- Ⅰ.覚醒
⚠️本シリーズには実際に実在しているイベントやメーカー名、名称や”アイコン”、データなどが出てきますが、フレーバーとしての使用であり、全てが完全なる架空の産物であり、何ひとつとして真実や正しいところはありません。
⚠️また特別は団体、性別、国籍、個人などを指して、差別、攻撃、貶める意図もありません。
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各自の自己責任でお読みください。
当方は読んだ方に沸いた各感情ついて責任を負いません。
全ての文章、画像、構成の転記転載禁止です。
誤字脱字は見つけ次第修正します。
ご指摘・ご意見・リクエスト等は受け取りません。
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あくまで趣味で書いているので、できるだけ辻褄は合わせますが、
後半になってつじつまが合わなくなったり、
内容が変わったりすることもあります。
諸々御了承ください。
1.
――2004年5月19日 日本 AM3:27
ヴーーーーー・・・・ン
それは、密かに、起動音を立てた。
コンセントにつながれた、ハンドヘルトのパソコンの、画面がひとりでに明るくなった。
本来、使われていないときは、二つ折りにされるタイプのものだった。
しかし今は、開かれた状態だった。
現在の時刻は、午前2時。
不吉なことが起こる、と言われる「魔の時間帯」。
真っ暗なアパートの一室。
部屋の主は、ベッドルームのベッドの中で、深い眠りに落ちている。
真っ白な寝具に埋もれて、何も知らずに静かな寝息を立てていた。
それが、ひとりでに起動し始めたことには、毛ほども、気付いていない。
カタ、カタカタカタカタ・・・・・・
[ エラーコード804 ・・・・ ]
カタカタカタカタカタカタ・・・・・・
[認識不能 ディスクスキャンにかけますか?]
[キャンセル...........]
カタ、カタカタ、カタ、・・・・カタカタカタ・・・・・・・
[不当アクセス ウィルスの可能性 は あり_____ません・・・・]
ブー・・・・ン、カタカタカタカタ・・・・ブー・・・・ン、ブー・・・ン、、、
[ レ、 不当アク___ RE セス NA 不当アk ]
・・・・・・ブッ、
しばらく機能が停止したのか、低いモーター音のみになった。
画面は、デスクトップ画像の背景に、ノイズを含んだまま、フリーズしている。
数秒、そのままだったが、ふいに画面が切り替わった。
起動間際に移る、黒一色のあの画面だ。
カーソルが、何もない場所で、点滅している。
[再起動]
・・・・ブッ
そう画面に表示した直後、それは、電源を落とした。
そして、すぐに、再起動し始めた。
勝手に。
・・・・ヴ、・・・・・・・ゥゥ・・・・・ン・・・・・
[スタート プログラムファイル 内臓サーバ接続・・・・]
ひとりでに、カーソルが動き、ソフトを自動選択する。
カタカタカタカタカタ・・・・・・・・
誰もキーボードをたたいていないのに、文字が画面に現れて、
なにかの文字列を再現した。
[サーバーに接続・・・・・成功・・・・・・正常に接続されました]
カタカタ、カタ、カタカタカタ・・・・・・ウゥ・・・・・・ン・・・・・
[検索中・・・・・・データ送信・・・・・・・2%・・・・・・15%・・・・・・・]
カチカチと音を立てながら、ソレは、確かに動いていた。
そして、大量のデータをどこかに送っていた。
2.
――2004年5月18日 アメリカ PM13:27
空は高く、透明な青。雲ひとつなく、快晴の空だった。
傾きかけの太陽光が、全面ガラスの、その部屋に差し込んでいた。
白を貴重とした、室内には、白いリネンのソファ、ガラス板のテーブル、
床は、ほどよく磨かれたフローリング、白い壁には、大きな絵の入った額、
ユッカなどの背の高い観葉植物が、転々と置かれていた。
オシャレなショールームを思わせる、几帳面にまとめられた室内からは、
眼下にマンハッタンの街並みが広がっていた。
鈍いメタルシルバーに輝く街、一見無機質な建物のそこかしこに、
わずかながら緑地が見える。
「・・・・・ぇ、あぁ・・・・そうだね・・・・」
キッチンの方から、この部屋の主が顔を出した。
裸足に室内用のサンダルを履いて、ゆったりとした七分丈のコットンパンツに、
白の半袖Tシャツを着、右手でコードレスの受話器を持ち、耳にあて、
左手には、ミネラルウォーターのボトルを持っている。
彼の容姿は、とても印象的なもので、すらりとした長身、程よく鍛え上げられた体躯、
すこしクルクルと癖のついた金髪、アクアマリンのように透明度の高い碧眼と、
見えがよく、美しく見えるように造られた彫刻のようだった。
完成された体躯とは、裏腹に、彼の顔立ちには、まだどこか幼さが残っている。
そのアンバランスさ、あやふやさが、彼の魅力をより濃いものにしていた。
「・・・・・え、メール・・・・?・・・・あぁ、ごめん、まだ見てないんだ」
彼は、受話器を耳と肩にはさんで、背の低いガラステーブルの上に置かれていた、
彼は、その電源のついた、ラップトップのパソコンの前に座った。
パソコンは、アダプターケーブルによって、コンセントへとつながっていた。
煌々と、モニタ画面が、静かに発光している。
彼は、マウスを動かし、メーラーを起動させた。
[受信]をクリックすると、大量のメールを、読み込み始めた。
[メールの受信中]と表記されている横で、読み込んでいるメールのタイトルを、
次々に表示していく。その多くは、「迷惑」メールである。
「・・・うん、今読み込んでいるよ・・・・あ、待って、君の探すから・・・」
彼は一日に、何万通という数のメールを受信していた。
そのうち、迷惑メール(メールソフトが自動的に排除する)や、メールマガジンなどの、
”特に読まなくてもいい”ものを除いても、彼は、一日数百通のメールには、
目を通さなければならなかった。そのなかには、友人からのものも当然含まれる。
『・・・・ねぇ、パソコン買い換えればぁ?』
受話器の向こうから、声が漏れ聞こえてくる。
彼は、苦笑いを浮かべながら、「そうなんだけど・・・」と、歯切れの悪い返事をする。
『・・・・あぁ、行く暇がないかぁ・・・・』
「そうなんだよね・・・・もう5年も前の型だから、遅くてさぁ、買い換えたくても暇がね・・・」
『言ってくれれば、買ってきてあげるよ? ほら、ジャパンのアキハバラだっけ・・・・?』
「あ~、アキハバラね~」
ははは。と笑い声を上げて、彼はつかの間、モニタから目を離していた。
といっても、しばらくメールの読み込みに時間がかかる彼のパソコンの場合、
彼にとっては、”いつも”のことだった。
――”ソレ”は、とても密かに、彼のパソコンに流れ込んでいた。
ある迷惑メールのデータを改ざんし、貼付ファイルのデータを書き換え、
別の圧縮データを刷り込ませて、彼の友人からのメールになりすます。
彼のパソコンに取り込まれていく、メールの何千万、何千億もの文字データの中に、
”ソレ”の”一部”が、隠れる。
それが、彼によって、開かれるのを、じっと待っていた。
やがて、メールの読み込みが止まった。
彼は、受信フォルダに入れられた、迷惑メールを除く全てのメールのうち、
仕事友人関係のメールを、専用のフォルダに送るように、あらかじめ指定していた。
「あ、終った、今見るから、ちょっと待って」
受話器の向こうの人物に、そう言うと、彼はパソコンのモニタ画面に
視線を移し、カーソルを動かした。
カチッ
無機質な音がひとつ響いた。
メールのひとつが開封された。
「あっ」
彼は短く声をあげた。
『・・・どうかしたの?』
「いや・・・」と彼は、受話器の向こうの人物に、困惑気味に答える。
「今、・・・・カーソルが勝手に・・・・」
『え、でもそういうことって、あるよ?』
「そぅ・・・・なんだけど・・・・でも・・・」
ポーンッ
唐突に、電子音が響いた。
ブゥー・・・・ンという動作音の中、画面に警告を示すウィンドウが表示された。
[不当アクセス 予期せず終了しました 詳細を表示する キャンセル]
静かな画面に、赤い丸に黒で×印の書かれた記号の、その赤がやけに毒々しい色に映った。
そのウィンドウを閉じて、間もなく、別の窓が開いた。
[エラー604 再起動しますか 再起動]
『・・・・なに、どうかしたの・・・・?』
受話器の向こうから、心配そうな声が聞こえてきた。
彼の瞳は、画面を凝視している。
指先で、カチカチとマウスのボタンを押す。
しかし、明らかに、画面には反映されていなかった。
マウスをいくら動かしても、白い矢印のカーソルは、ピクリとも動かない。
「・・・・まずいな、ウィルスかも・・・・」
『・・・・ぇ......』
彼は、突然の事態に焦りながら、マウスを諦めて、キーボードに手を伸ばした。
カチカチと、キーをメチャクチャに叩き、反応を見る。
そのうち、薬指が、[Enter]キーを叩いた。
カチッ
画面の中の警告を示すウィンドウの、隅にあった[再起動]というボタンが、
”押された”。
――あぁ、ヤバイ・・・・・
彼は直感的に、そう思った。
しかしどうすることもできなかった。
彼のパソコンは、動作音を立てながら、再起動の体制に入った。
みるみる画面が暗くなり、最後には黒一色に変わった。
動作音が一瞬止まる。
数秒後、パソコンが低く唸り声を上げた。
真っ暗な画面に、一瞬、何かが映った、ような気がした。
――・・・顔・・・・?
カチ、
カチ、カチカチ、カチカチ、カチ、カチカチカチ・・・・・・
黒一色の画面に、白い文字がタイプされていく。
縦棒のカーソルが点滅し、それが横に動くたびに、文字が現れる。
一列打ち終わると、その下にカーソルが移動し、さらに文字列を作る。
はじめの方は、なにかのコンピュータ言語のようだった。
視線の端に、白く細身の子機が、テーブルの上に横倒しになっているのが、映った。
その奥には、透明の液体の入った、ペットボトル。
ボトルの内側には、無数の水滴がついている。
静かだった。
ポー・・・・ン・・・
小さく電子音がなった。
彼は、モニタ画面に視線を戻す。
やはり、画面は、黒い背景に白い文字が整然とならんでいた。
カーソルが点滅している箇所を見た。
[ソフト ノ インストール ヲ 開始シマス]
――ソフト・・・・・?なんのだ?
彼は、漠然と思った。
もう目の前のパソコンは、彼の知っているものではない、ということを
薄々感じ取っていた。
そして、どうしたら、いいのかすらわからない。
困惑する彼の目の前で、カーソルが動いた。
文字が一文字ずつ増えていく。
[It’s You]
「・・・・なっ?!」
――――ズキッ!!
「―――アッ!・・・・・」
激しい頭痛が、脳天を突き抜けた。
彼は短くうめき、反射的に背筋を反らし、天を仰いだ。
双眸は見開かれ、その瞳孔が開き、体を痙攣させ始めた。
「――――ぁァッッ!!」
彼は、背筋を反らせたまま、ビクビクと、硬直している。
その白い皮膚に、汗の玉が浮かび始めた。
眉間や首筋の血管が浮き、ドクドクと脈打っている。
――――ドクン、
「――ハ、 ゥ、 ア、・・・・・ウッ!!!」
続けざまに後頭部を、ザクッザクッっと、太い鉄串で突き上げられているような
耐え難い激痛。
彼の視界のあちこちが、スパークし、フラッシュのような強い光が、点滅していた。
耐え難い激痛の中、腕を動かす意識を探す。そして、こめかみのあたりを両手で覆う。
―――ズキィッ!!
「あああああああああああああああああああああああッーーーーーー!!」
ぐりん。
彼の眼球が裏返しになった。
ガターーーーッ!!
ガラステーブルの上にあるものをすべて、蹴散らし、派手な音を立て、
フローリングの上に、倒れ込んだ。
重たく鈍い音を立てて。
『・・・・ちょっと!!今の音何?! エリック!? エリック?! ねぇ!!』
床の上に転がった、受話器から、ヒステリックな声が漏れ聞こえてくる。
しかし、それに答えるものは、いなかった。
カチ、
ガラステーブルの上のパソコン以外は。
[Eric Evans インストール 完了]
ブッ・・・・
唐突に、全ての電源が落ちた。
それっきり、室内はまた静かになった。
話自体は2000年ごろに書いたものなので、技術が古いです。
実際のデータ、名称などを使っていても、全て架空物であり、真実はありません。