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空が愛したのはインドラジット  作者: 殿様
第一章
5/10

不明〜5柱〜


 久しぶりの自分のベッドは快適だ。数日の間、夢も見れないほど深く眠り込んでしまった。


 ユピのことで相談すると、姉さんとマスターが一緒に支援してくれると言ってくれた。

 ユピは何があったか聞いても記憶が曖昧らしく、仮面の男に金銭で買われて連れて行かれたところまでだった。

 姉さんはゾトーバスの宿屋で俺のことをユピに説明しておいたらしく、すぐに分かったのはそういうことだったみたいだ。


 ヴェルナのことは気掛かりではあるが俺は俺のやれることをやろう。


 そろそろ起きないと……ん? 足元が妙に温かいし動けない。


 シーツを取るとそこにはコロコロとした少女が気持ち良さそうに丸まり、眠っていた。スースーと寝息を立て、足にしがみついている。


「おわぁ!? ユピ!?」


「……んー、ゲイル? どうしたの?」


「どうしたのじゃないだろう? いつの間に潜り込んだんだ?」


「ゲイルがねてるあいだ……ふわぁ、おはようのチューは?」


「しないよ」


 答えになってないし、朝から疲れる……

 元気になったのは良かったがパールさんの影響を受けたのか変な言葉を使うようになった。


「ゲイル〜、脱がせて〜」


「自分で出来るだろう、ユピ? というか、昨日まで自分で普通に身支度してたじゃないか」


「今日からゲイルがやって!」


「やらないよ」



 俺とユピは身支度を整え、部屋を出て階段を降りる。既に降りていた姉さんとマスターが大扉の前で何か話しているのが見えた。


「あ……ゲイル、ユピちゃんおはよう」


「おう、ユピちゃんおはよう。ゲイル、ちょっとこっち来い」


 いつもならユピの方にうざいくらい近付いて行くマスターが、声色で分かるほど真剣だ。


「どうしたんですかマスター、怖い顔がなお怖いですよ」


「いいから聞け! 管理局局長様から直々の呼び出しだ。全員な」


 ヴェルナの件か? マスターが伝えたはずだがまだ何かあるのか?


「ユピは連れて行けますか?」


「残念だが時間が無い。ゴリアテの奴に預けよう。なーに、今からたったの7日だ」


「今から!?」


 どうりで大扉の前に居たわけだ、



 俺はユピをパールさんに預けに行ったが思いがけず凄まじい抵抗をされた。結局、見かねたマスターは連れて行くことを許してくれた。


 もっとも、マスターは本当は連れて行きたかったみたいだ。道中の馬車内でユピに負けず劣らず騒いでいたのが何よりの証拠だ。




 城塞都市ユルングル、円形状になっているこの街は約2か月前にゾトーバスに行くために来たがまさかまたすぐに来ることになるとは……。

 前回は再生祭のため混雑していたが今回は門兵に冷ややかな目を向けられながら待たずに通れた。


 ユルングル北西の小高(こだか)い場所、


「やぁ、よく来てくれたね皆んな。突然の呼び出しすまないね」


「御託はいいセルゲイ。用件はなんだ?」


 マスターと管理局長は旧友だとは聞くが、流石に無作法が過ぎるのではないだろうか。


「ボルドー、その前に……肩の子を床に降ろしてくれるかい? いくらなんでも真面目な話にそれはないだろう」


 ユピはマスターの肩にちょこんと座っている。居心地が良いのか降ろそうとすると暴れる。特に騒がしくするわけではないが思わず笑ってしまいそうになる。

 マスターを怖がり、俺の後ろへ隠れていた頃が遠い昔のようだ。


「無理だ」


「そうか……」


 諦めるのが早い……。


「こほん、気を取り直して……皆を呼んだのは他でもない。『アルジラ』が『カムイの里』の近くで目撃された。今回はケリドドロップにお願いしたい」


 元冒険者にしてアース特別指名手配者『アルジラ・ベルーシ』。様々な高ランクギルドがこの女を追ったが未だ倒すことも捕まえることも叶っていない。


 そして、カムイの里はアースの東に位置する島国『ゴルドイースト』にある。島々で武芸が盛んなゴルドイーストは排他的ではあるが、若き日のマスターが『アーツ』を学んだ場所でもある。


「なんだと? 目的は!?」


「管理局の調べでは……『パヨカカムイ』だ」


「……疫病の神、か。神石(マジクス)に込める加護は確か影響系の……『予防』じゃなかったか? アルジラの奴が狙う理由が分からん」


「マスター、ドラゴニア様、ちょっといいでしょうか?」


 突然、姉さんが軽く手を挙げた。


「いいぞエリア、なんだ?」


「もしかしてだけど、何処かのダンジョンに潜るのに必要なのではないでしょうか?」


 姉さんの考えはこうだ。

 

 5つの世界にランダムに生まれるダンジョン、モンスター達を産み落とす『オリジンモンスター』が支配する場所。ダンジョンには入る度に異次元が変化するものと異次元が固定されているものがある。


 アルジラの目的は恐らく、ダンジョンで最も厄介な『異常嵐』と呼ばれる風が吹き荒れるダンジョン。踏破出来た者は1人として居らず、未知の宝は国を動かすと言われる。


「ふむ、では朔月の杯(ケリドドロップ)メンバー全員にこの場で言い渡す! カムイの里へ向かいパヨカカムイを守り、アルジラを拘束もしくは討伐せよ! これは私からの依頼として処理しておく!」





 俺達は管理局長セルゲイ・ドラゴニアの用意したゾトーバス製小型飛空船に乗り、ゴルドイーストへと向かった。


 小型飛空船の値段は……払ってはなくとも考えたくない……。


「ゲイル〜、とっても高いね〜!」


「そうだね、ユピ。だけどマスターが苦しそうだからせめて降りようか」


 1時間と少し、マスターは首を足で絞められたまま精神統一している。いくらユピが軽くとも流石にそろそろヤバそうだ。


「そうなの、ぼるどー?」


「大丈夫だぞユピちゃん、俺様は今修行中だからぬぉ!?」


 姉さんの膝が突き刺さったことは言うまでもない。だが、その時姉さんが窓の外を見て何かに気付いた。


「ゲイル、マスター、見てアレ!」


 今回の目的地カムイの里が燃え上がり、何者かの襲撃を受けている!


「なっ!? ゲイル、エリア、ユピちゃんと安全なとこに降りろ!!」


「マスターは!?」


「俺様は先に行く!」


 そう言い、マスターは飛空船から飛び降りた。


「マジクス、発動!!」





 人々が逃げ惑い、簡素な建物が崩壊する中を3人と約50人ほどの猫の耳をした集団が睨み合う。


「ヒュー! 流石は神様だぁ! だ、け、どアナタ達には用は無いのよねぇ」


「貴様ら、我々が神だと知っていながら狼藉(ろうぜき)を働いたと言うのか!!」


「まさか私が里に降りてる時に襲撃してくるなんて、馬鹿な猫人(キャルティア)達ねぇ」


「お、おふたりとも暴れ過ぎないでくださいね? 僕、下位の神だから巻き込まれたら消滅しちゃいます」


 一触即発の中、空から大男が落ちてきた。大男は空中に無数の剣を生み出し、それをクッション代わりに踏み折りながら着地した。


「ぬ! 貴様はボルドー! 何故空から落ちて来たのだ?」


「おう、キナスツ! それにチキサニとランケも居るじゃねぇか! 元気そうで何よりだ!」


 キナスツと呼ばれた男は鱗の衣服を身につけ、手に独特の片刃剣を持っている。

 チキサニと呼ばれた女は美しい顔立ちと薄く緑色のドレスを纏い、眠りを妨げられて不快そうだ。

 ランケと呼ばれた女児は地面から10cmほど浮いており、今にも逃げ出しそうな表情をしている。


「ぼ、ボルドーさん! 僕帰りますね! 後お願いしますね!」


 ……ランケは逃げ出した。


「ボルドー、丁度良いところに来たわね。そっちの猫人(キャルティア)と一緒に消しとばしてあげるわ」


「だぁぁあ止めろ不細工神(ぶさいくしん)!」


「えぇい! 貴様らいい加減真面目にしろ!」


「そうよねぇ、見せしめに1人殺そうかしら」


 1人の猫人(キャルティア)がボルドーの背後に近付き、長い爪を振るう。


 しかし、金属音が鳴り響き猫人(キャルティア)の爪が全て折れた。

 ボルドーの手には先程まで無かった剣が握られている。


「手癖の悪りぃ猫だなぁ。ゲイル、もう着いてんだろ」


「は? あ……」


 猫人(キャルティア)で構成された集団が突然倒れ、ボルドーの背後に居た猫人(キャルティア)は取り乱したがすぐに意識を断たれた。


「マスター、いきなり飛ばないでくださいよ……」


「貴様のギルドの者か? 貴様と違ってまともじゃないか!」


 マスターが飛空船から飛び出した後、俺は姉さんにユピを任せてカムイの里まで走った。全く手を出す必要は無かったのだが、隠れているのをマスターに気付かれていたため猫人(キャルティア)集団の無力化を行った。


「ゲイルー! ぼるどー! 大丈夫〜?」


 里の入り口からユピと姉さんがマスターの方へと近寄る。

 すると、眠ったフリをしていた猫人(キャルティア)がユピを捕まえ、姉さんから距離を取った。


「ユピ!!」


「エリアー!」


 このままでは不味い!


「おっと! 神様達とそこの大男動くんじゃ無いよお!!」


 マスターが助けに入ろうとするが動きを制止された。


 ユピ! ユピ!!


「ゲイルぅー!!」


 駄目だ、矢は使い切った。飛び道具は何か、ナイフでも投げてみるか!?


 いや、ユピに当たってしまう!


 どうする! どうする!?


 マジクス……おい、こんな時まで何も起きないのかよ!


 この、クソが!!


「発動しろよぉぉお!!」


 今日は快晴。


 雲一つないこの空から一筋の光が落ちる。


 ユピを羽交い締めにしていた猫人(キャルティア)の真隣にある家が轟音と共に爆散する。


「にゃあぁぁぁぁ!?」


「おぉぉぉお!!」


 猫人(キャルティア)が驚き、ユピを離した隙をマスターが割って入る。


「大丈夫かユピちゃん!?」


「ぼるどぉ、怖かったぁ……」


「にゃ、にゃんにゃ今の……にゃ!?」


 姉さんが猫人(キャルティア)の右足を斬り飛ばす。その顔は怒りで歪みきっており、手に持ったチャクラムの回転が止まらない。


「見ちゃ駄目だユピちゃん!!」


 マスターはユピをその大きな身体で抱きしめ、先にある凄惨な光景を見せまいとする。


 左足、右腕、左腕、姉さんは無言で斬っていく。


 最後に、泣き喚く相手をうるさいと言わんばかりに首を斬り飛ばし、チャクラムの血を払った。


「姉さん!!」


「ハァハァ……大丈夫よゲイル……大丈夫」


 俺は姉さんを止めることが出来なかった。


 間に合わなかった。


「ごめん、姉さん……ごめん!」


「なんでゲイルが謝るの? 感情に身を任せた私の責任よ。せっかくの捕虜を殺してしまったわ」

 

 姉さん、違う! そうじゃないんだ!!


 俺の心の叫びは声にならず、また届かなかった。


 あまりのことに神達はただただその場に(たたず)むしかなかった。


 カムイの里に放たれた火はいつの間にか鎮火しており、俺達はユピを抱えたマスターの指示を待った。


「キナスツ、チキサニ! 何処か休める場所が残ってないか探してくれ! ゲイルはエリアを連れて飛空船に戻ってろ!」


「あ、あぁ……このキナスツカムイの名において必ず探してやる」


「そういえば、ランケも探さないといけないわね。あの子もついでに探しましょ」

 

「分かりましたマスター。姉さん行きましょう」




 皆の心中を写すかのように日が落ちた……。





 


パール・バルク(31)

本名[ゴリアテ・オーガバルク]

種族・エルフ

ケリドの街の美容室店主


身長188cm

体重88kg


好きな食べ物

可愛い子かしらん


嫌いな食べ物

魚以外のお肉は食べないわ


趣味

石鹸作り

男漁り(成績不明)


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