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【短編647文字】二本の薬指 『2分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

作者: ツネワタ

カクヨムにも掲載中

 あるところに独りの美しい男がいた。


 彼はいつの日からか自分の指が六本になっている事に気付いた。


 左手の薬指が朝起きたら二本に増えていたのだ。


 瞬く間に話題となった男を国中のテレビが報道し、同時に多くの女が恋をした。


 しかし、男が愛したのは数年前に失くした『ヴァイオレット』という初恋の女性ただ一人。



 鷹のような瞳と鈴を転がしたような笑顔が特徴的だった。

 国の法律で薬指を二本持つ彼だけは重婚を認められた。



「彼女はもういない」



 とにかく安定したかった。もう一度恋をしたい。この際中身は関係ない。この人でいいや。



「でも待てよ…… 彼女と似た特徴を持つ二人と共にいれば……」



 とにかく安心したかった。もう一度恋をしたい。この際中身は関係ない。この人でいいや。



「この孤独も紛れるのでは?」

 男は二人の女性を迎え入れた。


 紅き髪を湛える鋭い瞳をした気高き女騎士と青い瞳を持った笑顔の絶えない町娘。


 二人との夫婦生活は楽しく豊かなものとなった。


 しかし、ある日。その生活は唐突に終わりを迎える。


「あなたは自分を欺いて恋を始めて、他人を欺いて恋を終わらせた」

 女騎士はそう言って出ていった。


「安定だけを求めて結婚する人間の結婚生活ほど不安定なものはないわ」

 町娘はそう言って出ていった。



 男はまた独りになった。



 手元に残ったのは二本の薬指と小さな一軒家だけ。


 男はそこでようやく気付いた。



 彼は初恋では恋人に恋をしていた。

 しかし、彼女を失くしてからは恋に恋をしていたのだ。



 左手をみると白く細い二本の薬指が伸びている。

 きっと、いつまでも空のままで。

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