あっちはだめだよ。
鬱蒼としたとした森の真ん中。
目の前には、年季の入った吊り橋がひとつ。
僕は気づいたら何故かそんなところにいて。
時刻は分からないが、太陽の位置からするとあまり遅くない時間のはず。
だけど、辺りが矢鱈に薄暗くて。
風が、びゅおおと僕の頬を撫でていく。
何だか生暖かくて気持ちの悪い風だ。
ふと、吊り橋の向こうに揺らめく白いものに気づきビクッとする。
白いワンピースを着た、美しい女の人だ。
彼女は僕と目が合うと、手をひらひらとさせた。
まるで『こっちへおいで』と言ってるかのように、手招きしていた。
僕は彼女の美しさに誘われ、吊り橋に片足を乗せた─
瞬間。
グイッ!!
後ろから誰かに強く腕を引っ張られ、その場に尻餅をついた。
そして。
「あっちはだめだよ。行ってしまったらこっちに帰ってこれないよ」
聞き覚えのある、老いた女性のような優しい声が後ろから聞こえた気がしたが。
後ろを振り向いたら、誰も居なかった。
吊り橋の方を見ると、白いワンピースの女性は居なくなっていた。