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ANDEARTALE アンディアーテール  作者: サンサソー
第1章 魔王再誕
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第4話 襲撃のち旅立ち

「イム様!ご無事ですか!?」


「動くな!貴様何も……!?」


 俺の魔力を感じたのか、続々と魔物たちが部屋へと突撃してきた。イムさんがスライム魔人だからか、スライムの魔物が多いように見えるな。


 そんな彼らは、初めは俺に敵意を向けていた。だが気付いたのだろう。俺の魔力は多少のズレはあれど魔王タウロスに似たものなのだから。


「我が名はベヒーモス。魔王タウロスの跡継ぎだ。この火炎を見よ!お前たちの主の業は俺に継承された。お前たちの覚悟を示せ!魔物が胸を張って生存を許される楽園、その世界の始まりに!!」


「ははっ!」


 魔物たちが跪き頭を垂れる。俺が振り向けば、そこには未だボケッと惚けているイムさんの姿があった。


「聞いたな、イム。お前の無念は既に糧となった。その身体、その魂、その忠誠の一片に至るまで俺に捧げろ!挽回の機会を与えてやる。今度こそ、戦い抜いて見せろ」


「ッ!…イエス、マイロード。この身は全て、御身のために」


 集結していた俺以外の存在が、我が元に平伏した。あぁ……ようやく実感が湧いてきたぞ。俺自身はあまり覚えていなくとも、この肉体は覚えている。死の淵から始まり、未来より来た鍛えられた肉体の隅々までが、王の感覚を欲していたのだ。


「……なんてな。みんな顔を上げて上げて。魔王と言ってもまだ成ったばかり。まずは他の大陸にいるタウロスの配下たちにも顔合わせをしなきゃね」


 昂る感覚を抑え、俺は場の雰囲気を柔らかく消散させた。急な変わり様に戸惑った魔物たちの顔に内心クスリと笑っていると、突如サイクロプスの一人が慌てたように声を上げた。


「たっ大変だ!イム様、魔王様!」


「ん、まだ夕餉の時間ではないよ?」


「イムさんはちょっと黙っててくれ……それで?どうしたんだ」


「拠点北西部より、敵性反応多数接近!魔力の質から推測するに人間です!」


 ……はい?待ってくれ、どういうことだ。敵性反応ってなんだ。いきなり何を言い出すんだこの子は。


「そういえば、彼は探知魔法が得意な見張り役だったね。拠点に人間たちが近付かないかを任せていたんだよ」


 解説ありがたい。ということは、この拠点に人間の集団が害意を持って近付いてきていると。


 いや待てよ、敵性反応ってことはこちらを認識しているってことだろ?拠点には結界が貼られているはずなのにどうして……。


『よく思い出せベヒーモス。そなた、ここへ来る時に結界をぶち破っただろう?そういうことだ』


 完全に俺のせいじゃねぇか……みんな気が立ち始めたし、なるべく早急に事を終わらせないといけない。まずは兵を編成して……記憶には無いのに、流れるように戦の頭になるの少し気持ち悪いな。


「イムさん。この拠点にいる魔物たちを大まかでいいから教えてくれないか」


「ええと、ボク直属のスライムが20、後はゴブリンやオーガ、サイクロプスみたいな肉弾に強い魔物たちが30ってところかな」


 やけに少ないし魔物の種類も少ないな。いや、この大陸にある国々の国力は戦線と比べて低いから妥当なのか。


「見張り役のお前さん。人間の数はどれぐらいだい?」


「はっ!数にして前方におよそ80、後方に30。合わせて110といった所でしょうか」


 数では2倍、そしてこんな短時間での招集となれば……ある程度の練度がある斥候だろう。

 ああ、なんということだ。俺たちがこの拠点に留まり続けることが不可能、そしてこの斥候を誰一人逃がさないことが絶対条件になってしまった。


「……よし。俺に策がある。一度しか言わないからよく聞いて、速やかに作業に移れ。まずは―――」








 拠点近くの山道にて、人間の小隊が険しい道を進んでいた。旗にある紋様は翼の生えた獅子。この大陸で有数の国家、アルトハイム王国の斥候部隊であった。


「まさか急に砦が現れるとはな。昨日までは何も無かったはずなのだが…」


「こんなの人間業じゃない。確実に穢らわしい魔物どもの仕業だぜ」


「貴様ら、決して気取られるなよ。我々の任務は突如発生した砦の調査だ。ある程度接近したら遠見の魔法で様子を伺うぞ」


「ははっ!」


 意気揚々に山道を登りきったその時、隊長格の兵士が腕を上げ行進を止めた。眼前の坂の終わる所に佇む砦、その前にゴブリンやオーガなどの魔物たちが陣取っていたからである。


「我々を既に感知していたか。すぐに遠見の魔法と解析魔法を使い奴らを探れ!探知魔法が使える魔物がいる場合、撤退は骨だ!早急に見つけ出せ!」





『撤退は叶わない。お前たちは既にアギトの内、後は噛み砕かれる他にないのだ』




「ッ!?何者だ!!」



 小隊の前方、砦の上空に魔力が立ち上り、それは段々と何かを形作っていく。禍々しくも猛き双角。屈強な肉体から覗く鋭い眼光。


 魔力の幻で構成された魔牛。魔物たちにしかわからない、魔王タウロスの上半身が顕現していた。







『ほう……我を幻で現すか。中々に面白いことをしてくれる』


 黙っていてくれ。お前さんを再現するのはかなり集中力を使うのだ。何故お前さんのために筋肉の筋一本に至るまで作り込まないといけないんだよ。


『無論、我が玉体であるからな。半端なものは許さん』


「……我こそは、魔王。前代の魔王タウロスの遺志を継ぐ者である」


 サイクロプスの魔法による映像を共有してもらい、人間たちをつぶさに観察しながら俺は言葉を選んでいく。なるべく舐められず、戦意を消失させることができればいいのだが…。


「良い時に来たな人間どもよ。このままそなたらを喰らい尽くすのは容易いが、それでは興がのらぬ。故にここで、一つ選択する機会を与えよう。即ち、投降しその命を繋ぐか、この場で今すぐ死ぬかのどちらかだ。悩み、絶望し、選ぶが良い」


『なんだ、皆殺しにせぬのか?つまらん』


 人も魔物も我のものにすると意気込んだばかりだぞ。欲を言えば捕虜にして交渉材料に、それがダメなら奴隷に落としてでも生かしてやりたいんだが……。





「そのような誘いに乗るものか!我らを惑わせようと無駄なこと。魔王だと?このような乏しく貧弱なものが貴様の軍であるならば、底が知れたな!」






『だそうだぞ?強情を張るな。奴の言う通り、まだまだ魔王としてやるべき事は控えておる。人間どもの支配に手をつけるのはそれからでも遅くはあるまい』


 そう……か…そうだな。新たな魔王の誕生を今人間たちに知られる訳にはいかない。あれをこのまま返すわけにはいかないが、捕らえはしないというのであれば…。


「ならば仕方がないな。お前たちにはここで死に、俺の糧となってもらう」


 俺が軽く手を掲げれば、手の内に小さな火の球が灯る。それは幾度か瞬いた後、その姿を消した。



 変化はすぐに訪れる。拠点の真上に、巨大な火球が現れた。これこそ魔王タウロスの魔力、俺が用いた炎の力。




 《メテオ》




「退避……退避だ…!退避イイイイイッ!!」



 悲鳴をあげて兵士らは逃げ出そうとする。だが総勢100人を超えれば速やかにとはいかない。


 そして、そんな体たらくを逃すような甘い技でもないのだ。


 兵士らの手前に降った火の星は炸裂した。火柱が立ち上り、火の波は地を舐めていく。山を抉りながら、瞬く間に人間たちの身体は灰も残さず燃え尽きる。それは暗くなり始めの空を赤く染め、夕陽の如く輝いた。


「イムさん。陣取らせていた魔物たちを下げて、奴らのいた山の周囲に潜ませたスライムたちに攻撃命令を思念共有で送ってくれ。一人残らず鏖殺するように」


「………………」


「……イムさん?」


「え、あっああ!了解だよ!」


 こちらを見ながら惚けていた様子のイムさんの肩を叩く。まったく、魔王軍No.3ならもう少しシャキッとして欲しいもんだ。


 さて、今回の作戦はこうだ。

 まずスライム以外の魔物を拠点前に陣取らせ視線を釘付けに。そして魔王タウロスの幻影で萎縮させ降伏を勧告する。

 これを受け入れられなかった場合、降伏勧告の間に奴らのいる山の周囲にスライムたちを地面に溶け込ませることで潜ませ、俺の一撃で生き残った人間たちを山から出さず殺し尽くすというものだった。


 上手くハマってくれたようで何よりだけど、あんまりこういうことせずに穏便に行きたいものだなぁ。憎くもない輩の命を奪うのはあまり好きじゃないんだ。


「……うん。スライムたちから報告があったよ。人間たちの殲滅完了。生存者はゼロだ」


「よくやってくれた。だがもうこの拠点は放棄しないとな、場所は人間たちにバレてる」


「なら、転送門が中にあるからすぐに魔王城に戻るのがいいと思う。まだ生き残りがいれば戦力の補充にも…!」


『やめておけベヒーモス。魔王城に残った命は無い。それよりも他の大陸を探索し魔物を見つける方が現実的だ』


 ふむ……だが魔王城があるなら何かしら使えるものがあるかもしれないし、行かないという選択肢はない。だけどタウロスの言うことも利が大きいし……。


「……俺はまだ魔王城にはいかない。他の大陸で魔物たちを集めようと思う。だからイムさんたちは先に魔王城に行っててくれ。まだ人間たちには警戒されているだろうし、密かに仲間を募りつつ新しい魔王城を建てる地を探して欲しい」


 今のところはこれがベストかな。まずは魔物たちの勢力を立て直すのが大事。人間との争いよりまずは部下の確保だ。



「それなら、ボクを連れて行ってくれ」



「……はい?」


 俺が踵を返そうとすると、イムさんから待ったがかかった。いやいや、俺についてきたら他の魔物たちを統率するのは誰がやるんだよ。


「彼らなら心配要らないよ。もともとボクはダメダメな上司の典型的な例だったからね、動くならボク無しの方が早い」


「なんでお前さん上に立ってるんだ」


「たまたま攻撃した所が人間の主要補給経路だったんだよね。その功績でちょっとね」


 ああ、タウロスが遠い目をしているのが感じ取れる。お前もイムさんには色々と苦労していたんだな…。


「それに、ボクを連れていけば魔物たちにも顔が聞く。ボクが認めた王だと言えば、渋る人たちも首を縦に振ってくれるはずだよ」


「……一理あるな。まずいぞ、イムさんに言いくるめられそうだ」


「なんだい、何か不服があるなら聞こうじゃないか」


「結構です」


『まあそうだな。こやつは傍に置いていた方が良い。普段は馬鹿で何も悩みが無いように見えるが、我々の見えないところで何かと溜め込んで爆発するぞ』


 タウロスにここまで言われるとは、本当に大変な性格をしているんだなイムさん。


「それでは出発しようか。まだ見ぬ冒険がボクたちを待っているぞ!」


「はいはい。はぁ……ちょっと俺不安だよ」


「何か言ったかい?」


「なんでもないよ。さぁ、行こうか」




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