22 罠?!
お昼が終わり、俺は再びセレアグの世界に戻った。
目に映るのはセリーナの家。手を動かして、自分の体を確認する。ちゃんとセリーナの体に入っていた。
ここは…セリーナの家の裏手。目の前には、二本の枝が地面に静かに刺さっている。あ――セリーナが話していた、エメラルダさんの墓だ。
セリーナ:お帰りなさい、精霊さん。
「ただいま、セリーナ。大丈夫?何も起こってない?」
セリーナ:はい、何も起こってないよ。
セリーナ:あの冒険者たちが玄関で、話を聞いているだけ。
セリーナ:ちゃんと精霊さんが用意してくれたことを、彼らに話したよ。
「そっか。あのヤークの商人がまたあなたを狙うかもしれないから、しばらくはここに戻らないほうがいいよ。」
セリーナ:ええ、大丈夫です。私もすぐにお父さんのところに行きたいんです。
「わかった。じゃあ、バールヴィレッジに戻って、旅の準備をしようか。」
セリーナ:わかった……精霊さん、ありがとう。
「お礼はもう言ったでしょう?」
セリーナ:えへへ……借金がなくなって、私はもう自由になったこと――
セリーナ:実は、まだ実感が湧かないんです。
「そっか。そのお礼は、あなたのお母さん――エメラルダに言ってあげて。ちゃんと幸せになったあと、いい場所を探して、彼女のお墓を作ろう。」
セリーナ:もう話してた。
セリーナがそう言ったあと、俺も静かに墓に一礼し、部屋へと戻った。
マイセットでアリスの格好に戻り、バールヴィレッジのスラム街にある転送ポイントへと転移する。
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【名前:セリーナ】
レベル 49
• 武器:「月影」と「星光」
• 頭:星のヘッドピース
• 体:星月のドレス(上下)
• 手:月光のオペラグローブ
• 足:星月のシューズ 黒
• アクセサリー1 麻痺避けの腕輪
• アクセサリー2 マジックローブ
• アタッチメント:狐の仮面
• インナー:月のガーターストッキング 黒 (インナー 下)
(この一週間で成長したスキル)
‐片手剣レベル6→12
‐短剣レベル12→18
‐格闘レベル5→7
‐槍レベル5→10
‐魔法レベル19→22
‐走るレベル20→25
‐調合レベル9→18
‐料理レベル9→15
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俺達がスラム街の転移ポイントに転移した瞬間、真っ先に聞こえたのはこれ…。
「うわっ、本当に出た!!」
周囲の人たちの動きがスローモーションのように感じられた……攻撃されている?!
目の前には少なくとも15~20人はいる。スラム街のチンピラか?……いや、冒険者だ。もしかして、運が悪くてスラム街でイベント発生のタイミングにぶつかったのか?
俺はすぐにミニマップを確認。見事に真っ赤な点に囲まれている。
これは一体どういうことだ?!
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時間は数時間前に遡る。バールヴィレッジのスラム街の朝。
片隅に根を張る男が、ギルド最高ランク7のうち、中堅ランク5の冒険者たち3パーティーをスラム街の広場の横へ案内していた。
スラム男は、正義感が溢れる男にこう話していた。
「ここだ。あのキツネ仮面の女は、時々ここに急に現れるんだ。」
そこは何もない空き地だった。
本当にあのキツネ仮面の女がここに現れるのか?
正義感の男は金と食べ物を彼に渡し、スラム男はいつも通り、スラム街の地面と一体化するように姿を消した。
その正義感の男は、冒険者中堅パーティー<暁の誓い>のリーダーだった。
彼は他のメンバーとともに荷物を下ろし、武器の整備を始めていた。
他の2パーティー――乱暴そうな男ばかりの<爆雷の爪>と、人族と獣人の混成パーティー<鉄牙団>も、同じように荷物を下ろし、生活用品を広げて露宿の準備をしていた。
<暁の誓い>の魔法使いの少女リリィは、リーダーのアレンにこう話しかけた。
「ねぇ、アレン。街に危害を与える人って、本当にここに現れるの?張り込みは構わないけど……思った以上に環境が悪いわ。」
「セバスチャン様が調べたから、間違いはない。でも急に現れるってことは、もしかして魔法を使ってるんじゃないか?」
「転移って言いたいの?そんな夢みたいな魔法、あるわけないでしょ。そもそも属性すら分かってないし。」
「ま、まぁ、領主様の依頼だからな。断るわけにはいかないし、もし目標が現れなかったとしても、ここで一週間過ごすだけで30万Gがもらえる。この仕事が終わったら、次はまた領主様の依頼でクリスタルゴーレムに再挑戦する予定だ。うまくいけば、俺たちはあの守られた遺跡に入れる最初のパーティーになるぜ。」
「はいはい、分かったわ。でも例のキツネ仮面の女性って、一体誰なの?この街の冒険者ギルドでは、ここの3パーティーが一応最高戦力よ。彼女を捕まえるために、3パーティーを一週間ここに張り付けにするの?」
「俺にも分からない。ただ、あのキツネ仮面はギルドの教官を倒せるほどの実力者だし、先日は領主様の宝物を盗んだらしい。」
「ま、まぁ。対人戦になるなら、痺れのスクロールをいつでも使えるようにしておくわ。」
「ありがとう。」
広場の反対側でこのやり取りを見ていたスラム男。最初は「ここで美女をタダで見られるなんてラッキー」と思っていたが……まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
午後2時頃。彼女が現れた。いつものキツネ仮面の女だ。
スラム男は、彼女が突然現れたのを何回目撃していたため、驚きはなかった。先日、領主の使いと名乗る者が彼女を探していると知り、この情報をその者に売ったのだった。
現に、キツネ仮面はたった一人で、この街でほぼ最強とされる3パーティーと対峙していた。
「うわっ、本当に出た!!」
鉄牙団のウルフの獣人が、素早いスピードでキツネ仮面を捕まえようとする。
もう終わりかと思ったその瞬間――その獣人は、逆にこちら側へ吹き飛ばされた。
(な、なんだ?)
スラム男は好奇心からその獣人を見てみると、その獣人も何が起きたのか分からないという顔をしていた。
はっとして、すぐに立ち上がる。まさか……蹴られた?あの仮面の女の子に?この獣人の身長は、あの女の子のほぼ倍あるのに!
そのあと彼が見た光景は――完全に一方的だった。
獣人は再び彼女に向かって跳びかかり、他の前衛たちも止めることなく、合計5人が一斉に仮面の女に攻撃を仕掛けた。
その場面はあまりにも速すぎて、スラム男の目では何が起きているのか分からなかった。
キツネ仮面に斬りかかった者が一人。もう一人は、またしても吹き飛ばされた。飛ばされた前衛たちが、どんな方法で反撃されたのか――スラム男には分からない。
それなのに、キツネ仮面はほとんどその場から動いていなかった。
一体どういうことなんだ……?
3パーティーの前衛たちは、何度倒されたのかも分からないほどだった。
彼らは一段落ついたところで、息を切らしながらヒーラーのもとへ向かい、回復を受けていた。
そしてその時――仮面の女は、冒険者たちに向かって、奇妙な質問を投げかけていた。
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転移のあと、突然襲われた。
幸い、襲ってきた冒険者たちのレベルは平均20くらい。装備も見た感じでは<N>や<R>程度で、ステータス差のおかげで、襲撃時の攻撃はすべて遅くに見える。
武器を出すと絶対にややこしくなる。まずは、なぜ襲ってきたのかを聞きたい。
襲ってきた前衛は合計5人。タンクたちは後衛の弓使い、魔法使い、ヒーラーを守っている。
俺は動かず、前衛の攻撃をひたすらパリィし続けた。え?パリィで大丈夫なのかって?
攻略サイトの解説では、パリィは最高の防御手段。ゲーム内では達人技とされていて、攻撃を受けるな時、「パリィ閃光」と呼ばれる部位にヒットすると――ボスにはダメージ無効と怯みを発生させ、それ以外の敵には攻撃をそのまま跳ね返して吹き飛ばす技。
すべての攻撃のパリィタイミングが異なるため、攻略サイトでは“やり込みの達人技”と呼ばれていた。ただ、この世界ではステータスの影響で、彼らの攻撃が遅く見える。だから、パリィ閃光の発生時間も長く見える。
これは、あくまで防御。ここはガンド村とは違い、傍観者はいない……いや、いたとしても俺の味方ではない。
あの村長の護衛――いや、見張り役とは違って、彼らを蹴るのはまずい。足を払って転倒させるのが一番いいが、いつ矢や魔法が飛んでくるか分からない。攻めてくる5人を相手にするなら、最も動きが少ないパリィが最適だ。
パリィを続けて、たぶん数分。
前衛たちは息切れを始め、ヒーラーたちはすぐに回復を施している。魔法は撃ってこない。なら、先に話し合いを試みるべきだ。
「皆様は強盗には見えませんが――なぜ襲ってきたのか、ご説明いただけませんか?」
皆が変な目でこちらを見ている……え?分からない?言葉は通じているはずだが。
定番のネコ耳女獣人の弓使いが、別の男の弓使いとタイミングを合わせてこちらに矢を放ってきた。矢に見えたパリィの光を捉え、それを叩くと、放たれた矢はすべて振り払われた。
正義感のあるリーダーの男が、痛々しい表情で腹を押さえながら立ち上がり、剣を持ち直して女魔法使いの前に立った。
「くっ!リリィ!痺れのスクロールは!!」
「5枚、すでに使い切ったよ!あたしもずっと〈パラライシス〉を使ってるけど、全然効かないし、能力低下の魔法も通らない!こいつ、どんだけ魔抵抗が高いのよ!」
「なに?!」
え?!あ~よかった。
この前、セリーナが解毒魔法を習得したから、毒避けの腕輪はもう必要ないと言われた。確かに、解毒魔法があれば毒よりも、他の異常状態を防ぐ腕輪を付けた方がいい。
石化は、発動者のレベルマイナス3以下の相手にしか効かない仕様だから、この世界ではたぶん無視していい。
呪いは回復不能になるけど、ダメージ自体はない。睡眠はすぐに自分に攻撃すれば解除できる。炎上も毒と同じく固定ダメージだから、回復魔法でなんとかなる。一番危険なのは、体が動かなくなる麻痺。だから、先日完凸の麻痺避けの腕輪を作っておいた。
セリーナ:……まさか、こんなに早く麻痺避けの腕輪が効く場面に遭うなんて。
セリーナ:精霊さん、ケガとかしてませんか?
大丈夫だ、問題ない……ありがとう、セリーナ。俺は頭を少しだけ頷いた。
ゲームでは、襲ってきたPKには逃げるか戦うかの二択しかない。いつもの俺なら、逃げる一択。
でも、この世界では逃げるのは良くない。また追い詰められるだけだ。今も、スラム街の転送ポイントは特定されてしまったし……。
いや、待て。転送ポイントの付近って、安全地帯じゃなかったのか?
……もしかして、ゲーム内では街全体が戦闘不能エリアだけど、街中の転送ポイントは例外で、安全地帯に設定されていない?
確かに森の転送ポイントを使ったときは、チャット欄に「安全地帯に入りました」って表示が出た。この転送ポイントは出なかった……ま、まぁ……今後はできるだけ街中の転送ポイントは使わないようにしよう。
って、話を戻そう。
PKに出会ったときの選択肢は、応戦か逃走。でも、何も知らずにここにいる全員を倒したら、セリーナが衛兵に捕まるかもしれない。
……結局、話し合い一択か。
「もう一度聞きます。皆様は強盗には見えませんが――なぜ襲ってきたのか、ご説明いただけませんか?答えないのであれば、ここにいる全員を強盗と判断し、剣を抜きますよ。」
それを聞いて驚いたのは、軽装備で隻眼の男だった。
「なっ!?格闘家じゃないだと!?こんなにパリィされたのに!?」
ずっと素手でパリィしてたから、勝手に格闘家だと思い込んだ?おいおい、こっちは魔法使いのローブに、中は華やかなドレスだぞ……格闘家はないわ。まあ、俺も武器を出すつもりはない。
でも、このまま返事がないなら、普通にこの場を離れてギルドに通報するしかないか……。
――どうやら、お遊びはここまでのようだな。
なぜか、また周囲の動きが遅くにに見えた。
そんな中、ただ一人、普通のスピードで――いや、ボス並みの速度で――冒険者たちの上から、レイピアを構えた白髪の老執事が俺に向かって飛びかかってきた。
狙いは……俺の左肩?
周りはスローモーションの中なのに、動きが遅くない。こいつ、他の連中とは格が違う。
思わず「セバスチャン」と呼びたくなるような老紳士に警戒しつつ、名前とレベルを確認すると――
セバスチャン LV39
二つ名:神速の剣影
ガチのセバスチャンだった。しかも二つ名持ち!
クエストやメインストーリーの助っ人NPCか?いや、これはもうボスクラスだろ。そんなセバスチャンが、普通のスピードでこちらに突きを放ってくる。
いきなりボス戦かよ!




