- Ⅲ.接触
⚠️本シリーズには実際に実在しているイベントやメーカー名、名称や”アイコン”、データなどが出てきますが、フレーバーとしての使用であり、全てが完全なる架空の産物であり、何ひとつとして真実や正しいところはありません。
⚠️また特別は団体、性別、国籍、個人などを指して、差別、攻撃、貶める意図もありません。
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各自の自己責任でお読みください。
当方は読んだ方に沸いた各感情ついて責任を負いません。
全ての文章、画像、構成の転記転載禁止です。
誤字脱字は見つけ次第修正します。
ご指摘・ご意見・リクエスト等は受け取りません。
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あくまで趣味で書いているので、できるだけ辻褄は合わせますが、
後半になってつじつまが合わなくなったり、
内容が変わったりすることもあります。
諸々御了承ください。
1.
蛍光灯に照らし出された、オフィスの一室。
部屋の壁面には、書籍棚があり、
ファッション・美容系雑誌の過去一年以内のバックナンバー、
その他、情報に関する資料などが整然と並んだバインダーに、
納められている。
白いベニアのドアの上部、真ん中にはめられている、すりガラスには、
『広報部』と書かれたプレートがあった。
この広報部には、女性スタッフのみ、9人しかいない。
彼女たちが、所属しているのは、日本では、シェアトップ3位内に入る、
化粧品・製薬会社『芳華堂』の化粧品部門の、広報を担当していた。
「広報」とは、聞こえはいいが、種々のイベントや企画、タイアップを手がける、
「企画部」の”補佐”的、もっと言えば、社外との”つなぎ”役である。
要するに、「企画部の雑務全般専門部署」と言われている。
もちろん、マスコミへの対応や、社内報の作成なども行っては、いる。
(ちなみに、芳華堂が隔月で発行しているモード系雑誌『fua』があるが、それは
別に「出版事業部」という部署がある。)
「―――藤沢さん、ちょっと、・・・」
この部署の”室長”と呼ばれている、つまり「部長」の野坂真理子が、
語学に関しては、もっとも信頼されている、藤沢レナを呼ぶ。
藤沢レナ――
彼女は、某国際系大学現代外国語学科を卒業後、縁あって、
この『芳華堂』へ入社した。
彼女の強みは、TOEIC890の英語・英会話の才能だった。
中学から高校時代は、アメリカの学校に通っていた、帰国子女で、
帰国後、推薦入学で、私立の某国際大学に入学した。
その語学の才能を買われて、この「広報部」にいた。
この広報部は、企画部が立ち上げた企画に見合う、社外、
特に海外の企業や、関係機関との、”繋ぎ”ができる者が在籍している。
つまり語学は、必須条件なのである。
ちなみに、海外の企業とのコネクションを”持っている”者も、実はいるのだが。
「・・・・”室長”、なんでしょうか」
藤沢レナが、野坂のもとへ、行くと、
部内の同僚たちが、ちらり、と彼女の背中を盗み見た。
「・・・実はねぇ、藤沢さん・・・・あの、”Vanity NY”のレセが
今週の金曜日にあるでしょう・・・・?」
「・・・・えぇ、それが、なにか?」
彼女は、悩ましげな野坂に、澄ました顔で、微笑み返す。
ちなみに、本日は火曜日。
「・・・・・当然ウチ取材、するわよねぇ・・・・?」
「・・・・えぇ、編集部が、手配するんでしょうけど?」
レナが、”一応”先手を打った。
すると、野坂は、ふぅ、と愁いを帯びた表情で、ため息をつく。
睫毛を伏せると、豪奢な巻き髪の、ひと房が顔の半分を隠す。
彼女は、薄々、知っていた。
この上司が、ひどく悩ましい顔で、回りくどい言い方をするときは、決まって・・・
(・・・・ウチ担当外の、仕事を振ってくる)
と。
「・・・・編集部、”何故か”修羅場らしくてね、行けないんですって」
「・・・・はぁ、」
「・・・・藤沢さん・・・・」
じっ、と妙齢の妖しげな魅力漂う、この上司が彼女を、上目遣いで、見つめた。
恐らく、この手の攻撃をされたら、なにも知らない若い男子社員は、即座に、
どんな無茶な願いだろうと、を聞きそうな勢いだろうが、慣れっこのレナは、
どうあっても、墓穴を掘るまいと、その顔に微笑みを返す。
「・・・・(微笑)」
「・・・・(微笑)」
見詰め合うこと、数十秒。
「・・・・わかりました。やらせていただきます」
くっ、とレナは、この上司の策に落ちた。
野坂は、その瞬間、可憐で、はじけるような微笑みを浮かべ、
さも意図してなかった、とでも言わんばかりに、レナの手をとって、
握って見せた。
「・・・・やってくれるのね!?、藤沢さんv ・・・よかったわぁ~v」
「・・・え、えぇ、」
げんなりしながら、今度はなんだろう、と彼女は思った。
背後から、「あーあ」といったような、同僚らの”憐れみ”の視線を感じる。
(・・・・・このアマ・・・・・)
野坂に対する怒りを、表に出ないように努めながら、
レナは、「それで、どうすればいいんです?」と聞いた。
「・・・・編集部には言っておくけど、とりあえず、
午後2時からのミーティングに参加して欲しいみたいなの」
「え」
(いきなりっ!!)
「突然でごめんねぇ~v でも頼りにしてるわぁvv
だってぇ、見開き1ページの潜入レポートでいいから、って
どうしても頼むっ、ってぇ 頼まれちゃってぇ~><; 」
「はぁ、」
「藤沢さんなら、語学もできるし~、通訳いらないでしょぉ~?
それにぃ~、この前の、Diva表参道店のレセの記事の出来、
よかったって、絶賛してて、実は、・・・ご指名だったのぉ~vv」
(・・・・そろそろぶっ飛ばしたいわ・・・)
しなをつくって、くねくねと話す、通称”悪魔”野坂を前に、
微笑みを浮かべて、黙って聞いていてやるのも、そろそろ限界かも、
と思った。
ただひとつ残念なのは、ぶりっこしている時の野坂は、多少罪悪感を、
一応は、感じているらしい、と最近理解しつつあることと、
このときの野坂は、実年齢不詳のくせ、やたらと可愛らしいのだった。
「・・・・あ、そうだ、カメラフォロー、永井さんよろしくね」
「ーーーッ!!・・・・・は、はぁいv」
野坂に、永井さん、と言われた瞬間、ストレートボブの彼女は、
一瞬 びくり、と両肩を揺らした。
永井アキは、”また”仕事を増やされたレナを、内心ニヤニヤしながら、
面白がっていたが、まさかそれが自分に飛び火するところまでは、
予想がつかなかったようだった。
しかしすぐに、何事もなかったかのように、それに答える。
(・・・・・”ミス猫かぶり”・・・・)
パソコンのモニタに向かって、もくもくと、”仕事をしているフリ”をしていた、
(でもしっかり耳はそばだてている)同僚のほぼ全員が、そう思った。
そして、永井の姿を盗み見たレナは、彼女が何を考えていたのか、
薄々感じていたので、思わぬ”道連れ”の出現に、内心でニンマリ笑った。
永井アキ――
彼女は、社内一、機械系には、詳しいことになっている社員で、
もちろん、語学もできるほうだった。
レナとは同年代で、そのため彼女とは気が合い、仲もいい。
どちらかといえば、”努力型”のレナに対して、何事もそつなくこなせる亜紀は、
”天才肌”の人間だった。それゆえに、上司の目を盗んで、”サボる”ことが、
病的に上手いのである。
2.
「あのアマ、いつか殺す!」
溜池山王の閑静なオフィス街。
日はとっぷりと、暮れてしまい、夜風が、冷たく彼女たちの頬を撫でていく。
ふわりと、彼女たちの髪が、風に舞う。
5月、暦の上では”初夏”だが、夜風はまだ、春先のものだった。
オフィスの通りは、夜になると、昼間の活気が嘘のように、静まり返る。
昼間、この界隈のビルのオフィスに溢れていた人たちはみな、
郊外に散り帰っていく。
夜になると、街灯や、ビルのエントランスの明かりが、ポツポツと灯る、
ゴーストタウンになる。
彼女の”怒り”の原因は、昨日突然振られた仕事に加えて、
本日も、仕事を振られたことによる怒りだ。
OL生活は、いかに気楽に過ごすかを信条にしているアキには、
仕事が増えれば増えるほど、”よろしくない”。
「・・・・まぁまぁ、アキ・・・・^^;」
「まぁ、いっか、・・・・あさってのレセ、食って元を取ってやるわ!!」
「・・・・”元”って・・・・仕事なんだけど・・・・」
「わーってるわよレナ、カッタいわねぇホント・・・・」
「・・・・・悪かったわね・・・」
能天気に物を言うアキを、恨めしそうに見た。
考えが柔軟で、明るいところが、彼女の良さなのだが、
時々、不安になるほど、その性根は”不良”なのだ。
「・・・・・『Vanity NY』ねぇ・・・・」
ふと、アキは、感慨深い様子で、つぶやく。
ふわり、と彼女のストレートボブが、風をはらむ。
立てた、トレンチコートの衿が、揺れる。
「・・・・なによアキ、どうかしたわけ・・・?」
「前のイメージキャラクターのアンナ整形美人らしいわよ」
「はぁ?!」
に、とアキが、意味深に笑う。
彼女にしては珍しく、感慨深い顔をしていると思ったら、やっぱり彼女は、
”永井アキ”だった。
彼女の興味は、いつもなにかの「噂」、それのみだ。
「どこ課の誰と、何課のナントカが、怪しいらしいよ」から始まり、
「セレブの誰々のゴシップがどうの」、ことセレブの恋愛事情については、
やたら細かくに知っているのだ。
「なんか~、高校生の時すごいドブスで、見れたもんじゃなかったって!
しかもそれがバレて、降ろされたんだって!!ハハ、ウケない?!」
「・・・・・・へぇ・・・」
レナは、半ば呆れて、嬉々としている隣りの女を眺める。
黙っていれば、可愛いのに、興味が下世話なのが、どうも・・・なのである。
しかし、嫌いではなかったが。
「・・・ん?、ちょっとテンション低いわよアンタ・・・・・」
「・・・・・いいわねぇ、楽しみがたくさんある方は、」
「ほほほ、まぁね」
(・・・・褒めてない)
嫌味すら見事にかわす、この能天気具合に、うんざりしたように目を横に流した。
「あ、そうだ、知ってた?」
アキが唐突に、立ち止まった。
レナもつられて、彼女の顔を眺める。
「レセに、何人か有名人が来るって、噂」
「・・・・そりゃぁ、レセプションだも・・・」
「ちぃがうわよ!・・・ワタシが言いたいのは、ハリウッドから、ってことよ」
「・・・・ハリウッド?」
『Vanity NY』は、ニューヨークにある大型のデパートだ。
『Vanity NY』のスタッフが、全世界からセレクトしたハイセンスなショップ
ばかりが入っていることで、有名だった。
ショップ側にとっては、ここで店舗を持っていることは、ある種、
ステータスとされ、売上の見込めないと判断された店舗は、直ちに
外されてしまう。
そのため、常に流行の発信地としても、セレブ御用達のデパートとしても、
世界中でも、とても有名なデパートである。
それが、この度、日本発上陸する、ということだった。
「そーそー、ほら、ポスターに起用されてるセレブ連れてくるって
コトじゃないの~?」
「あー・・・・なるほど・・・」
「それで、なんかね、噂ではレイチェル・ブラウンと、パメラ・ボガードと・・・・」
アキは、そこで、声を潜める。
彼女は一呼吸して、レナの瞳を覗き込んだ。
「あとぉ・・・・・」
その名前を聞いて、レナは息を飲んだ。
ふわっ、と詰めたい夜風が、顔をかすめて流れていった。
一瞬、世界中の音が、消えたように、なにも耳に届かなくなった。
言葉を発しているはずのアキの声すら、聞こえない。
(・・・・え、・・・・・)
吸い込んだ冷たい空気で、カラダの芯が冷えていくようだった。
――あれは、・・・昨日の夜・・・・
3.
――レナ・・・・・
自分ではないものが、カラダを圧迫している、という感覚。
体温は感じない。けれど皮膚感覚では、他人の”圧力”を認識している。
背中一面に感じる、自分ではないものの感触。
ヒトの皮膚の肌触り。
抱きすくめられている、とそこで、初めて”わかった”。
――数秒前。
”そこには”誰もいないはずだった。
ドン、という鈍い衝撃に続いての、感触。
暗い、カーテンのかかった窓。
背後のキッチンから照らす光で、自分の影が投影されている。
ダイニングのスイッチに、指先が触れている。
胸の下あたりを覆う、誰かの、腕・・・。
(・・・・・腕・・・・)
(・・・腕?!―――って、”誰”の腕?!)
びくり、とカラダを痙攣させ、反射的に、身をよじった。
突き放すつもりで、身を動かしたが、巻きついていた腕に、力がこもった。
ぎり、っと強くカラダに巻きつく。
その反動で体勢を崩したレナは、その腕に正面から抱きとめられた。
「―――――ッ!! う、そ・・・・」
レナの瞳が大きく見開かれた。
驚愕の光景に、視線が凍りつく。
(・・・・どうして、・・・・どうして、”ここ”に”いる”の・・・・?!)
キッチンの天井にあった、病的に白い蛍光灯の光を背に、
”彼”が、立っていた。
顔に影が落ちていても、みまごうことのない、印象的な姿。
「・・・・・エリック、・・・・エヴァンス・・・・?」
名前を口にすると、彼は嬉しそうに微笑み、
巻きついていた腕が、背中を這い、
首の後ろに、他人の指の感触があった。
ぐ、と把握されて、吸い付くように、カラダが密着する。
レナは腕ごと抱きしめられていた。
自分の掌が、彼に”触れている”、と自覚する。
なだらかに隆起している、彼の胸板に、彼女の胸が押し当てられている。
――・・・・レナ・・・・・
その声は、ヴォイスコーダにかけたような、どこか不完全だった。
そして、密着しているという感触はあっても、なぜか彼の体温は感じられない。
彼はレナに顔を摺り寄せて、形のよい唇から、ため息が漏れた。
視線を感じて、ふと視線をやって、ドキリとした。
オリーブ色の長い睫毛が、目の前にあった。
その奥で、夜のプールの、ゆらめく水面の色みたいな、瞳が見えた。
息が頬にかかる。
彼の窪んだ眼窩が見えた。
顔が、ぴくりとも動かせない。
唇に、息を感じた。
「・・・・・・んッ、」
唇に、もったり、と押し付けられた感触。
息をふさがれた、という感覚。
唇が触れた瞬間、一瞬ピリッと、微弱な電気を感じた。
その感覚が、じんわりと、脳の裏側に伝わっていく。
ピクッ、カラダが過敏に反応したが、それ以上は動けなかった。
引き寄せられて、背中が弓なりに湾曲している。
――ハ、
愛おしげに唇を押し付けて、悩ましげに息を吐いた。
離れる瞬間、音が漏れた。
――ずっと、こうしたかった・・・・
睫毛が当たってしまいそうな距離で、白い頬の皮膚組織が、
赤に染まっていくのが、わかった。
伏せられた目のふちが、うっとりと、潤む。
また、吸い付くように、口を覆われる。
防衛本能なのか、足が後ずさった。
けれど、エリックは、カラダを押し付けてくる。
レナの顔を両手で包んで、ついばむように、唇で甘く、レナの唇を噛む。
離れた瞬間に、酸素を求める口が、薄く開く。
すぐに触れそうな位置で吐いた息が、お互いの肌に当たる。
触れるだけのキスに飽きたのか、エリックは、薄く開いた口に、
舌を差し込む。
「――――ン、ゃ、」
レナは慌てたように小さく悲鳴を漏らしたが、すぐにそれもふさがれてしまう。
レナの頭の中は、パニックで真っ白だった。
唇が濡れて、悩ましい音が響く。
口腔内を犯されて、肉感的な感触と、官能的な感覚に溺れそうになる。
しかし、どこかで、「逃れなければ」と思っていた。
一片の理性の欠片。
その回避のための反応なのか、
じり、じり、と、唇を押し付けられる度に、足が後ろにさがっていく。
しかし、それはただの”反射”であるため、
室内の障害物との距離を測ることは、できていない。
唐突に、膝の裏に物が当たった。
「―――! っきゃッ」
バスッ。
赤いソファに足を取られて、体勢をくずした。
彼女の長い髪が、ソファの上に広がった。
レナが、体勢を崩したため、当然エリックも体勢を崩す。
顔の横に腕をついたのが、見えた。
白く太い腕が、ソファに深く沈みこむ。
太もものある位置にも、自分のものではないものが、
沈み込んだ感覚を覚えた。
(・・・・あれは、膝・・・・・?)
ゆるゆるとと見上げたエリックの顔が、わずかに影になっていた。
しかし、その造作は、多少影になっていても、変わらず完璧なものだった。
しかもその輪郭は、淡い光を放っているように見える。
上から、じ、と印象的な瞳で、見つめられると、
「ヘビに睨まれたカエル」のように、なにも考えられなくなる。
妙に、さっきまで、触れられていた唇の感覚を意識してしまう。
その顔との距離が縮む。肘がソファに沈んだのを感じた。
濃密になる、ヒトの気配。
「あぁ、触れる」と思っただけで、
ドクドクと、自分の心臓の鼓動音が、うるさく鳴り響く。
耳の鼓膜が、ビクビクと、振動している感覚がある。
彼がする、速い呼吸の音すら、耳に届く。
唾を飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。
――ぁッ・・・・
彼女は、切羽詰ったような小さな悲鳴を聞いた。
悲鳴は、苦しげな響きを伴った声に変わる。
その声はやはり、機械を通した声のようだった。
頭に激痛が走るのか、片手をこめかみに押し当てている。
ブッ・・・・・ヴヴッ
その瞬間、彼の姿が、一瞬ブレて見えた。
ヴ、・・・・・・・ブツッ、
それから、一昔前のテレビが消える時のように、唐突に、姿が霧散した。
後には、彼の背後の見えていた光景だけが、残った。
紺色の天井の角と、煌々と青白い光を放つ、キッチンの蛍光灯。
レナは、そのままの体勢で茫然としていた。
(・・・・今の、・・・なに・・・・・?)
一瞬”幽霊”かと、彼女は思った。
しかし彼は”ご存命”のはずで、例え、彼がこの瞬間に息を引き取って、
幽霊になったとしても、全く面識のないはずの彼女のもとへ、
あのエリック・エヴァンスが、来る理由が見当たらない。
けれど、幻や、夢にしては、やけに”リアル”だった。
未だに、彼の皮膚の感触が、残っている。
キスの感触も。
じわり、今まで忘れてしまっていた感覚が、染み出してくる。
欲情した時のような、あの、あやふやな感じ。
地の底から、とうに廃棄したはずの、想いが這い上がってくるような気がする。
あの、初めてエリックを見つけた時の、カラダ中の細胞が騒ぐような、衝撃。
「―――――ッ・・・・」
ざわつくカラダの内部を、押さえつけるために、レナは、
自分で自身を抱きしめるように、腕を回す。触れた二の腕を、きつく握りしめた。
ぴちょ・・・・ン、
シンクの蛇口から、水が漏れ落ちた音が響いた。
話自体は2000年ごろに書いたものなので、技術が古いです。
実際のデータ、名称などを使っていても、全て架空物であり、真実はありません。