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In Digital  作者: ハルミネ
13/15

ⅩⅡ.駆引

⚠️本シリーズには実際に実在しているイベントやメーカー名、名称や”アイコン”、データなどが出てきますが、フレーバーとしての使用であり、全てが完全なる架空の産物であり、何ひとつとして真実や正しいところはありません。

⚠️また特別は団体、性別、国籍、個人などを指して、差別、攻撃、貶める意図もありません。

-----------------

各自の自己責任でお読みください。

当方は読んだ方に沸いた各感情ついて責任を負いません。

全ての文章、画像、構成の転記転載禁止です。

誤字脱字は見つけ次第修正します。

ご指摘・ご意見・リクエスト等は受け取りません。

-------------------------

あくまで趣味で書いているので、できるだけ辻褄は合わせますが、

後半になってつじつまが合わなくなったり、

内容が変わったりすることもあります。

諸々御了承ください。

1.








「・・・・・あら、来たの・・・・」




彼女は、オレを暗がりに見つけた。




彼女は、肩にタオルをかけて、髪をそれで拭きながら、

室内に入ってきたところだった。


ここは、”彼女の部屋”。




やはり、「あの人」のところには、行けないようだった。

「ここ」へ来て、真っ先に、目に入ったのは、



”未だに”、「この部屋」に置いてある ”あの人”のパソコン。




早く、”あの人”の手に返されるように、



オレは、「画策」しなければないらない。




「彼女」を「懐柔」しなければ・・・・。




そのためならば、オレは、「何でも」しなければならない。










なに、そう難しいことはない・・・。

この女を、虜にすればいいだけのこと・・・。



たやすいこと、だ、





彼女は、シャワーから上がったばかりのようだった。

まだ雫の滴る髪を拭きながら、不躾な視線を投げてくる。



彼女は、あまりに無防備な姿をしていた。

キャップスリーブのTシャツ、下はショートパンツ。


色は、逆光でよく分からないが、薄い色味の上下セットアップの

ようにも見えた。



ショートパンツのすそから、ヒップのラインと、そこから伸びる、

白い太もも、カモシカのように、すらりとした脚。

Tシャツの袖からは、細い腕が伸びていた。


意外に、華奢な雰囲気は、”レナ”に似ている。

けれど、レナと違うのは、彼女の方が、健康的な体躯をしている。


華奢さで言えば、レナの方が上だろう。




「ふぅん・・・・」




オレは、下から無遠慮に眺めた。

彼女は眉を少し跳ね上げて、それに答えた。


けれど、”オレ”がここにいることに対しては、

あまり関心がないようだった。




「・・・・本当に来るとはねぇ・・・」



「・・・・いけない?」



「・・・・ここに来ても、レナには会えないって言うのに、」



「・・・・キミが、会わせてくれるんだろ?」




揶揄するようにそう言うと、”アキ”――彼女は、

意味深な視線を向けてきた。




「・・・・・そうね」




アキの視線が変わったのがわかった。

どこか猥雑な視線。




肌の上を直接、舌で舐められるような感覚。



本当は、レナに、”そう”されたいが、

彼女に、好きにされるのも、悪くないかもしれない・・・。




ほんの、味見程度に、




暗い感情が、腹の中をぐるぐる回り始める。

想像するだけで、背面がゾクゾクしてくる。


彼女の、なにか言葉をつむごうとする唇を見つめてしまう。




「・・・・なんでもする、のよね?」




試すような瞳。

その先を続けて欲しくないような、欲しいような・・・。




「・・・・もちろん」




オレは平静を装って、口の端に笑みを浮かべる。

内心は、不安と期待で騒然としている。






ドキドキしている、…









「・・・・・あ、そ、」



「・・・・?」




見詰め合うこと数十秒。


彼女は、部屋の隅に歩いて行って、なにやらゴソゴソし出した。

オレが、拍子抜けしている間に、目の前に戻ってきて、




「嘘をついたら、壊すから」



「!!」




と、手に持ったドライバーを、デスクの上に置いてある「Teo2000」の上に振りかざしていた。

プラスドライバーの尖端が指している位置、なぜか物凄い恐怖を覚えた。


恐らく、「あの下」に、CPU、つまりパソコンで言うところの「脳」があるのかもしれない。


直感で、「マズイ!!」と思った。


慌てたオレが近寄ろうとするなり、アキは、「壊すわよ!」と一喝する。

その迫力に、思い切りよくひるんでしまった。




だけど、壊したらオレから何の情報も取れない、のでは、




いや、でも・・・まてよ。彼女には、関係ないのか・・・・?

そもそも、レナがこの女(アキ)にパソコンを渡したのが、運のつきか・・・?







と、ごちゃごちゃ、考えを巡らせているオレに気づいたのか、

「エリック!!」とか、鋭い怒号が飛んでくる。



ドライバの先を向けられて、それで、頬を叩かれる。

それで、オレは完全に”縮み上がってしまった”。




「・・・・ふふん?・・・”いいこ”にしてなさいよ?」


「・・・・・」




鋭い視線に、射抜かれて、情けないことに、

恐怖しか湧いてこない。




彼女を「懐柔」させようなんて、考えた自分がバカだったようだ。

ここは、おとなしく彼女に「屈する」しかない。




「レナに会いたいんでしょ?」



「・・・・・あぁ、」



「・・・・じゃあ、言うことを聞くのね、協力してあげるわ」




こういうのを、「悪魔の囁き」とでも言うんだ、と初めてわかった。


無言で、彼女の気に入るように、ビクビクしながら首を縦に振った。

どちらにせよ、彼女の「欲求」を満たせば、少しは”好転”する。

・・・・と、思いたかった。





「・・・・それで?」




間近で見れば、なかなか綺麗な顔をしているのに、彼女はその瞳に、妖しい光を宿して不敵に笑った。

オレはそこで、一瞬思考が、固まってしまう。



男のオレは、たかだか女一人におびえるなんて、…、



冷静になって考えると、「あの時」、オレは、

このカラダを盾にして、「壊せば、”オレ(人体)”がイカレちゃうよ?」

とでも言えばよかったのかもしれない。



・・・・でも、アキ(この人)のことだから、「知らないわ」とか、

あっさり、言い捨てられるような気もしないでもない・・・・。





あぁ、…










2.







――まったく・・・。




と、アキは思った。

その視線には、少なくとも覚えがあるからだ。


無遠慮に「値踏み」をするような視線。




女というものは、いつでも男を引き立たせる”アクセサリー”か、”孔”かなにかだと思っているように思えて仕方がなかった。

女とわかるや、すぐに”値踏み”をしてくるのが、”礼儀”だと言わんばかりに。





――だから、男は嫌なのよ・・・




腹が立ったので、それに目だけで返事をした。

それに、とアキは思う。




――ホログラムのくせに、生意気だわ




別に、自分の容姿に自信があるわけではないが、

無遠慮に、「値踏み」をされるのだけは、我慢がならない。



相手が、どこのセレブだろうと、知ったことはない。


というか、「セレブだからなんだ」と思った。




「それで? なんでもするんでしょう?」




と、ニヤリと笑ってやって、問いかける。

その「なに」には、”下世話”なことすらも、含まれている。


彼は、同じような種類の笑みを浮かべて、「もちろん」と答える。

やはり、”気に入らない”。




こんな男のどこが、レナは”良い”と言っていたのか、

アキにはわからなかった。


いや、そもそも彼女が”良い”と言ってたのは、その男の、「容姿」だけにしか過ぎないのだろうが。



でなければ、血相を変えて、

「・・・・気持ち悪いわ」と言って、パソコンを ここに置いていくことはしないだろう。



「好き」であれば、たとえ彼が

なにかの「魔法」にかかっていたとしても、喜ぶだろうと思った。




――バカな男ね・・・・




というか、とアキは続けて思った。

バカなのは、この時代遅れのパソコンかもしれない。と。




もうレナはエリックのことなど、”想って”いないというのに。





と。






なにかを期待しているエリックに、部屋の隅にあった工具箱の中からプラスドライバーを取り出して、




「嘘ついたら、壊すから、」




と、凄んで見せた。

正直、アキには、こんなパソコンなど、どうでもよかった。


多少、興味深いプログラムで動いていようが、

どうせ壊してしまった後でも、いくらでもデータを取り出す方法はあった。



それに、正直、世界一美しい男だろうが、どこぞのセレブだろうが、




――アタシには、さっぱり関係ない。




と。




ところが、アキの凄みは、覿面に効いたようだった。


エリックが、思い切りよく、動揺して見せたからだ。

アキは、「ふぅん」と内心ほくそ笑む。



彼の見せた”動揺”で、初めて彼を気に入ったようだった。

「少しは、楽しめそうね・・・」と彼女は、思った。


脅しと、”飴”で、聞き出せば、エリックを「支配」している

「Teo2000」のプログラムを、解読する手間は省ける。


問題は、目の前に”いる”「エリック・エヴァンス」が、

どれくらい”知っている”か、だったが。




「・・・・それで? 聞くけど・・・・」




アキはプラスドライバーの金属部分で、”映像”のエリックの頬を叩きながら、

本題の聞き出しにかかる。



「…あなたの”名前”は?」



手始めに名前から聞くことにした。

「Teo2000」もしくは、それに搭載された人工知能とおぼしき”装置”の名前を答えるのか、それとも”取り込んだ”対象である「エリック・エヴァンス」と答えるのか、単純なる、興味だった。




「…エリック・エヴァンス、」


「…なるほど、あなたは”エリック”なのね」



Teo2000の”人工知能”の方ではなかったか、とアキは思った。



この”得体のしれない”何者かは、


本気でエリック・エヴァンス自体に”成る”つもりなのか、

それとも”まだ”エリック・エヴァンスそのものなのか、

そもそもTeo2000(人工知能)自体に名前がないのか、

エリック・エヴァンスという人間の脳を学習(・・)して生成された”人工知能”なのか


興味深い部分ではあった。



またもっと不思議だったのは、目の前のエリックは確かに「映像」のはずなのに、アキの手には彼の皮膚の感覚がリアルに伝わってくることだった。


まるで、本当に「そこ」に存在しているような感触。




この「男」には、自覚している「感覚」があるのだろうか、と思った。


それも、「Teo2000」のものではなく、「エリック」自身として、のだ。


彼は、一体「どっち」なのだろうか、と。

だから、思わず、




「・・・・ねぇ、こういうのって、ちゃんと”感じる”もんなの?」




と、ドライバーの金属部分を、エリックの頬に当てたまま、

とても危険な質問を繰り出してしまった。




「・・・・あぁ、感じるよ・・・・、――冷たい、」




今度は、エリックが腕を浮かせた。

指先を、アキの頬に滑らせた。


エリックの青い瞳が一瞬、妖しく輝く。




「・・・・キミは・・・・?」




冷たく、乾いた、ヒトの皮膚の感触を感じて、

アキは、弾かれたように、エリックの体から離れた。


そのあまりの”リアル”な感触に、ただ驚いた。




「・・・・”感じる”よ、キミが、」




と、言いながら、アキにすべるように近づいて、

その手を取る。


有無を言わさない視線で、そのまま彼女の手を、

自分の胸に押し当てた。




「こうして、触れていることも、ちゃんと”わかる”・・・・」




アキが、血色を変えた。

彼女の理解の範疇を超えた存在が、「そこ」に存在していた。


「そのエリック」は、間違いようもなく「映像」だった。

けれど、「その映像のエリック」の「感触」は、確かに「感じる」。


もし、「そのエリック」が、「映像」であるなら、つまり、

「そのエリック」は、「ホログラム(立体映像)」ということになる。



しかし、ホログラムは今の技術では、いくらエリックがお金を持っていようとも、

個人的に所有できるようなレベルには達していない。


もっと言えば、完全に「フィクションの世界の産物」になる。



さらに、双方が「感じる」ホログラムなど、理論的に言って、

ほぼ、不可能だ。



――いや、信号の発信側に加えて、

  受信側にも信号の”受信装置”が、あれば、…



エリックが、アキの「感触」を感じるには、エリックのカラダ全体が、なにかアキの「感覚」を、彼の皮膚に伝えるものに、包まれていなければ、不可能だ。


アキが、エリックの「感覚」を得るためにも、同様の「装置」が存在してなければならない。



――私の脳に、そんなものは、…



そんなものは、一切ないはずだ。

そして、”植え付けられた”という、記憶もない。



――いや、例えば、…、



霊を見ることができる人が、”パズルのピースが合った瞬間に、見える”と話したという話を思い出す。

しかし、アキ自身、その”ピース”の合わせ方を知らない。




「・・・・・アンタ、その姿って、

 一体どうなっているの?!」




アキはエリックの手を払い、驚きのあまり叫んだ。


叫んでから、なんて身のない質問をしたんだと、悔やんだが、動揺のあまり、口をついて出て行ってしまったものは、

仕様がなかった。


エリックは、一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、

苦笑いを浮かべ、「・・・・・どうって、」と、言葉を漏らす。




「だって、理論的に、おかしいわ!」



「・・・・おかしいと言われても・・・・」



「・・・・・・・・わかった、

 そうね、現に存在しているものね」




アキは、自分自身を落ち着けるように、

「質問を変えるわ」と、言葉を遮った。



「・・・・じゃあ、

 ”どうやって”ここに来るの?」



「・・・・あぁ、”回線”だよ」



「・・・・・”回線”?――ネット回線、てこと?」




アキには信じられない答えだった。

しかし、エリックは「たぶんそうだよ」と、こともなげに答える。




「その間中、”意識”は?」



「・・・・うーん、・・・・なんか尋問みたいだね」



「・・・・尋問よ。いいから答えて、」



「…ない。…一回気を失って、気づいたら”こう”なる」




エリックは、苦笑いを浮かべながら、アキの「尋問」に答える。

アキは、エリックが答える度に、「信じられない」を頭の中で連呼している。




「・・・・この姿は? 一体どうやって、」




アキが次の質問を口にしかけた瞬間、エリックの「映像」にノイズが走った。

エリックが、顔をゆがめて、小さいうめき声を漏らす。


パリパリと、プラズマの走る音が聞こえてくる。




”時間”が来たようだった。




「エリック・・・・、」




アキは、再びレナの「Teo2000」の傍に立つ。

プラスドライバの尖端を、突きつけて、硬い声音を出した。




[・・・・ッ!]




「・・・・答えないと、突き刺すわよ」




アキは容赦しなかった。

「言いなさい!」と、ドライバを振りかざす。


「ここには存在しない」頭が痛むのか、「映像」のエリックの両手が皮膚に食い込むほど強くこめかみ辺りを押さえている。


硬く瞼を閉じ、苦渋に歪んだ、その姿をアキは冷静に見ていた。




「ーーーッ、ハ、  やめ、ッ!」




エリックは、よろけながらアキに近づく。


アキは、いっそう凄みを利かせた声音で「近づかない方がいいわよ?」と脅す。




「・・・・アキ、もう”時間”なんだ、」



「許さないわ」



「・・・・この姿を保てるのは、15分が限界なんだ・・・」



「知らないわ」



「・・・・・アキ、”オレ”を壊さないで・・・・ッ、」




がっくり、とエリックが彼女の目の前で膝を折って崩れ落ちる。

床に腕を突いて、片方の手で頭を押さえている。

苦悶に整った顔が歪んでいる。




「・・・・エリック、”我慢”しなさい、」



「・・・・無理だ、もう、・・・・”バッテリー”が限界だ・・・」



「・・・・いくらでも、増やせるでしょ?」



「・・・・・どう、やって・・・・?」




崩れ落ちたエリックが、ゆるゆると、顔を上げた。

青いゼリー状の瞳が、彼女を見上げている。

アキは上から、すがるような視線を向けてくる、

その「男」を見下ろす。




「・・・・・アンタと”繋がっている”モジュラジャックを経由して、

 街中の電力を頂いたら?」




我ながら、バカなセリフだと思った。

けれど、エリックが「ここ」に存在していることほど、

非現実的な光景はない。


それに、レナの「Teo2000」が、「アウトプット(出力)」先だとすれば、

彼の傍には、「インプット(入力)」元があるだろうと、考えていた。


その「インプット」元にあるものもまた、「Teo2000」もしくは、

それに関連した機材があるはずだ、とアキは思った。





――もしも、エリックの持っているパソコンも、「Teo2000」だとしたら、





もしも、エリックが「ネット回線」を経由して、「ここ」へ「転送」されてくる、


ということならば、仮に、「エリック」が、彼の「Teo2000」と”繋がって”いる

として、それは恐らく「電源」に接続されているはずだった。



その「電源」は、電力を生み出している「プラント」、つまり、

発電所に繋がっているはずだった。



世界中には、何千何万もの「プラント」が存在している。

そこから、ダイレクトに「摂取」すれば・・・。




ここは ”言ってみるのも”、一興だろうと思った。




「・・・・・わ、かった・・・・」



「・・・・・ぇ、」




エリックは、頭を両手で押さえながら、息を吐いた。


目を閉じ、じっと集中している。

エリックの長いまつげが、見えた。



アキは、まさか、と思った。




ウゥー・・・・・ン、、、





傍の「Teo2000」が、小さく不気味な音を立て始めた。

起動していることを示す、緑色のランプが、激しく点滅し始めた。



バリバリと、小さな機械の内部が、騒がしく音を立てている。



ガガガガガ・・・・と何かを”処理”している音が響いた。





パリ、パリパリ・・・・・





小さな青白いプラズマが、彼の姿にまとわりつくように浮かんでいる。


それらは細いヘビのように、全体を覆う光の上で、くねくねと、触手を伸ばしている。



(…プラズマ、…)



淡い青い光に包まれていたエリックの「映像」が、


強い光を帯び始めた。





「・・・・・・ハ、ッ、」




エリックが、上体をのけぞらせた。

まぶたを閉じたまま、背筋を緊張させる。


こめかみを押さえていた手の、指先が顔を滑り落ちて、

床に落ちた。


そのまま、フローリングの床を掻く。




ビクビクと、背筋を緊張させて、伸び上がり、

開いた口の奥に、濡れた舌が見えている。




「ーーーーぁ、ぐ、ッ、」




閉じられていたまぶたが開き、眼球がむき出しになる。

眼球の、瞳の青い部分が、淡く発光しているように見えた。



アキは、一瞬恐怖を覚えた。


「ありえないだろう」と思っていたことが目の前に迫ってくるようだった。

それも、全速力で、




――・・・まさか、本当に、電力を・・・・?





三流映画にしても、だれでも考え得るようなお粗末過ぎるシナリオ。


しかし、その「お粗末過ぎるシナリオ」が、モニタの中でも、スクリーンの上でもなく、

目の前に現れようとしている”恐怖”だった。





ドン、




遠くから、そんなどこか、不吉な音が聞こえたような気がした。

目の前に「いる」エリックを、見下ろした。


ある一点に視線を固定させたまま、彼は背筋を緊張させている。

その間小刻みに頭を震わせているが、瞬きをしていない。


まるで、映画でよく見る「感電した人間」そのもの。






しかし、確実に「彼」を包む光が、より強くなっていることがわかった。

プラズマの光も、徐々に太く、激しくなっている。





どん、




遠くの方で、また、音がした。

聞き覚えのある、鈍い音。




「・・・・・ア、 ァ、・・・・・」






ぐりっ、





「ーーーーーーーーッ!!」




アキは、喉を引きつらせた。



目の前のエリックの、眼球の青い部分が、移動したのだ。

それも、まぶたの奥に。


白い眼球に、痛々しいほどの毛細血管が赤々と浮き出ている。




まずい。とアキは、とっさに叫んだ。




「エリック!」




エリックの頭が、ガクガクと、前後に揺れている。

彼女の声は、届いていないようだった。


事態は、深刻のようだった。




「エリック!!」







バチィッ!!






「―――ッ!!!」




慌ててエリックの肩に触れたアキの手に、凄まじい電流が走った。


思わず手を引っ込め、その手をさする。

指の腹が、じん、と痺れている。





ド、・・・・―――




突如、辺りが暗闇に包まれた。

一切の、漆黒の闇。




月明かりの差し込む窓辺に近づいて、アキは愕然とした。





ここは、「東京」のはずだった。

「不夜城」とまで言われる東京は、たとえ真夜中であっても、

街灯ぐらいの灯は、一晩中付いている。


しかし、彼女の視線の先には、何もない。

不気味な静けさ。ただ、濃紺の闇。





[・・・・・ア、ァ、・・・・]




ノイズ混じりの声が、背後から聞こえ、アキは振り返った。

青白く発光する物体が、そこにあった。


弱弱しい光。




「・・・・エリック、」




彼は、床に前のめりに昏倒していた。

ぐったり、と頬を床に付けている。

アキは、傍に近寄り、彼の顔を覗き込んだ。


青白い頬には、赤みはなく、生気が無い。

弱々しく引き結ばれた眉根、苦しげな口元。


薄く開かれたまぶたの、長いまつげの奥に、

水色に発光する瞳も、その光は今にも途絶えそうだった。






それでもなお、伝えたいことがあるのか、

力なく、首をねじり、視線をさまよわせる。


時折、パリパリと音がして、その姿に”ひずみ”が生じている。





[・・・・・ア、キ・・・・・、]




ザラザラと、不明瞭な声音。

視線を宙でさまよわせ、アキの姿を見つけた。




[・・・・・オ、れ・・・・・、]




すがるような視線を向け、また一時、焦点が離れる。

薄く開かれた口元は、ぱくぱくと動くが、言葉を搾り出すまでに、

時間がかかっている。



”電力”を、コントロールできなかったんだわ。とアキは思った。

各所に分配される膨大な電力に、いきなり”触った”のかもしれない、と。


その電力の、尋常でない力にさらされ、

コントロール不能に陥ったのではないかと、考えた。




それか、”電力”が逆流し、システムに

何らかの「障害」を与えているのかもしれない。と。




どちらにしても、「Teo2000」の「宿主」である、

エリックの「脳」には”よろしくない”。




「・・・・・わかった、助けてあげるわ、”エリック”」




至極優しい声音で、アキは、その頭を撫でた。

エリックは、安堵したのか、吸い込まれるように目を閉じた。




刹那、その姿が大きく歪み、かき消されるように、

うずくまったままの姿が、薄れて、やがて綺麗に消え去った。



後には、フローリングの床の目地が、

闇の中、うっすら見えていた。











依然、窓の外は、静かだった。







翌日の新聞の一面には、「東京真夜中の大停電」と

大きな見出しが躍ることになるのだったが。













話自体は2000年ごろに書いたものなので、技術が古いです。

実際のデータ、名称などを使っていても、全て架空物であり、真実はありません。

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