないとだめだから、素材は頼みますよ。』
「わかった。あ~あの小屋だけでいい。セリーナの家はできればそのまま、多分母親との思い出があるので……。」
『了解しました!隊長!そういえば~小屋は非公開からフレンドのみに変更しました?』
「ああ、変えた。まさか拠点の非公開がホントに効果があるとは思わなかった。あの気まぐれな女王様はまたサクラリアに会いに来るために、小屋に来たからな。先ほどログアウト前に設定した。多分セリーナがフレンドと認定した人は小屋に入れると思う……多分。」
昼食を終えた悠希は皿を持って洗いながら、急に新しい仲間サクラリアのことを心配した。
「そういえば~サクラリアはどう?体をあなたに貸すのは嫌じゃないみたいだが、一応姫様だから、戦闘は大丈夫?」
『それね、あの子はすごく大人しいでいい子ですよ。教えたことはちゃんと覚えてるし、すぐに試したいと言ってた。こんな新人社員が欲しかったわ~~!』
「そっか、セリーナと仲良しそうで何よりだ。」
『なにこれ、セリーナの父親みたいな言い方…。』
「な!仕方ないだろう!俺がログアウトしたあと、彼女はずっと一人ぼっちだからよ。毎晩俺を待って、夜ふかしして、嬉しそうにその日に何をしたのかを話したまま寝てたよ。」
『まあ……あんな長い借金生活だからね、何となくわかる。あの世界だと、借金があったら友達がいるはずがないもんね。』
お互いに皿洗いを終え、パソコンの前に戻った。




