あたらしい顔をいつもくれるから
「ナッちゃんここにいたんやね」
幼なじみの安藤は私が泣いていると、いつもあんぱんを半分こして差し出してくれる。誰にもバレたくなくて鼻をすする音さえ我慢しているのに、何処で泣いていても私を見つけた。
屋上、体育館裏、理科準備室。
ベタな場所だとしても特殊能力があるのではと、疑いたくなるレベルで目の前に現れる。
そして今日もあんぱんを片手に持っている。
「なんであんぱんなん? クリームパンとかメロンパンとかあるやん。わざわざ色気のないパン持ってこうへんでも」
「そう言わんといてや! ウチの自信作やで!」
「え、安藤んちの一番人気なん?」
「ちゃうよ。一番人気はカレーパン。その次が数量限定のふわふわ食パン」
「え、全然ちゃうやん。それにまったく説得力ないやん」
「分かってないなぁ。あんぱんは食べると元気百倍になるスーパーフードなんや! ほんで半分こして食べたら、ナッちゃんの嫌だったことも半分こできるやろ?」
「……いや意味わからんけど」
私の言葉にからからと笑う安藤に、顎下の雫をぬぐいながらぎこちなく笑った。
文句を言いつつ頬張ったあんぱんは、控えめな甘さでしょっぱい心に沁みる。ふわふわとしたパン生地が、もう大丈夫だと安心させる言葉を投げてくれた気がした。
「あとな。今みたいに「なんであんぱんなん?」って記憶に残るやろ? そうしたらな、どこにいたって思い出してくれるやんか」
「そりゃこんな毎回あんぱんくれたら、なぁ?」
「どこにいてもナッちゃんが泣いてたらあんぱん食べて、ウチの励ましを思い出してほしいねん。ヒーローみたいに空を飛んでいけへんから」
両腕を前に突き出して「それいけ!」とおどけた安藤に吹き出す。
「弱そうやな」
「一番の友達のピンチには力を発揮すんねん!」
「愛と勇気だけが友達とか言うかと思ったわ」
「んなわけあるかぁ!」
安藤はいつもあたらしい顔をくれる。
泣き顔から笑顔に変えてくれる。
十分すぎるほど、私のヒーローだ。