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仕事仲間の君




「くだらない憶測で人を貶めるのは楽しいですか?私からしたら貴方達の方が恐ろしいと思いますが」



僕がはじめて彼女をみた時、彼女は一人のメイドを背に庇い、数人のメイド達にそう言い放っていた。



彼女とはじめて出会ったのは二十歳になった僕の勤め先である王城だった。

そのオブラートに包むことを知らないはっきりとした物言いにより周囲から遠巻きにされていた彼女、ミラ・アシュレイは僕とは同じ部署であり、同期であった。そのため、ミラと周囲の人たちと仲を取り持つのは僕の役目だった。




はじめて彼女と出会ったその日、彼女は一人のメイドを庇っていた。名前はカレン。




そのメイドはなんと、僕がかつて好きだった相手であるスカーレット・グレイ付きのメイドだった。




騎士団に捕まっていないということは、カレンも僕と同じく何も知らなかったのだろう。

だが、グレイ家で働いていたというだけで変な目で見られるのは仕方ないことかもしれない。反逆というものはそれほどまでに重罪であり、グレイ家に関するすべては嫌厭される対象だった。





「あの子、あのグレイ家のメイドだったんですって」

「まあ、そうなの?反逆に関わっていたんでしょう?恐ろしいわね」

「関わらないように致しましょう」

「いえ、むしろ犯罪者はこの王城から追い出した方がよろしいのではないかしら?」

「まあ、そうね!そうしましょう」




そういった流れでカレンは嫌がらせにあうようになり、たまたまその現場を見つけたのが、廊下を歩いていた彼女だったという。




きっぱりとした物言いと、ひんやりとした眼差しで彼女はカレンを庇うというより、どちらかと言うとメイド達に対して罪を説いていた。カレンのものを勝手に盗んだ窃盗罪、事実かわからない噂を信じて広めた名誉毀損罪、それに関する侮辱罪。またカレンを囲って仕事をやめろと脅した脅迫罪。それについてどのように対応されてきたのかを過去の事例を挙げながら、淡々とした口調で話していく。




話が進むにつれ、顔色を悪くし、泣き出すメイド達をみて、僕は慌てて彼女たちの間に入って事を納めた。




「いくら事実でも、事を大きくするのは良くないよ」

「ですが、ああいう人たちは言わないとわからないでしょう?自分たちがどれほどのことをしているかということを理解していないのなら、わからせる方が良いと判断しました」

「だとしても、もっと他に言い方があるだろう。そこを少し考えから発言した方が君のためにもなるよ。君も敵を作りたい訳じゃないでしょ」

「そう、ですね」




僕の言葉が響いたのか、はっきりとした言い方は変わらなかったがその内容は少しばかり優しくなった。そして周囲も彼女の言い方に慣れてきたということもあり、徐々に彼女は僕が間に入らなくても大丈夫になっていた。




彼女がそう変わったおかげで、仕事のフォローも互いにし合えてより働きやすくなった。




「シンシア様のアドバイスのおかげです。ありがとうございました」

「いや、僕は何もしてないよ」

「今まで私のフォローをしていてくださったでしょう。私、何も知りませんでした。今まで自分が思う事がすべて正しいと思っていました。でも、本当はそうじゃないこともあるということを学べました。だから、ありがとうございます」



そう言ってふわりと微笑んでみせた。

普段表情を出さない彼女の笑顔はあまりにも珍しく、そして美しかった。

僕は思わず見惚れた。



「……そっか、それならお役に立てたようで光栄だよ」




彼女は同期の中でも一番頼りになり、一番互いに助け合える仲間になった。



彼女は何事にも動じず、ほぼ表情を変えることはない女性だった。

そんな彼女がたまに表情を緩ませる時がある。職場のみんなの中で、その瞬間を見ることができたらその日一日中幸せになるとまで噂されるくらいだった。




そして、僕はまたその瞬間を僕は目にすることができた。

その日の休憩中、彼女はお菓子を食べていた。



「珍しいね、君がお菓子を食べてるなんて」

「無性に食べたくなりまして。糖分を欲してるのかもしれません。シンシア様もお一ついかがですか?甘さ控えめなのでシンシア様も食べれると思います」

「僕が甘いの得意じゃないの知ってたんだ」

「見てればわかりますよ。私、観察力には自信があるんですよ」

「へぇ」

「まあ、シンシア様のおかげですけど」



そう言って、彼女は頬を少し緩ませた。

その笑みを見て僕は彼女が食べていたクッキーをつまんで口に放りこんだ。

甘さ控えめな、僕の好きな味が口に広がる。


「うん、美味しい」

「そうでしょう」













僕は仕事を早退して元グレイ家の領地に来ていた。

ミラ・アシュレイの笑顔を見たら一日中幸せになるという職場のみんなで作った勝手な話の恩恵にあやかって、僕は一つの墓標の前にいた。




グレイ家の屋敷のすぐ近く、小さな山の中に、ひっそりと置かれたその墓標とも言えないくらいのただの石。それは等間隔に並んでいた。その中の内、端にある石の前には布が引かれており、その上には花や髪飾り、お菓子など様々なものが供えられていた。



「私がグレイ家で働いていたのは、学園に通う十三歳の時まででした。お嬢様と歳が近いという理由でとても良くしてもらいました」



僕をここまで案内してくれたカレンはそう言って涙ぐんだ。僕はカレンに持っていたハンカチを手渡した後、屈んで持っていた花を供えた。



「スカーレット嬢は、みんなに好かれていたんだね」

「ええ、そうなのです。シンシア様もご存知でしょう?舞踏会でよくお嬢様と踊ってらしたとお聞きしてます」

「いいや、僕は君のいうスカーレット嬢は知らないよ」




僕は立ち上がって、カレンを振り返る。

どこにでもいるような茶色の髪。だが太陽に当たるとそれが赤い色をしていると良くわかる。

紫水晶のような瞳、だが良く見ると僕の知っているあの子は彼女よりももっと青みが強い濃い紫だった。




怪訝な顔をするカレンに僕は紳士の礼をとった。



「はじめまして、スカーレット嬢。お会いできて光栄です。やっとしっかり挨拶できましたね」



カレンは少し目を見開き驚いていたようだった。



「何を……?スカーレット嬢?私が?」

「もう誤魔化さなくてもいいですよ。僕はもう知っているんです。貴方は愛する彼と共にいる為に親を、一族の反逆を告発した。そうですよね」



警戒するように、睨みつけるカレンに僕は苦笑いした。



「警戒しないでください。別にスカーレット・グレイが生きているなんて誰に言いません。言ったところで僕に徳もないですし。僕が知りたいのは一つだけです」

「……何も話せないわ。そういう約束なのよ」

「こう見えて、僕は結構情報通なんですよ。だからもう、全部知っている。実は本物のスカーレット嬢の好きな色が緑じゃなくて赤色だってこととかね。だけど、もう少し確証を得たいんだ。話せないのなら僕が質問する問いに頷いてくれるだけでいい」




カレンが息を飲み、まっすぐ見つめてくる。

僕は口を開いた。




「偽物だったスカーレット嬢。緑が好きな彼女は、僕に見つけてもらいたがってる。そうだよね?」










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