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10 チュートリアル?

冒険者ギルドの職員——フレディさんは、他のスタッフを呼んで金の準備と素材の回収を進めた。その後、彼は俺をギルド地下の訓練場へ案内してくれた。


訓練場の中央には、筋肉質な教官らしき男が、訓練用の木剣を手にして立っていた。


「こちらは教官のアイザック(Lv.30)です。これから冒険者としての適性テストを行います。訓練場の中に入って、軽く彼と模擬戦をしてください。……あの、着替えをご用意しましょうか?」

「このままで大丈夫です。」

「は、はぁ……承知いたしました。」


フレディさんは俺に模擬戦用の木剣を手渡し、俺はそのまま訓練場の中へと足を踏み入れた。


外野には、酒を片手にした冒険者たちが面白そうな顔でこちらを見ている。


この光景……昨日動画で見た、戦闘チュートリアルの場面そのものだ。どうやら王都だけでなく、地方ギルドでも同じように発生するらしい。


まぁ、基本の移動・攻撃・防御・回避・連撃を教えるだけの内容だ。


本音を言えば、目立ちたくはない。でも、もうこの仮面+星月ドレス姿でここに来てしまった以上、無理だ。


大金も手に入れたし、逆に実力を見せておいた方が、今後絡んでくる奴らも減るだろう。


アイザック教官のレベルは30。俺はレベル31……しかも全身UR装備。向こうも本気ではないだろうし、負けることはまずない。


「おう、君があの仮面のお嬢ちゃんか。待ってたぜ。全力で来な。」

「よろしくお願いいたします。」



-----------------------------------------------



アイザックは、この冒険者ギルドでギルドマスターに次ぐ実力者。


普段、新規登録者のテストは翌日にまとめて行うのが通例だが、今回は違った。


受付嬢から「只者ではない」と連絡を受けた彼は、興味をそそられ、その場でテストを行うことにした。


現れたのは、仮面をつけたお嬢さん。まるで貴族の舞踏会にでも出るような、華やかなドレス姿。その手には、訓練用の木剣。


(おいおい……この格好で模擬戦? どれだけ自信あるんだ?)


彼女の構えは、見たことのない型。どうやら我流らしい。


アイザックはじっと観察する。ドレスは高級そうだが、腕は細く、髪は少し乱れている。訳ありの貴族か……そんな印象を抱いた。


「では、始め!」


フレディの合図とともに、模擬戦が開始された。


アイザックはいつものように、初動では動かず、相手の攻撃を受け流す構えで集中する。


(さあ来い、お嬢ちゃん。楽しませてくれよ!)


だが、次の瞬間――彼女の姿が、視界から消えた。


(……消えた?! いや、速い!)


アイザックは頭を動かさず、目だけで左右を確認する。


(いない……?)


上か? 頭を上げる――いない。


その時、背後から女性の声が聞こえた。


「あの、これで大丈夫でしょうか?」


背中に、剣の感触。


(……まさか、一瞬で俺の背後に?)


アイザックの背筋に、冷たい汗が走った。模擬戦のはずが、まるで実戦。しかも、彼女は一切の殺気もなく、ただ静かに立っている。


この瞬間、訓練場の空気が変わった。


周囲の冒険者たちも、酒を片手にしていた手を止め、目を見開いていた。


(……この子、何者だ?)


アイザックは反射的に背後へ一振り――だが、そこにはもう誰もいなかった。


「えっと、また続きますか?」


またしても、背中から彼女の声。


この短時間で、二度も背後を取られた。模擬戦とはいえ、アイザックは思わず本気で剣を振った。


「しまっ!!」


つい、力を込めてしまった。


だがそのお嬢さんは、避けることなく――あの小さな体で、真正面から剣を受け止めようとしていた。


(無謀だ……!)


そう思った瞬間。


彼女はアイザックの剣を受け流し、力の流れを殺し、そして――剣を叩き落とした。


「………。」

「………。えっと……続きますか?」

「はい、はい、降参だ。お嬢ちゃん、強いね。」

「恐縮です。あの……結果は?」

「もちろん、合格だ。冒険者ギルドは君を歓迎するぜ。」

「ご指導、ありがとうございました。」


冒険者たちは、誰一人として声を出せず、ただ彼女を見つめていた。


仮面のお嬢さんは、訓練用の木剣をアイザックに返し、フレディと共にギルドの裏へと戻っていった。


そんなアイザックは深くため息をつき、胸の高鳴りを抑えながら、傍観者たちに向かって叫んだ。


「よし〜!お前ら、今日は運が良いぞ!この俺が、タダで貴様らを鍛えてやる!俺を倒せたら、夕飯を奢ってやる!さあ、ヒヨコども、まとめてかかってこい!」

「「ひぃーーー!!」」


訓練場に、悲鳴と笑いが混ざったような声が響いた。


だがその中で、誰もが心の中で思っていた。


――あのお嬢さん、いったい何者なんだ……?



-----------------------------------------------



ふう……これで、絡んでくる人は減るだろう。


正直、俺の片手剣スキルはレベル1。まともに戦えば、教官相手でも勝てるはずがない。でも、ステータス差のおかげで、簡単に背後を取れた。


攻撃されたから、成り行きでパリィしただけ。


VITの差で、教官の動きはゆっくりと見えるし、パリィの判定も長い。……まさか、それだけで剣を叩き落とすとは思わなかったけど。


まあ、チュートリアルだし。合格は当然だよな。


フレディさんと応接室に戻ると、すでに金は用意されていた。金袋をカバンにしまい、ギルドカードも手渡された。


カードには星1つと、名前「アリス」の記載。


職員の説明では、基本最高ランクは星5らしい。それ以上に上がるには、貴族の推薦が必要だとか。


ギルドで依頼をこなし、貢献度を上げることで“ギルドポイント”が貯まり、一定量に達すると星が増える――まぁ、ゲームではよくあるランクアップ方式だ。星が増えると、受けられる依頼の内容や報酬もグレードアップする。つまり、星1はまだ“新人”扱いってことだな。


でも俺には関係ない話だ。星を上げるつもりもないし、説明も適当に聞き流していた。



ギルドカードを手にした瞬間、チャット欄に通知が表示された。


『デイリーミッションが開放されました』


内容は――毎日ログイン、スキルレベルを1つ上げる、モンスター30体討伐、制作1回完了。……もう全部クリア済みだ。


ミッションを達成するとポイントが貯まり、好きな素材と交換できるらしい。これはありがたい。到達できないエリアの素材も、これで手に入る可能性が出てきた。


さて、金は手に入れた。


セリーナ:これで借金をすべて返済できるね、良かった~~~。

セリーナ:ありがとうございます!精霊さん!


周りは他の人がいるので、声で返事するのは良くない、俺は軽く頷いて、セリーナに返事をした。


セリーナ:……なんか、夢みたいです。こんな日が来るなんて……。

セリーナ:でも、また精霊さんが言ってた利子が残っているね。


俺は少しだけ目を伏せて、現実を見据える。セリーナの借金は200万。毎月2万ずつ、7年間返済してきた。残りは最大32万。でも、来週の土曜日――返済日には、あの村長がまた“謎の利子”を持ち出して、セリーナを返済不能にする可能性が高い。少なくとも、100万は稼がないと安心できない。


そうと決まれば、もっと荒い稼ぎ方を考えないと。


素材を売るだけじゃ限界がある。なら――定番の金策だ。素材を買って、装備を作って、売る。


俺はギルドのロビーに出て、受付の隣にある道具屋へ向かった。


「すみません~。」


道具屋の奥から現れたのは、長い紫髪に、胸元の大きく開いた魔女風ドレスを纏った妖艶なお姉さん。


その姿は、まるで中世の魔女そのもの。しかも、πも大きい。吸い込まれたのように、視線を逸らすのが難しい。……レベル高い!



エルドラーナ Lv.33



「はい~。あら、先ほどの仮面のお嬢さんじゃない。こんにちは。何か欲しいものがあるの?」

「ここで、精霊石は扱っていますか?」


そのお姉さん――エルドラーナが、急に妙な目つきでこちらを見てきた。


「ここはポーション系や素材しか扱ってないから、精霊石は置いてないわ。それに……あなたは魔道士じゃないでしょう?精霊石は魔法使い専用のものよ。」

「自分用じゃなくて、友人が探してるだけです。やっぱり貴重なものなんですか?」

「そうでもないけど、一応ダンジョン産だからね。売る人が少ないし、魔道士が持つだけで魔力総量が増える代物よ。魔道士にとっては、ほぼ必需品ね。」

「なるほど。およその値段はどれくらいですか?」

「そうね……最近売ったものでも、最低15万Gは必要よ。状態が良ければ、もっと高くなるわ。」

「結構お高いですね。教えてくださってありがとうございます。えっと、他に欲しい素材があるんですが……」

「何か欲しいの?」


俺は念じてメニューを開き、精霊石の製作ページを確認する。


攻略サイトで調べた限り、〈R 精霊石〉の素材は街で普通に買える。


ゲーム内ではコスパが悪くて誰も作らないが、この妙にリアルの世界では、逆に“探さなくて済む”という利点がある。


「星の砂15個、妖精の粉50個、エーテルの結晶5個をお願いします。」

「珍しいものを買うわね。エーテルの結晶は高いわよ?錬金術師の友達でもいるの?」

「えぇ、まぁ。」

「ちょっと待ってね……はい、合計で204,300Gです。」


高い……。


この金額を使った瞬間、チャット欄を見ていないが、セリーナは血涙を流しているに違いない。


でも、エルドラーナの話では精霊石は需要がある。作って売れば、たぶん倍以上で戻ってくるはずだ。


素材をそのまま売った方が、手っ取り早く稼げるのは確か。でも、さっきの職員の反応を見る限り、俺が持ってる素材は“ゲーム仕様的にちょっと変”らしい。大量に売るのは、最終手段にしておきたい。


精霊石の素材をカバンにしまい、酒場の冒険者たちに絡まれることもなく、平和にギルドを後にした。




外に出ると、すでに日は暮れていて、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。


セリーナ:精霊さん、もしかして……精霊石を作って売るつもりですか?


まあ、セリーナが気づくのも当然だ。彼女は俺が見ているものを、そのまま見ている。さっき、精霊石の製作ページを開いて素材を買っていたのも、全部見られていた。


「その通りよ。さっきまとまった金が手に入ったし、残りの借金も返済できる。でも念のため、もっと手持ちを増やしておいた方がいい。」


セリーナ:精霊さんはやっぱりすごいですね。


「いいえ、すごくないよ。」


セリーナ:でも、さっきの冒険者テストで、あの教官の背後に一瞬で回り込んだじゃないですか。


「それは今のセリーナの力だよ。たぶん、君が慣れれば同じ動きができるようになる。」


セリーナ:……できるかな。無理そう。


「もう日も暮れたし、本当はセリーナの家に戻りたいところだけど……あの商人は村長と繋がってる。偽名を使ったことも、もうバレてる可能性が高い。何か動きがあると思う。」


セリーナ:どうして、そう思うんですか?


俺は視線を左上に向け、ミニマップを確認する。


「このマップ、味方は青、中立は白、敵と判断された存在は赤い点になる。今朝、商人のヤークさんと話してる時、赤に変わったよね。」


セリーナ:あ!はい!そうです!商談してる時、赤い点になってた!


「それに、あの宿を出た時も尾行されてた。偽名は使ったけど、君の特徴を村長に聞けば、名前も家もすぐにバレる。だから、今週はバールヴィレッジで過ごそう。」


セリーナ:……村長……だから商談の後、市場に寄ってから家に転送したんですね……そっか……村長が……


「ところで、セリーナは普段、何時頃に夕飯を食べるんだ?」


セリーナ:ランプの油を節約するため、基本は日が暮れる前に済ませるようにしてます。


やっぱり、あのランプは使えるんだ。まあ、もう“天使の輪”も買ったし……ま、いっか。


「では宿を探して、夕飯を食べましょうか。」


セリーナ:うん、わかったわ。


俺は人目を避けて、店の裏で仮面を外し、髪を下ろして、メニューから普通の村人の姿に変えた。ついてにこの姿もマイセットに登録する。


そして、ミニマップに表示された宿へ向かう。ゲーム内の宿は多分一番安全性が高い。値段は少し張るが、しばらくはここを拠点にすることに決めた。


街の灯りが静かに揺れている。


今日という一日が、ようやく終わろうとしていた。



……まずは、夕飯だ。

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