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17 これは多分ボス戦

ダンジョンのボス戦は、転移で逃げることはできる。でも、ここで手に入れたアイテムを全部失うのは痛すぎる。倒せない相手じゃない。なら――ここでアラクネを倒すしかない。


他にいい方法を考える前に、先程燃えたベッドの天幕がアラクネの重さに耐えきれず、崩れ落ちた。


その瞬間、アラクネは天幕の上からこちらに向かってジャンプ攻撃を仕掛けてきた。予備動作はわかりやすい。攻撃範囲も赤く表示されている。


俺はそれを回避し、すぐに窓の方へ走った。


(窓から脱出できるのか!?)


この城らしいデカい窓から出られるとは思えないが、ゴリ押しよりは安全第一。今後のためにも、脱出の可能性を試す価値はある。だが、窓にはアラクネの糸が絡みついていた。


ボディソープ入りの水で洗い流そうとする――が、ダメだった。


「しまった……このボディソープ、中性か!アルカリ性じゃない!」


短剣で切るか? そう思った瞬間、糸に“アラクネの糸”という吹き出しが表示された。


「まさか!!」


【拾う】を念じると、洗った糸がアイテムとして回収された。……これは後で考えるとして、すぐに窓を開ける。


だが、やはり定番の透明な壁が出現。


「やっぱり……転移するしかないのか。」


そのとき、アラクネが糸攻撃を放ってきた。俺は咄嗟に水玉を発動。腹部から放たれた糸は水玉に吸い込まれ、勢いを失う。そしてまた、“アラクネの糸”の吹き出しが表示された。


「ほぅ……これはこれは。」


糸を回収しながら、アラクネのジャンプ攻撃を再び回避。


(この状況……ノーダメはもう諦めるしかない。少しのダメージは覚悟して、ゴリ押しでいくしかない。それでもダメなら、最終手段で転移だ。)


アラクネの鎌による横薙ぎの攻撃をギリギリで回避し、ボス今のステータスを確認する。HPバーは――残り一本。


「……残り一本!? ボディソープとファイヤーボルト数発しか当ててないのに?」


子グモの召喚が来ていないのもおかしい。どうやら、ボディソープのスリップダメージが思った以上に効いているらしい。


ではこのデカい防御デバフがかかった今がチャンスだ。URダガー「月影」と「星光」を構え、前へ出る!


アラクネが鎌のような爪を伸ばし、接近戦の連撃を仕掛けてくる。ステータス差が小さいせいで、攻撃はスローモーションには見えない。


だが、攻略動画の通り――左右、上。順番は読めている。


すべてを回避し、懐に飛び込む。


短剣を構え、アラクネの頭部に連撃を叩き込む!高い防御力デバフが効いていたのか、アラクネはあっさりと崩れ落ちた。


「……あ、危なかった。特に炎魔法が……ふぅ……。」



【名前:セリーナ】

レベル 39 → 40


【勝利報酬】

・ルーンストーン ×1

・蜘蛛女王の目 ×2

・アラクネの鋭爪 ×3



Oh〜、一番レアな“蜘蛛女王の魔宝石”は出なかったか。残念。アラクネの素材で作れるレイピアと弓、外見がカッコいいから欲しかったんだけどな。


それにしても、“アラクネの糸”が勝利報酬に出なかったのは意外だった。セリーナ用のSR魔法使い装備のメイン素材――《エルフィンシルク》を作るには、最低でも30個必要なんだよな。


水で洗った糸はすぐに回収できるってのも予想外だった。部屋中の糸、回収できるかな……。


エルドラーナさんの話では、ダンジョンボスの再出現時間は1時間らしい。なら、部屋に付いてる糸を回収して一旦外に戻って休憩。それからまた周回しよう。


……正直、ここはゲーム仕様にしてほしかった。


ボスを倒したら自動で外に転移して、ダンジョンの中身もリセットしてくれる――それなら、すぐに周回できる。でも、ここは“リアル”の仕様。転送はないらしい。自分の足で出るしかない。


……まあ、森のモンスターと違って、ダンジョンは1時間くらいで中身がリセットされるだけでも、ありがたいと思うべきか。森のモンスターは、そもそもリポップするかどうかすらわからない。


うん、炎魔法は使えない代わりに、次はボディソープを多めに用意しておこう。



こんな感じで、今日はこの遺跡ダンジョンを合計4回周回した。


余裕が出てきたので、短剣以外の武器スキルを上げるために、途中はわざと別の武器で雑魚と戦った。ボスのアラクネは、ボディソープのデバフとスリップダメージがあるから、放置でも倒せる。でも、時間がかかる。


高い防御力デバフが入ってる状態なら、短剣でゴリ押ししたほうが早い。まあ、糸が欲しいから、ボスとの戦闘時間よりも、部屋中の糸を回収する時間のほうが長いんだけど。


「やっぱり、蜘蛛の女王の魔宝石はなかなか出ないね。セリーナ、もう午後の5時だし、街に戻ろう。」


セリーナ:わかりました。では、冒険者ギルドに行きましょう。


ん?なんでギルド?素材は売らないよ。クリスタルゴーレムのときだって、素材売っただけで大騒ぎになったし。今回は、アラクネの糸で作った布――《エルフィンシルク》が余ったら売るつもり。


これなら、怪しいモンスター素材や装備よりも安全だ。


セリーナ:精霊さん……その様子ですと、忘れてしまったのですね?

セリーナ:エルドラーナさんに、領主様との面会日程を確認するって――お話していたはずです。


あ――忘れてた。


ここがゲームじゃなくて、変な世界だってことを忘れるくらい、楽しんでたんだな……。


「ごめん、忘れてた。知らせてくれてありがとう。じゃあ、街に戻ったら先に冒険者ギルドに向かいましょう。」


俺は、バールヴィレッジのスラム街にある転送ポイントへと転送した。




冒険者ギルドへ向かう途中、セリーナが話しかけてきた。


セリーナ:精霊さん、やっぱり……あの遺跡のモンスターたちは強いんですか?


「そうですね。見た目は楽勝に見えるかもしれませんが、このあたりの人たちの平均レベルは20くらい。アラクネはその倍近い38です。今回は運良くボディソープが効いたから簡単に倒せましたけど、普通なら少なくともレベル30以上の冒険者が3〜4人は必要ですね。セリーナはレベルが高いけど、もっと多くの技を習得して、使いこなせないと危ないです。」


魔法スキルレベルが20になると、基本の風・火・水・地と上位属性の光・闇+回復の基本魔法が習得できる。各属性の魔法熟練度が最大になり、魔法スキルレベルが特定の段階に達すると、更に上の魔法が解放される。


この仕組みはやり込み要素が高く、魔法使いにとっては大きな楽しみだ。さらに2周年の今は、魔法のカスタマイズも可能になっている。この妙にリアルな世界では、魔法を自在に作ってや調整できるなら――もはや万能に近い力だ。


……はぁ、メニューの「魔法カスタマイズ」ページを解除するには、魔導国に行かないといけない。でも、あそこは国越しで遠すぎる。


セリーナ:うん……魔法はとにかくたくさん使って、熟練度を上げるんですね。

セリーナ:でも、連携技って……難しそうです。


「まぁ、セリーナは魔法メインですからね。モンスター戦での魔法使いの連携なら、下級魔法で敵を誘導して、氷魔法で動きを封じて、最後に大魔法でとどめ――そんな感じです。魔法をたくさん習得すれば、応用も自然と身につきますよ。」


セリーナ:なるほど……じゃあ、魔法をいっぱい使うのが大事なんですね。わかりました!



今のアリスの姿――星月ドレスのままならまだいい。でも、未だに商人の服で、装備が揃っていないセリーナのままでは、なんとなく心配だ。だから、さっきのダンジョン周回でもセリーナには回避優先、安全第一の立ち回りを教え込んだ。


俺にできることは、金稼ぎ。そして、弱い装備でも襲われて負けないように、セリーナのレベルとスキルを上げておくことだ。平日は、どうしてもセリーナが自分ひとりで動くことになるから――なおさらだ。


セリーナ:でも……まさか片手剣に変えただけで、

セリーナ:普通のモンスターがこんなに倒しにくくなるなんて思いませんでした。


「ダンジョンで拾った武器の性能も高くないですからね。でも、すべてのモンスターには行動パターンがあります。よく観察すれば、攻撃を先読みすることもできますよ。」


セリーナ:はい、それはわかります。

セリーナ:ボスのアラクネも、ジャンプ攻撃の前に体を低く構える溜め動作がありましたよね。


「そういうことです。だから、よく見て、考える。冷静さを失わなければ、ステータス面ではセリーナは負けません。」


セリーナ:わかりました!精霊さん!



他の人から見れば、俺はずっとブツブツと独り言を言いながら歩いているように見えただろう。


そんな感じで、冒険者ギルドに到着した。中に入ると、エルドラーナさんは先日と同じく、道具屋の店員として働いていた。


彼女に話しかけると、領主様との面会は明日の朝10時に決まったと教えてくれた。用事は済んだので、俺はそのままギルドを出て、人目のない場所でセリーナの姿に戻り、宿屋「牛角亭」へと向かった。



宿屋の部屋に戻ると、すでに日が暮れていた。


セリーナ:精霊さん、素材は売らなくていいんですか?


「クリスタルゴーレムだけでも領主案件になってる。ここで、まだ誰も入れていないダンジョンの素材や、アラクネの素材まで売ったら……どうなると思う?」


セリーナ:金は欲しいけど……やめておきましょう。


「セリーナ、明日の領主様との面会は頼みます。ワタシは別の仕事があるから、前に言った通り、来られるのは恐らく夜中になる。」


セリーナ:わ、わかりました。えっと……領主様には何を話せばいいんでしょうか?


俺はストレージの素材を確認しながら、彼女に答える。


「必勝法を教えます。この面会は、領主様とエルドラーナさんがクリスタルゴーレムとダンジョンについて聞くためのもの。君は黙っていてもいい。聞かれたことにだけ、落ち着いて答えればそれで十分です。」


セリーナ:でも……マナーとか、不敬って言われたらどうしましょう?


「セリーナはそのままで大丈夫。冒険者に完璧なマナーを求めることはないと思う。領主様の悪口さえ言わなければ、問題ないはず。もしそれでも何かあって、君が捕まるようなことがあったら……夜まで耐えて。ワタシが来たらすぐに転送して逃げる。」


セリーナ:う、うん……。


「もちろん、聞かれたことにすべて正直に答える必要はない。たぶん、クリスタルゴーレムをどう倒したかを聞かれるだろうけど――“魔法で倒した”って答えれば十分だ。」


セリーナ:わかりました。確かに魔法で倒しましたし、嘘はついてません。


「じゃあ、夕飯のあとに軽くリハーサルしようか。」


セリーナ:よ、よろしくお願いいたします。




こんな感じで、夕飯のあと、セリーナが寝る前の時間を使って、領主様との面会のリハーサルをした。


セリーナ:精霊さん、ありがとうございます。おかげで少し自信が出てきました。


「それは良かった。覚えてください、面会するのは“アリス”、セリーナではない。仮面を外さない限り、ミスしてもセリーナには何の影響もありません。」


セリーナ:うん、さっきの精霊さんのマネしていいよね。


「そういうことです。じゃあ、今晩はこの“強々ドレス”を置いておきますね。それと……村長の怪しい借用書の件、エルドラーナさんにはバレてしまいました。でも、ここの領主様はまだ会ったこともないし、信用できるかどうかもわかりません。だから、借用書のことは話さなくて大丈夫です。ワタシが知っている貴族の中には、見た目は善人でも、裏では平気で悪事を働く人もいました。相手には“裏がある”と思って行動するくらいが、ちょうどいいんです。」


セリーナ:わかりました。


「それと、もし何かあったら、アリスとしてエルドラーナさんに相談してください。彼女にとってアリスは“いいモノを持ってくる客”だから、一応は信頼できるはずです。」


セリーナ:精霊さん、それはもう何回も聞きましたよ。


「そ、そうですね……ごめんなさい。」


セリーナ:では、お先に寝ますね。おやすみなさい。


「おやすみなさい。」


チャット欄は静かになった。セリーナはもう寝たらしい。


17歳の子供がひとりで市長クラスの人と面会するんだ。緊張しない方がおかしい。ナイジェリアの遺跡であと数周する予定だったけど……明日は月曜日。俺も早めに寝たいし、周回はやめておこう。


今のレベルはすでにボス以上。経験値的な旨味もない。


それよりも、アラクネの糸を《エルフィンシルク》に加工して、セリーナ用のおすすめSR魔法使い装備を作るべきだ。……でも、あれ作るのに14時間待ちか。長いなぁ。


アクセサリー1枠は、ダンジョンで大量にドロップした《毒避けの腕輪》で決まり。完凸すれば毒耐性100%、完全に毒無効。


この世界の人たちはまだ“装備の覚醒”を知らないみたいだし、完凸した《毒避けの腕輪》は貴族相手に高く売れるかも。


あの遺跡ダンジョンを周回して、もう一個完凸品を作れたら、セリーナに頼んで試しに高値で売ってもらおう。……でも、解毒魔法もあるしなぁ。売れないかも。


それは置いといて、アクセサリー2枠が空いてるのはもったいない。糸が沢山持ってる今は、簡単に作れるマント――《N マジックローブ》がちょうどいい。


性能は低いけど、完凸すればINT+20、DEF+74。見た目以上に優秀だ。何も装備しないよりは、ずっとマシ。あ~借金の件が終わったら、セリーナ用の精霊石をもう一個作ろう。



ログアウト前に、俺は星月ドレスセット、白いローブとキツネの仮面をテーブルに置いた。


回復ポーションと魔力ポーションを数本、カバンに入れる。そのままベッドに横になり、ログアウトした。



明日は月曜日か……鬱だな。

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