表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
In Digital  作者: ハルミネ
3/15

- Ⅱ.起動

⚠️本シリーズには実際に実在しているイベントやメーカー名、名称や”アイコン”、データなどが出てきますが、フレーバーとしての使用であり、全てが完全なる架空の産物であり、何ひとつとして真実や正しいところはありません。

⚠️また特別は団体、性別、国籍、個人などを指して、差別、攻撃、貶める意図もありません。

-----------------

各自の自己責任でお読みください。

当方は読んだ方に沸いた各感情ついて責任を負いません。

全ての文章、画像、構成の転記転載禁止です。

誤字脱字は見つけ次第修正します。

ご指摘・ご意見・リクエスト等は受け取りません。

-------------------------

あくまで趣味で書いているので、できるだけ辻褄は合わせますが、

後半になってつじつまが合わなくなったり、

内容が変わったりすることもあります。

諸々御了承ください。

1.








世界は、紺色の闇に包まれていた。

あと、数時間で、夜が明けるような。



寝室のフローリングの上に、放置されていたノートパソコンが、

低いモーター音を上げた。


暗いモニタ画面が、突然白く発光した。

誰も、電源には触れていない。


勝手に起動したようだった。




ウゥーーー・・・・ン・・・・




小さく作動音が、響いた直後、

闇一色の空間に、白い、骨ばった足先が現れた。


それは、淡く青白い光を放っているようだった。


足は、床を捉えた。

床を踏みしめ、一歩を踏み出した。


スーッと、足首が現れた、そうして、パンツをはいた脛から、膝、

太もも、腰の付け根、白い指先、手の甲、手首と、布に覆われた、腹の側面・・・。



まるで、空間を裂いて、幽鬼が現れるような光景だった。



彼の姿が、闇の中に浮かび上がった。

幽鬼のように、彼は全身から、青白い仄かな光を放っている。




彼は、一瞬戸惑ったように、辺りを見回した。



彼は、鼻筋の通った顔立ちに、整った体躯、クルクルとカールした、短い金髪、

白いTシャツに、綿パンツをはいた、すらりとした長身の”幽鬼”だった。


長い睫毛の奥には、蛍光色のような水色の瞳がはまっている。

その瞳が、ふと、ある一点を見つめた。

白い足先が床から離れ、視線の先に向かう。


足音は、しない。

床が軋む音さえしなかった。




彼は、ベッドの中に、スヤスヤと寝息を立てている女を見つけた。

じっ、とその女を、立ち尽くしたまま、眺める。


やがて、目を細めた。

引き結ばれていた、彼の唇が薄く開き、淡く笑みを浮かべたようだった。






[・・・・レ、ナ・・・・?・・・]







甘さを帯びた、囁き。

青い瞳が、わずかに潤み、白い頬に、赤みがさす。


彼は、身をかがめ、腕を浮かせる。

細く、節くれた、長い指が、彼女の白い頬に、触れ、滑った。





[・・・・・アァ・・・・・・]





彼は、甘くため息をついた。

じ、ぃん・・・・と脳に、緩慢な痺れが広がる。


快楽のさなかに、味わう、その痺れに似ていた。






[・・・・・RENA・・・・・]





彼は、もう一度、その名を口にして、微笑みを浮かべた。









指先を、離れ難い様子で、彼女の頬から離し、上体を元に戻し、

また、上から、彼女を眺めた。












[イトシイ・・・・ イトシイ・・・・]









彼は、彼女を見つめたまま、その幸福感を味わった。








[・・・・・RENA・・・・・]





そう血色のよい唇で囁くと、そこで、ブツッと、彼の姿は消えた。






その部屋は、また紺色の闇一色になった。

もうすぐ、夜が明ける。












2.




ピピピピピピピピピ・・・・・・・



カーテン越しに、明るい朝の白い光が差し込む室内に、甲高い電子音が響き渡る。

ベッドルームからだった。




「・・・・ぅ、ぅーん・・・・・」




白い手が、白い寝具のすき間から伸びた。

それは、何かを探し回るような動きを見せた後、ベッドサイドにあるナイトテーブルに手を伸ばす。

そこには、鳴り響く目覚し時計が置いてあった。

それは、けたたましい、高音を響かせて、小刻みに震えていた。




バン。



白い手が、その時計の頭頂部を叩いた。

ぴたり。時計は、それっきり黙った。





(・・・なによ、もう朝なの・・・・・?)





彼女は、不機嫌そうに、ベッドの上で起き上がった。

そして、サラサラと揺れる、ダークブラウンのストレートロングをうるさそうにかきあげた。

彼女は、体から羽毛布団を剥ぎ取り、床に足を付いた。




(・・・・変な、夢を見たわ・・・・・)




彼女は、嫌そうに、嘆息した。

そして、ちらり、と作り付けの押入れを見やった。





それから、立ち上がり、ユニットバスのある部屋に向かう。



ここは、都心には、割と近いアパートの1DKの部屋だった。

一応、アパートの入り口はオートロック式になっている。

セキュリティに関してもしっかりしているため、女性の一人暮らしには、

嬉しい穴場物件ではある。

ただし、あまり広くはないが、内装もわりとオシャレなので、彼女は気に入っていた。




どうせ、寝に帰るだけの仮住まいだ、と。







ザーー・・・・ッ、と水の勢いよく流れる音が響く。




するり、彼女のカラダから、脱落していくように、シルク地のキャミソールが床に滑り落ちた。

白い胸が露になり、足元に、キャミソールと同じ素材のパジャマのパンツが、たまる。

白い足首が、それをまたぎ、バスタブのある方へ歩いていく。





シャワー口から、勢いよく噴出す滴が、彼女の白い肌に当たって、はじける。

熱い湯を浴びながら、彼女は、先ほどのことを、思い出していた。




(あれは・・・・・)




と、回想をする。

脳裏に、イメージが浮かぶ。



もう、ずいぶん前に、卒業したはずだった、想い。

”恋”と呼ぶには、あまりに愚かだった。


狂ったように、求めていた。

触れること、見つめてもらえることすら、かなうはずもなかった。




(・・・我ながら、若かったわね・・・・・)




苦笑いを浮かべた。





「・・・・・エリック・・・・・」




呼び古された名前をつぶやいた。



それは、去年、アメリカの有名なモード誌『Glance』に掲載された、

「世界でもっとも美しい男」のトップ3に入った、モデルの名だった。


エリック・エヴァンス。

彼は、しばらくフリーランスで、世界中のメジャーなDCブランドのファッションショーの

メンズラインに、ほぼ常連で参加し、二年前に、エレガンスラインを最も得意とする、

NYを拠点に活躍するDCブランド『Tim Delix』と、専属契約を結んだ。



すらりと伸びた長身、その割にほどよく鍛えられた体躯は、ギリシャ彫刻のように

整っており、その体つきのわりに、幼さをのこした顔立ちの、そのアンバランスさは、

彼の魅力と言えるものだった。


さらに、万人受けする、金髪碧眼のアイドルルックス、その上マイルドマナーで、

落ち着いた物腰、と来れば、彼の姿を麗しい目にした世の女性は、

恐らく、しばし見とれずにはいられないだろう。





彼女も、ほぼ一目惚れで、彼に狂った女の一人だった。




(・・・もう、昔のこと・・・・・)





今に到っては、その”過去”は、彼女にとって、”汚点”に過ぎなかった。

しかし、初めて彼の姿を見た時の、その衝撃は、忘れることはできないでいたが。




彼女は、シャワーの蛇口をひねる。

キュッ、と高い音がして、シャワーが止まる。

シャワーヘッドから、滴が床に滴り落ちた。





――・・・・・レナ・・・・・・




ゾクッ






今朝見た夢だった。その声を思い出して、肌に粟粒が立った。

カラダをかき抱いて、しばらく夢に、彼を見なかったのに、と彼女は思った。


肌を、滴がすべっていく。





――・・・・会いたかった・・・・





知らずに、カラダが熱くなるようだった。

やけにリアルだった、あの夢。


熱に浮かされたように潤む、印象的な青い瞳を、思い出してしまう。

甘く響く、ミドルトーンの声。


差し伸べられた、手は白く、節くれても、長くしなやかで、

ひどく美しかった。

頬に触れられて、そのまま頬を包まれた。


体温を感じられたら、どんなによかったかと、思った。

けれど、彼がつけていると言われる、マリンノートの甘い香水の香りを感じた。

それは、”WhiteDream Homme”という香水。




彼女は、夢の中で、彼を目の前にして、ただ固まっていた。

彼の、魅惑的な瞳から、目が外せなかった。

美しいその微笑みに、見とれていた。



そして、彼がなにか口にしかけた瞬間、どこからともなく、

目覚まし時計の、あの不愉快な電子音が鳴り響いたのだった。

程なくして、甘い夢は立ち消えてしまった。




(・・・・けれど、 )




と、水滴を軽く拭いたカラダに、花柄のバスローブを纏い、

彼女はスリッパのパイル地の、その感触を、足の裏に感じながら、

着替えるために、ベッドルームに戻った。




(それで、よかったのかもしれない・・・・)




クローゼットを開き、今日会社に着ていく服を、ひっぱり出しながら、

そんなことを思った。




衝撃的な一目惚れの後、彼に「GFできたらしい」という、

ゴシップ記事を目にして、彼女の恋心は、虚しく敗れ去った。






もう、夢にも見ない。

彼の姿を、ゴシップ誌やアイドル誌に追うこともなかった。

今はどうしているのか、なんて懐かしく思うことすら、めっきりなかった。



そうしているうちに、

”彼氏”と呼べる男性ができて、エリックのことは、やがて、忘れしまっていた。




しかし、その”彼氏”とは、”自然消滅”していたのだけれど・・・。





(それで、かしらね・・・・・)





着替えを済ませた彼女は、化粧台の前で、小さく笑った。

そして、”仕事用”の顔に出来上がっていく、自分の顔を、他人事のように眺めた。











彼女は、あと30分で、その部屋を出る。

そして通いなれてしまった道を歩き、乗り慣れてしまった満員電車に揺られる。

いつものように、会社に行き、定時まで、仕事をして、その足で、

仲間とご飯を食べたり、飲んだりしたあと、帰途につく。

そんな毎日。





今日も、明日と同じことの繰り返し、の、はずだった。
















3.




「―――――ッく・・・・・」





ビクリ、と全身が弛緩した。



甘い痺れを感じながら、彼は我に返った。

射精した後のような、鈍い悦楽の感覚。



ぼんやりと、霞のかかった視界を見ていた。

横倒しの世界。





(・・・・今、いったい何時なんだろう・・・・)




まだ、日は暮れていないようだった。

室内の事物が、まだよく見えた。

しかし先ほどより、日が暮れかけていることは、

差し込む光の色の具合から、ぼんやりとわかった。



しばらくして、頬に温い感触に気付いた。

自分がどんな体勢でいるのか、ようやく理解した。


彼は、フローリングの床の上に、昏倒していた。

視界に、白いコードレスの受話器が転がっているのを見た。

そして彼は、”そういえば”と思った。




(・・・・そういえば、さっき電話を、していた・・・・)




彼は、さっき話してた人物に、しばらく会話が途切れてしまったことへの

言い訳をしなくては、と思った。

しかし、手を伸ばそうとして、カラダが思うように動かないことに気付いた。

意志に反して、ピクリとも、動こうとしない腕。



泥の中で、もがいているような、もどかしさだった。

カラダが、酷く重く感じられた。


全身が、疲労している、と彼は思った。

コットンのサマーニットから、ふわりと、汗と香水の入り混じった

匂いがした。


そういえば、ニットが汗を大量に吸った様子で、

もったりと、肌に吸い付いていた。




(・・・・・カラダが、重い・・・・・)




寝起きで、まだ起きたくないのか、カラダが動こうとしない

あの怠惰な感覚にも、似ていた。





(・・・・あぁ、だけど・・・・・・)





”収穫はあった”、と彼は、うっとりと、目を細めた。

血色のよい唇が、薄く開き、息を吐いた。




脳裏に浮かぶイメージに、彼はその表情に、恍惚の色を浮かべる。

回想される、先ほどの光景。


ひとめ見て、カラダ中が熱くなった。

「眠り姫」に、一瞬で心を奪われてしまった男のようだった。


ひどく無防備に、深い眠りにつく、青白い頬、長い睫毛、ふっくらとした唇。




自然光の中で、見たら、どんなに可憐で美しいか、

それを想像するだけで、たまらなかった。





「・・・・・レナ・・・・・」





彼女を見つけた瞬間に、閃いた名前をつぶやいた。

確かめたわけではなかったが、違いない、という確信が何故かあった。


つぶやいて、彼は、また頬を赤くした。

長い睫毛を伏せて、唇を噛んだ。





[アノ ヒト ヲ 手 ニ イレタイ]



(・・・・・あのひとを 手に入れたい・・・・・・)





想いが、じわり、と滲み出てくる。

じりじりと、カラダの内壁を焦がすような、憧れから来る、あの強い飢餓感。

「今すぐにでも」と、はやる気持ち。





(・・・・あぁ、でも・・・・・)





[コレ デ マタ イツデモ 触レラレル]



(これで、また いつでも 会うことができる・・・・)





彼は、幸福感でいっぱいだった。










話自体は2000年ごろに書いたものなので、技術が古いです。

実際のデータ、名称などを使っていても、全て架空物であり、真実はありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ