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最愛の君




「アル、婚約が決まったぞ!」

「え?」



シンシア伯爵家では自らの妻は自力で見つけなければならない。そういうしきたりがあるのだが、婚約だって?

どういうことだ。



二十五歳という年齢で婚約者がいないからって勝手に決められた?



疑問に思っているうちに、婚約者との顔合わせの日が決まってしまった。

相手はフィオナ・アリスター公爵令嬢。




アリスター公爵家は代々王家を守る剣として長い歴史を持つ一族だった。現当主のアリスター公爵は国の治安を守る騎士団の団長でもあり、国の秩序を乱すものには地獄より恐ろしい処分を降すと噂の国の番人だ。

自国にも他国にも恐れられているどんな不正も見逃さない正義の公爵家。



反逆という大事件を凄まじい早さで解決したのもアリスター家のおかげだという。




この婚約は、アリスター家からの打診だった。




僕の婚約者になった人は、穏やかでおっとりとした品の良い女性だった。

ふわふわの淡い金色の髪は緩く後ろでハーフアップにされている。顔合わせで彼女は紫の瞳を細め、柔らかな表情で僕を見ていた。その彼女の両隣には彼女とよく似た顔立ちの白銀の髪を持つアリスター公爵夫人と王家の番人と恐れられる青みかがった紫の瞳のアリスター公爵がいた。




顔合わせは穏便に終わった。



彼女のような人なら僕じゃなくてもたくさんの婚約者候補はいたはずなのに、なぜ僕だったのか。




その理由は僕の継ぐ領地だった。

シンシア家の治める領地は辺境の地である。

王都から遠いということは煩わしい社交の場にそんな頻繁に出なくても済む。



自然豊かで穏やかな気候、温泉もあって美味しい食べ物も豊富な、とても過ごしやすい地であるシンシアの領地は体が弱くてずっと療養していたらしい、そんな彼女にとって最適な場所だったのだ。



だから彼女の方を一度も、学園でも舞踏会でも王城でも見なかったのだと僕は思った。



アリスター家としても、もちろんシンシア家としても条件としてとても良い婚約だった。






「婚約したと聞きましたよ、おめでとうございます」


出勤してすぐ、ミラに祝われた。


「ありがとう」

「えっ、そうなのか!おめでとう!!」

「えー!独身仲間がまた減った!」

「相手は誰だ!?」


職場にいたみんなからは次々に祝いの言葉と質問が飛んでくる。それに対応していると、ふとミラが聞いてきた。


「あの、婚約者の印象はどうでしたか?見た目とか、中身とか、気になったとことか……」


ミラにしては珍しくもごもごとした口調。

僕は不思議に思いながら、答えた。


「とても綺麗な人だったよ。僕にはもったいないくらいだね」

「……そうですか」

「まあ、それと」

「なんですか」

「何?勢いがなんか怖いよ」

「気のせいです。それと、何ですか?」

「あ〜、やっぱりいいや。別に君に言うべきことじゃない」

「何ですか。そんなところで止められたら余計に気になります。好みじゃないとかですか。気に入らない点がありましたか。あの、シンシア様聞いてます?」

「聞いてない」




ミラからの質問攻めから逃げ、僕はさっさと家に帰った。結婚と同時に僕は王都勤務を辞め、領地へ引っ越すのだ。その準備は着々と進んでいた。





婚約者とのいつものお茶会。

彼女はいつも柔和で落ち着いていた。流行り物が好きなようでどこからか聞いてきた話を僕に楽しそうに語る。



今日は交換日記の話だった。

仮面舞踏会で出会った二人が姿を知らないまま、交換日記でやりとりしていくうちに恋をしていく、そんなお話。



「ねぇ、良ければ私と交換日記してくださらない?」


上目遣いでおずおずと言ってきた婚約者に僕は笑顔で答えた。



「いいよ、どっちからはじめる?」

「あの、実はもうかいてきたの」



少し緊張した面持ちで、さし出された交換日記を僕は受け取って開いた。そこには惚れ惚れするほどに美しい文字で今日の出来事と僕への質問が書かれていた。



どんな人が好みですか?



僕はその文字を見て思わず吹き出した。



「どうして笑うの!また、字が下手?頑張って練習したのに……」

「違う。違うよ。僕はね、ずっと変わってないよ」

「何のこと」



今にも泣きそうに目を潤まる彼女に、僕はにっこりと微笑んで言った。




「僕の好みは君だよ、スノウ。

僕が好きなのは、本を読むのが大好きで何をしていてもいつも可愛い、ありのままのスノウだよ。君であればどんな性格でもどんな見た目でも僕はずっと大好きなんだ。それにしてもびっくりした。こんなに綺麗な文字が書けるようになったんだね。すごいよ」



彼女は、スノウは驚いたように目を見開いた。



「一体、いつから?」

「マリア・ラヴェル。あれ、君だったでしょ。でも僕が留学して帰ってきた時のマリア・ラヴェルは君じゃない。おそらく本物」

「うん」

「あと、僕が出会ったスカーレット嬢は最初から君だった。十六歳の社交界デビューからずっと君がスカーレット・グレイをしていたんだろう?本物のスカーレット嬢はその頃にはもうグレイ家から離れていたようだし」

「え!それも、なんで?」

「この前、ミラ・アシュレイになってる君が笑ってくれた時にちょっとね。そもそもミラ・アシュレイなんて人物はいないよね。出身地も全部嘘」

「なんで、わかったの?」

「そりゃわかるよ、僕、スノウのこと大好きなんだよ?愛してる人のことなんて、どんな姿をしていても見たらすぐにわかるよ。それに、君がたくさんヒントをくれたでしょ」



アリア・ラヴェルの時は、スノウを思い出すように、お菓子の包装に白のリボン。


スカーレット・グレイの時は、あからさまに僕の瞳の色である緑のドレス。


ミラ・アシュレイの時は、僕が好きだと言った手作りクッキー。




「僕はスノウを見つけたよ。だから、なんで僕の前からお別れも言わずに去ったのか、今ならもう教えてくれるよね?」














シンシア伯爵家では自らの妻は自力で見つけなければならない。そういうしきたりがある。



これは後からスノウに聞いた話だが、実はスノウもそうだったなんて誰が思いつくだろうか。



アリスター公爵家というよりスノウの母であるアリスター公爵夫人が決めたそうだが、『好きな人に自分の姿じゃなくても、気づいて見つけてもらう』なんて難易度が高い。



もし僕が最後までスノウだと気づかなかったら婚約も解消になっていたそうだ。

そこまでする?




しかもそのついでに、国の為として第一王子の失脚、反逆の阻止まで任されておりそれを全部こなしたのだからスノウはすごい。




もし僕たちの間に子ができた時は、どっちのしきたりがいいか選んでもらうとしよう。




僕の大切な宝物はすぐそばに。

失恋なんてしていなかった。スノウはずっと僕のことが好きでいてくれた。僕の初恋はずっと続いていたのだ。




この先もずっと彼女は僕の唯一無二の愛しい人であり、そして僕の最愛の伴侶だ。








拙いものですが、読んでいただきありがとうございました。


ブクマ評価および誤字報告、アドバイス等あれば気軽によろしくお願いします!

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