- Ⅵ.足音
⚠️本シリーズには実際に実在しているイベントやメーカー名、名称や”アイコン”、データなどが出てきますが、フレーバーとしての使用であり、全てが完全なる架空の産物であり、何ひとつとして真実や正しいところはありません。
⚠️また特別は団体、性別、国籍、個人などを指して、差別、攻撃、貶める意図もありません。
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各自の自己責任でお読みください。
当方は読んだ方に沸いた各感情ついて責任を負いません。
全ての文章、画像、構成の転記転載禁止です。
誤字脱字は見つけ次第修正します。
ご指摘・ご意見・リクエスト等は受け取りません。
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あくまで趣味で書いているので、できるだけ辻褄は合わせますが、
後半になってつじつまが合わなくなったり、
内容が変わったりすることもあります。
諸々御了承ください。
1.
トーンを落としたフロア。
静かなトーンの音楽。
あちこちで、歓談するヒト、ヒト、ヒト・・・・。
建物の、最上階のフロアは、パーティができるスペースになっていた。
全面ガラス張り。
けれど、外から中は覗えない、最新のミラーガラス。
冷たくも、妖しい光を放つ、不夜城――東京の夜。
――まるで、・・・・
『マンハッタンに似ているなぁ・・・・・』
びくっ。
レナは、驚いて、振り返った。
振り返った瞬間、その人物のグラスを持つ、手が見えた。
慌てて、振り仰ぐと、輝く笑顔があった。
「あ・・・・」
「どうも」
彼は、エリック・エヴァンスだった。
目が合うと、慇懃な様子で、おどけたように目を閉じる。
鼻にかけたような声だけれど、くせのない英語。
ブロンドに抜いた、短いクセのついた金髪に、
スリムなブラックスーツ、白いシャツ、黒のボウタイという服装が、
完璧に似合っている。
レナは、一瞬だけ呆けたように、その男に見とれてしまったが、
次の瞬間には、何事もなかったかのように、”営業用”のツラを顔に貼り付けた。
「あら、どうも、楽しんでいますか?」
と、とりあえずのたまってみる。
エリックは、フロアの隅々を見渡してから、
「・・・・まぁね、どうかな」
と、くだけた態度で、微妙な表情を見せる。
レナは、その様子が、少し”意外”だと、思った。
ふと、エリックは、窓の外の、夜陰に浮かび上がる街を遠い目で眺める。
その瞳の中に、光が入って、ひどく印象的な青に見える。
つるりと、ゼリーのような、角膜。
「まさか、つまらないの?」
レナは、冗談半分の小声で、このいくつも年下の男の顔を、覗き込んだ。
「・・・・・、実はね」
「・・・・ッ、」
顔を近づけて、心底嫌そうに告白した、その男の姿に、
図らずとも、破顔してしまった。
エリックは、リラックスした笑顔で、顔を伏せたレナを眺めている。
「・・・・キミも?」
いたずらっぽく、覗き込まれた双眸に見つめられて、ドキリとした。
「ドンピシャリ図星」というわけでもなかったのだが、「図星」のような気分だった。
実際、つまらなくはなかった。
仕事として、このパーティについて書けるだけの素材は、十分得た。
どんな人が来ていたのか、雰囲気は、どんな話をしているのか。
ここのインテリアについて、パーティ会場となった、
この『Vanity NY』銀座店の、建物の最上階に、来るまでのルートで、
行われたフロア案内、その素材も、まず書けるだけは得たと思っていた。
あとは、”楽しむ”だけ・・・・。
けれど、レナは、実はにぎやかなパーティは、少し苦手だった。
反対に、永井アキは、今も誰かと談笑中だろう。
パーティも中盤になり、所々に置かれたソファに人が集まり、
会話とお酒を楽しんでいた。
レナは、その集団から離れ、物思いに耽っていたところだった。
「・・・・つまらなそう?」
「図星」を拭うために、取り繕う。
「・・・・間違ってた?」
「・・・・間違ってはいないけど・・・」
「・・・・けど?」
「・・・・・」
(・・・・”けど?”・・・・って、・・・・)
あくまで、”なにか”を言わせたいのか、それともただ、
困惑気味のレナの反応を楽しんでいるのか、どちらにしても、
その笑顔の無垢さと、内面は反比例しているかのようだった。
「・・・・・”なに”を、言わせたい”のかしら?」
ピクリ、と眉尻をあげて揶揄するような表情をつけた。
すると、エリックは、ますます面白そうに、目を細める。
「・・・・・さぁ、何かなぁ?」
「・・・・」
「・・・・」
しばらく、なにかのゲームのように、お互い不敵な顔のまま、
静止したまま、まじまじと見つめあう。
負けじと、エリックの双眸を覗き込んでいると、エリックが、先に顔を崩した。
困ったように、眉尻をハの字に下げた。
「・・・・・・・・なんか、クラクラしてきた」
「・・・・・」
「ボクの負けかな」
「・・・・プッ、なにかのゲームみたいね」
吹きだしたレナを見て、エリックはすかさず、
「笑ってたほうがいいよ」
と。のたまう。
一瞬見せた真顔が、それが冗談ではないことを、妙に感じさせた。
「・・・・えっ、」
このテの”クイック攻撃”には、意外と脆いレナは、そのまま
その男を見上げたまま、固まった。
エリックは、100万ルクスの笑顔で、
「その方がいい」
と駄目押しをする。
レナは、変にテンポを乱された心の中を取り繕い、
しかし表面には出さないように努めつつ、
「あら、ありがとう」と微笑んでやる。
けれど、自身ではその表情には、若干のほころびがあることを自覚していた。
「・・・・お、お上手ね」
「いいや、そんなんじゃないって、本気さ、」
「・・・・・・」
思わず閉口。
一方エリックは、そんなレナを気にもとめずに、口を開いた。
「・・・・あぁ、そうだ、キミ、本当はヴァニティのスタッフじゃないんだってね」
「?・・・・えぇ、そうだけど・・・・」
「本当は、何しているヒトなの?」
「・・・・そ、そうねぇ・・・」
「本当のことを言ってもいいものかしら」と、内心思い、
レナはちょっと黙る。
「・・・・・なに、まさか、それ内緒だったの??」
いよいよ言っていいものなのか、困る。
エリックは、好奇心丸出しの顔で、詰め寄る。
「・・・・・あのさ、ホーカドーの人って聞いたけど?」
(え?何故それを?!)
「・・・・だ、誰に聞いたの?」
彼の情報に驚いてしまったレナは、思わず聞き返してしまう。
どうして彼が、自分のことなど、知りたがるのか、そっちの方が、疑問だったが。
「・・・あのほら、えーと・・・・あそ・・・・」
エリックが会場のどこかを指差しかけたとき、どこからか、彼を呼ぶ声がかかった。
ふたりは、同時にハッとする。
エリックは、その声の主の方を向いて「あぁ、行くよ!」と手を挙げて答えた。
それから振り返ったエリックの、急にそわそわしたし出した様子に、
レナは、眉をあげながら微笑み、「どうぞ」という仕草をした。
(・・・・こういうのって、”装い”「厄介払い」とでも言うのかしら・・・・)
「・・・・あ、その、オレ・・・・」
「あぁ、構わないわ」
”営業用”の笑顔で、添えた掌を振る。
予想も、望みもしていなかったことだが、ほんの少しだけ
”面白くない感じ”を持った自分が嫌だった。
「・・・・本当は、もっと話してみたかったんだけどな・・・・」
そわそわしながら、言うセリフには似合わない。
「気にしないで」と、微笑みながらレナは、内心は冷めたものを感じていた。
(・・・・・冷めてる・・・・)
こんなことで、酷くドライな感情を抱く、自分を認める。
”この男”に妄執していた自分の姿を思い出して、やはり
なんてバカだったと後悔する。
(・・・・所詮アレは、”空想の彼を見ていた”だけ、現実は”こんなもん”・・・)
「あぁ、今行くよ!―――・・・それじゃ、」
「えぇ、話せて嬉しかったわ」
”社交辞令”を述べると、またエリックに催促の声が飛んでくる。
どうやら、”あちら”では、エリック自身が、”激しく”ご入用のようだった。
焦って、困ったように、レナと向こうの方を見やりながら、
「・・・・Soon (またね), Rena !」
と。
(・・・・・今、アタシの名を・・・・?)
エリックは、再三の催促に、小走りでパーティーの人の群の中に消えていった。
しかし、レナは、新しい”衝撃”の中にいた。
”Soon”は、焦って口をついた”See You”のつもりなら、いいとしても、
名前は、名乗っていなかった、はずだった。
たとえ、『Vanity NY』のスタッフの誰かが、彼女について教えたとしても、
フルネームでは、教えないはずだった。
いいとこ、「ミス・フジサワ」程度のはずだった。
――なぜ、アタシの名を・・・・・?
2.
「Teo2000不具合報告」
そうタイプされた紙が、書類の表紙を飾っている。
薄暗い会議室で、様々な色や形のシャツ、またはTシャツを着たものが、
プロジェクターから、部屋の正面にあるホワイトボードに投影された文字を、
神妙な面持ちで見つめている。
「Teo2000」は、彼らの会社ZAP社から5,6年前に発売した、ノート型パソコンの
シリーズ名だった。
すでに古い型のため、生産は既に終っており、流通しているところといえば、
中古屋くらいのものだった。
使用しているOSは3,4世代古いものだったが、特に致命的な問題は
報告されて来なかった。そしてこれも、既に配布が終了していた。
バグの報告は、時々カスタマーズセンターに寄せられていたが、
さほど深刻な内容ではないようだった。
しかし、最近気になるバグの情報が、多くなってきていた。
そのため秘密裏に、ミーティングが開かれたのだった。
まだ、マスコミは知らない。
「最近増えてきたバグ報告について、お話します」
投影された報告書のすぐ隣りに立つ女が、静かに言い放つ。
レーザポインタの赤い点が、画面に現れ、点滅する。
「こちらの表は、発売されてから六年間で、カスタマーセンターに寄せられた、
バグ報告と、その種別、報告件数の推移です」
棒グラフには、横軸には「1998」から「2003」までの年の数字が書かれている。
また縦軸には、不具合の報告件数、そしてバグの種類別に色分けされた棒グラフが、
何本も伸びている。
「青のグラフは、マニュアルを見ていただいたり、スタッフがフォローして、すぐに解決
できた、という例です。こちらは「バグ」と言えるほど深刻なケースではないものです。
黄色のグラフは、接触障害から来る不具合です。こちらは毎年数例ではありますが、
報告されています。こちらは、部品交換などでフォローしております。
また、ピンクのグラフは、ウィルスソフトで解決できた問題です」
と、ここでその女が、一呼吸置き、会議出席者全体を見回した。
「しかしこの赤いグラフは、”原因不明”という障害です」
「”ウィルス”によるものではないのかね」
ひとりが発言する。
すると、女は首を縦に振った。
「確かにそれは考えられます。しかし、通常ですと、ウィルスソフトで、
ウィルスと疑われるファイルや、破損箇所を修復すれば補えるものです。
しかい最近、いくら”ウィルスバスター”にかけても回復せず、勝手に起動終了し、
顧客のニーズに全く従わないばかりか、どこかにデータを送受信している、という
ものなのです。それに・・・・」
「それは、ウィルスバスターの性能に問題があるのではないですか?」
またひとりが、発言する。
「・・・えぇ、その可能性もあるでしょう
しかし、ここ二、三日の間に報告されている障害については、
フォローできているか、といえば、出来ていないのが現状です
なにしろ、任意に起動できないものですから・・・・」
「データの送信先の特定はどうなっているのかね?
辿れば、ウィルス作成者にたどり着くのではないか?」
と、またひとりが、発言をした途端、女の顔から、表情が一切消えた。
ざわつきつつあった室内が、静まり返る。
「・・・経由サーバーが複数あって特定が、まだできていません、
しかもデータ送信元と思われる地域には、」
――人の住んでいる形跡は、ありません。
と、次に現れた世界地図の上の、何の島もない、海の上を指した。
そして、ホワイトボードに投影された、その会社で割り出した緯度及び経度は、
確かに”そこ”を示していた。
3.
――疲れた・・・・。
レナは、都内某所にあるアパートに帰宅した。
時はあと数分で、”明日”になろうとしていた。
なんとか、最終電車がなくならない内に、帰れたことに安堵した。
「クラクラする・・・・」と彼女は、思う。
芸能人ばかりが集まるパーティは、仕事柄何度、行けるチャンスがあったとしても、
やはり慣れなかった。
今日は、飲みすぎたかもしれない…と、暗い室内を見渡し、
部屋のスイッチを入れる。
物音一つ無い室内。生活臭がなく、インテリアは簡素だった。
ダイニングには、赤いソファとローテーブル、ソファと向かい合うように、
ブラウン管の中古テレビが置いてある。
もっとも、レナは、最近あまりテレビのスイッチを押していない。
理由は、”例の上司”のせいで、忙しすぎるからだった。
帰りは、こんな時間だった。
食事は外で済ませてしまっていることが多いので、当然”寝に帰る”だけの、
我が家だ。
カバンを赤いソファの上に放り、寝室に入る。
ベージュのトレンチタイプのスプリングコートを脱ぎ去り、
クローゼットの扉に放置してあったハンガーに、それをかける。
明日も着るから、クローゼットの中には、しまわない。
スーツを脱いで、部屋着に着替える彼女の足元に、
電源の抜けたパソコンが、放置されている。
そのカードソケットには、ワイヤレスタイプで、ネットにつながるカードが、
ささっていた。
そのパソコンは、彼女が数日前に起動させようとしたら、
まったく反応を示さなかったために、”省エネ”に電源を抜いていたのだった。
ヴ、ヴー・・・・ン・・・・・
唐突に、今まで暗かった画面に、パッと、明かりがついた。
しばらくぶりに聞く、その起動音が響いた。
「・・・・・?」
レナは、下方向からの光を感じて、その方を見た。
”起動”していた。それも、勝手に。
彼女は、それに、一切触れていない。
彼女が「起動ボタン」を押しても、起動しなかったパソコンが、
今、確かに起動している。
「・・・・・ぇ、」
どういうこと?!、とレナはしゃがみこんで、モニタを覗き込む。
ダイニングとキッチンからの光が差し込んでいたので、寝室には電気をつけていなかった。
薄暗い室内に、煌々とモニタ画面が、光を放っている。
[ データ受信中 ]
上方にアンテナを立てたカードが、ネット回線につながっている、というランプを、
点灯させている。しかも、小刻みに点滅していることから、自動的に、
”何か”を読み込んでいるようだった。
ソフトの”自動更新”設定には、していないはず、と彼女は、
黒に白い文字だらけの画面の、[Loarding...]の文字が点滅している箇所を見つめる。
(――まさか、ウィルスかしら・・・・)
レナの心に、不安が走る。
一週間前は、確かに正常だったのに、と。
仕方なく、作業は会社のパソコンで行っていて、しばらく触っていなかった。
まさかその間に、”何かに感染した”のだろうか。
(・・・・まさか、)
勝手に起動するという怪現象を聞いたことが無いわけでもなかったが、
まさか自分の身に起ころうとは。
混乱する頭で、ローディングの作業を「キャンセル」しようと、
彼女は「作業キャンセル」のコマンドを打ち込もうと、
キーボードに指を伸ばし、今まさにキーを押そうとした瞬間、
視線の端に、”何か”が”見え”た。
話自体は2000年ごろに書いたものなので、技術が古いです。
実際のデータ、名称などを使っていても、全て架空物であり、真実はありません。